【税理士監修】贈与税の配偶者控除とは?要件や必要書類、注意点等を紹介
更新日:2024.12.9
贈与税の配偶者控除とは、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産または居住用不動産取得目的の金銭の贈与が行われた場合、最高2,000万円の控除を受けられる制度です。贈与税の基礎控除110万円とは別で控除されるため、贈与税の配偶者控除と基礎控除を合わせて最大2,110万円の控除を受けられます。
本記事では贈与税の配偶者控除について、要件や必要書類などの概要から、利用する際の注意点まで詳しく解説します。
目次
贈与税の配偶者控除の概要
はじめに、贈与税の配偶者控除の概要を解説します。
贈与税の配偶者控除とは
贈与税の配偶者控除とは、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産または居住用不動産取得のための金銭の贈与が行われた場合、最高2,000万円の控除を受けられる制度です。通称おしどり贈与とも呼ばれますが、本記事では贈与税の配偶者控除という呼び方を用います。
贈与税の配偶者控除は、贈与税の基礎控除110万円とは別で控除される仕組みです。すなわち、最大で贈与税の基礎控除110万円と贈与税の配偶者控除2,000万円の合計2,110万円の控除を受けられます。
贈与税の配偶者控除を適用できるのは同じ配偶者からの贈与について1度限りです。居住用不動産または居住用不動産取得目的の贈与であっても、複数回に分けて行われた場合に適用できるのは1回分のみとなります。
なお、居住用不動産を贈与した場合、贈与財産の額として相続税評価額を用います。居住用建物の相続税評価額は固定資産税評価額と同額ですが、土地は路線価方式または倍率方式での計算が必要です。ケースによっては複雑な計算が必要となるため、専門家である税理士のサポートを受けるのが確実です。
贈与税の配偶者控除の適用要件
贈与税の配偶者控除の適用を受けるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 夫婦の婚姻期間が20年以上の贈与である
婚姻期間は婚姻届を提出してからの期間を指します。婚姻届を提出していない事実婚状態の期間は含まれません - 居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与である
事業用不動産などは対象外です - 対象の贈与によって取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた年の翌年3月15日までに受贈者が実際に住んでおり、以降も引き続き住む見込みである
居住用不動産の贈与後すぐに売却した場合、税逃れ目的とみなされ指摘を受ける恐れがあります
【参考】相続税の配偶者の税額軽減との違い
贈与税の配偶者控除と相続税の配偶者の税額軽減は全く異なります。
相続税の配偶者の税額軽減は、配偶者が相続や遺贈によって取得した遺産について、以下のいずれか大きい金額までは相続税がかからないという制度です。
- 1億6,000万円
- 法定相続分相当額:法定相続分は以下の通りです
- 法定相続人が配偶者のみ:遺産すべて
- 法定相続人が配偶者と子供:配偶者2分の1、子供2分の1
- 法定相続人が配偶者と親:配偶者が3分の2、親が3分の1
- 法定相続人が配偶者と兄弟姉妹:配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
贈与税の配偶者控除との違いとして、相続税と贈与税の違いの他、婚姻期間や財産の内容は関係なく適用される点が挙げられます。
贈与税の配偶者控除は婚姻期間20年以上の夫婦かつ居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が対象です。一方で、相続税の配偶者の税額軽減には、被相続人の配偶者であること以外の要件は特にありません。
なお、贈与税の配偶者控除と同様に内縁関係の場合は対象外です。
【参考】夫婦間の贈与で課税されるケースとは
贈与税に配偶者控除の仕組みが存在することは、夫婦間の贈与にも贈与税が課せられるケースがあることを意味します。
もともと、夫婦間や家族間における生活費や教育費を目的とした財産の贈与には贈与税が課せられません。夫婦や家族間には扶養義務があり、生活費や教育費に充てるための財産贈与は扶養義務を果たすために必要と認められるためです。
夫婦間の贈与で課税されるケースの具体例を紹介します。
- 生活費や教育費に充てる目的以外の贈与
- 生活費や教育費を目的とした贈与であったが、実際には違う用途に使用した場合
- 不動産、車、貴金属、美術品など、日用品に該当しない高額な財産を贈与した場合
このように、夫婦間であっても生活費や教育費を目的とした財産以外の贈与は全て課税対象です。また、生活費や教育費を目的とした贈与であっても、別の用途に使用した場合も贈与税が課せられます。
贈与税の配偶者控除の適用を受ける方法
贈与税の配偶者控除の適用を受けるためには、贈与税の申告書に所定の書類を添付する必要があります。この章では、贈与税の配偶者控除の適用を受ける方法について詳しく解説します。
必要書類
贈与税の配偶者控除の適用を受けるために必要な書類は以下の通りです。
- 受贈者の戸籍謄本または戸籍抄本:贈与を受けた日から10日を経過した日以後に発行されたものに限ります
- 受贈者の戸籍の附票の写し:戸籍謄本または戸籍抄本と同様、贈与を受けた日から10日を経過した日以後のものが必要です
- 受贈者が贈与によって居住用不動産を取得した旨を証明する書類:対象の不動産の登記事項証明書等が該当します
※贈与税の申告書に不動産番号を記載する方法等によって登記事項証明書の提出を省略できるケースもあります
金銭ではなく不動産の贈与を受けた場合、不動産の固定資産評価証明書等、不動産を評価するための書類も必要です。
贈与税の申告方法
贈与税の申告書に配偶者控除額を記載する欄があるため、該当部分に必要事項を記載します。配偶者控除額の記載と必要書類の添付以外は、一般的な贈与税の申告と同じ方法です。
贈与税の申告書の提出方法として、以下の3つが挙げられます。
- 税務署へ直接持参する:住所地を所轄する税務署の窓口へ直接提出する方法です。税務署の時間外収受箱への投函による提出もできます
- 税務署へ郵送する:住所地を所轄する税務署への郵送による提出も可能です。通信日付印の日が提出日とみなされます
- 電子申告を行う:e-Tax(国税電子申告・納税システム)による贈与税申告も可能です。e-Taxを利用するためには、事前に利用者識別番号の取得や電子証明書の取得といった準備をする必要があります
贈与税の申告期間は贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日です。
贈与税の配偶者控除を利用する際の注意点
贈与税の配偶者控除を利用するにあたって、以下の3点に注意が必要です。
- 受贈者に不動産取得税や登録免許税の納付義務が生じる
- 贈与税額が0円の場合でも贈与税の申告が必要
- 贈与の後すぐに売却してしまうと適用を受けられない
注意点についてそれぞれ詳しく解説します。
受贈者に不動産取得税や登録免許税の納付義務が生じる
金銭ではなく不動産を贈与した場合、受贈者に不動産取得税や登録免許税の納付義務が生じる点に注意が必要です。
贈与によって不動産を取得した場合、受贈者は不動産取得税を支払う必要があります。居住用不動産の場合、不動産取得税の税率は3%です。居住用不動産の場合、課税標準の特例や減額措置もあります。なお、相続による取得の場合は不動産取得税がかかりません。
名義変更に際して登録免許税も発生します。登録免許税は不動産取得税と違い、相続による取得でも発生する税金です。しかし、相続の場合は固定資産税評価額の0.4%、贈与の場合は固定資産税評価額の2%と、贈与の方が高額になります。
配偶者控除の適用によって贈与税そのものの金額は抑えられても、別の面での金銭的な負担が大きくなる恐れがあります。
贈与税額が0円の場合でも贈与税の申告が必要
配偶者控除の適用によって贈与税の額が0円になった場合でも、受贈者による贈与税の申告は必要です。贈与税の申告は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日に行う必要があります。
なお、期限を過ぎてしまった後に行う期限後申告でも、贈与税の配偶者控除の適用は可能です。また、特例の適用をせずに申告してしまった場合、更正の請求によって特例の適用・納め過ぎた分の還付を受けることもできます。
期限後申告でも適用を受けられるとはいえ、贈与税申告は期日までに実施することが大前提です。申告が必要な旨を忘れず、期日までに実施できるよう注意する必要があります。万が一期日を過ぎてしまった場合も、なるべく早めに申告を行うことが大切です。
贈与の後すぐに売却してしまうと指摘を受ける恐れが大きい
贈与税の配偶者控除は、対象の贈与によって取得した不動産に受贈者が実際に住んでおり、以降も引き続き住む見込みであることが要件のひとつです。金銭での贈与の場合も、贈与を受けた金銭で居住用不動産を取得して受贈者が住み、以降も引き続き住み続ける見込みが必要となります。
贈与を受けた後すぐに売却すると、適用を受けられません。
贈与税の配偶者控除についてよくある質問
最後に、贈与税の配偶者控除に関するよくある質問にお答えします。
贈与税の配偶者控除と相続税の配偶者の税額軽減のどちらが有利?
贈与税の配偶者控除と相続税の配偶者の税額軽減のどちらが有利であるかは、ケースによって異なります。
相続税は基礎控除の金額自体が大きいです。相続税の基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数であり、最低でも3,600万円となります。相続税は控除額が大きいため、配偶者が亡くなったことによって発生した相続では相続税が課税されないケースも多いです。
ただし、相続税の課税対象になる遺産総額の大きさによっては、生前に贈与をして相続財産を小さくした方が良い可能性もあります。不動産および不動産取得費用は金額が大きくなりやすいため、贈与税の配偶者控除を利用することで遺産総額の大きな減額ができる可能性も高いです。
また、相続税の計算では、相続開始前3年以内に実施された贈与財産の価額を課税価額に加える必要があります。しかし、相続開始前3年以内(令和5年度税制改正により7年以内)に実施された贈与であっても、贈与税の配偶者控除を適用したものは相続税の計算に入れる必要がありません。
贈与税の配偶者控除は、実施するタイミングに関係なく相続財産の減額に活用できます。相続税がかかる可能性が高く遺産総額をなるべく小さくしたい場合は、贈与税の配偶者控除が有効です。
ただし、相続による財産移転の方が税額を抑えられる場合でも、生前のうちに名義変更をしたいなどの理由があれば贈与をした方が良いといえます。生前贈与は節税以外にもメリットが存在するケースがあるため、単純に税額だけで判断するのは危険です。
このように、相続と贈与のどちらが有利か一概には言えないため、税理士に相談するのが確実です。
贈与税の配偶者控除の適用を受けた居住用不動産について、相続税の小規模宅地の特例を適用できない点は注意しましょう。
贈与の後に離婚した場合も配偶者控除の適用は可能?
離婚日の前日までに贈与が成立しており、贈与時点で配偶者控除の要件を満たしていれば、配偶者控除の適用を受けられます。贈与の日付は贈与契約書や登記事項証明書から判断するため、贈与税の申告時点における婚姻の事実等は関係ありません。
ただし、既に離婚が決まった後に実施された財産移転の場合、贈与ではなく離婚時の財産分与とみなされるケースもあります。離婚に伴う財産分与に贈与税は課税されません。
居住用不動産または居住用不動産取得のための金銭の贈与の後に離婚した場合、贈与税の配偶者控除の適用対象であるか、財産分与に該当するかの正しい判断が必要です。
法的な婚姻関係にない場合でも配偶者控除の適用を受けられる?
法的な婚姻関係にない夫婦の場合、贈与税の配偶者控除の適用を受けられません。
贈与税の配偶者控除の適用要件である婚姻期間20年以上とは、婚姻届を提出してからの期間を指します。事実婚状態が10年、婚姻届を提出してから10年の場合のような場合も配偶者控除の適用対象外です。
まとめ
贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産または居住用不動産取得のための金銭の贈与が行われた場合に適用を受けられる制度です。贈与税の配偶者控除の適用を受けるためには、贈与税が0円でも贈与税の申告を行う必要があります。贈与税の申告書と併せて添付書類の提出も必要です。
相続税にも配偶者の税額軽減の制度が存在するため、生前贈与を実施せず、相続税の配偶者の税額軽減のみを利用する選択肢もあります。贈与税と相続税どちらの方が有利であるか一概には言えません。自分にとって最適な方法を選ぶためには、制度について正しい理解が必要であるため、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
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相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
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監修者
山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。