【2022年時点】相続税の税制改正でどのように変化する?今後の予測やポイントを解説

更新日:2023.4.21

2022年の税制改正によって、相続税と贈与税の一体化が予想されていました。結果的には見送りとなりましたが、今後施行される可能性は高いと考えられます。

相続税の税制改正が行われると、これまで通用していた節税対策が使えなくなる可能性もあるため、改正による変化には注意が必要です。本記事では税制改正によって起こると予測される相続税の変化や、今後の節税対策などのポイントを解説します。

2022年税制改正で予想された相続税と贈与税の一体化

税制改正とは税金に関する制度の見直しや改正のことで、毎年実施されています。前年の年末に発表される税制改正大綱の内容を基に進められます。

2020年末に発表された2021年度税制改正大綱のなかで、相続税と贈与税の一体化を検討している旨が発表されました。しかし、結果として2021年の税制改正では、相続税と贈与税の一体化は実現していません。したがって、2022年の税制改正において、相続税と贈与税の一体化が決定されるのではないかと予想されていました。

この章では、2022年税制改正で予想されていた、相続税と贈与税の一体化の概要を解説します。

相続税と贈与税の一体化とは

相続税と贈与税の一体化とは、相続と財産のどちらで財産の所有者を移転させても、発生する税額を同じにするという税制改正です。

現在の税法では、毎年110万円までの贈与までは贈与税が非課税となっています。贈与税の非課税枠を利用して毎年少しずつ贈与を進める生前贈与が、相続税の節税対策として多く実施されています。

相続税と贈与税の一体化が行われると、相続・贈与ともに同じ税額が発生することになり、生前贈与による節税対策ができなくなる可能性が高いです。

相続税と贈与税の一体化が検討される理由

相続税と贈与税の一体化が検討される大きな理由が、格差是正目的です。

生前贈与の仕組みを上手く活用すれば、税負担なく多額の財産を子供や孫に移転できます。そのような状態では、経済水準が永続的に引き継がれていき、富裕層とその他の層の格差が固定されてしまいます。

経済格差の固定は、国がかなり注目している問題のひとつです。したがって、経済格差が固定されてしまう仕組みを解消する手段として、相続税と贈与税の一体化が検討されています。

また、節税目的の生前贈与ができなくなれば、その分回収される税額も大きくなります。税収確保の目的も、相続税と贈与税の一体化が検討される理由である可能性が高いです。

2022年の税制改正では見送りとなった

相続税と贈与税の一体化は多くの人の関心を集める話題であり、2022年の税制改正によって実現する可能性が高いと考えられていました。しかし、2022年の税制改正では見送りとなっています。

前述したように、相続税と贈与税の一体化を検討する主な理由が、富裕層とその他の層の格差固定の解消に効果的と考えられたためです。しかし、相続税・贈与税の一体化には、以下のように議論するべき論点が残っています。

  • 若年世代に財産が移転すれば消費を通じて経済活性化が期待できる:税負担なく財産移転できる状態である方が、若者世代に移転される財産が大きくなり、結果として経済の活性化につながるという可能性です
  • 相続財産が少ない層は生前贈与に消極的な状況である:現時点でも、相続財産が少ない層は生前贈与に消極的な状態です。そのうえで、贈与税の生前贈与による節税対策ができなくなれば、富裕層以外が選べる節税手段がほぼなくなるといえます。すなわち、経済格差を防ぐための施策が、かえって低所得者層~中間層にも影響を与えてしまう恐れが考えられます

このように、まだ解決できていない・議論するべき問題が残っているため、相続税と贈与税の一体化は見送りになった可能性が高いです。

生前贈与のメリットがなくなるわけではない

2022年の税制改正では、結果として相続税と贈与税の一体化が起こりませんでした。しかし、今後も検討は続き、将来的には実施される可能性が有り得ます。

なお、仮に相続税と贈与税の一体化が起きても、生前贈与のメリットがなくなるわけではありません。贈与税の非課税枠を活用した生前贈与は、相続税の節税対策が大きな目的であるケースが多いのは事実です。そのため、財産移転の方法を問わず同じ税額が課されるという変化は、生前贈与のメリットがなくなると感じるかもしれません。

しかし、目的の人物に対して確実に財産を移転できる、贈与は相続に比べて手続きが容易などのメリットはそのまま残ります。仮に相続税と贈与税の一体化が実現した後も、生前贈与の価値がなくなるとは考えにくいです。

ただし、節税対策を目的としている場合、相続税と贈与税の一体化が起きていない今のうちから実施するのが確実といえます。今後の動向に注意しつつも、早い段階から動くことが大切です。

税制改正で相続税と贈与税の一体化が起きるとどうなる?

税制改正によって相続税と贈与税の一体化が起きた場合、考えられる大きな変化は以下の2つです。

  • 生前贈与による相続税対策ができない
  • 相続時精算課税制度が全国民に適用される可能性

それぞれ詳しく解説します。

生前贈与による相続税対策ができない

相続税と贈与税の一体化が起きると、贈与税の非課税枠が廃止される恐れが大きいです。すなわち、贈与税の非課税枠を活用した、生前贈与による相続税対策ができなくなります。

また、生前贈与の完全な廃止ではなく、持ち戻し期間が延長される可能性もあります。

持ち戻し期間とは、生前に贈与された財産について、さかのぼって相続税が課税される期間です。日本では現在持ち戻し期間が3年であり、亡くなる3年以内に行われた贈与の財産額は、相続税の計算対象に含められます。

先進国には日本よりも持ち戻し期間が長い国が多く存在します。たとえばイギリスは7年、ドイツは10年、フランスは15年です。また、アメリカのように、相続発生前に行われた贈与をすべて対象とする国も存在します。

持ち戻し期間が長くなれば、その分生前贈与は難しくなります。

相続時精算課税制度が全国民に適用される可能性

相続税と贈与税の一体化により、相続時精算課税制度が全国民に適用される可能性も高いです。

相続時精算課税とは贈与時は課税されず、贈与した人が亡くなったときに、贈与財産の額を相続財産に合算して相続税を計算する制度です。相続時精算課税制度の適用を受けられる贈与財産の上限額は合計2,500万円と設定されています。節税というよりは、課税の先送りに近い制度です。

現在の税制では、贈与税の課税方法は暦年課税と相続時精算課税から選択できる状態であり、暦年課税が一般的とされています。また、60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対して財産を贈与した場合のみ選択できる制度です。

しかし、相続税と贈与税の一体化により、暦年課税の選択ができなくなる可能性も考えられます、すなわち、選択肢が必然的にひとつになるため、全国民に相続時精算課税制度が適用される可能性もあり得ます。

税制改正後も効果的と考えられる相続税の節税対策例

税制改正によって相続税と贈与税の一体化が起きると、現時点で有力な節税対策である生前贈与が活用できなくなる恐れが大きいです。

しかし、相続税の節税対策手段がゼロになるわけではありません。税制改正後も効果的と考えられる相続税の節税対策として、以下の例が挙げられます。

  • 孫を養子縁組する
  • 物件の法人疎開を行う
  • 相続税の控除額や適用される特例を確認しておく

それぞれ詳しく解説します。

孫を養子縁組する

相続税の節税対策として効果的な手段のひとつが、孫を養子縁組することです。

前提として、相続税には以下の基礎控除枠が設定されています。

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

すなわち、法定相続人の数が多くなるほど相続税の基礎控除額が大きくなる仕組みです。養子も法定相続人とみなされるため、孫の養子縁組は節税効果が期待できます。

ただし、法定相続人にカウントできる養子の数は、被相続人に実子がいる場合は一人、実子がいない場合は二人です。法定相続分としてカウントできる数を誤ってしまうと、相続税の計算にもズレが生じるため注意が必要です。

また、相続税対策の目的で養子縁組をすると、税務署に指摘される可能性があります。孫を養子縁組した理由について明確に説明するための準備も欠かせません。

物件の法人疎開を行う

物件の法人疎開を行うのも、節税対策として効果的である可能性があります。

法人疎開とは、家賃収入のある物件の所有者を個人から法人に移す行為です。不動産は個人が所有するよりも、法人を通した所有のほうが、評価額が安くなるケースがあります。評価額が安ければ課税される相続税額も小さくなるため、節税につながります。

不動産の評価は高度な知識や複雑な計算が必要なケースが多いため、専門家に相談するのが安心です。

相続税の控除額や適用される特例を確認しておく

必要以上の相続税を支払う事態を避けるため、相続税の控除額や適用される特例を確認しておくことも大切です。

相続税は3,000万円 + 600万円 × 法定相続人が基礎控除額となります。法定相続人の数が多い・相続財産が特別大きくないなどの理由により、基礎控除によって相続税の額がゼロになるケースも珍しくありません。まずは、基礎控除の額をしっかり確認する必要があります。

基礎控除以外にも、税負担を抑える効果の期待できる特例や制度が多く存在します。そのため相続税がゼロもしくは少額のケースも多いです。

ただし、相続税の仕組みは複雑であり、特例や制度の適用条件も判断が難しいものが多くあります。相続税の額を正しく計算するためには、専門家に相談するのが確実です。

【参考】2022年の税制改正によって実際に起きた変化

2022年の税制改正では、相続税について特別な変化はありませんでした。一方で相続税対策との関係が深い贈与税には、税制改正による変化がみられます。

効果的な節税対策を行うためには、相続税だけでなく、贈与税の変化についても確認が大切です。2022年の税制改正による贈与税の変化を紹介します。

住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の枠縮小

贈与税にみられる大きな変化のひとつとして、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の枠縮小が挙げられます。

住宅取得等資金の贈与税の非課税措置とは、子どもや孫が住宅を取得する際の資金援助を目的とした贈与は一定額が非課税となる制度です。

これまでの非課税措置の枠は最大1,500万円でした。しかし、税制改正によって最大1,000万円に縮小されています。

財産債務調書制度の見直し

財産債務調書制度とは、一定以上の所得や資産を持つ人に、保有財産と債務を記載した書類の提出を義務付けている制度です。

従来の制度では、所得合計金額が2,000万円以上かつ、総資産が3億円以上もしくは有価証券を1億円以上保有している人のみに提出義務がありました。

税制改正により、これまでの要件に加え、所得にかかわらず12月31日時点で総資産が10億円以上ある人も提出義務が課せられることになりました。結果として財産債務調書の提出義務者が拡大しています。

財産債務調書の提出漏れや書類の不備は罰則対象となるため注意が必要です。

まとめ

2022年の税制改正では、相続税に関する大きな変化はありませんでした。しかし、今後は贈与税との一体化も予測されます。相続税と贈与税の一体化によるさまざまな変化が考えられますが、特に節税対策の面で影響を受ける恐れが大きいです。

相続税の確実な節税対策のためには、税制改正による変化をしっかり把握しつつ、上手く制度を活用することが大切です。相続税の計算や効果的な節税対策には、高度な知識と深い理解が必要であるため、専門家のアドバイスやサポートを得ることをおすすめします。

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監修者

小谷野 幹雄

小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士

84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。