はじめに
相続時精算課税制度は、2003年の税制改正により、次世代への早期の資産移転と有効活用を通じた経済社会の活性化の観点から導入された制度です。
選択後は生前贈与か相続かによって税負担は変わらず、資産移転の時期に中立的な仕組みとなっています。
今回の税制改正により暦年課税との選択制は維持しつつ、同制度の使い勝手が向上されています。
今回の税制改正により、生前にまとまった財産を贈与しにくかった人にとっても、相続時精算課税を活用することで、次世代に資産を移転しやすい税制となります。
1.相続時精算課税制度による基礎控除の新設
相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できるようになります。
また、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除をした後の残額となります。
これにより、改正前は相続時精算課税の選択後、少額であっても申告をする必要がありましたが、改正後では基礎控除110万円以下であれば申告が不要なため、使いやすい制度となります。
2.贈与財産が災害被害を受けた場合の再計算
相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した一定の不動産が、贈与の日から当該特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に、災害によって一定の被害を受けた場合には、当該相続税の課税価格への加算等の基礎となる当該土地又は建物の価額は、当該贈与の時における価額から当該価額のうち当該災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額となります。
3.適用時期
上記1の改正は2024年1月1日以後に贈与によって取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用となります。
上記2の改正は2024年1月1日以後に生ずる災害により被害を受けた場合に適用となります。
【現行と改正案】
|
現行 |
改正案 |
贈与税 |
(贈与額– 2,500万円)× 20% |
{(贈与額-110万円)– ※特別控除額}× 20% |
申告方法 |
贈与額にかかわらず申告が必要 |
年110万円以下の贈与の場合は不要 |
相続時 算入対象 |
相続時精算課税適用後の全ての贈与財産 |
同左。ただし基礎控除110万円以下贈与財産は除く |
相続時の 課税価額 |
贈与時の評価額 |
同左。ただし災害を受けた土地・建物については被害額相当分を控除 |
※最大2,500万円。ただし前年以前において差し引いた金額がある場合は残額が限度。
おわりに
改正前は相続発生時に全ての贈与財産が加算されていましたが、本改正によって相続発生時に基礎控除以下の贈与財産であれば加算されないようになりました。
そのため、現行制度と比較して次世代に資産を移転しやすい制度となりました。
また、暦年課税については、相続発生時に足し戻される期間が3年から7年へ延長することとしており、納税者にとって税負担が加重する改正となる予定です。
(担当:小原)