はじめに
パーシャルスピンオフ税制とは、スピンオフする企業に持分を一部残す場合(パーシャルスピンオフ)にも、子会社株式の譲渡損益を繰り延べ、みなし配当に関する課税を対象外とする特例措置をいいます。
当該税制は、段階的にスピンオフしたい、又は、スピンオフ後も親会社との関係を一部残したい等のニーズに応え、事業再編を促進する狙いにより、2023年度の税制改正において、1年間の期限付き措置で創設されました。
しかし、組織再編は完了までに数年間を要することなどを鑑み、2024年度の税制改正において、適用期限が4年間延長されるとともに、所要の措置が講じられました。
1.スピンオフとは
そもそもスピンオフとは、特定の事業部門や子会社を切り出し、独立させる手法をいいます。
切り出した後も株主(または親会社)との資本関係は継続します。つまり、ブランドや販売ルートなどを共有し、資本関係を維持したままの状態で特定の部門や子会社を独立させる手法となります。
この目的は、例えば社内の事業部門としておくよりも、切り出すことにより、事業の成長・事業価値の向上につながることがあります。
また、不採算部門を切り離して事業再編をする際にも用いられています。
子会社株式の全部をスピオンオフする場合の税制措置については、2017年に導入されています。
2.メリット
スピンオフのメリットは以下が挙げられます。
<企業にとってのメリット>
・事業の構造がシンプルとなり、中核事業の経営効率が高まることが期待される。
・経営の意思決定の柔軟化・迅速化が図れる。
・事業を独立させることにより、経営者や従業員のモチベーションの向上につながる。
・適格組織再編に該当するスピンオフであれば、株式譲渡益課税がされない。
<株主のメリット>
・スピンオフ後の保有株の価値の総和がスピンオフ前を上回ることがある。
・適格組織再編に該当するスピンオフであれば、配当課税がされない。
3.パーシャルスピンオフの主な適用要件
1. スピンオフ後に元親会社(A社)が保有する元子会社(B社)株式が発行済株式の20%未満であること。
2. スピンオフ後にB社の従業員のおおむね90%以上が、その業務に引き続き従事することが見込まれること。
3. A社が産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けていること。
―B社の主要な事業として新たな事業活動をおこなっていること。
―B社の役員に対するストックオプション付与等の要件を満たすこと 等
おわりに
スタートアップ企業においては、事業が軌道に乗り安定して収入を得るまで時間を要することから、事業再編が望ましい場合にも、実行した場合の税負担を懸念し躊躇することもあるかもしれません。
今回紹介したパーシャルスピンオフ税制を適用した場合、再編時の税負担を生じさせないことが可能となります。
日本での事例がまだ少ない制度ですが、適用をお考えの方や、当該制度にご興味のある方は、お気軽にご相談ください。
(担当:鳥津)