はじめに
2023年6月、中小企業庁より、「経営力再構築伴走支援ガイドライン」が公表されました。
経営力再構築伴走支援の活動を全国に幅広く普及させるため、中小企業・小規模事業者の支援者を対象として策定されたものです。
本稿では、当該ガイドラインの概要を解説します。
1.背景
コロナ感染症、サプライチェーンの分断、物価・エネルギーの高騰、人手不足、脱炭素、DX等、先を見通すことが困難な現代において、中小企業・小規模事業者が成長・事業継続していくには、「自己変革力」が求められます。
しかしながら、経営資源の限られた中小企業・小規模事業者の経営者が独力で行うことは困難です。
そこで、信頼できる第三者による伴走支援により、「自己変革力」の向上を目指すものです。
2.経営力再構築伴走支援モデル
(1) 経営力再構築伴走支援モデルとは
経営力再構築伴走支援は、経営者等との「対話と傾聴」を通じて、事業者の「本質的課題」に対する経営者の「気づき・腹落ち」を促すことにより「内発的動機づけ」を行い、事業者の「能動的行動・潜在力」を引き出し、事業者の「自己変革・自走化」を目指す支援方法を言います。
この過程で自己変革を妨げる次の5つの障壁を乗り越える力をつけることを目指します。
① 見えない→企業内部を可視化します。
② 向き合わない→経営者が現実を直視します。
③ 実行できない→しがらみやトラウマを超えて行動に移します。
④ 付いてこない→現場を巻き込みます。
⑤ 足りない→外部の知見や経験を導入します。
(2) 経営力再構築伴走支援モデルの三要素
① 対話と傾聴による信頼関係の構築
対話する際、相手の話をしっかりと聞き(傾聴)、相手の立場に共感するという姿勢により相手の信頼感を十分に得ることが支援の前提となります。
“コーチング”という用語は、ここでいう“対話と傾聴”とほぼ同義です。
② 気づきを促す課題設定型コンサルテーション
世の中の問題は、既存の解決策が応用できる「技術的問題」と当事者のマインドセット自体を変える必要がある「適応を要する課題」に二分されますが、後者については、経営者の“腹落ち”が必要です。
支援者としては、傾聴、共感、適切な問いかけを通じて、経営者が自ら答えにたどり着いたと実感し、結論に“腹落ち”してもらうことがポイントです。
③ 経営者の「自走化」のための「内発的動機付け」と「潜在力」の引き出し
経営者が取り組むべきことに腹落ちし能動的に行動を起こすようになる「内発的動機付け」が得られれば、困難があっても最後までやり切ることができるようになります。
また、経営環境に変化が生じても、事業者がその「潜在力」を最大限に発揮できるようになります。こうして「自己変革力」が身に付いたと評価できます。
3.経営力再構築伴走支援の進め方
基本的な支援の流れは次の通りです。
① 経営力再構築伴走支援の対象としての見極め
② 事業者・支援者双方の理解→支援の候補となる事業者を知り、事業者の取組意欲や受入態勢を確認します。
③ 伴走支援の開始→信頼関係の構築を優先します。
④ 気づき・腹落ちの促進→事業者に本質的な課題への気づきと腹落ちを促します。
⑤ 内発的動機づけ→本質的課題の克服に向けた覚悟と取組を促します。
⑥ 課題解決→課題解決に向けた社内体制とPDCAサイクルを構築します。
⑦ フォローアップ→自走化、自己変革の実現をフォローアップします。
おわりに
2023年5月には、国、商工団体、士業団体、金融機関等の支援機関が参加して「経営力再構築伴走支援推進協議会」が設立され、支援事例やノウハウを共有すると共に、全国各地で連携して普及に取り組んでいます。
(担当:竹内)