はじめに
帝国データバンクが2023年1月報の全国企業倒産集計のなかで、企業が満足に賃上げできないことを理由に従業員が退職し、人手不足により経営が立ち行かなくなる、いわゆる「賃上げ倒産」が春以降に表面化してくる懸念があると公表しました。
本稿では「賃上げ倒産」についてご紹介していきます。
1.倒産集計
帝国データバンクが2013年から公表している全国企業倒産集計は、倒産4法(会社更生法、民事再生法、破産法、特別清算)による法的整理を申請した負債額1,000万円以上の法人、および個人経営を対象としており、任意整理(銀行取引停止、内整理など)は集計対象に含んでいません。
2023年1月の倒産集計によると、倒産件数が9ヵ月連続で前年同月比増加していること、主因別には販売不振等を理由とする「不況型倒産」が約8割と最多であること、規模別には中小零細規模が増加しており、負債総額100億円超の企業は8か月ぶりに倒産がなかったことなどが公表されています。
また、業歴別には業歴10年未満の新興企業が166件とリーマンショック以後最多となり、創業から間もなく体力の少ない企業がコロナ禍により倒産していることがわかります。
※[2023年 1月報 | 株式会社 帝国データバンク[TDB]]より引用
2.倒産の注目動向
倒産集計によると、従業員を自社につなぎとめることができずに経営破綻した倒産が足元で増加傾向に転じた、としています。
2022年の人手不足倒産140件のうち、従業員や経営幹部などの退職・離職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」の人手不足倒産は57件と、19年以来3年ぶりに増加しており、倒産に占める「従業員退職型」の割合は40.7%、21年(41.4%)に引き続き高水準で推移しています。
同社は、物価も大幅に増加していることから、春以降労働者からの賃上げ要求が増加する一方で、賃上げしたくても収益力が乏しく、高給では人材を囲えないことにより従業員のさらなる離職が進むことにより春以降には「賃上げ倒産」が表面化してくるのではないか、と懸念しています。
おわりに
今回ご紹介した「賃上げ倒産」の懸念にはSNSなど多くのネットメディアでも反応があり、「満足いく給与が払えないなら、淘汰されたほうがいい」といった厳しい声もあがっています。
しかし、その「賃上げ」により収益確保が見合わずに倒産してしまっては本末転倒なので、今後の動向を注目していく必要がありそうです。
(担当:岩崎)