従業員への事業承継の注意点とは?リスクと対策をわかりやすく解説

親族に後継者がいない場合、信頼できる従業員に会社を引き継ぐことはできるのでしょうか。従業員承継は、社内の人材が経営を担う有効な方法ですが、資金調達や株式の譲渡、個人保証など多くの課題も伴います。本記事では、従業員承継の仕組みや注意点、円滑に進めるための対策を詳しく解説します。従業員への承継を検討している方は最後までご覧ください。
従業員承継とは

従業員承継とは、親族ではない社内の従業員が会社を引き継ぎ、経営者となる事業承継の方法です。事業承継には、親族に引き継ぐ「親族承継」と、外部の第三者に会社を譲渡する「M&A(第三者承継)」がありますが、従業員承継はその中間的な位置づけにあたります。
社内の人材が会社の実情を理解したうえで経営を引き継ぐため、経営の一貫性を保ちつつ、外部よりもスムーズに承継を進めやすいのが特徴です。
一方で、株式の取得資金や個人保証の引継ぎ、経営権の移転など、他の承継方法にはない課題も多い点に注意が必要です。
事業承継で従業員に引き継ぐ際の10の注意点

事業を信頼できる従業員に引き継ぐ場合、どのような点に注意すればよいのでしょうか。従業員承継には、親族承継やM&Aにはない特有のリスクが存在します。事業承継で従業員に引き継ぐ際の10の注意点について解説します。
後継者の資金調達・株式取得の負担が大きい
従業員承継では、後継者が自ら会社の株式を買い取る必要があるため、株価が高額になると、自己資金だけでは足りず、金融機関からの借入に頼るケースも少なくありません。
借入負担が重くなれば、資金繰りを圧迫し、日々の生活にも影響が出るおそれがあります。承継を進めるうえで、資金計画の見通しが立たないのは大きなリスクになります。
時価より安く株式を譲渡して贈与税が発生するリスクがある
従業員に配慮して時価より安く株式を譲渡すると、税務上「贈与」とみなされる場合があります。結果として、後継者に多額の贈与税が課される可能性があります。
適正な株価を確認せずに譲渡を進めると、思わぬ課税負担が発生する可能性があるため注意しましょう。
参考:No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき|国税庁
個人保証や負債の引継ぎリスクがある
中小企業の多くでは、経営者が会社の借入金に個人保証をつけています。承継時に後継者が保証人を引き継ぐと、経営悪化時に個人資産まで責任を負う可能性があります。保証内容を十分に把握していない場合、想定外の債務を抱えるリスクがあります。
譲渡制限株式の承認手続きを怠ると譲渡が無効になる
中小企業の多くは、外部への支配権流出を防ぐために「譲渡制限株式」を採用しており、この場合、会社の取締役会や株主総会の承認を得なければ、株式を自由に第三者へ譲渡できません。
承認を得ずに株式を譲渡した場合、会社に対する譲渡の効力は生じません。たとえ当事者同士が合意していても、会社が承認しなければ株主としての地位を取得できないケースもあります。
所有と経営の分離が混乱を招く可能性がある
従業員承継では、株式をすべて後継者に移転できないケースもあります。この場合、会社を所有するのは先代や親族のままで、経営を担うのは従業員出身の後継者という構図になります。
所有と経営の立場が分かれると、株主の意向が経営判断に影響し、意思決定が滞る場合があります。株主構成を整理せずに承継を進めると、後継者の権限が制限されるリスクがある点に注意しましょう。
議決権割合の設計を誤ると支配権のバランスが崩れる
過半数の株式を譲渡すると経営権が移り、3分の2以上で特別決議が可能になります。議決権の配分を誤ると、想定外の相手に会社の主導権を握られるおそれがあります。
前経営者が影響力を持ち続けたり、後継者の判断が通らなくなったりする場合もあるため注意しましょう。
社内・取引先・金融機関の理解を得にくい
親族ではなく従業員が後継者となることに、違和感を持つ関係者も少なくありません。取引先や金融機関からの信用が得られない場合、取引条件が不利になる場合もあります。社内でも突然の人事交代として受け止められ、混乱が生じる可能性があるでしょう。
先代経営者の影響が残り、権限移譲が進まない
承継後も先代経営者が顧問や相談役として関与するケースは少なくありません。役割や関与範囲を曖昧にしたままでは、現場の指揮系統が二重化し、従業員が混乱する場合があるでしょう。
後継者が主体的に判断できる体制を整えなければ、経営権の移譲が形だけに終わる可能性があります。
経営責任とリスクを正しく理解していない
従業員から経営者になると、責任の重さは大きく変わります。資金繰りや雇用維持、取引先との契約管理など、すべての判断を自分で下す立場になります。経営の重圧を十分に理解しないまま引き継ぐと、1つの判断ミスが会社全体に影響する可能性があるでしょう。
経営者としての覚悟や意欲が不十分である
従業員承継は、強い意欲と覚悟があってこそ成り立つものです。自信が持てないまま経営を引き受けると、資金や人間関係の重圧に押しつぶされてしまうかもしれません。
意思決定を避けたり、責任を曖昧にしたりすれば、社内外の信頼を失い、早期に経営が行き詰まる可能性もあるでしょう。
従業員承継の注意点を解消するための具体的な対策
従業員承継のリスクを抑えるには、どのような対策を取ればよいのでしょうか。
承継を成功させるためには、事前の準備と計画が欠かせません。従業員承継の注意点を解消するための具体的な対策について解説します。
承継計画を早期に立てる
できるだけ早い段階から承継計画を立てましょう。
準備が遅れると、後継者の選定や育成、金融機関との調整が後手に回り、スムーズな引継ぎが難しくなります。事業承継の時期や手順を明確にし、段階的に進めるスケジュールを作成しておくのが重要です。
後継者の教育・育成を計画的に行う
後継者の育成は、承継を成功させるための大切なステップです。
従業員が経営を担うには、日常業務だけでなく、経営判断や組織運営の経験も求められます。早期にマネジメントの機会を与え、経営者としての判断力を養えば、承継後の混乱を防げるでしょう。
株式や資金の承継方法を明確にする
株式の取得方法や譲渡条件を明確にしておきましょう。
内容を曖昧にしたまま進めると、支払い条件を巡る誤解や、株価評価の食い違いなどが生じ、後に当事者間のトラブルへ発展する可能性があります。また、時価より低い価格で譲渡すると贈与税の対象になる場合もあります。
適正な株価を算出し、公正な条件を設定しておくのが大切です。
株式の承認手続きを確認する
株式の承認手続きは、承継を進める前に必ず確認しておくことが重要です。
中小企業の多くでは「譲渡制限株式」を採用しており、会社の承認がなければ譲渡が無効となる場合があります。定款の内容や承認フローを事前に把握し、承認後は契約書や株主名簿の更新を忘れずに行いましょう。
個人保証や借入金の取り扱いを確認する
個人保証や借入金の内容を事前に確認しましょう。
経営者が会社の借入金に個人保証をつけている場合、後継者が保証を引き継ぐと思わぬ債務リスクを負う場合があります。契約内容を金融機関とすり合わせ、保証範囲を明確にしておきましょう。
株主構成と議決権の設計を専門家と検討する
株主構成と議決権の設計は、専門家と一緒に検討することをおすすめします。
譲渡する株式数や議決権の割合によって、会社の支配権の移り方が変わります。過半数で経営権、3分の2以上で特別決議が可能となるため、想定外に主導権を失わないよう慎重な設計が必要です。
社内・取引先・金融機関との信頼関係を築く
関係者との信頼関係を築きながら承継を進めましょう。
社内には後継者が選ばれた理由や今後の方針を丁寧に伝え、安心感を与える必要があります。また、取引先や金融機関に対しても早めに情報を共有し、経営の継続性を示して信頼を維持しましょう。
先代経営者の役割を明確にする
先代経営者の関与範囲を明確にしておきましょう。
承継後も先代が顧問や相談役として関わる場合、役割が曖昧だと権限が重なり、現場で混乱を招く可能性があります。立場や助言の範囲を整理し、後継者が主体的に判断できる環境を整えるのが大切です。
公的支援制度や専門家を活用する
公的支援制度や専門家の力を積極的に活用しましょう。
中小企業庁や商工会議所では、「事業承継・引継ぎ支援センター」による無料相談や、事業承継補助金の交付など、承継を支援する仕組みが整備されています。また、金融機関と連携した保証制度の見直しや、専門家派遣による承継計画の作成支援も受けられます。
税理士や承継アドバイザーと協力すれば、株価評価や資金スキームの設計を客観的に検討でき、リスクを抑えた円滑な承継に繋がるでしょう。
従業員承継に関してよくある質問

従業員への事業承継は、親族承継とは異なる検討事項が多くあります。
従業員承継を検討する際によく寄せられる疑問を以下にまとめたので、制度の仕組みや準備の進め方など、判断の参考にしてください。
従業員承継はどのような場合に選ばれるのですか?
親族に後継者がいない、または親族が承継を希望しない場合などに選ばれます。
会社の内部事情を理解している従業員が後を継ぐことで、取引先や社内の信頼関係を保ちながら事業を続けやすいのが特徴です。外部からの承継に比べて、経営方針の引き継ぎがスムーズに行える点もメリットです。
従業員が後継者になるにはどのような準備が必要ですか?
早期に経営に関わる経験を積み、経営知識や財務の理解を深めるのが大切でしょう。
日常業務に加えて、意思決定や資金繰りなど経営判断の機会を持ち、責任感を養う必要があります。承継計画を立てて段階的に経営を移行すれば、無理なく引き継げるでしょう。
従業員承継にかかる資金はどのように用意すればよいですか?
従業員承継では、後継者が株式を買い取るための資金を準備する必要がありますが、自己資金だけでなく、金融機関の融資や公的支援を併用するのが一般的です。
日本政策金融公庫の「事業承継向け融資」や、中小企業庁の「事業承継・M&A補助金」を活用すれば、承継費用の一部を補える場合があります。また、現経営者と分割払い(売主ローン)で合意する方法や、従業員持株会を使って段階的に株式を取得する方法も有効でしょう。
複数の資金調達手段を組み合わせれば、無理のない資金計画で円滑に承継を進められます。
従業員承継でお悩みの方は専門家に相談
従業員承継は、株式の譲渡や資金調達、個人保証など複数の課題が複雑に絡み合うため、自己判断で進めると税務や契約上のリスクを抱える可能性があります。
こうしたリスクを防ぐには、事業承継に精通した専門家の支援が有効でしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。