【税理士監修】相続税の時効は5年?時効が成立することはあるのか?
更新日:2023.9.8
誰かが亡くなった際、故人の家族であり故人の遺産を相続できる法定相続人にあたる人は、故人が残した相続財産の額によって相続税が課されることがあります。相続税は、必ず納めなければならない税金です。納めることを忘れたりわざと納税を放置したりすると、相続税がさらに加算されるペナルティが発生します。
そのため、相続が発生した場合は速やかに相続税の確認をすることが大切です。
しかし、相続税には時効があるため、仮に納税を忘れて定まった年数が経った場合は、相続税の課税は無効となります。例えば、自分たちの知らない相続財産が後から見つかり、時効年数も経過していた場合は、相続税の時効が成立することもありますが、ほとんどの場合成立することはありません。
「時効があるならうまく相続財産を隠して、相続税をごまかすこともできるのでは?」と、考える人もいるかもしれませんが、この場合も同様です。
この記事では、相続税の時効について確認し、相続税を節税するための方法について解説します。相続財産が後から見つかった場合、相続税が増えるだけではなくペナルティが発生する可能性も高いです。相続税を確実に申告できるよう専門家に相談しましょう。
目次
相続税の時効とは
相続税には時効があり、ある年数を経過すると相続税を納める義務がなくなります。相続税の時効をあてにすることは問題です。しかし、時効を把握することも大切です。
相続税の時効についての基本的な考え方や年数について、確認しましょう。
いつ時効が成立するのか
相続税は、相続の発生が分かった日から10カ月以内に申告し、納める義務があります。仮に、10カ月以内に申告せず放置していた場合は、課税処分を受ける可能性が高いです。また、相続税の計算にミスが発覚した場合も、ペナルティ対象となってしまうため、相続税は慎重に確認する必要があります。
相続税は申込期限の翌日から一定の年数が経過すると、時効が成立する仕組みとなっています。例えば、2022年11月30日が相続税の申告期限だった場合、2022年12月1日が時効の起算日になります。
時効がある理由は、課税処分の期間に期限が設定されているからです。課税処分を行うことができる期間を除斥期間と呼びます。この除斥期間に期限が設定されているため、相続税にも時効が成立するのです。
善意の相続人:相続税の時効は5年
善意の相続人とは、相続税の申告や納税義務があることを知らなかった人のことです。わざと相続税を納めなかったわけではなく、純粋に相続があることを知らなかった人は、善意の相続人だと判断されます。善意の相続人の場合、相続税の時効は5年です。
例えば、以下の場合を善意の相続人と考えます。
- 長年被相続人や相続人と交流がなかった場合
- 相続財産を洗いざらい探した結果相続税の申告義務はないと判断したにもかかわらず、あとから相続財産が見つかった場合
悪意の相続人:相続税の時効は7年
悪意の相続人とは、申告義務があることを認識していたにもかかわらず、申告しなかった相続人のことです。善意の相続人とは異なり、わざと相続税を隠していることになるため、時効は伸びて7年となります。
例えば、以下の場合は悪意の相続人とみなされることが多いです。
- 数年後にタンス預金やほかの相続財産を見つけたが申告せずに黙っていた人
- わざと資産を隠した人
- 申告の金額をごまかした人
- 申告期限が過ぎてしまった人
- 相続税の申告をすることをわすれていた人
ここでいう悪意や善意というのは、法律上の言葉です。人間性を善意や悪意で判断しているわけではありません。
相続税の時効を成立させるのは難しい
相続税の時効は、5年や7年という期間となりますが、相続税の時効を成立させることは非常に難しいでしょう。
何故なら、相続税の調査は国税庁と国税局が慎重かつ詳細に行っているためです。また、実際に時効が成立したケースもほとんどありません。
では、なぜ相続税の時効を成立させるのは難しいのでしょうか。
税務署は申告漏れを突き止めるように税務調査を行っている
税務署は、相続税が発生するだろうと予想される人をあらかじめ調査しています。相続が発生したタイミングで、申告の案内も送られるため、知らないでは済まされません。
税務署は、様々な情報を保有しており、以下のような情報を必要に応じて入手するように動いていると言われています。これらの情報に基づき、税務調査を行うと考えられています。
- 保険金の受取
- 不動産売買の履歴
- 税務申告状況
- 口座の残高
- 出入金履歴
さらに、上記の履歴は、過去10年分をさかのぼって調査されます。また、被相続人だけではなく相続人の口座も確認されてしまうため、ほとんど逃げ場はないと思ったほうが良いです。
相続税の調査を受ける確率は高くなっています。相続税申告漏れのペナルティを課されないためにも、事前に通帳などを専門家に確認してもらってから申告しましょう。
名義預金も全て調べられる
相続人の口座を調査されるのは、名義が誰なのかが重要ではありません。誰が管理していたのかが、最も重要視されます。
例えば、妻の名義の口座にあるお金を夫が出入金していた場合、管理しているのは夫となるため、妻名義の口座の預金はすべて夫の預金と判断されます。
相続税の納税を免れるために、あらかじめ全財産を別の口座に移動させたとしても、税務署が調査します。この調査は資金移動調査と呼び、税務署も力を入れて調査するため、誤魔化すことは不可能です。
法律上、税務署は金融機関を調査することが認められているため、隠すこともできません。
タンス預金でさえ見破られる
税務調査から逃れるために、タンス預金している人は多いです。しかし、税務署は被相続人の財産の総額を事前に予想しています。仮に、タンス預金を含めて申告しなかった場合、税務署が考えている総額と一致しないことになるため、税務調査が入る可能性が高いです。
税務調査が入り、タンス預金が見破られてしまうと、ペナルティ対象となり相続税以上の税金を納めることになります。
反面調査されることもある
税務署が、被相続人の相続財産の調査を、相続人に依頼することもあります。このとき、相続人が調査に協力しなかった場合、反面調査と呼ばれる納税者以外の人への聞き取りが行われてしまいます。
反面調査で調査される対象は、会社や銀行です。相続人が黙秘したとしても、ほかの取引相手が調査に協力することになるため、相続財産を隠すことはほぼ不可能と言えます。
相続税の時効成立を待っていたらペナルティが発生することもある
相続税の時効を待っている間に、税務署から指摘された場合、ペナルティが課されることがあります。ペナルティが発生すると、本来納める予定の相続税に加えて、違う税金も納めなければなりません。
ペナルティとなる税金について、確認しましょう。
無申告加算税
無申告加算税とは、申告期限までに申告せず、期限後に申告した場合課される税金です。申告した時期や納税しなければならない額に応じて、5%、15%、20%など一定の税率が決められています。
自分から申告期限後に申告した場合は、相続税額がどの金額だったとしても5%です。しかし、税務署が調査に入り指摘されてから申告した場合、相続税が50万円未満であれば15%の税率を納める必要があります。一方、相続税が50万円以上の場合は20%です。
過少申告加算税
過少申告加算税とは、申告期限を守ってはいるものの申告漏れがあった場合に課される税金です。本来納めるべき税額と、実際に収めた税額との差分に対して課されます。
例えば、税務調査で新たな課税対象となる相続財産が見つかり、相続税額が増加した場合が対象です。
税務署から通知や指摘がはいる前に、自分から修正申告をすれば、過少申告加算税のペナルティは免れます。しかし、税務署の税務調査が入り指摘された場合は、課税対象です。
修正申告をした時期と、納めるべき税額に応じて、5%、10%、15%という一定の税率が決められています。仮に、税務署が実地調査をした後に修正申告した場合は10%、税額のうち当初納めるべき税額か50万円のどちらか多い方を超える場合は、15%です。
重加算税
重加算税とは、仮装隠蔽があった場合に、無申告加算税と過少申告加算税の代わりに課される税金です。仮装隠蔽とは、明確な意図をもち相続財産を隠し、わざと税額を低く抑えようとする行為を指しています。
重加算税は、追加で納めるべき税金に対して課されるもので、35%、40%と高い税率が定められています。
申告期限前に申告をしていた場合は35%、無申告の場合で40%となります。例えば、時効成立を待つために相続税の申告をせず、税務署にばれないように意図をもって相続財産を隠蔽した場合は、本来納める予定だった相続税の40%を追加で納めなくてはなりません。
本来の相続税額の約1.4倍の負担が生じるため、重加算税は重いペナルティと言えます。
延滞税
延滞税とは、相続税が遅れて納付された際に課される税金です。簡単に説明すると、利息のようなものと言えます。
期限から2か月を経過する日までであれば、7.3%の税率、2か月が過ぎたあとは14.6%の税率となります。
この税率は年率であり、申告期限の翌日から相続税を納付した日までの日数で日割り計算し、求めることが可能です。
詳しくは、国税庁のホームページを確認すると、計算方法がわかるでしょう。
相続税を抑えるなら相続税の時効成立を狙うことはせず、計画をもって資産を管理すること
相続税を減らすために、相続税の時効成立を狙う方法は危険です。相続税を節税したい場合は、生前時から緻密な資金計画をたてる必要があります。
生前贈与を行う
生前贈与を行えば、相続する際の相続財産の総額が減るため、相続税の節税ができます。生前贈与は、金額によって贈与税の義務が発生しますが、上手に活用すれば贈与税を納めなくても良い場合が多いです。
生前贈与には、以下の財産が含まれます。
- 現金
- 不動産
- 株券
- 土地
生前贈与は、生前のうちに財産を贈与する行為です。年間110万円以内におさまっていれば、贈与税が控除されます。毎年110万円以内で行う暦年贈与も、贈与税が控除されるため、毎年コツコツと贈与して相続税を節税する方法も良いです。
しかし、生前贈与を成立させるためには、自分の財産を贈与する意思表示が必要になります。意思表示をするためには、贈与契約書を作成しましょう。贈与契約書を残しておけば、生前贈与であることの証明にもなるため、贈与ごとに作成し大切に保管してください。
現預金を不動産に変えて相続する
相続税を計算する際、現金よりも不動産のほうが税制上有利になるケースが多いです。
そのため、あらかじめ不動産に資産を変えておくことで、相続税を低くおさめることもできます。
住宅取得等資金贈与を行う
住宅や不動産のための資産を、親が子どもに援助する住宅取得等資金の贈与の非課税の特例を利用すると、相続税の節税にもなります。住宅取得等資金の贈与の非課税の特例は、子どもが住宅購入のために必要な資金を贈与する際、最大1,000万円まで非課税とするものです。
さらに、年間の贈与税控除となる110万円も使用できるため、最大で1,110万円の節税が可能となります。
最大1,000万円までが非課税とされていますが、令和2年では最大で1,500万円とされていました。そのため、年度によって額が異なる場合もあります。
正確な控除可能額を調べる場合は、国税庁のホームページを確認してください。
生命保険の非課税枠を利用する
相続人が、生命保険の保険金を受け取ると、一定額まで非課税となることがあります。しかし、生命保険の契約者や被保険者、保険金の受取人の設定が異なると、税金の種類が変わり、非課税枠が使えなくなるかもしれません。
例えば、父が契約者であり被保険者であれば、受取人が母親でも子どもだとしても、受け取る保険金は相続税の対象となります。しかし、母親が保険金を受け取ると、母親が死亡した際に相続財産が増えることとなり、子どもにかかる相続税が高額になる可能性が高いです。
また、契約したのが子どもで、被保険者は父親、さらに受取人を子どもとした場合、被保険者と契約者が異なるため、受け取った保険金は相続税の対象ではなく所得税の対象となります。受取人だけでなく、契約者や被保険者の設定も大切になるため、あらかじめ確認しましょう。
まとめ
相続税には、善意の相続人と悪意の相続人に分けて、別の年数の時効が設定されています。しかし、時効が成立して相続税の申告を免れたケースは滅多にありません。相続税の申告漏れが見破られてしまった場合、重いペナルティが課せられることもあるため、相続税は正直に申告したほうが無難です。
また、例えあとで見つけてしまった場合も、無理に隠さず自主的に申告すれば、ペナルティが課されません。税務署に目を付けられる前に、正直に申告する誠実さが肝です。
また、相続税の計算が間違っていた場合も、ペナルティの対象となってしまうため、あらかじめ専門家に相談すると良いでしょう。相続財産をすべて把握し、相続税を計算することを遺族だけで行うのは大変です。
専門家に頼り、素早い対応を行いましょう。
相続税申告は、やさしい相続相談センターにご相談ください。
相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。
監修者
小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士
84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。