【税理士監修】未支給年金は相続税の対象にならない。未支給年金の請求方法や課税される年金について解説

更新日:2023.9.8

年金を受け取っていた人が亡くなった場合、未支給の年金が発生する可能性があります。受け取るべきだった人が亡くなったことで、受取人がいなくなった年金は、ある一定の範囲の相続人であれば受け取ることが可能です。そのため、代わりに受け取ることができる相続人は、原則請求したほうがよいでしょう。

しかし、未支給年金は本来被相続人が受け取るべきだった年金であり、相続人が受け取ることで相続税の対象となるのか疑問に思う人は多いです。また、年金には公的年金と私的年金の2種類があるため、種類によっては所得税が課税されることもあります。

そこでこの記事では、未支給年金が発生した場合、相続人はどのように対応するべきなのか、詳細に説明します。

誰かが亡くなった場合、未支給年金だけではなく多くの手続きが必要です。迅速な対応が求められるため、できるかぎり専門家に頼るようにしましょう。

未支給年金とは何か?

未支給年金とは、亡くなった人が受け取れていない年金や、亡くなった後に支給される予定だった年金のことを指します。年金は、基本的に偶数月に支給されるもののため、未支給年金が発生する可能性は高いです。

例えば、5月に亡くなった場合、6月に後払いされる予定だった年金は未支給年金となります。

未支給年金は時効があるため、できるかぎり早めの対応を心がけなければなりません。未支給年金について、確認しましょう。

未支給年金は相続財産に含まれない

未支給年金は、遺された遺族のその後の生活を保障するために役立てるべきという考えから、相続財産ではなく受け取る人の固有財産となります。そのため、相続財産に含まれず、相続税の課税対象となりません。しかし、私的年金の場合は相続税の対象となることもあるため、受け取っていた年金の種類は注意が必要です。

一般的に、会社員もしくは公務員であれば公的年金となるため、相続税の対象にはならないと把握しておきましょう。

未支給年金は、条件を満たしている遺族であれば請求できる権利が与えられます。しかし、未支給年金を受け取ることになると、一時所得とみなされてしまうため、所得税や住民税の課税対象になります。金額によっては、確定申告が必要になるでしょう。

相続放棄しても受け取り可能

未支給年金は、相続財産に含まれません。相続放棄をして受け取れなくなるのは、相続財産のみです。そのため、相続放棄しても受け取ることはできます。

仮に借金が多い相続財産を放棄しても、未支給年金を受け取ることはできるためプラスになることもあります。相続人同士のトラブルに発展しないように、あらかじめ確認しておきましょう。

未支給年金を受け取れる遺族について

未支給年金を受け取れる人は、亡くなった人と生計を同一にしていた、3親等内の親族のみです。さらに、受け取れる優先順位も決まっており、先に順位が高い人が受け取ってしまえば、後の順位の人達は受け取れません。

優先順位は、以下の順番です。

  • 配偶者
  • 子ども
  • 両親
  • 祖父母
  • 兄弟姉妹
  • そのほかの3親等内の親族

「生計を同一にしていた」という条件は必須です。そのため、誰とも生計を同一にしていなかった場合、誰も受け取ることができない場合もあるため注意しましょう。また、同じ家に住んでいなくとも、継続的に経済の支援をしていた場合は、生計を同一にしていたとみなされることもあります。場合によっては請求が可能なこともあるため、事前の確認が必須です。

未支給年金を受け取る方法

未支給年金があると発覚した場合、5年以内に請求をしなければ時効になります。迅速に請求をし、未支給年金を受け取るようにしましょう。

未支給年金は、請求のために必要な書類や注意点があります。ひとつひとつ確認し、的確に請求できるよう備えてください。

提出方法

未支給年金は、年金事務所や年金相談センターに書類を提出し、請求します。提出する書類を以下の表にまとめているため、確認してください。

必要な届出添付書類
死亡届出 (様式は日本年金機構のホームページから)亡くなった人の年金証書死亡した事実が分かる書類(戸籍抄本、死体検案書、死亡届の記載事項証明書など)
未支給年金請求の届出亡くなった人の年金証書亡くなった人と請求する人の続柄が証明できる書類(戸籍謄本や法定相続情報一覧図など)亡くなった人と請求する人が生計を同一にしていたことが証明できる書類(亡くなった人の住民票の除票や請求する人の世帯全員分の住民票など)受取の口座亡くなった人と請求する人が別世帯だった場合は、生計同一関係に関する申立書を提出

年金にもさまざまな種類があり、年金の種類によって請求先は異なります。故人が受け取っていた年金の種類について把握し、正しい請求先へ提出してください。年金の種類と、提出先について以下の表にまとめました。

故人が受け取っていた年金請求先
老齢基礎年金、老齢厚生年金、旧法国民年金、旧法厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金年金事務所
障害基礎年金、遺族基礎年金、寡婦年金市区町村役場にある国民年金課
退職共済年金、障害共済年金、遺族共済年金加入していた共済組合

寡婦年金に関しては、年金事務所での請求も可能です。

提出に関する注意点

未支給年金の請求は、速やかに行いましょう。請求しても、故人の口座を解約していなければ入金されてしまうため、迅速に解約もしてください。提出が遅いと、年金を多く受け取っているとみなされてしまい、後で返金しなければなりません。

人が亡くなると、手続きしなければならないことが多く大変です。しかし、対応をしなければ受け取れたはずのものが受け取れなくなってしまうため、早めの手続きを心がけましょう。

また、亡くなった方の未支給年金を受け取ると、受け取った人は一時所得に該当するため、確定申告が必要になることもあります。一時所得の総額が、50万円以上の場合確定申告が必須です。50万円未満であれば確定申告は必要ないため、未支給年金額についても把握しましょう。

未収年金はいくらもらえるのか

未支給年金額は、死亡した人が亡くなった月によって異なります。

偶数月の前半に亡くなった場合は、3カ月分が請求でき、後半に亡くなると1ヶ月分の請求ができます。また、奇数月に亡くなった場合は、前半や後半どちらでも2か月分の請求が可能です。

例えば、8月10日に亡くなった場合、偶数月の前半に亡くなっているため、6月、7月、8月の合計3カ月分の未支給年金が発生します。基本的に年金は、偶数月の15日に後払いされる仕組みのため、8月10日の時点では6月と7月の年金が支払われていないことになります。

そのため、偶数月の後半であれば、6月と7月分の年金は支払われており、1ヶ月分だけが未支給となります。

死亡した日によって、請求できる未支給年金額は異なるため、年金事務所や専門家に確認しましょう。

【注意】企業年金や私的年金は相続税の課税対象

企業年金とは、本来受け取る予定だった退職金を年金形式で受け取る仕組みのことです。企業年金は、近年利用する人も増えてきており、きちんと確認しておきましょう。

例えば、本来受け取る予定だった退職金を、10年かけて受け取ろうとしていた人が、5年目で亡くなったとします。この場合、残りの5年分はその人の財産だったということになり、相続人が仮に受け取ると、相続財産とみなされるため注意が必要です。

しかし、企業によって企業年金の制度やルールは異なります。どうすればよいのかわからない場合は、企業に確認するのがもっとも手っ取り早い確認方法と言えるでしょう。

基本的に、私的年金や個人年金は老後に必要な資金を、公的年金に上乗せする制度です。自分自身で、年金を準備しているとも言えます。そのため、個人年金や私的年金の未支給年金を受け取ると、年金受給権を相続したとみなされ、相続税が課税される可能性は高いです。

未支給年金への対応は、素早くおこなう必要がありますが、まずは故人がどのような年金制度を利用していたのか把握し、請求するようにしてください。

【Q&A】未支給年金についての疑問

未支給年金について、疑問を抱えている人は多いです。ここでは、抱えがちな疑問について回答します。未支給年金への疑問を少なくし、確実な方法で請求をおこないましょう。

未支給年金はいつ振り込まれる?

未支給年金は、請求してから5~6か月後に日本年金機構から振り込まれます。

請求してから、3~4カ月経過した後、未支給決定通知書もしくは不該当通知書が送られてきます。未支給年金は、支給決定通知書が送られてから2か月程度で支給されるため、振り込まれるまで長くて半年かかることを念頭に置きましょう。

確定申告は必要?

未支給年金を受け取ると、一時所得となります。一時所得は50万円以上を超えると、確定申告が必須です。未支給年金額次第では確定申告が必要となるため、あらかじめ把握しておきましょう。

介護施設に入所していた場合でも受け取ることはできる?

介護施設に入所していた場合、生計を同一にしていないため、未支給年金を受け取れないのではと疑問に思う人も多いです。しかし、生計を同一にしていない場合でも生計同一関係に関する申立書を提出すれば、請求が可能です。

この場合、支給決定をするのは日本年金機構がおこないます。

介護施設に入所していた場合でも、未支給年金を請求できることもあるため、前もって確認しておくことがおすすめです。

生計が同一とはどういうこと?

生計を同一にするということは、一般的に一緒に住んでいた場合です。しかし、一緒に住んでいなくとも継続的に仕送りをしていた場合、生計を同一にしていたとみなされる可能性は高いです。この場合も、生計同一関係に関する申立書を提出すれば、未支給年金の請求ができます。

未支給年金の請求をしないとどうなる?

未支給年金は、義務ではありませんが時効があります。5年以内に請求すれば、未支給年金を受け取ることが可能です。しかし、5年を過ぎた後に請求しても未支給年金は受け取れないため、早めの対応が必要です。

まとめ

未支給年金は、相続財産ではないため相続税の対象となりません。しかし、一時所得の扱いとなるため、所得税や住民税の課税対象になります。一時所得は50万円以上受け取ると、確定申告が必須です。相続税の対象にはならないからといって安心していると、思わぬ落とし穴にはまることもあります。

また、未支給年金は5年以内に請求しないと時効になります。5年をすぎると支給されず、手続きを誤ってもその分の損失を特別に埋めてもらうこともできません。誰かが亡くなった場合、未支給年金の手続きだけではなく相続に関する手続きもあり、しなければならないことは膨大です。忙しかったことを理由に手続きを無視すると、損することもあります。

できる限り、迅速に対応を進めるようにしてください。手続きに手間を取るだろうと考えた場合は、専門家への相談がおすすめです。

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監修者

小谷野 幹雄

小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士

84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。

2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。
複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。