役員借入金で相続税が払えない?仕組みと対策について解説

社長が亡くなったあと、会社に貸していたお金(役員借入金)が相続財産になることをご存じでしょうか。実際には現金がないのに「相続税だけが発生してしまう」ケースも少なくありません。本記事では、役員借入金が相続財産として課税される仕組みや、相続税を払えない事態を防ぐための具体的な整理・対策方法を詳しく解説します。会社オーナーやご家族で相続を控えている方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
役員借入金の相続における扱い

役員借入金とは、会社が役員(社長など)から資金を借り入れたときに生じる借入金を指します。資金繰りが厳しいときに、社長が自分の資金を会社に入れるケースが多く見られます。
会社側から見ると「負債」ですが、役員側から見ると「会社に貸したお金(債権)」になるため、役員が亡くなった場合、この役員借入金は会社に対する貸付金という形で相続財産に含まれます。
実際に現金を受け取っていなくても、「会社から返してもらう権利」があるため、相続税の課税対象となります。
この仕組みを理解していないと、手元に現金がないのに相続税だけが発生するという事態に陥る可能性があるので注意しましょう。
役員借入金が原因で相続税を払えない場合のリスク

役員借入金が相続財産になる仕組みを理解したうえで、次に問題となるのが「実際に現金がないのに相続税を支払わなければならない」という状況です。役員借入金が原因で相続税を払えなくなる主なリスクについて解説します。
納税資金を確保できず延滞や分割納付に追い込まれる
会社に多額の資金を貸したまま亡くなると、相続財産の大部分が未回収の役員借入金になる場合があります。
現金がないまま相続税の納付期限(被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内)を迎えると、一括納付が難しくなるため、延納(分割払い)や物納(不動産などで納める方法)を検討せざるを得ません。
納付が遅れると延滞税も発生し、さらに負担が増す可能性があるので注意しましょう。
返済が滞ることで資金繰りが悪化する
会社に返済能力がない場合、相続人は貸付金を回収できず、相続税どころか生活資金の確保にも影響します。
一方で、会社に返済を強く求めると経営に支障をきたす可能性があり、経営を守るか、相続税を払うかという板挟みの状況に陥るケースも少なくありません。
このような状態が長引くと、会社・相続人双方の資金繰りが悪化するリスクがあるので注意しましょう。
財産評価が実態より高く税負担が過大になる
帳簿上の残高がそのまま相続財産として評価される場合、実際には回収できない金額まで課税対象になる場合があります。
たとえ会社が債務超過でも、客観的な回収不能の証拠がない限り、評価減が認められにくいのが現状です。その結果、現金回収が難しい「見かけ上の貸付金」に対して高額な相続税が課される可能性があるため注意しましょう。
相続税が払えなくなる前にできる役員借入金の整理・対策

相続時のトラブルを防ぐには、早い段階から会社と個人の資金関係を整理しておくのが重要です。相続税の負担を抑えるために有効な役員借入金の整理・対策方法を解説します。
債権放棄で役員借入金を帳簿から消す
役員借入金を生前に債権放棄する方法は、相続税を払えなくなるリスクを防ぐ有効な方法です。
会社に多額の役員借入金を残したまま相続を迎えると、現金がないのに相続税だけが発生する可能性があるため、社長が生前に会社への貸付金(債権)を放棄しておけば、帳簿上から負債を消し、相続財産の評価を抑えられます。
ただし、会社側には「債務免除益」が発生して法人税の課税対象となるため、放棄額や実施時期は税理士など専門家と相談しながら慎重に進めましょう。
報酬を減らして返済に充てる
会社の資金に余裕がある場合は、役員報酬を一部減額し、その分を役員借入金の返済に回す方法もあります。生前のうちに会社から少しずつ返済を受けておけば、相続の時点で残る役員借入金の金額を減らすことができ、現金がなくて相続税を払えなくなるリスクを抑えられます。
無理のない範囲で計画的に返済を行い、会社の資金繰りを圧迫しないようバランスを取るのが大切です。
DESで借入金を資本に振り替える
「DES(デット・エクイティ・スワップ)」とは、会社に対する貸付金を株式(資本金や資本準備金)に振り替える方法です。
これにより、会社の負債を減らしつつ、役員借入金を帳簿上から消せます。結果として、相続財産から役員借入金が除かれるため、相続税の負担を軽減できる可能性があります。
一方で、貸付金が株式に変わることで会社の株式評価額が上がり、結果的に相続財産の総額が増える場合もあるため、DESの実施は会社の財務状況と相続全体の税負担を比較したうえで、専門家とシミュレーションを行って慎重に判断しましょう。
生前贈与で債権残高を減らす
生前のうちに家族へ贈与して役員借入金の残高を減らしておけば、相続時の税負担を軽減できます。
役員借入金をそのまま残しておくと、相続財産の評価額が増え、納税資金が不足する可能性があるため、社長が生前に借入金の一部を家族へ贈与しておけば、相続時点での債権額を抑えられます。
ただし、名義だけを変えるような形式的な処理では借入金の全部が贈与税の課税対象となる可能性があるため、贈与契約書の作成や資金移動の記録を残しておきましょう。
役員借入金が相続財産にならない例外ケース
すべての役員借入金が相続財産になるとは限りません。会社の返済能力や経営状況によっては、評価額が見直される場合もあります。
会社が破産や清算手続きに入り返済が見込めない場合
会社がすでに破産や清算手続きに入っており、返済能力が客観的に失われている場合は、役員借入金を相続財産に含めない扱いが認められる場合があります。ただし、この判断には「返済不能」を裏付ける証拠が必要です。
破産申立書や債権者一覧、裁判所の通知書など、公式な書類を用いて返済不能である事実を明確に示さなければなりません。単に「経営が厳しい」、「赤字が続いている」といった理由だけでは、評価を下げられないので注意しましょう。
返済見込みが極めて低く評価額を引き下げられる場合
破産や清算までは至っていなくても、会社の財務状況や返済履歴などから回収可能性が著しく低いと判断できる場合には、役員借入金の評価を引き下げられる場合があります。
例えば、長期間にわたり債務超過が続き、実際に返済が行われていないようなケースでは、税理士が財務データに基づいて合理的に評価減を算定できます。
ただし、税務署に説明できる客観的な資料や算定根拠が必要となるため、専門家と連携して、適切な評価手続きを行いましょう。
相続後にはじめて役員借入金が判明した場合の対応方法
相続が始まってから、初めて役員借入金の存在に気づくケースもあるでしょう。相続後に役員借入金が判明した場合の対応方法について解説します。
会社の帳簿を確認し、役員借入金の内容を把握する
相続手続きの途中で会社の決算書や総勘定元帳を確認した際、亡くなった役員が会社に資金を貸していた事実が判明するケースがあります。
まずは帳簿上の「役員借入金」欄を確認し、金額の根拠・貸付日・返済履歴・利息設定の有無などを把握しましょう。そのうえで、実際に会社から回収できる見込みがあるかどうかを確認してください。
納税資金をどう確保するかを検討する
役員借入金は会社に対する貸付金(債権)として相続財産に含まれるため、現金が手元になくても相続税の課税対象になります。
もし会社からの返済が難しい場合は、他の不動産・有価証券などを売却したり、相続税の延納や借入を利用するなど、早期に納税資金を確保する方法を検討する必要があるでしょう。
放置すると延滞税が発生する可能性があるため、期限内に納付できる現実的なプランを立てるのが大切です。
回収が難しい場合は限定承認や相続放棄も視野に入れる
会社が債務超過で返済が見込めない場合、相続人は限定承認または相続放棄のいずれかを選択できます。
限定承認を行えば、プラスの財産の範囲内でのみ負債を引き継ぐため、納税資金の不足による損失を防げます。一方、相続放棄を選択すれば、最初からすべての財産・債務を相続しない扱いになり、返済義務も発生しません。
ただし、いずれの手続きも被相続人の死亡を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。期限を過ぎると手続きが認められない場合もあるため、早めに専門家へ相談して方針を決めましょう。
相続人と会社それぞれの税務処理を整える
会社にとって役員借入金は「負債」にあたるため、返済しても経費にはなりませんが、返済されないまま相続人が債権を放棄した場合、会社側ではその分の債務が消滅したとみなされ、「債務免除益(=借金がなくなったことで得た利益)」として法人税の課税対象になる場合があります。
相続人が会社を引き継ぐ場合には、会社の会計処理と相続人側の相続財産評価を一致させるのが重要です。
税務処理の整合性が取れていないと、後の税務調査で否認や追徴のリスクが生じる可能性があるため、早めに税理士へ相談し、適正に処理しましょう。
役員借入金で相続税が払えないリスクを防ぐために専門家へ相談を
役員借入金は、会社と個人の資金関係が密接に絡むため、対応を誤ると「現金がないのに相続税だけが発生する」という深刻な事態を招く可能性があります。
特に、生前の整理や評価の方法を誤ると、余計な税負担が生じたり、家族間でのトラブルにも発展しかねません。
こうしたリスクを避けるには、相続や法人税務に詳しい専門家への早期相談が重要です。
小谷野税理士法人では、役員借入金を含む会社オーナーの相続対策を多数サポートしており、資金繰りや評価の整理まで丁寧に対応しています。「相続税を払えないかもしれない」と感じたら、まずは小谷野税理士法人へご相談ください。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。



