【税理士監修】相続時精算課税制度とは?基本事項からポイントまでわかりやすく解説

更新日:2023.9.8

相続時精算課税制度は、 60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子供・孫への贈与に際して選択できる贈与税の制度です。相続時精算課税制度を選択した場合、2,500万円までの贈与には贈与税がかかりません。その代わりとして、贈与者が亡くなったときに、対象の贈与財産を相続税の課税対象として計算に含めることになります。

相続時精算課税制度の活用が必ずしも有利とは限りません。自分にとって最も有利な方法を選ぶためには、各制度についてしっかり理解を深めることが大切です。

本記事では、相続時精算課税制度の概要やメリット、注意点などをわかりやすく紹介します。

相続時精算課税制度の概要

はじめに、相続時精算課税制度の概要を解説します。

相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子供・孫への贈与に際して選択できる贈与税の制度です。

相続時精算課税制度を選択した場合、相続時精算課税に係る贈与者からの贈与財産2,500万円までは贈与税が発生しません。対象の贈与財産は贈与者が亡くなった時に相続税の課税対象となり、相続財産に含めて計算する必要があります。

相続時精算課税に係る贈与者以外からの贈与は、通常通りの方法である暦年課税によって贈与税の計算を行います。そのため、相続時精算課税制度の適用を受ける場合、受贈者は相続時精算課税の適用を受ける贈与財産とそれ以外の贈与財産と区分した上で贈与税の計算が必要です。

なお、相続時精算課税制度による贈与額の合計が2,500万円を超えた場合、超えた部分については一律20%の贈与税が課せられます。

相続時精算課税制度を利用する方法

相続時精算課税制度の適用を受けるためには、以下の要件すべてを満たす必要があります。

  • 父母もしくは祖父母から子または孫への贈与である
  • 贈与者と受贈者が以下の要件を満たす
    • 贈与者:贈与を行った年の1月1日時点で60歳以上
    • 受贈者:贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上

また、相続時精算課税を選択しようとする受贈者が、期日までに一定の手続きを行う必要もあります。必要書類を提出しない場合は自動的に暦年課税が適用されるためご注意ください。

  • 期日:相続時精算課税の選択に係る最初の贈与を受けた年の贈与税申告期日
    • 贈与税の確定申告書提出期間は贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日
  • 必要書類
    • 贈与税の申告書
    • 相続時精算課税選択届出書
    • 受贈者および贈与者の戸籍謄本もしくは戸籍抄本
    • 受贈者と贈与者の関係を証明するために必要

なお、一度相続時精算課税制度の選択をすると、その後暦年課税への変更はできません。相続時精算課税制度を選択するべきか、入念な検討が必要不可欠です。

暦年課税とは

暦年課税とは、1月1日から12月31日までに受けた贈与財産の合計額から基礎控除110万円を引いた額に対して贈与税が課税される方式です。贈与税の原則的な課税方式といえます。

相続時精算課税制度の適用を受ける手続きを行わない場合、自動的に暦年課税が適用されます。

相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度の大きなメリットとして、以下の3つが挙げられます。

  • 合計2,500万円までは贈与税がかからない
  • 相続トラブルの防止につながる
  • 将来値上がりの可能性が高い財産の移転に効果的

それぞれ詳しく解説します。

合計2,500万円までは贈与税がかからない

相続時精算課税制度の適用を受ける場合、対象の贈与者から受贈者への贈与の合計2,500万円までは贈与税がかかりません。贈与者が亡くなった時に相続税の対象とはなりますが、贈与時の税負担が発生しない点は大きなメリットといえます。

一度にまとまった額の贈与をしたい場合や贈与税の負担を抑えたい場合に、相続時精算課税制度は非常に効果的な方法です。

相続トラブルの防止につながる

相続時精算課税制度を利用することで贈与税の負担を抑えられるため、生前贈与がしやすくなります。そして、生前贈与は相続トラブルの防止につながる手段です。

被相続人による遺言書が存在しない限り、相続の内容は法定相続人による遺産分割協議によって決定されます。遺産分割協議がスムーズに進むとは限らず、協議の難航や相続人同士の関係悪化などのトラブルが起こるケースも珍しくありません。被相続人の意向とは異なる相続結果になる恐れも大きいです。

贈与によって生前のうちに財産移転をしておけば、対象の財産について遺産分割協議の必要性がなくなります。相続トラブルが懸念される場合、生前に贈与をしておくのが効果的です。相続時精算課税制度を利用すれば高額の財産でも贈与時に課税されない可能性が高く、受贈者の負担を抑えることができます。

また、贈与は贈与者と受贈者2者間の合意のみで実施できるため、贈与者の意思を確実に反映できる点もメリットです。財産移転をしたい相手が明確である場合、相続時精算課税制度を利用して受贈者の負担を抑えつつ、生前贈与を実施する方法が効果的といえます。

ただし、生前贈与を受けたこと自体が争点になる可能性もあるため注意が必要です。特に遺留分侵害が起きると、遺留分権利者から受贈者へ遺留分侵害額請求が行われる恐れが大きいです。相続トラブルを防ぐための生前贈与が、かえってトラブルを引き起こさないよう、注意や対策が必要となります。

将来値上がりの可能性が高い財産の移転に効果的

自社株式のように将来値上がりの可能性が高い財産を移転する場合、相続時精算課税制度の利用が効果的です。

相続時精算課税制度の適用対象となる贈与財産は、相続税の計算時に相続財産として加算します。相続財産として加算するのは相続発生時の金額ではなく、贈与が行われた時点での金額です。仮に、贈与時より相続発生時の方が財産価格が上がっていても、贈与時点での低い価格を利用することができます。

将来値上がりの可能性が高い財産は早めに移転した方が税負担を軽減できる可能性が高いです。そして、相続時精算課税制度は合計2,500万円までであれば贈与税が発生しません。

相続時精算課税制度を上手く活用すれば、贈与税を支払わず相続税の節税もするという両方のメリットを得られます。

相続時精算課税制度のデメリット・注意点

前章では相続時精算課税制度の大きなメリットを複数紹介しました。一方で、利用する上で無視できないデメリットや注意点も存在します。この章では相続時精算課税制度のデメリット・注意点を3つ紹介します。

贈与を受けた年は毎回贈与税の申告が必要

相続時精算課税制度を利用する場合、贈与を受けた年は毎回贈与税の申告が必要です。

暦年課税の場合、贈与を受けた額が基礎控除である110万円以下であれば贈与税の申告をする必要がありません。一方、相続時精算課税制度を選択した場合、贈与を受けたら贈与税の発生有無に関係なく贈与税の申告が必要です。相続時精算課税制度を利用することで、受贈者による贈与税申告の手間や回数が大きくなる恐れがあります。

相続時精算課税制度は税負担そのものを抑える上では効果的ですが、別の面での負担が大きくなる可能性のある方法です。

なお、相続時精算課税選択届出書をはじめとした各種書類の提出が必要であるのは初年度のみです。

小規模宅地等の特例が利用できなくなる

相続時精算課税制度を利用する場合、対象の贈与財産は相続財産に加算します。こちらの相続財産に加算する金額を計算する際に、小規模宅地等の特例は利用できません。

小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たす宅地を相続した場合、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。被相続人が居住の用に供していた宅地や、被相続人の事業の用に供されていた宅地などが対象となります。細かな要件を満たす必要があるものの、相続税の節税効果が高く、節税対策として多く利用されている制度です。

相続時精算課税制度によって取得した宅地は、小規模宅地等の特例の適用を受けられません。前述したように、小規模宅地等の特例では相続税評価額を最大80%減額できます。相続財産の中でも宅地等の金額は特に大きくなりがちであるため、宅地の相続税評価額を減額できる制度は節税において非常に効果的です。

小規模宅地等の特例の要件を満たす宅地である場合、相続時精算課税制度による贈与よりも相続の方が税負担を抑えられる可能性があります。

節税につながるとは限らない

相続時精算課税制度の利用は、必ずしも節税につながるとは限りません。

相続時精算課税制度は贈与財産の合計が2,500万円までは贈与税が課税されませんが、贈与者が亡くなった時に贈与財産を相続税の計算に含める必要があります。すなわち、相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は相続税の課税対象です。

相続財産の合計額や相続人の状況によっては、相続税額が大きくなる恐れもあります。前項で紹介した小規模宅地等の特例のように、相続時に財産を移転した方が課税額が小さくなるケースもあります。

相続時精算課税制度は節税というより、課税の先送りに近い制度です。活用の仕方やケースによっては節税になる可能性もありますが、かえって税負担が大きくなることも有り得ます。節税が最も大きな目的である場合、事前のシミュレーションや入念な検討が必須です。

相続時精算課税制度の利用をおすすめできるケース・具体例

これまで紹介したように、相続時精算課税制度にはメリットとデメリットの両方があります。そのため、要件を満たしているからといって、相続時精算課税制度の利用が必ずしも有利とは限りません。様々な制度を比較し、自分にとって最も有利な方法を選ぶことが大切です。

相続時精算課税制度の利用をおすすめできるケース・具体例を紹介します。

  • 相続税が発生しない
    相続税の基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。相続時精算課税制度による贈与財産を含めても相続財産の額が基礎控除額以下であれば、相続税が発生しません。法定相続人が多い場合や相続財産が少ない場合などは、相続税が発生しない可能性が高いです。
    相続時精算課税制度を利用すれば、贈与税と相続税両方の課税を避けられます。
  • 将来値上がりの可能性が高い財産を有している
    相続時精算課税制度を利用した場合、相続財産に加算するのは贈与が行われた時点での金額です。そのため、不動産のように将来値上がりの可能性が高い財産を有する場合、相続時精算課税制度を利用した方が税負担を抑えられると期待できます。
  • 相続トラブルの懸念がある
    法定相続人同士での相続トラブルの懸念がある場合、生前贈与によって遺産分割の対象から外す方法が効果的です。相続時精算課税制度を利用することで、贈与時に受贈者の負担を軽減しやすくなります。ただし、法律で守られた遺留分を侵害すると知って行われた相続開始前10年以内の生前贈与などは、特別受益として遺留分計算の基礎となりますので留意が必要です。
  • 贈与者の意思を反映させた財産移転を行いたい
    相続は遺産分割協議によって内容が決まるため、被相続人の意向とは異なる結果になるケースも多いです。贈与したい相手が明確な場合は生前贈与で財産移転を実施するのが確実です。この場合も、贈与時に受贈者に税額の負担を軽減するため、相続時精算課税制度の利用が効果的といえます。

【参考】2024年税制改正による変更点

相続時精算課税制度について詳しく解説してきましたが、これまでに紹介した内容はすべて2023年時点での情報です。税制改正により、2024年1月1日以降の贈与分から様々な変更があります。

最後に、2024年税制改正による相続時精算課税制度の変更点を紹介します。

相続時精算課税制度にも基礎控除枠が追加される

2023年時点では、贈与税の基礎控除110万円が適用されるのは暦年課税の場合のみです。しかし、2024年1月1日以降の贈与分から、相続時精算課税制度による贈与にも年110万円の基礎控除枠が追加されます。相続税の計算時には、毎年の贈与額から110万円を引いた額を相続財産に加算します。

例えば、相続時精算課税制度を選択し、初年度に1,100万円・2年目に900万円、3年目に600万円の贈与を受けた場合、相続財産に加算する額は以下の通りです。

  • 初年度:1,100万円-110万円=990万円
  • 2年目:790万円
  • 3年目:490万円

合計2,270万円を相続財産に加算することになります。

年110万円までの贈与であれば、贈与税・相続税どちらも発生しません。

贈与税の申告義務についても変更が生じます。

2023年時点では、相続時精算課税制度を選択した場合は贈与を受けたら贈与税の発生有無に関係なく贈与税の申告が必要です。2024年の税制改正後は、贈与を受けた額が基礎控除枠である110万以下であれば、相続時精算課税制度を選択した場合でも贈与税の申告が不要になります。

贈与後に災害を受けた土地物件に関する措置が追加

相続時精算課税制度に関するもうひとつの大きな変更点が、贈与後に災害を受けた土地物件に関する措置の追加です。

2023年時点では、相続時精算課税制度を適用した場合に相続財産に加算する額は、相続発生時ではなく贈与当時の評価額となります。そのため、将来値上がりの可能性が高い財産の移転に効果的と紹介しました。

一方、贈与を受けた後に災害を受けて土地評価額が小さくなった場合でも贈与当時の評価額を利用する必要があるため、不利になるケースもあります。

2024年の税制改正後は、自然災害によって土地評価額が下がった場合は、下がった後の財産価格を相続財産の計算に使えるようになります。2024年1月1日以降の災害によって被害を受けた土地物件が対象です。

なお、相続発生時の財産価格を利用できるのは、自然災害によって価格が下がった場合に限られます。需要の低下などによる単純な価格低下や、火災などの人為的な原因によるものは対象外です。

まとめ

相続時精算課税制度を選択すれば、対象の贈与者から受ける贈与の合計2,500万円までは贈与税が課せられません。上手く活用すれば贈与税・相続税両方の節税ができる上、相続トラブルの防止にも効果的です。

ただし、相続時精算課税制度の利用が必ずしも有利とは限りません。小規模宅地等の特例が利用できなくなる・相続税が発生するケースがあるなど、デメリットにも注意が必要です。

一度相続時精算課税制度を選択すると、その後暦年課税には戻せません。そのため、相続時精算課税制度について理解を深めた上で、利用するべきか否か適切な判断を行う必要があります。

相続時精算課税制度と暦年課税のどちらが有利であるか、正しい判断のためには専門家に相談するのが確実です。贈与や相続についてお困りであれば、税務の専門家である税理士へご相談ください。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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