会計・税務の知識

2024年09月05日 発行(スタートアップ支援特集)スタートアップ企業の主な資金調達手段

はじめに

 

日本のスタートアップ関連投資は、件数・金額ともに増加しており、近年は、普通株式ではなく種類株式によるものが主流となっており、コンバーティブル投資手段を用いた手法の導入も増えていて、スタートアップ企業の資金調達手段は多様化しています。

今回は、スタートアップ企業の主な資金調達手段とその特徴について解説します。

 

 

 

1.エクイティ

 

(1)普通株式

創業メンバーによる最初の資金投入はその多くが普通株式で行われています。

創業メンバーはスタートアップ企業の製品・商品開発、顧客開拓、会社運営の整備などをハンズオンで実施し、会社成長の原動力となるメンバーです。

創業メンバーによる投資額は限定的であっても、普通株式のシェアにおいては過半を占め、経営上の意思決定を担うことが一般的です。

 

(2)種類株式(無議決権株式)

会社の運営には直接的に関与しないが、将来的に会社がIPO等を達成する場合には、普通株式に転換することによりキャピタル・ゲインを獲得することを目的とする投資家によって選択される形態です。

投資家は議決権を保有しないため、経営陣にとって投資家からの影響を受けにくいというメリットがあります。

 

(3)種類株式(みなし精算条項付き優先株式)

M&A等が発生した場合に、種類株式の投資家が普通株式の株主と同レベルの配分しか受けられない場合には、創業メンバー等の普通株主の獲得利益に比較して、種類株式の投資家は微々たる利益しか得られないという場合が生じます。

したがって、M&A等が発生した場合における配分の不公正を是正するために、みなし清算条項を設定することにより、配分の不公正さを修正した優先株式が利用されています。

 

(4)新株予約権付社債、新株予約権付借入

新株予約権付社債又は新株予約権付借入は、負債である社債又は借入に新株予約権を付与した形態の資金調達です。

投資家サイドでは、会社が成長し、IPO等が実現しそうなタイミングで新株予約権を行使し、普通株式へ転換するというオプションを有する一方、思惑どおり株式公開(IPO)等に進展しない場合には、負債の返済という形態で資金回収を図ることが可能です。

しかし、調達企業にとっては、利払いが必要となる点及び新株予約権の行使が行わなければ、負債の返済義務を負う点でメリットが乏しい資金調達となります。

 

(5)新株予約権型資金調達(J-KISS型新株予約権)

新株予約権付社債又は新株予約権付借入のデメリットである負債計上を是正し、返済不要のエクイティでの資金調達手法として考案されました。

発行企業の株式評価の難しさを回避するため、次回の資金調達における評価額で割当株式数が決定されるとしている点及びM&A等における投資回収への配慮も行われている点が特徴的です。

 

 

 

2.デッド

 

(1)ローン

一般的に事業リスクが高く、不動産も持たないスタートアップ企業が、銀行等から融資を受けることは非常に困難です。

そのため、スタートアップ企業がローンで資金調達を行う場合は、信用保証協会や株式会社日本政策金融公庫、地方自治体等、公的な融資制度を利用することが一般的です。

 

(2)社債

社債もローンと同じくデットによる調達手段であり、スタートアップ企業が普通社債により資金調達するケースは、縁故者等に向けて少人数私募債を発行する場合等に限られます。

 

出典:スタートアップ企業の価値評価実務 日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第70号

 

 

 

おわりに

 

多様化する様々な資金調達手段のうち、特に、J-KISS型新株予約権は、不確実性のより高いシード期において迅速に資金調達を進める手法として活用余地が大きく、注目されています。

(担当:福井)

 

 

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