はじめに
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が連帯保証人となる「経営者保証」に関して、事業承継や事業再生を阻害するという課題が指摘されています。
これまでも「経営者保証ガイドライン」により脱・経営者保証に向けた取り組みがなされてきましたが、昨年12月23日に経済産業省・金融庁・財務省から「経営者保証改革プログラム」が発表され、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速することになりました。
本稿ではその概要を説明いたします。
1.スタートアップ・創業
・経営者保証を徴求しないスタートアップ・創業融資を促進します。
①スタートアップの創業から5年以内の者に対する経営者保証を徴求しない信用保証制度を新設します(保証割合100%/上限額3,500万円/無担保)。
②日本公庫・商工中金のスタートアップ向け融資に係る経営者保証を廃止又は要件緩和します。
2.民間金融機関による融資
・保証徴求手続きを厳格化し意識改革を図ります。
(1)金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化
① 金融機関が経営者等と個人保証を締結する場合には、事業者・保証人に対して個別具体的に説明し、その結果を記録することを求めます。
② ①の件数を金融庁に報告することを求めます。
③ 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置します。
④ 状況に応じ、金融機関宛て特別ヒアリングを実施します。
(2)意識改革
① 金融機関に対し「経営者保証ガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」について経営トップを交え検討・作成し、公表するよう金融担当大臣より要請します。
② 金融機関・事業者向け説明会を全国で実施します。
③ 組織的事例集を拡充・横展開します。
(3)新たな融資手法の検討
事業全体を担保とする事業成長担保権(仮)の議論を進めます。
3.信用保証付融資
(1)経営者保証を事業者が選択できる環境の整備
① 保証料の上乗せ負担により経営者保証の解除を選択できる信用保証制度を創設します。
② ABL(売掛債権や棚卸資産を担保とする融資)に対する信用保証制度において、経営者保証の徴求を廃止します。
③ プロパー融資における経営者保証の解除を条件に、プロパー融資の一部に限り、借換を例外的に認める保証制度を時限的に創設します。
(2)経営者保証ガイドラインの要件を充足する場合の経営者保証解除の徹底
① 金融機関に対し、経営者保証を解除することができる現行制度の活用を検討するよう経済産業大臣・金融担当大臣から要請します。
② 保証付融資が経営者保証を必要とするかのような誤解が生じない広報を展開します。
4.中小企業のガバナンス
・ガバナンス体制の整備を通じた企業価値向上を実現します。
① ガバナンス体制整備に関する経営者と支援機関の目線合わせのチェックシートを作成します。
② 中小企業の収益力改善やガバナンス体制整備支援等に関する実務指針を策定し、支援策における支援機関の遵守を促進します。
③ 中小企業活性化協議会における収益力改善支援にガバナンス体制整備支援を追加します。
おわりに
2014年に適用開始した「経営者保証ガイドライン」により、経営者保証に依存しない融資の割合は2017年度の16.5%から2022年度下期の33.1%まで上昇しています。
ただ、金融機関によるバラつきも大きく、今回の経営者保証改革プログラムにより、経営者保証に依存しない融資が広く浸透し、事業性評価や伴走型支援に繋がることが期待されます。
(担当:竹内)