はじめに
令和2年の消費税改正により、居住用賃貸建物の取得等に係る課税仕入れ等の税額について仕入税額控除の対象としないこととなりました。
不動産会社が居住用賃貸建物を取得する場合は棚卸資産として取得するケースと固定資産として取得するケースがあります。
今回はそれぞれの取扱いに焦点をあててそのまとめをご紹介します。
1.そもそも「居住用賃貸建物」とは
「居住用賃貸建物」とは住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するものです。
(1)「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」とは、建物の構造や設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい、例えば、その全てが店舗である建物など建物の設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物が該当します。
(2)「高額特定資産」とは、一の取引単位につき、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が 1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいいます。
2.固定資産として取得した場合
(1)住宅の貸付けの用に供する目的で「居住用賃貸建物」を取得した場合はその建物の取得に係る仕入税額を控除することができません。
この場合、その建物を適格請求書発行事業者から購入した場合は消費税の全額が「控除対象外消費税等」となりますが、免税業者等から購入した場合はインボイス制度の経過措置により2026年9月までは消費税相当額の80%が「控除対象外消費税等」となります。
(2)住宅の貸付けの用に供する目的で1,000万円未満の建物を取得した場合は1⑵により「居住用賃貸建物」には該当しません。
その場合、建物の取得に係る消費税額は「課税期間中の課税売上高が5億円以下、かつ、課税売上割合が95パーセント以上」の場合全額が控除出来ます。ただし、免税業者等から購入した場合はインボイス制度の経過措置により2026年9月までは消費税相当額の80%が控除対象です。
「課税期間中の課税売上高が5億円超または課税売上割合が95パーセント未満」の場合、「個別対応方式」により非課税売上対応課税仕入として計算するか「一括比例配分方式」により計算します。
3.棚卸資産として取得した場合
(1)不動産会社が1,000万円以上の「居住用賃貸建物」を棚卸資産として取得した場合は仕入税額控除ができません。
しかし、購入当初から販売目的であるなど「所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの」については1(1)の「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」と判断されるため、仕入税額控除をすることができることになります。
購入してから売却するまでの間に賃貸している期間があった場合は仕入税額控除をすることができませんが、居住用賃貸建物の仕入れ等の日から第三年度の課税期間の末日までの間に売却した場合は仕入税額控除の調整計算により一部仕入税額控除することができます。
(2)1,000万円未満の居住用賃貸建物を棚卸資産として取得した場合は「居住用賃貸建物」としての仕入税額控除の制限を受けません。
購入してから売却するまでの間に賃貸している期間がない場合は全額仕入税額控除することができます。
購入してから売却するまでの間に賃貸している期間があった場合、「課税期間中の課税売上高が5億円以下、かつ、課税売上割合が95パーセント以上」の場合全額が控除出来ます。
「課税期間中の課税売上高が5億円超または課税売上割合が95パーセント未満」の場合、「個別対応方式」により共通対応課税仕入として計算するか「一括比例配分方式」により計算します。
おわりに
不動産会社が居住用賃貸建物を取得する場合には棚卸資産として取得するのか、また、その価格は1,000万円以上か、取得から売却までの間に賃貸していた実績はあるのかなど条件によって変わってくるため慎重な判断が必要です。
(担当:今野)