はじめに
不動産経済研究所発表の「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2022年9月」によると、東京23区の新築分譲マンションの平均価格は8,758万円とされており、もはや普通のサラリーマンでは手の届かないレベルまで高騰しています。
そこで、価格メリットのある定期借地権付分譲マンションが見直されているところです。
本稿では、最近一部で注目を集めている「前払地代方式・70年定期借地権」について、地主の立場からご紹介したいと思います。
1. 「前払地代方式・70年定期借地権」とは
駅前一等地の分譲マンション適地を保有する地主が、大手デベロッパー等に対して、70年の定期借地権を設定して賃貸します。
地主は70年分の地代を一括して受領(以下、「前払地代」と言います)します。この前払地代は時価の70~80%に相当し、例えば20億円の土地であれば14~16億円となります。
地主は70年後に更地返還を受けることができ、これを繰り返すことも可能です。
理論的には、売却をせずに売却代金に近い金額を受領し続けることができる、という点が魅力です。
なお、70年という期間は、35年の住宅ローンの2回分に相当し、定期借地権付マンションの購入者が途中で売却しやすい期間設定と言えます。
2.前払地代に係る税務上の取り扱い
2005年1月7日付文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取扱いについて」によれば、地主(借地権設定者)は、一括受領した前払地代を「前受収益」として計上し、その事業年度(法人の場合)又はその年分(個人の場合)の賃料に相当する金額を益金の額(法人の場合)又は収入金額(個人の場合)に算入します。
逆に、借地権者は、一括支払いをした前払地代を「前払費用」として計上し、その事業年度又はその年分の賃料に相当する金額を損金の額又は必要経費の額に算入します。
3.「前払地代方式・70年定期借地権」のメリット
(1)前払地代には一括課税されません。
2.で見た通り、前払地代は時の経過に応じて課税(期間70年ですので毎年1/70を収益計上)されるため、前払地代そのものには課税されません。
(2)売却せずに売却したと同じ程度の金額を受領できます。
個人の長期譲渡所得の税率は20.315%ですので、売却した場合の税負担を考慮すれば、前払地代と売却した時とを比較すると、手取りベースでほぼ同じ水準と言えます。
(3)土地は70年後に更地で返還されます(100%所有権として戻ります)。
通常の売却は1回限りですが、本スキームは、「70年単位で何回も売れる。」と言えます。
なお、借地契約は公正証書で作成し、公証役場で保管されます。
(4)前払地代の受け取り方は複数あります。
①全額現金、②全額分の住戸を取得(等価交換)、③一部現金、一部住戸、の3つの選択肢が考えられます。
(5)前払地代を70年運用することで収益性の向上が期待できます。
(6)前払地代で建物を取得した場合、建物部分は減価償却できます。
おわりに
「前払地代方式・70年定期借地権」の適用事例は、駅前一等地の新築分譲マンションが典型的ですが、旧渋谷区役所/公会堂や旧豊島区役所/公会堂の建替えのように、自治体においても積極的に活用されています。
また、前払方式ではないものの、郊外の戸建分譲地でも70年定期借地権の事例が出ています。
70年という長期に及ぶ新しいスキームであり、地主と借地人の事情の変化や自然災害等、不透明な問題もありますが、今後の広がりには注目したいと思います。
(担当:竹内)