はじめに
突然ですが、上場前、または上場後の監査対応でお困りではないでしょうか。
「決算日の翌日に実査に行くのでよろしくお願いします」、「はい、対応します」、のように、手続きの趣旨を理解できぬままなんとなく監査対応をしていないでしょうか。
そんな皆様の悩みを少しでも解決すべく、何回かに分けて手続きの趣旨や対応方法を解説していきます。
今回は現金実査に絞って説明します。
1.現金(等)実査とは?
日本公認会計士協会の会計・監査用語かんたん解読集によれば、現金実査とは、資産の実在性を確かめるために、公認会計士が現物を実際に確かめる監査手続、と定義されています。
現金や切手、手形や株券など、資産が記帳の通り実在するかを、実際に監査人の目で確かめる手続きです。
2.現金(等)実査の趣旨
現金(等)実査の趣旨は、大きく4つです。
一つ目は、単純に、帳簿等の残高が、本当に実在するかを確かめる目的です。
監査人の間では、(資産の実在性に対する)実証手続と呼び、会計監査は、会計数値の妥当性を検証する作業ですので、実際にカウントした現金の現物合計額が、帳簿等の残高と一致するか検証を行うことで、その勘定科目に対する監査証拠を得る目的で行われます。
二つ目は、会社が現金を社内規定に基づき適切に管理しているかを確かめる目的です。
監査人の間ではよく、リスク評価目的、といいます。
現金のカウントが終わり、帳簿等の数値と一致を確認した後に、現金を保管する金庫の中を見られたり、誰が、どのような方法で普段は管理しているか聞かれたりした経験はないでしょうか。
三つ目は、単純なけん制目的です。
3月決算の会社であれば、4月1日に毎年、監査人が来社することが、恒例行事化しているのではないでしょうか。
そうすることで、年に一回、監査人が来社の上、チェックされる、という一定のプレッシャーがあることで、社内のけん制の役割を担っている隠れた側面があります。
四つ目は、二つ目と重なりますが、期末時点ではなく、期中で実施することによるリスク評価目的です。
ここでは、第二のリスク評価目的と呼ぶことにし、期中に、本社ではなく支店や工場に往査の上、実査をすることにより、その拠点にリスクはないかの確認と合わせて、業務フローの確認を行うことが一般的です。
3.実査の時期と対象範囲
実査の時期は、2.でも触れたように、期末付近で行われることが一般的です。
その他にも、期中で本社以外の拠点で行われる場合もあり、監査人の判断によって決定されます。
実際の対象範囲については、現金は必ずと言って良いほど対象となり、その他は、時期の判断同様に、監査人の判断により決定されます。
4.対応方法と注意点
それでは、実際の監査対応方法を確認しておきましょう。
初めに、日時、実査対象と手続き、誰が来るのか、実査当日までに用意する資料、を事前にメールや電話等で確認しておきましょう。
確認が済んだら、ものが混在しないように実査対応用の会議室等を確保し、当日の資料を用意しておきましょう。
当日の資料は、帳簿等のコピーが一般的で、わからない場合については確認するようにします。
往査当日、監査人が来社次第、会議室等にご案内します。
あとは監査人のほうで現金等実査、管理状況のヒアリング等、監査人が必要な作業を依頼されますので、対応するようにしてください。
当日の留意点は以下の3点です。
(1)換金性の高いものは同時に実査を行います。
(2)監査人の実査中は、必ず立ち会ってください。
実査対象物の紛失を防ぐ意味があります。
(3)実査完了後は、返還証明への署名が求められます。
監査人がすべての実査物を貴社へ返還しました、という証明ですので、確認の上署名するようにしてください。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
少しでも皆様の監査対応の一助となる記事になったようでしたら、幸いです。
次回は棚卸立会編です。
出典・参考(すべて2024年5月15日 閲覧)
・日本公認会計士協会ホームページ(会計・監査用語かんたん解説集:実査 | 日本公認会計士協会 (jicpa.or.jp))
(担当:森)