はじめに
監査対応は、単に監査手続への対応にとどまらず、会社の判断が伴う勘定科目およびその金額について、説明責任を果たさなければなりません。
財務諸表作成者の判断が生じる勘定科目及びその金額を、ここでは「会計監査上の論点」と呼ぶことにします。
今回は、会計監査上の論点の中の一つである、減損会計について解説していきます。
2回に分けて解説を予定しており、今回は総論的な解説をさせていただきます。
1.減損会計とは?
日本公認会計士協会の会計・監査用語かんたん解説集によれば、減損会計とは、固定資産をグルーピングし、そこから生ずる将来キャッシュ・フローの見積りなどによって、収益性の低下等が明らかになった場合に損失を計上すること、とされています。
固定資産の会計処理は、取得原価主義に基づき、減価償却を通じて期間配分することが定着していますが、含み損の計上と国際的な会計基準との差異の解消を目的とし、固定資産の減損に係る会計基準、及びその適用指針が2003年に制定されました。
2.減損会計の重要性
減損会計は、「1.」の通り、性質上、金額が多額になることが一般的です。
会社名は伏せますが、売上高に対し約10%、総資産に対し約25%にも及ぶ減損損失を計上した企業もあるほどです。
そのことから、量的に重要性が高いといえます。
また、直近では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、企業の減損会計の考え方や開示方針が見直されたのは記憶に新しく、質的な面からも重要性が高いといえます。
また、こうした社会情勢とも密に関係する減損会計は、監査人にとっても非常に慎重な検討を要するものであり、会計監査を受ける企業側のみならず、監査人側にとっても非常に重要性が高いといえます。
3.減損損失計上の5つのステップ
減損損失は、5つのステップに基づき検討が必要です。当該5つのステップは、以下の通りです。
(1) 資産のグルーピング
会計基準上、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位、と定義されております。
店舗を展開している会社であれば、店舗単位が想像しやすいでしょう。
(2)減損の兆候
会計基準の適用指針の例示は以下の4つです。
例示と言いながらも、実務では①のグループ単位をもとに、以下のいずれかに該当するか否かで検討を進めることが一般的です。
・営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合、あるいは継続してマイナスとなる見込みである場合
・使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合
・経営環境の著しい悪化の場合
・市場価格の著しい下落の場合
(3)減損損失の認識の判定
(2)において減損の兆候あり、と判断されたグループ単位に対し、当該グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合、減損損失を認識します。
(4)減損損失の測定
(3)の結果、当該グループ単位の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上します。
回収可能価額は、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方とします。
(5)減損損失の配分
(4)の減損損失の金額を、当該グループ単位の固定資産の勘定科目に配分を行います。減損損失計上前の簿価をベースに按分するのが一般的です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
次回は減損会計編(2)として、実務のポイント及び会計監査上のポイントを解説していきます。
出典・参考(2024年9月19日 閲覧)
・日本公認会計士協会ホームページ https://jicpa.or.jp/cpainfo/introduction/keyword/post-13.html
(担当:森)