はじめに
国税庁は2023年7月、株価の算定ルールを改正租税特別措置法関係通達で新設し、原則方式のほか、スタートアップ企業などの未公開の株式については、財産評価基本通達に基づく特例方式で算定できるようにしました。
この結果として、日本公認会計士協会及びASBJ副委員長より、税制適格ストック・オプションの会計処理に関する意見及び論点解説が公表されており、未公開企業の会計処理への影響が記載されておりますので、以下解説いたします。
1.未公開企業の税制適格SOの会計処理
ストック・オプション会計基準では、未公開企業については、ストック・オプションの公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の⾒積りに基づいて会計処理を⾏うことができるとしています(ストック・オプション会計基準第 13 項)。
ここで、未公開企業における単位当たりの本源的価値は、算定時点におけるストック・オプションの原資産である⾃社株式の評価額と⾏使価格との差額となります(同会計基準第 13 項)。
この場合、単位当たり本源的価値にストック・オプション数を乗じて算定した額のうち、当期に発⽣したと認められる額を費⽤計上することとなります(同会計基準第 4 項及び第 5 項)。
2.算定時点における⾃社株式の評価額について
ストック・オプション会計基準第 13 項に定める「算定時点におけるストック・オプションの原資産である⾃社の株式の評価額」について、企業会計基準適⽤指針第 11 号「ストック・オプション等に関する会計基準の適⽤指針」第 60 項及び第 61 項において、会計上、特定の評価⽅法を定めておらず、企業価値を最もよく表し得ると考えられる⽅法を採⽤すればよいとしています。
ここで利用すべき評価方法は、例えば、当該株式を第三者に新規に発⾏する場合の価格を決定する際に⽤いられるような合理的な評価⽅法である必要があると考えられます。
3.算定時点における⾃社株式の評価額について
税制適格ストック・オプションに該当するためには、⾏使価格がストック・オプションの契約締結時の時価以上でなければならず、そのように設定されることが実務上多いと考えられます。
この場合、未公開企業における単位当たりの本源的価値は、算定時点におけるストック・オプションの原資産である⾃社株式の評価額と⾏使価格との差額とされていることから、⾏使価格をストック・オプションの契約締結時の時価として設定した場合には本源的価値はゼロとなり、その結果、通達等改正前は未公開企業で会計上費⽤計上はされないケースがほとんどであったと考えられます。
この点、今回の通達等改正以後は、未公開企業においては⾏使価格を(税務上の)1 株当たり純資産とするケースの増加が⾒込まれ、仮に⾏使価格を(税務上の)1 株当たり純資産とした場合、算定時点におけるストック・オプションの原資産である⾃社株式の評価額と差額が⽣じることが考えられます。
このような場合には、単位当たり本源的価値にストック・オプション数を乗じて算定した額のうち、当期に発⽣したと認められる額を費⽤として計上することとなるため(同会計基準第 4 項及び第 5 項)、今後未公開企業の会計処理に影響が生じる可能性があります。
(通達等改正の影響まとめ)
(従来)自社株評価=行使価格 |
⇒ゆえに本源的価値ゼロで、費用計上は不要 |
(今後)自社株評価>行使価格(税務上の時価) |
⇒ゆえに本源的価値が生じ、費用計上が必要となる |
おわりに
今回の改正により、未公開企業(特にIPOを目指している企業)の会計処理に影響が生じる可能性が高いと考えられます。
通達等改正によりインセンティブ効果は拡大しましたが、会計上の影響も把握して適用をご検討ください。
(担当:高橋)