【税理士監修】土地の相続では名義変更が必要!方法や必要書類、放置するリスクなどを解説

更新日:2024.12.9

土地をはじめとした不動産を相続した場合、名義変更の手続きが必要です。相続に伴う名義変更手続きを相続登記と呼びます。

相続登記には細かなルールや注意点が存在するため、土地の相続を正しく行えるよう、相続登記について正しい知識と理解が必要です。本記事では土地を相続した際の名義変更について、具体的な方法や必要書類、相続登記をしないリスクなどを解説します。

土地の名義変更を見る前に相続の流れを確認

土地の名義変更に関する具体的な内容を見る前に、相続の流れについて改めて確認します。相続の大まかな流れは以下のとおりです。

  1. 遺言書の有無の確認・相続人の確定
  2. 相続財産の洗い出し
  3. 遺産分割協議の実施

工程ごとにそれぞれ詳しく解説します。

遺言書の有無の確認・相続人の確定

はじめに、遺言書の有無の確認および相続人の確定を行います。遺言書の有無によって相続の流れが大きく変わるため、早めに行うことが大切です。

被相続人による遺言書が存在する場合、遺言の内容通りに相続を行います。遺言書がない場合は、民法で定められた法定相続人が相続権を持ちます。

法定相続人になるのは、被相続人の配偶者および被相続人の血縁者です。配偶者はどのような場合でも、必ず相続権を有します。被相続人の血縁者は以下のように順位が設定されています。

  • 第一順位:直系卑属(被相続人の子供または孫)
  • 第二順位:直系尊属(被相続人の親または祖父母)
  • 第三順位:被相続人の兄弟姉妹または甥姪

相続権を有するのは、もっとも順位が高い血縁者のみです。被相続人の配偶者・子供・両親が存命である場合、法定相続人になるのは配偶者と第一順位の子供です。第二順位である両親には相続権が発生しません。

被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本すべてを取得し、法定相続人を確定します。

相続財産の洗い出し

相続手続きを進めるためには、相続財産の洗い出しも必要です。

相続財産は預貯金や不動産などプラスの財産だけではありません。借入金や未払金など、マイナスの財産も相続財産となります。相続財産に漏れや見落としがある場合、後述する遺産分割協議のやり直しが必要になる恐れがあるため注意が必要です。

遺産分割協議の実施

相続人の確定・相続財産の洗い出しが完了したら、遺産分割協議を実施します。遺産分割協議とは、誰がどの財産を相続するかを決めるための話し合いです。

遺産分割協議には、相続人全員が参加する必要があります。必ずしも全員が一ヶ所に集まる必要はなく、メールや電話などによる参加・意思表明も可能です。最初に相続人の調査および確定を行う必要があるのは、遺産分割協議に参加する相続人を明確にし、正しく効力のある遺産分割協議を実施するためです。

相続人全員が合意し遺産分割協議が終われば、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議によって決まった内容を記載し、相続人全員が署名・押印を行います。

なお、遺産分割協議が行われた場合、土地の名義変更に際して遺産分割協議書が必要です。

土地を相続した際の名義変更とは

名義変更とは、土地など不動産の所有者を変更する手続きです。相続にともなって行う名義変更は相続登記と呼びます。この章では、相続に際して実施する土地の名義変更について詳しく解説します。

名義変更の必要書類

相続によって取得した土地の名義変更時には、さまざまな書類が必要です。必要書類の種類は相続人の人数や遺言書の有無によって異なります。ケース別に必要書類をまとめました。

  • 法定相続人が一人または法定相続割合で相続を行う場合
    • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
    • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
    • 法定相続人の戸籍謄本:法定相続人が複数いる場合、全員の戸籍謄本が必要です
    • 法定相続人の住民票:新たに土地の名義人となる法定相続人の住民票が必要です
    • 相続する不動産の固定資産評価証明書:名義変更を実施する年度のものを用意します
  • 遺産分割協議が行われた場合
    • 法定相続人が一人または法定相続割合で相続を行う場合と同様の必要書類
    • 遺産分割協議書
    • 法定相続人の印鑑証明書
  • 遺言書がある場合
    • 遺言書検認調書または検認済証明書:公正証書遺言の場合は不要です遺言執行者の選任審判書謄本:遺言書によって遺言執行者が選任されている場合は不要です被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本被相続人の住民票の除票または戸籍の附票不動産を相続する人の戸籍謄本不動産を相続する人の住民票
    • 相続する不動産の固定資産評価証明書:名義変更を実施する年度のものを用意します

相続による土地の名義変更で必要となる書類はケースによって異なります。上記以外の書類が必要となることもあるため、事前に入念な確認が必要です。

名義変更の方法

名義変更の手続きは不動産所在地を管轄する法務局で実施します。先ほど紹介した必要書類のほか、登記申請書も必要です。法務局の公式ホームページに登記申請書の様式および記載例が公開されているため、そちらを用いて作成します。

名義変更は法務局窓口のほか、郵送やオンラインでの申請もできます。ただし、オンラインでの申請には、電子証明書の取得や専用ソフトの用意などが必要です。郵送は一見手軽な方法ですが、記載誤りや書類の添付漏れなどにより補正が必要である場合、かえって手間が大きくなる恐れがあります。

名義変更手続きを自身で行う場合、法務局の窓口で実施するのがもっとも確実です。

名義変更にかかる費用

不動産の名義変更ではさまざまな費用がかかります。相続にともなう土地の名義変更で発生する主な費用を紹介します。

  • 必要書類の取得費用:戸籍謄本や住民票などの取得費用です。合計額は枚数によって異なります。一通あたりの費用はそれぞれ以下のとおりです
    • 登記事項証明書 600円
    • 戸籍謄本 450円 ※除籍謄本は750円
    • 住民票 300円
    • 印鑑登録証明書 250円
    • 固定資産評価証明書 400円
  • 登録免許税:相続登記の場合、登録免許税として固定資産評価額に税率0.4%を乗じた金額を支払う必要があります。登記申請書に収入印紙を貼って支払います
  • 交通費や郵送費:法務局に行くまでの交通費や、郵送で申請する場合の切手代などです

専門家に相続登記の代行を依頼する場合、専門家報酬も発生します。専門家報酬の額はケースによって異なりますが、10万円前後がひとつの目安といえます。

相続した土地を名義変更しないとどうなる?

これまで、相続登記に明確な期日や義務はありません。しかし、2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の名義変更登記を行う必要性が生じます。

将来的に相続登記が義務化される以上、早めに名義変更をしたほうが良いのは事実です。そのうえ、相続した土地を名義変更せず放置することには、いくつかのリスクが存在します。特に大きなリスクが以下の3つです。

  • 不動産の売却や抵当権の設定などができない
  • その土地に関する権利を主張できない
  • 時間が経つにつれ手続きの手間が大きくなる恐れ

それぞれ解説します。

不動産の売却や抵当権の設定などができない

相続によって取得した土地の名義変更をせずにいると、対象の土地の売却や抵当権の設定などができません。

不動産の売却や抵当権の設定ができるのは、登記簿に記載された名義人のみです。亡くなった被相続人名義のままでは不動産を自由に扱うことができず、所有者としての権利を行使できない状態となります。

相続時点では土地の売却などを想定していない場合でも、将来的に必要性が生じる可能性はゼロではありません。必要なタイミングで自由に土地の売却・活用などができるよう、相続によって得た土地の名義変更は早めに実施するのが理想です。

その土地に関する権利を主張できない

土地の名義変更をせず放置していると、土地を取得した相続人はその土地に関する権利を主張できません。

相続登記の申請を行わなければ、登記簿上その土地の名義人は被相続人のままです。すなわち、遺産分割協議を経て自身が土地を相続しても、自身が土地を所有していると証明できる手段が存在しないことになります。

土地の名義人を被相続人のまま放置した状態である場合、ほかの相続人が勝手に名義変更できる可能性があります。ほかの法定相続人が土地の名義変更を行い、第三者にその土地を売却したとしても、土地の買主に不動産の返還を求めることは困難です。

また、ほかの法定相続人に借入金などの負債がある場合、土地が差し押さえの対象になる恐れもあります。差し押さえにあうのは対象の相続人の法定相続分のみではありますが、該当分の所有権を取り返すのはかなり困難です。このように、特定の相続人が土地を完全に相続すると決まった場合でも、差し押さえによって土地の所有権の一部を失う恐れが有り得ます。

相続によって取得した土地の権利を正当に主張するためには、相続登記による名義変更が必要です。

時間が経つにつれ手続きの手間が大きくなる恐れ

相続によって取得した土地の名義変更手続きは、時間が経つにつれて手間が大きくなる恐れがあります。

もともとの土地の所有者であった被相続人名義のまま、その土地を相続した相続人が亡くなると、さらなる相続(数次相続)が発生します。

数次相続では、相続人の相続人といった人との話し合いも必要です。土地の名義人の孫や甥姪など、疎遠な親族との話し合いが必要になる恐れもあります。また、対象となる相続人が増えるため、必要な戸籍謄本の数も増えてしまいます。住民票の除票などの保管期限が切れてしまい、必要書類がスムーズに入手できなくなる恐れも小さくありません。

数次相続は時間が経つほど発生のリスクが高くなります。相続の手間をなるべく小さく抑えるためにも、相続財産である土地は早めに名義変更を行うのが理想です。

将来的には相続した土地の名義変更が義務化される

2023年時点では、土地を含む不動産の相続登記は義務ではありません。明確な期日も存在せず、仮に名義変更をせず放置しても、罰則などを受けることはないといえます。

しかし、2024年4月1日から、不動産の相続登記が義務化されます。相続登記の期限は、相続の開始および所有権を取得したことを知った日から3年以内です。正当な理由なく登記・名義変更の手続きをしない場合、10万円以下の過料の対象となります。

なお、施行日前に開始された相続による不動産についても、相続登記の義務が生じます。将来的にはすべての相続不動産に相続登記の義務が生じるため、相続登記は早めの実施がおすすめです。

まとめ

相続した土地の名義変更では、戸籍謄本や固定資産評価証明書などさまざまな書類が必要です。また、各種書類の取得費用や、登録免許税などの費用も発生します。必要書類や費用の確認は、土地の名義変更をスムーズに進めるために欠かせないポイントです。

2023年時点において、相続登記は義務ではなく、明確な期限もありません。しかし、相続によって取得した土地を名義変更せず放置することにはさまざまなリスクがあります。また、2024年4月1日に施行される相続登記の義務化は、施行日前に開始された相続にも遡及適用されます。

相続した土地は被相続人名義のまま放置せず、必ず名義変更を行いましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。