はじめに
2023年度税制改正大綱のうち、今回は「高額所得者の課税の見直し」、「ストックオプション税制の拡充」、「国外転出時課税の納税猶予の見直し」、「譲渡所得の特例の延長」について、その改正の内容を記載します。
1.高額所得者の課税の見直し
(1)極めて高い水準にある高所得者層に対する負担の適正化
負担の公平性の確保の観点から、極めて高い水準にある高所得者層に対する負担の適正化を図るための措置が設けられます。
2025年以降の所得税より適用されます。
(2)制度の計算方法
本制度において、ある特定の年度の基準所得金額から3億 3,000 万円を控除した金額に 22.5%の税率を乗じた金額がその年度の基準所得税額を超える場合には、その超える金額に相当する所得税が課されます。
【計算方法】
①基準所得税額
②(基準所得金額-特別控除額(3.3億円))×5%
⇒②が➀を上回る場合に限り、差額分を申告納税
上記 の「基準所得金額」とは、その年分の所得税について申告不要制度を適用しないで計算した合計所得金額(適用する特別控除額を控除した後の金額)を言い、「基準所得税額」とは、その年分の基準所得金額に係る所得税(分配時調整外国税相当額控除及び外国税額控除を適用しない場合の所得税)の額を言います。
また、「申告不要制度」とは、確定申告を要しない配当所得等の特例等を言い、合計所得金額には源泉分離課税の対象となる所得金額(国内における預貯金から発生する利子所得等)を含みません。
なお、株式譲渡所得のみの場合においては、約10億円を超えたら納税が発生することが見込まれ、また、令和2年度の所得金額10億円超の人数は626名と示されています(第146回国税庁統計年報書 2020年度版)。
2.ストックオプション税制の拡充
取締役等による新株予約権等の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等(ストックオプション税制)について、一定の株式会社が付与する新株予約権は、適用要件の一つである権利行使期間が一部延長されます。
【改正前】
権利行使は付与決議から2年を経過した日から10年を経過するまでに行わなければならない
【改正後】
権利行使は付与決議から2年を経過した日から15年を経過するまでに行わなければならない
一定の株式会社とは、設立の日以後の期間が5年未満の株式会社で、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社以外の会社であること等を満たすものをいいます。
本改正は設立5年未満のスタートアップの人材獲得に寄与すると考えます。
3.国外転出時課税の納税猶予の見直し
国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予について、納税猶予の適用を受けようとする者が質権の設定がされていないこと等の要件を満たす非上場株式等を担保として提供する場合において、その者が当該非上場株式(当該持分会社の社員の持分)を担保として提供することを約する書類その他の書類を税務署長に提出するときは、その株券を発行せずにその担保の提供ができることとなります。
ただし、非上場株式の担保については、財産のほとんどが非上場株式であり、かつ、その株式以外納税猶予の担保として適当な財産がない場合等の要件を満たす必要があるため、留意が必要です。
4.譲渡所得の特例
(1)低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除について
本特例は、所有者不明土地の発生を予防する等のために、一定の要件の下、個人が保有する低額な土地等を譲渡した場合の譲渡所得から100万円を上限として控除を認める制度です。税制改正大綱により、次の見直しが行われ、2023年1月1日以後の譲渡から適用されます。
要件 | 現行 | 改正後 |
譲渡後の土地の用途 | 特段の要件はなし | コインパーキングは除外 |
譲渡対価の額の上限 | 500万円 | 800万円 |
(2)空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除の特例について
本特例は、空き家の発生を抑制するために、一定の要件のもと、空き家の譲渡所得から3,000万円を上限として控除を認める制度です。
税制改正大綱により、次の見直しが行われ、2024年1月1日以後の譲渡から適用されます。
現行 | 改正後 | |
要件 |
譲渡前に、耐震改修工事又は 除却工事を実施している |
譲渡した年の翌年2月15日までに 耐震改修工事等をしている |
特別 控除額 |
空き家を取得した相続人の人数×3000万円 | 人数が3名未満:左記と同様 人数が3名以上:空き家を取得した相続人の人数 ×2000万円 |
(3)長期保有土地等に係る事業用資産の買換え等の場合の課税の特例措置について
本特例は長期保有(10年超)の土地等を譲渡し、新たに事業用資産(買換資産)を取得した場合、譲渡した事業用資産の譲渡益について原則80%の課税の繰延べを認める制度です。
2023年4月1日以降の譲渡から見直しが行われ、本措置は2026年3月31日まで延長されます。
現行 | 改正後 | |
東京23区から地域再生法の集中地域以外の地域への転居又は主たる所在地の移転を伴う買換えの繰延べ割合 | 80% | 90% |
上記集中地域以外の地域から23区への買換えの繰延べ割合 | 70% | 60% |
おわりに
各改正の影響については、要件等を確認のうえ、慎重にご判断ください。
(担当:近野)