【税理士監修】不動産を遺産分割する際の評価方法は?計算方法や手順も解説 

更新日:2023.9.8

相続が発生すると、全ての財産を洗い出し財産総額を調べます。財産の中に不動産が含まれる場合は、その評価額を算出しなければなりません。ただし、不動産の評価方法はいくつかあり、評価方法によって評価額が変わるため、法定相続人の間でトラブルになるケースもあります。不要なトラブルを避けるためには、不動産評価額に関する知識を深めることが大切です。 そこで本記事では、不動産評価額の考え方や評価方法について詳しく解説します。評価額の計算方法や、万が一トラブルが発生した場合の対処法なども併せて紹介するため、不動産の相続が発生している方に必見の内容です。ぜひ参考にしてみてください。

不動産評価額とは

不動産評価額とは、相続税や贈与税を算出する際の基準となる価格のことです。相続においては、相続財産の金額を全て明らかにしてから遺産の分割方法が決められるため、不動産評価額は重要な意味を持ちます。

不動産評価額の評価方法は4種類です。評価額を調べる目的によって評価方法が変わります。

評価方法目的・概要
相続税路線価相続税や贈与税の評価額を算出する際の指標となる
実勢価格不動産売買の際に実際に取引される価格
公示価格あらゆる価格の基準となる
固定資産税評価額固定資産税を算出する際の指標となる

遺産分割協議の基準となる不動産評価額

遺産分割協議で使用される不動産評価額は、実勢価格か相続税評価額の2パターンです。ただし、客観的な数値を基にしたい場合は、公示価格や固定資産税評価額など他の評価額を参考にすることもあります。概要や評価基準などを確認し、自身のケースに合った評価方法を選択しましょう。

相続税路線価

相続税路線価とは、相続税や贈与税を計算する際に用いられる、道路価格のことです。道路に面した土地の価格を計算することで不動産の評価額を算出します。また、路線価がない地域においては、倍率方式という方法で計算します。

相続税路線価の調査主体は、国税庁です。評価基準日は1月1日で、毎年7月に路線価の価格が発表されます。相続税路線価の価格は、公示価格の8割程度と低めに評価されるのが特徴です。そのため、相続税額を低くしたいときは相続税路線価を用いることが多いといわれています。

調査機関国税庁
基準日毎年1月1日
発表時期毎年7月上旬
公示価格に対する評価額の割合8割程度
使用用途相続税や贈与税の計算

実勢価格

不動産が実際に取引される際の価格のことです。時価とも呼ばれています。調査主体は不動産会社で、個人間での売買の際に使用されることが多い評価額です。売主や買主の事情や、市場の状況、ニーズなどに合わせて変化するため、基準日や発表日などに決まりはありません。

実勢価格は、遺産分割協議が進まなくなった場合に参考にされる評価額でもあります。家庭裁判所では、遺産分割の方法や割合を決める際に実勢価格を基に、不動産評価額を決定します。なお、実勢価格では不動産評価額が高く算出される傾向があるため、不動産を相続しない方から支持を集める評価方法となっています。

調査機関不動産会社
基準日特になし
発表時期特になし
公示価格に対する評価額の割合1.1~1.2倍程度
使用用途不動産売買

公示価格

公示価格は、あらゆる価格の基準となるものです。調査主体は国土交通省で、毎年1月1日に調査されます。発表時期は毎年3月中旬~下旬です。

公示価格と似た価格で基準地価というものもあります。ただし、公示価格は国が定める基準であるのに対し、基準地価は都道府県が定める価格です。公示価格と似通った部分があり、補足的な役割を担うものとされています。

また、基準地価は基準日が毎年7月1日となっており、都市計画区域外も対象になる点が公示価格と異なります。それぞれの概要は以下の通りです。

【公示価格】

調査機関国土交通省
基準日毎年1月1日
発表時期毎年3月中旬~下旬
公示価格に対する評価額の割合
使用用途全ての基準となる

【基準地価】

調査機関都道府県
基準日毎年7月1日
発表時期毎年9月上旬~中旬
公示価格に対する評価額の割合等しい
使用用途公示価格の補足

固定資産税評価額

自宅や駐車場、畑などの不動産を所有している場合に税金が課せられます。固定資産税評価額は、そういった固定資産税を計算する際に用いられる価格です。実勢価格の5~7割程度になることもあるため、相続税算出時はあまり使用されません。

調査主体は市町村で、基準日は1月1日です。公示価格を基に、3年に1度評価額の見直しが行われます。

調査機関市町村
基準日1月1日(3年に1度見直し)
発表時期4月上旬
公示価格に対する評価額の割合7割程度
使用用途固定資産税や不動産取得税の計算

不動産評価額の計算方法と計算シミュレーション

不動産評価額が実際にいくらになるのか、確認したいと考えている方も多いでしょう。相続の際に使用するのは、相続税路線価か実勢価格です。2つのパターンにおける不動産評価額の計算方法を、実例を基に紹介します。

相続税評価額の計算方法

相続税路線価の計算方法は、「路線価×地積(×補正率または加算率)」です。土地の形状や状態に合わせて、補正率や加算率をかけます。

路線価は市街地の道路の価格を表したものであるため、市街地以外の地域では路線価が定められていないケースもあります。そのような場合に使用するのは、倍率方式という計算方法です。計算式は「固定資産税評価額×倍率」となります。

なお、路線価や倍率は、国税庁のホームページから確認可能です。具体的な計算方法は以下のようになります。

【相続税路線価】

・路線価:30万円

・補正率:1.0

・土地面積:200㎡

・計算式:30万円×200㎡×1.0=6,000万円

路線価が30万円、補正率が1.0、土地の面積が200㎡だった場合、相続税路線価における不動産評価額は6,000万円となります。

【倍率方式】

・固定資産税評価額:3,000万円

・倍率:1.1倍

・計算式:3,000万円×1.1倍=3,300万円

固定資産税評価額が3,000万円の不動産で、倍率が1.1倍だった場合、倍率方式を用いた不動産評価額は3,300万円となります。

実勢価格の計算方法

実勢価格は、時価とも呼ばれ、その時々の需要と供給によって価格が変動するものです。計算式などは特に決められていません。ただし、おおよその目安は公示価格を用いれば計算できます。計算方法は以下の通りです。

・公示価格:5,000万円

・公示価格に対する評価額の割合:1.1倍

・計算式:5,000万円×1.1倍=5,500万円

実勢価格は公示価格の1.1倍~1.2倍程度になることが多いといわれています。そのため、目安で考えると、公示価格5,000万円の不動産を保有していた場合、実勢価格は5,500万円程度になると考えられます。

不動産評価額を決める際の手順と方法

不動産評価額の評価方法はいくつかありますが、相続の場では法定相続人の間で話し合って決めるのが基本です。相続税路線価や実勢価格を基準にすることが多いですが、厳密なルールは定められていません。

法定相続人の間で納得できる評価額があれば、その数値を基準とすることもできます。ただし、場合によっては話し合いで評価額が決まらず、揉め事に発展するケースもあるため注意が必要です。ここでは、評価額を決める際の方法を手順に沿って解説します。

1.遺産分割協議をする

遺産分割協議とは、法定相続人同士で集まり遺産の分割方法や分割割合を決める話し合いのことです。全ての相続財産を洗い出し、相続するかどうか、誰がどの財産をいくら受け継ぐかといったことを決めます。法定相続人は、相続が発生したことを知った日から10ヵ月以内に、相続財産の洗い出しや法定相続人の確認、相続税申告や納税まで済ませる必要があります。

ただし、相続財産に不動産があることで、遺産分割協議の際にトラブルになるケースも少なくありません。不動産を取得する人にとっては評価額が低い方が得になり、取得しない人にとっては評価額が高い方が有利になるためです。遺産分割協議に時間がかかると期限までに手続きを終わらせられなくなる可能性があるため、早めに進めましょう。

2.決まらない場合は遺産分割調停になる

遺産分割協議が進まないときは、遺産分割調停・審判が行われます。遺産分割調停とは、家庭裁判所にて、調停委員が相続人の話を聞き取り、意見に基づいて判断を下すことです。

遺産分割調停で不動産評価額を決める際の判断基準となるのは実勢価格です。裁判所が選出した不動産鑑定士が鑑定書を作成し、書類の内容を基に不動産の金額を決めます。

他の相続人が不動産評価額に納得しない場合の対処法

遺産分割協議を円滑に進めるためには、不動産評価額に対する他の法定相続人の納得を得ることが大切です。しかし、不動産の評価額の内容が、自身にとって有利となるか不利となるかを優先する方がいる場合、話し合いが進まずトラブルに発展する可能性があります。ここでは、話し合いが思うように進まないときの対処法を紹介します。自身のケースに合わせて適切な方法を選択しましょう。

不動産鑑定士に鑑定を依頼する

まず、考えられるのが、不動産鑑定士によって不動産の評価額を鑑定してもらう方法です。遺産分割協定による話し合いが行き詰った際に、裁判所が不動産鑑定士に鑑定を依頼します。流れは以下の通りです。

1.裁判所が鑑定士を選出

2.鑑定費用の見積もりを出す

3.法定相続人がその内容を受け入れるかどうか話し合う

4.受け入れれば鑑定開始

不動産鑑定士による調査が終わり、価格が確定すると、公的な証明力の高い不動産鑑定評価書が作成されます。その内容を基に、不動産評価額を確定します。

税理士に相談する

相続税の申告期限は、相続が発生したことを知った日から10ヵ月以内です。相続の際に急いで不動産評価額を調べることになるのは、最終的に相続税を算出するためともいえます。

そのため、税務に関する専門知識を持つ税理士に相談するのも方法のひとつです。税理士であれば、不動産評価額だけでなく全ての相続財産に関する相談ができます。

相続税の計算や家庭の状況に合った相続方法、相続割合に関するアドバイス、税金対策の具体的な方法なども教えてもらえます。税金の計算や税務申告に不安を感じる方は、税理士に相談しましょう。

なお、不動産鑑定には費用がかかります。鑑定書作成の費用目安は30万円程度です。自身のケースでも不動産鑑定が必要かどうかといった点も含めて税理士に相談しましょう。

まとめ

相続が発生すると、全ての財産を洗い出し財産総額を調べます。財産の中に不動産が含まれる場合は、その評価額を算出しなければなりません。ただし、不動産の評価方法はいくつかあり、評価方法によって評価額が変わるため、法定相続人の間でトラブルになるケースもあります。不要なトラブルを避けるためには、不動産評価額に関する知識を深めることが大切です。 そこで本記事では、不動産評価額の考え方や評価方法について詳しく解説します。評価額の計算方法や、万が一トラブルが発生した場合の対処法なども併せて紹介するため、不動産の相続が発生している方に必見の内容です。ぜひ参考にしてみてください。

相続税申告は、やさしい相続相談センターにご相談ください。

相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。

>>お問い合わせはこちら

監修者

小谷野 幹雄

小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士

84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。