はじめに
2021年版中小企業白書によれば、我が国のM&A件数は、2019年に4,088件と過去最高となり、感染症の影響をうけた2020年も3,730件と高水準となっています。一方、M&Aを実施する際の障壁として「仲介等の手数料が高い」が上位にあげられています。
そこで本稿では、中小M&Aにおける仲介者・FAの手数料について、令和2年3月付「中小M&Aガイドライン」より、その内容をご紹介いたします。
1.仲介者・FAの手数料の種類
仲介者・FAの手数料には次のような種類がありますが、一般的な法規制がなく、どのような料金体系を採用するかは仲介者・FAによって様々です。
(1)着手金
依頼者との仲介契約・FA契約締結時に発生する手数料です。
(2)月額報酬(定額顧問料、リテーナーフィー)
月ごとに定期的に定額で発生する手数料です。
(3)中間金
基本合意締結時等、案件完了時の一定の時点に発生する手数料です。
(4)成功報酬
クロージング時に発生する手数料です。
成功報酬が発生した場合には、(1)~(3)の手数料は成功報酬に含まれる(成功報酬の内金とする)ことが一般的です。
2.仲介者・FAの(成功)報酬の基準となる価額
(成功)報酬を算定する上での基準となる価額は次の3つがありますが、これらを組み合わせたり、修正したりする方式もあれば、全く異なる方式を採用する仲介者・FAも存在します。
(1)譲渡額(譲受額)
譲り渡した(譲り受けた)金額そのものを基準とするもので、基準として理解しやすいと言えます。
(2)移動総資産額
譲渡額に負債額を加えた「移動総資産額」を基準とするものです。同じ譲渡額でも負債金額が大きいと手数料が高くなることに留意が必要です。
(3)純資産額
資産と負債の差額です。譲り渡し側が小規模企業の場合、分かりやすさという点で簿価純資産額を基準とすることがあります。
なお譲り渡し側が債務超過企業の場合はマイナスとなってしまいますので、その他の方法を採用することになるでしょう。
3.レーマン方式
2.の価額を基に報酬を算定する手法として、レーマン方式が採られることが多いです。
レーマン方式は、「基準となる価額」に応じて変動する各階層の「乗じる割合」を、各階層の「基準となる価額」にそれぞれ乗じた金額を合算して報酬を算定する方法です。
この場合、譲り渡し側が小規模である場合には、「基準となる価額」が小さく、十分な成功報酬を確保できないケースもあるため、最低手数料を設けている仲介者・FAは多くなります。
【レーマン方式(例)】
基準となる価額(円) |
乗じる割合(%) |
5億円以下の部分 |
5 |
5億円超10億円以下の部分 |
4 |
10億円超50億円以下の部分 |
3 |
50億円超100億円以下の部分 |
2 |
100億円超の部分 |
1 |
【計算例(消費税考慮せず)】
・基準となる価額(譲渡額):7億円
・成功報酬
=5億円×5%+(7億円-5億円)×4%=33百万円
おわりに
中小M&Aにおいては、仲介者が譲渡側と譲受側双方と仲介契約を締結して手数料を徴求する所謂“利益相反”の問題が懸念されています。2021年10月に設立されたM&A仲介業自主規制団体「一般社団法人M&A仲介協会」において、利益相反問題についても議論されるとのことです。
今後も活発化が見込まれる中小M&Aですが、中小企業・小規模事業者が安心してM&Aに取り組める基盤の構築が進むことを見守っていきたいと思います。
(担当:竹内)