会社の相続で妻が知っておくべきこと|自社株の引き継ぎ方と注意点

死去した夫が経営していた会社の相続に直名したとき、妻は何から手をつければよいのでしょうか?
会社の相続は、預貯金や不動産といった一般的な財産相続とは異なり、会社の経営権が関わってきます。複雑な作業も多いため、混乱する方も少なくないでしょう。
そこでこの記事では、基本的な知識や手続きの流れ、注意点について解説します。夫の会社を相続する可能性のある方は、ぜひご参考ください。
目次
夫の会社を相続するとは?妻が引き継ぐ財産を解説
夫が亡くなり「会社を相続する」という状況になった際、妻が引き継ぐのは会社という組織そのものではありません。
法的に相続の対象となるのは、夫個人が所有していたプラスの財産とマイナスの財産です。会社の財産はあくまで法人に帰属するため、直接の相続対象にはなりません。
では、具体的にどのような財産が相続の対象になるのかを見ていきましょう。
会社そのものではなく「自社株」が主な相続財産
夫が会社のオーナー経営者であった場合、遺産の中心となるのは夫が所有していた「会社の株(自社株)」です。
株式会社の所有権は株式によって構成されており、株主がその会社の所有者となります。つまり、夫が所有していた株式を相続すれば、実質的に会社の経営権を引き継ぐことを意味するのです。
ただし、特に上場していない中小企業の場合、この自社株には市場価格が存在しません。会社の業績が良ければ株の評価額は高額になり、多額の相続税が発生する可能性もあるでしょう。
専門家による株価の評価が必要になるため、まずは税理士や公認会計士などの専門家にご相談ください。
社長個人が所有する事業用の土地や建物も相続対象
中小企業では、会社の事務所や工場がある土地、建物を社長個人の名義で所有しているケースも少なくありません。そのため、相続の際にはいわゆる事業用資産の所有者名義が誰になっているかの確認が必要になります。
これらの不動産が夫個人の名義であった場合、それは会社の財産ではなく夫の個人資産として扱われます。つまり、自社株と同様に相続の対象となるのです。この場合、遺産分割協議で誰が引き継ぐのかを決めなければなりません。
事業を継続する場合は、後継者がこれらの不動産も一緒に相続するのが一般的です。しかし、評価額によっては相続人同士に不公平感が生まれ、問題が発生することもあるでしょう。
トラブルを防ぐためにも、遺言や生前贈与などを検討しつつ、後継者を他の相続人に周知しておくことが大切です。
会社の連帯保証債務もマイナスの財産として引き継ぐ可能性
会社を経営する上では、金融機関から融資を受けることも珍しくありません。ただしその際、代表者である夫が会社の連帯保証人になるのが一般的です。連帯保証人には会社の債務を保証する義務が生じるため、相続においては「マイナスの財産」となります。
もし会社が借入金を返済できなくなった場合、相続した妻や子どもが代わりに返済義務を負うことになるからです。負担が大きいようであれば、「相続放棄」も検討した方が良いかもしれません。
会社の相続手続きはどう進める?妻が行うべき7つのステップ

夫が亡くなった後、会社を相続するための手続きは多岐にわたります。一般的な財産相続に加え、会社の経営権に関わる手続きも必要になるため、計画的に進めなければなりません。
ステップ1:まず遺言書の有無を確認する
相続手続きを開始するにあたり、最初に行うべきことは遺言書の有無の確認です。夫が生前に遺言書を作成していた場合、原則としてその内容に従って遺産を分割することになります。ここで自社株の承継者が指定されている場合、その人を後継者として事業を引き継がせたい、という意味だと考えて良いでしょう。
ステップ2:相続人と相続財産を正確に調査する
遺言書がなかった場合、または遺言書に記載のない財産がある場合は、法律に基づいて相続手続きを進めます。流れとしては、はじめに夫の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得し、すべての相続人を明らかにします。次に、自社株や不動産、負債などの相続財産を全てリストアップしましょう。
ステップ3:会社の価値を判断するために自社株を評価する
中小企業の自社株には市場価格がありません。ゆえに、会社の規模や業種、資産状況などに応じて株価を計算するのが一般的です。この時、国税庁が定める「財産評価基本通達」が基準となります。評価作業は非常に複雑なため、通常は税理士などの専門家に依頼します。
ステップ4:遺産分割協議を開き株式の承継者を決定する
遺産分割協議とは、法定相続人全員で誰がどの遺産を相続するかを話し合うことです。会社の相続においては、経営の安定性を保つために、自社株を後継者に集中させるのが一般的です。安易に分割すると経営権が分散し、意思決定が困難になるリスクがあります。
ステップ5:株式の名義を新しい株主へ書き換える
遺産分割協議で自社株の承継者が決まったら、株式の名義を被相続人から新しい株主へ書き換える「名義書換」を行います。この手続きが完了して初めて、新しい株主は権利を正式に主張できるようになります。
ステップ6:法務局で役員変更の登記手続きを行う
社長であった夫が亡くなれば、代表取締役に欠員が生じます。速やかに後任を選任し、法務局で役員変更の登記手続きを行わなくてはなりません。この登記は、変更が生じた日から2週間以内に申請する必要があります。期限を過ぎると過料(罰則)の対象となるため注意しましょう。
ステップ7:相続発生から10ヵ月以内に相続税の申告・納付を済ませる
相続財産の総額が基礎控除額を超える場合、相続税の申告が必要です。期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。自社株の評価額が高額になると納税額も大きくなるため、計画的な資金準備が不可欠です。
会社の相続で妻が陥りやすいケースと解決策
会社の相続特有のトラブル事例とその解決策について解説します。
株式が親族に分散し経営が不安定になるケース
法定相続分に従って分割した結果、株式が複数の親族に分散し、経営に関心のない相続人が含まれていると、株主総会での意思決定がスムーズに進まなくなるなどのトラブルに繋がりかねません。
<解決策>
- 夫が生前のうちに後継者に株式を集中させる内容の遺言書を作成しておく
- 親の会社を誰が継ぐのかを家族会議で話し合い、合意を得ておく
後継者以外の相続人から遺留分を請求されるケース
後継者に自社株を集中させた結果、他の相続人の最低限の取得分(遺留分)を侵害してしまうことがあります。この場合、不足分を金銭で支払うよう「遺留分侵害額請求」をされる可能性があります。
<解決策>
- 夫が生前に後継者を受取人とする生命保険に加入し、その保険金を遺留分の支払いに充てる
- 他の相続人には遺留分に相当する別の財産を生前贈与しておく
相続税の納税資金が足りず自社株を手放すケース
自社株の評価額が高く相続税も高額になってしまう一方で、手元に現金が少ない場合、納税のために株式を売却せざるを得なくなり、経営権を失うリスクが生じます。
<解決策>
- 生命保険を活用して死亡保険金を納税資金に充てる
- 会社の役員退職金を活用する
- 非上場株式等についての納税猶予・免除の特例(事業承継税制)の適用を検討する
会社の今後はどうする?相続後に妻が選べる3つの道

夫が亡くなり、会社の株式を相続した妻は、「事業を継続するか」または「売却(M&A)するか」「廃業するか」といった重大な決断を迫られます。その選択は、従業員の生活や取引先との関係、そして家族の未来にも大きな影響を与えるものです。
そこでここでは、残された妻が選べる主な3つの選択肢について見ていきましょう。
選択肢1:妻自身や子どもが後継者となり事業を承継する
最も一般的な選択肢は、妻自身または子どもが後継者となり、「親族内承継」して事業を引き継ぐことです。
特に以下のようなケースでは、比較的スムーズな承継が期待できるでしょう。
- 妻がこれまで会社の経営に深く関わってきた
- 子どもがすでに役員として実務経験を積んでいる
この選択をする場合、新しい経営者として従業員や取引先、金融機関からの信頼を得ることが重要です。
経営者としての資質や覚悟が問われる道ですが、夫の想いを引き継ぐという点で、やりがいのある選択肢だとも言えるでしょう。
選択肢2:第三者へ会社を売却する(M&A)
会社を第三者に売却する(M&A)という選択肢もあります。特に以下のようなケースでは、検討されることが多い方法です。
- 親族内に適切な後継者が見当たらない
- 事業の将来性に不安がある
M&Aというと大企業のイメージを持つ人も多いと思いますが、近年は中小企業の後継者問題の解決策として広く活用されています。
信頼できる買い手企業と縁を結べれば、会社の事業を継続させ、従業員の雇用を守ることが可能です。
また、会社を売却した対価としてまとまった資金を得ることができるため、その後の生活の安定にも繋がります。
ただし、会社の価値を正当に評価してもらうためにも、M&Aの仲介を専門とするアドバイザーに相談するのが良いでしょう。
選択肢3:事業を終了し会社を清算する(廃業)
事業を終了し、会社をたたむ(廃業・清算)という選択肢もあります。特に、以下のようなケースで検討されることが多いでしょう。
- 財務状況や後継者の問題で、事業の継続が困難
- M&Aを試みても買い手が見つからない
廃業を選択した場合、まずは会社の財産をすべて現金化します。そして借入金などの債務を返済した上で、残った財産を株主に分配するという清算手続きに入るのが一般的です。
廃業手続きは煩雑で時間と費用がかかります。また、長年勤めてくれた従業員を解雇し、取引先にも迷惑をかけるため、関係者へも丁寧な説明と対応を心がけなければなりません。よって、この方法は最終手段だと言えるでしょう。
法的な手続きを適切に行う上でも、弁護士や司法書士といった専門家の支援を受けることを推奨します。
まとめ|会社相続は妻1人の問題ではないため専門家に協力を
夫が経営していた会社の相続は、自社株の評価、遺産分割、相続税の申告、会社の将来の選択など、多くの複雑な流れを伴います。
妻が1人ですべてを判断し、手続きを進めるのは非常に困難かつ危険です。特に、非上場株式の評価や相続税の計算、会社の登記手続きなどは高度な専門知識が必要となります。
そのため、会社がからむ相続はできるだけ早い段階で相続に詳しい税理士や弁護士、司法書士など専門家への相談を検討しましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。







