会計・税務の知識

2024年11月14日 発行(スタートアップ支援特集)スタートアップ企業の資金調達(ベンチャーデット)

はじめに

 

スタートアップ企業の資金調達手段は、大きくエクイティ(株式発行により資金調達を行う方法)とデット(金融機関等からの借入により資金調達を行う方法)に分けられますが、近年エクイティとデットの性質を併せ持つ「ベンチャーデット」という方法が注目されています。

今回は、この「ベンチャーデット」について解説します。

 

 

1.ベンチャーデットとは

 

ベンチャーデットとは、スタートアップ企業で行われるエクイティとデットの性質を併せ持つ資金調達手段の総称です。

近年スタートアップ企業の資金調達手段が多様化している中で、金融機関からの融資と同時に新株予約権等を発行するベンチャーデットを利用するケースが増加傾向にあります。

ベンチャーデットは、企業の将来性や蓋然性を踏まえた金融機関からの融資を伴う資金調達手段であることから、ビジネスモデルが確立されており、黒字化が達成できているアーリー期以降のスタートアップ企業に向いている資金調達手段といえます。

 

【図表】スタートアップにおけるデットとエクイティの違い

(出典:経済産業政策局「スタートアップ・ファイナンス研究会(事務局説明資料)」(令和6年3月)を基に筆者加工)

 

ベンチャーデットに類似した資金調達手段としてJ-KISS型新株予約権があります。

J-KISS型新株予約権は、ベンチャーデットのデメリットである返済義務を有しないエクイティによる資金調達手段です。

創業間もないシード期のスタートアップ企業で赤字が続いているような場合、新株予約権の発行条件が同じであれば、返済義務を負わないJ-KISS型新株予約権等のエクイティが一般的な資金調達手段とされています(図表参照)。

 

 

.ベンチャーデットのメリット

 

(1)株式の希薄化リスクの低減

エクイティの場合、新株を発行することで経営者等の既存株主の株式が希薄化しますが、ベンチャーデットでは株式の発行を伴わない資金調達手段のため、経営者等の既存株主の株式の希薄化を抑えつつ、運転資金等の確保ができます。

ただし、将来新株予約権が行使された場合には株式が希薄化する可能性があります。

 

(2)調達資金の使途の柔軟性

デットの場合、調達資金の使途が金融機関等の審査対象となるケースが多く、その使途通りに利用する必要がありますが、ベンチャーデットでは調達資金の使途は比較的柔軟性が高い傾向にあります。

 

 

 

.ベンチャーデットのデメリット

 

(1)返済義務・利息負担がある

ベンチャーデットは金融機関からの借入のため、元本の返済義務及び利息の支払いが必要となります。

 

(2)デットに比して金利が高い

スタートアップ企業は事業基盤が脆弱であり、かつ経営全般で不確実性が高いことから、融資にあたってのリスクが高いため、金融機関からの一般的な融資よりも金利が高くなる傾向があります。

 

(3)コベナンツ条項が設定される可能性がある

コベナンツとは、金融機関(貸手)が企業(借手)に融資を行う際、融資契約書等において企業側に義務として課す一連の条項=義務をいいます。純資産額の維持等のコベナンツ条項が設定される場合、調達資金の使途を含め、経営における柔軟性が制限される可能性があります。

 

 

おわりに

 

ベンチャーデットは国内ではまだ歴史が浅いですが、多様化するスタートアップ企業の資金調達手段の一つとして今後活用事例が増えていくことが想定されます。

(担当:中路)

 

 

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