会計・税務の知識

2024年10月10日 発行(スタートアップ支援特集)種類株式活用によるベンチャーファイナンス

はじめに

 

日本のエクイティを利用したベンチャーファイナンス(スタートアップ企業の資金調達)では、ほとんどのケースで普通株式が利用されています。

これに対して、米国ではほとんどのケースで優先株式(Preferred Stock)が利用されており、日本とは投資環境が異なっておりました。

近年、日本のベンチャーファイナンスにおいても、投資家に有利な条件で発行できる種類株式を利用し、米国のベンチャー投資と同様に投資家に有利な条件をつけてベンチャーファイナンスを実現しようとする試みが増えてきています。

また、M&A市場の活性化により、今後未上場のままM&Aにて投資家が売却するケースも増えてくることも考えますと、日本でも種類株式を活用することが重要になってきます。

今回は種類株式を活用したベンチャーファイナンスについて解説いたします。

 

 

 

1.会社法上の種類株式とは

 

会社法上、普通株式と異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行できることになっています(会社法108条1項)。

これら普通株式とは内容が異なる株式を種類株式と呼びます。

ベンチャーファイナンスにおいては、数ある種類株式のうち、「残余財産の分配を受ける権利」、「株主の取得請求権」、「会社による取得条項」、「拒否権の設定(種類株主総会決議事項の設定)」が主に利用されます。

なお、「配当優先権」についてはベンチャーファイナンスでもこの権利を設定することもありますが、スタートアップ企業は資金不足の状況でファイナンスをしているわけですから、キャピタルゲインを期待し、種類株式の設定から除くことが多いです。

以下各権利につき簡易に内容を説明いたします。

 

(1)残余財産分配権(会社法108条1項2号)

残余財産分配権とは、会社を清算する際に、普通株式を有する株主(普通株主)に先立って残余財産の分配を受けることができる権利をいいます。

スタートアップ企業において残余財産分配権を設定する意義は、投資先にM&Aが生じた場合に当該規定を準用し、リスクをとって投資をした種類株式投資家へM&A買収資金が多く分配されるよう設計することにあります。

 

(2)株主の取得請求権(会社法108条1項5号)

株主の取得請求権とは、株主が会社に対して株式の取得や別の種類の株式(普通株式等)への転換を請求することができる権利です。

取得請求権を設定することで、投資家のイグジット(株式売却)への不安を緩和させる効果が期待されます。

 

(3)会社による取得条項(会社法108条1項6号)

会社による取得条項とは、会社側から株主に対して、強制的に株を買い取ったり、別の種類の株式(普通株式等)に変えたりすることができる権利です。

種類株式を保有した状態で上場することは実務上かなり限定的で、通常は全て普通株式の状態での上場になります。

そのため、ベンチャーファイナンスでは、取得条項を設定しトリガーを上場とするケースが多いです。

 

(4)拒否権の設定(会社法108条1項8号)

拒否権の設定とは、一定事項(定款変更や合併等の重要事項)を種類株主総会の決議がないと有効にならない、といった権利を設定することです。

なお、近年は投資契約書で実質的に拒否権付株式にしている事例が多く、必ずしも種類株式で設定する必要はありません。

 

 

 

.種類株式の会計及び税務

 

種類株式を発行した場合、会計及び税務上は資本取引となります。

ここで重要となるのが「種類株式の会計及び税務上の時価をどのように算定すべきか」という点です。

この点については、国税庁が公表している「種類株式の評価について(情報)」(平成19年3月9日)において、「配当優先の無議決権株式」、「社債類似株式」、「拒否権付株式」の評価方法を明示しているものの、それら以外の種類株式については不透明な状況のため種類株式の内容等を考慮し慎重に検討する必要があります。

 

 

 

おわりに

 

種類株式については、日本のベンチャーファイナンスでの活用も多くなってきたものの、実務上手続や時価評価が複雑化するため専門化のサポートをご検討ください。

(担当:高橋)

 

 

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