【税理士監修】現金を生前贈与するとなぜばれる?贈与税を軽減する方法

更新日:2023.9.8

贈与の際は、暦年贈与で110万円、相続時精算課税制度で2,500万円の控除金額を超えると税金が発生します。「現金で贈与すればばれないのでは」「現金なら無申告でも良いだろう」と考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、無申告の状態で放置するとペナルティーが発生する恐れがあります。 本記事では、贈与の事実がばれるタイミングや理由、ペナルティーの具体的な内容について詳しく解説します。また、生前贈与をする際の注意点や対策、おすすめの節税方法なども併せて解説するため、生前贈与を検討中の方に必見の内容です。ぜひ、参考にしてみてください。

現金手渡しならばれない?贈与がばれるタイミングと理由

現金の手渡しであれば、贈与があったことを隠し通せるのではないかと思う方も多いでしょう。しかし、実際には、生前贈与があったことは税務署にばれるケースがほとんどです。ここでは、まず、生前贈与がばれる理由とタイミングについて解説します。

相続が発生した

相続が発生すると税務調査が行われる可能性があります。税務調査とは、税務署が納税者の納税状況を細かく確認することです。相続税申告をするときに調査が行われると思っている方も多いですが、相続税が発生しなかった方でも調査の対象になることがあります。

また、相続によって資金の移動があったかという点だけでなく、以前に贈与が行われていたかどうかといったように過去のお金の流れも一緒に調査されます。贈与の際に無申告だった資金の流れが発覚すると、追徴課税や懲罰が課されることもあるため注意しましょう。

不動産登記があった

不動産登記が行われると、その内容が法務局から税務署に提出されることから、生前贈与が発覚する可能性があります。不動産購入資金の贈与など大きなお金の流れがあった場合もばれるケースが少なくありません。

なお、不動産登記を行った際は税務署から、「お尋ね」という題名がついた用紙が配布されます。簡単に記載して返信するだけのアンケート用紙のようなものです。「誰からいくら援助してもらった」などと記載してしまうと、無申告であったことがばれるリスクが高まります。

その他

預貯金が一気に減ったり大きな資金の移動が見られたりすると、税務調査が行われる可能性があります。自動車を購入した際や、不動産を購入したときなどは特に注意が必要です。また、支払調書が発行された際も、税務署がお金の流れを確認している場合があります。贈与されたものが現金かどうかに関わらず、贈与財産が控除額を上回るときは贈与税申告をしましょう。

申告漏れや無申告がばれた場合のペナルティー

贈与税申告の義務が発生しているのに申告しなかった、あるいは、申告しきれていない財産があったようなときは、税務調査によりペナルティーが与えられる恐れがあります。ペナルティーの種類は全部で5つです。内容について詳しく解説します。正しい贈与税申告を心がけ、ペナルティーの発生をできるだけ抑えましょう。

無申告加算税

無申告加算税とは、申告をしなかったときに課される追徴課税です。無申告加算税の税率は、5%~30%と定められています。税務調査の通知が届く前、税務調査を行うための通知が届いてから調査が始まる前、税務調査後の3パターンで、税率が異なります。

・税務調査の通知が届く前:5%

・税務調査を行うための通知が届いてから調査が始まる前:50万円まで10%、50万円を超える金額15%

・税務調査後:50万円まで15%、50万円を超える金額20%

できるだけ早く、自主的に申告をすれば税率が低くなります。

過少申告加算税

過少申告加算税は、申告はしているものの、金額が少なかった場合に課される追徴課税です。本来の納めるべき金額よりも申告・納税した金額が少ないときに課されます。過少申告加算税は計算ミスや認識に誤りがあったときなど、故意的でないときに適用されます。一方、わざと税額を小さく見積もったり、贈与があったことを隠したりしたときは適用されません。その場合は重加算税が課されます。 ・新たに納めることになった税金(50万円まで)の10% ・50万円を超える金額の15%

重加算税

重加算税は税率35~40%と、最も重い税金です。贈与の事実を隠蔽したり過少申告をしたことが明らかになったりした場合は、重加算税が課されます。重加算税の税率は、以下の通りです。

・無申告の場合40%

・過少申告の場合35%となっている

ただし、5年以内にペナルティーを受けた前歴がある方は、無申告の場合50%、過少申告の場合45%と税率が上がります。税務調査によって問題が発覚したときは、修正申告や更正処分によって申告の内容を是正する必要があります。余計な税金だけでなく手続きの手間や時間もかかるため、無申告は避けましょう。

延滞税

延滞税とは、申告ではなく納税を延滞したことに対するペナルティーです。納付期限の翌日から納付日まで日割り計算で算出されます。

・納付期限の翌日から納付日までが2ヵ月以内の場合:年2.5%

・納付期限の翌日から納付日までが2ヵ月を超える場合:年8.7%

延滞税特例基準割合+1%あるいは7.3%で計算されます。年によって税率に変動があるため注意しましょう。詳しい税額は国税庁のホームページ から確認できます。

刑事罰

脱税など、悪質性が高い行為が見られたと判断されると懲罰が課されます。具体的な内容は以下の通りです。

・故意に申告しなかった場合:5年以下の懲役または500万円以下の罰金

・虚偽による過少申告や無申告の場合:10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金

・理由がなく申告を忘れていた場合:1年以下の懲役または50万円以下の罰金

・納付予定だった税額を納付しなかった場合:10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金または併科

ペナルティーの内容や金額はケースによって異なります。罰金で科せられる最大金額は1,000万円です。贈与税が発生したときは、包み隠さず申告・納税しましょう。

贈与税はいくら?課税方法と贈与税率

自身の贈与税額がいくらになるのか知りたいと思っている方も多いでしょう。課税方法と贈与税率、計算方法を紹介します。自身のケースに当てはめながら計算してみてください。

暦年贈与

暦年贈与は、贈与税の代表的な課税方法です。年間110万円の基礎控除があり、基礎控除以下の金額で贈与することを暦年贈与と言います。基礎控除以下の金額には贈与税は発生しません。一方、基礎控除を超えた分の金額には贈与税が課されます。税率は2種類あり、贈与者と受贈者の関係性によって税率が変わります。

【特例税率】

特例税率は父母や祖父母といった直系尊属から、贈与を受けた際に課させる税率です。受贈者が、贈与があった年の1月1日において18歳以上の直系卑属(子、孫など)である場合に適用されます。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

例えば、父から長女に4,000万円の贈与があったとします。この場合の贈与税額は、(4,000万円-110万円)×50%-415万円=1,530万円となります。

【一般税率】

一般税率は特別贈与の条件に合致しない条件で贈与を受けた際に適用されます。例えば、直系尊属から未成年の子や孫への贈与、夫婦間での贈与、兄弟や姉妹からの贈与などが該当します。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

(参考:国税庁 贈与税の計算と税率

例えば、夫から妻に1,000万円の贈与があったとしましょう。この場合の贈与税額は(1,000万円-110万円)×40%-125万円=231万円となります。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、贈与時の税金を抑えて相続時にまとめて税金を支払うための制度です。相続時精算課税制度には2,500万円までの特別控除があります。特別控除以下の金額であれば贈与税はかかりません。一方、特別控除を超えた分の金額には一律20%の税金が発生します。

例えば、5,000万円の贈与を受ける際に相続時精算課税制度を適用すると、5,000万円-2,500万円=2,500万円が贈与の課税対象となります。税額は、2,500万円×20%=500万円です。ただし、この制度を利用した財産は相続時の課税財産に含まれます。

現金を生前贈与する際の注意点と対策

現金で贈与をすると、場合によっては贈与と認められなくなるケースもあるため注意しましょう。気を付けたいポイントと具体的な対策方法を紹介します。

注意点:贈与として認められない可能性がある

現金を手渡しで生前贈与すると、贈与が認められなくなる可能性があります。贈与とは、贈与者と受贈者がお互いに贈与があったことを認識していなければ成立しないものです。しかし、現金の手渡しでは贈与があった事実を証明することは難しいでしょう。贈与の証明ができなければ、税務署に「贈与がなかった」と言われてもどうすることもできません。譲り受けた財産は、相続の際に相続税が課されることになります。

対策1:贈与契約書で記録を残すこと

贈与の際は、トラブルを避けるため、贈与が確実にあったことを証明できるようにしておくことが大切です。そのためにも、贈与契約書を作成しましょう。贈与契約書は、贈与があったことを証明するための書類です。以下のような項目を記載します。
・贈与があった日付
・贈与者と受贈者の住所
・贈与者と受贈者の氏名
・贈与金額
また、署名や印鑑なども入れておきましょう。贈与契約書は、お金のやり取りをする際にその都度発行します。

対策2:現金ではなく口座に入金する

有価証券や不動産ではなく、現金のように自由度の高いお金を受贈したいときは、金融機関の口座に直接入金してもらうようにしましょう。現金は証拠が残りにくいため避けるのが無難です。金融機関に振り込みをしてもらうことで、通帳によって簡単に記録できます。
また、贈与の際に使用する口座は、普段本人が使用しているものを選択しましょう。たとえ本人名義であっても本人が知らない口座に入金すると、名義預金となり相続財産に加算される可能性があります。

生前贈与により発生する税金を少なくする方法

暦年贈与の基礎控除や相続時精算課税制度の特別控除を超える金額には贈与税が課されます。できるだけ納税する金額を抑えたいと考えている方も多いでしょう。ここでは、生前贈与の際に利用できる節税方法を紹介します。

暦年贈与でコツコツお金を譲り渡す

暦年贈与では毎年110万円以下の基礎控除を利用できます。110万円以下に抑えた金額で贈与を受けることで、贈与税の発生を避けられます。
ただし、定期贈与と見なされる可能性がある点には注意が必要です。例えば、毎年90万円を10年にわたり贈与されていたとしましょう。この場合、計画的な贈与だった(定期贈与)と見なされれば900万円が課税対象となります。定期贈与では贈与財産の総額に対して贈与税が課されます。暦年贈与と認められない場合は、年間110万円までの基礎控除も利用できません。
暦年贈与の際は、異なる金額を異なる時期に受け取るようにするのが得策です。毎年同じ月に一定の金額が贈与されていると定期贈与と見なされる可能性が高まります。

贈与税の非課税制度を利用する

贈与税には非課税制度があります。非課税制度とは、一定範囲内の金額の贈与財産が非課税になる制度です。贈与の際に利用できる非課税制度には以下のようなものがあります。

・贈与税の配偶者控除:最大2,000万円

・住宅取得等資金の一括贈与:最大1,000万円

・教育資金の一括贈与:最大1,500万円

・結婚・子育て資金の一括贈与:最大1,000万円

・障害者への贈与:最大6,000万円

非課税にできる金額が大きいため節税効果を期待できます。なお、非課税制度を適用する際は、受贈者や贈与者、財産の使用目的などに細かな条件が定められています。詳しい条件は国税庁のホームページにてご確認ください。

まとめ

現金で生前贈与をしたからといって税務調査を逃れられるわけではありません。ばれる可能性は十分にあります。また、後から贈与税の申告漏れや無申告などがあると明らかになった場合は、追徴税のペナルティーや懲罰が課せられる恐れがあるため注意しましょう。
税金を抑えるのであれば、暦年贈与の基礎控除を活用するか、贈与税の非課税制度を利用するといった方法が適しています。法律に則り正しい方法で節税することが大切です。
自身に合った節税方法が分からないときは、専門家に相談しましょう。税務のプロである税理士に相談することで、贈与税申告の代行や税務手続きから税金対策の相談までトータルサポートを受けられます。

相続税申告は、やさしい相続相談センターにご相談ください。

相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。