亡くなった人の確定申告は必要か|準確定申告のしくみについて解説
亡くなった人に所得があった場合、確定申告を行わなくてはならないのでしょうか。
本記事では、亡くなった人の確定申告のしくみや必要性について解説しています。また、具体的な手続きの流れや申告・納税の期限についても併せて紹介しています。期限を過ぎると追徴課税の対象となってしまうため、申告の必要性に加えて本記事で確認してみましょう。
目次
亡くなった人の確定申告は必要か?

原則として、所得がある人には所得税が課せられるため、毎年確定申告が必要となります。これは亡くなった人も例外ではありません。以下では、亡くなった人の確定申告が必要なケースと不要なケースについて解説していきます。
必要なケース
原則として、確定申告の必要な雇用形態で働いていた方は申告が必要です。具体的には、下記に当てはまる場合に申告が必要となります。
- 個人事業主等、事業所得がある人
- 不動産所得がある人
- 2,000万円超の給与収入がある人
- 掛け持ちで働いていた人
- 公的年金を400万円超貰っていた人
- 副業所得が20万円超ある人
基本的に勤め先で源泉徴収を受けている場合は申告不要ですが、源泉徴収を受けていても上記に1つでも当てはまれば申告しなければなりません。事業所得または不動産所得については、収入から必要経費を差し引いた金額が48万円を超える場合に申告が必要となります。
また、会社勤めをしながらアルバイトをしているなど、複数企業で掛け持ちをしている場合は、それぞれの所得を合算したうえで申告しなくてはなりません。ただし、掛け持ち先の収入が20万円以下の場合は申告不要です。
公的年金とは、厚生年金や国民年金などの国から支払われる年金のことを指します。公的年金は基本的に源泉徴収後の金額が振り込まれますが、振り込まれた公的年金の金額が400万円を超える場合は申告が必要です。
本業とは別にフリーランスなどの年末調整を受けられない形態で副業を行っており、その所得が20万円を超える人は申告の義務が生じます。20万円の判断基準は、収入から必要経費を差し引いた金額となっています。
不要なケース
原則として、会社側で年末調整を行っている場合は申告は必要ありません。サラリーマンやパートなどの雇用形態で働いていれば、会社側が年末調整を行っています。
ただし、複数の会社で働いていたり副業による所得が20万円を超えていたり、必要なケースに1つでも該当する項目があれば申告を行わなくてはなりません。
準確定申告の概要
亡くなった人の所得を申告することを準確定申告と呼びます。申告の対象となるのは1月1日から亡くなった日までの所得です。
通常、確定申告は所得があった翌年の2月16日から3月15日の間に行います。しかし、準確定申告は亡くなったことを知ってから4ヶ月以内に行わなくてはならない点に留意しておきましょう。
また、申告は亡くなった人の居住地を管轄する税務署となっている点も併せて覚えておきましょう。
申告の義務は誰が負う?

基本的に、申告の義務はすべての相続人に対して課せられます。ただし、手続き自体は相続人全員で行う必要はなく、申告書に全員が連署するだけで問題ありません。申告後に納税が必要となった場合には、相続した財産の割合に応じて所得税を納めましょう。
ただし、相続人の中に相続放棄をした人がいる場合、その人については申告の義務も発生した所得税を納める義務も生じません。
準確定申告の対象となる所得と所得控除
相続が発生すると、亡くなった人の所得を申告して納税をしなくてはなりません。その際に、利用できる所得控除があれば一定額を所得から差し引くことができます。
以下では、申告の対象となる所得の種類や利用できる控除について、より詳しく解説していきます。
申告すべき所得
所得には様々な種類があり、所得法では10種類に区分されています。具体的な所得の種類は以下の通りです。
- 給与所得
- 事業所得
- 不動産所得
- 退職所得
- 配当所得
- 利子所得
- 山林所得
- 譲渡所得
- 一時所得
- 雑所得
原則として、準確定申告では退職所得を除くすべての所得が申告の対象となっています。また、利子所得や配当所得は無くなった方が申告不要制度を利用している場合、申告の必要はありません。
亡くなった人が株式投資などを行っていた場合は、申告不要制度を利用していないかといった点も併せて確認しましょう。
適用可能な所得控除
所得税の計算の際には、一定の条件を満たすことで利用できる所得控除が15種類設けられています。
準確定申告で利用できる15種類の控除は以下の通りです。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- ひとり親控除
- 扶養控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- 勤労学生控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 医療費控除
- 雑損控除
- 寄付金控除
- 配偶者控除特別控除
上記の控除は、亡くなった人が適用条件を満たしていなければなりません。納税するのは相続人ですが、相続人が控除の条件を満たすことで利用できる訳ではない点を理解しておきましょう。
必要書類と申告手続き

実際に申告を行う際には、まずは必要書類を準備しなくてはなりません。以下では、具体的な必要書類や申告手続きについて解説していきます。
準備すべき書類一覧
申告時には、支払調書や源泉徴収票といった収入を証明できる書類が必要です。また、これらに加えて控除を受ける場合は、それに付随する証明書も必要となります。代表的な必要書類および入手方法は以下の通りです。
|
必要書類 |
入手方法 |
|
確定申告書 |
国税庁HP・税務署 |
|
所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表 |
国税庁HP・税務署 |
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委任状 |
国税庁HP |
|
支払調書または源泉徴収票等所得の証明書 |
勤務先または報酬の支払先 |
|
医療費明細書 |
医療費の支払い時に発行 |
|
保険料の控除証明書 |
生命保険会社・共済組合など |
参考:確定申告書等の様式・手引き等(令和6年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)|国税庁
申告の流れと申告書作成のポイント
準確定申告は、以下の流れで進めていきます。
- 必要書類の準備
- 申告書の作成
- 申告および納税
まずは、申告にあたって必要な収入を証明する書類や委任状を準備します。すべての書類が揃ったら、確定申告書を作成しましょう。申告書作成のポイントは以下の通りです。
- 申告書の左に準確定と記載する
- 欄外に亡くなった日、相続人の個人番号と氏名を記載する
- 個人情報欄に亡くなった人の情報を記載する
- 1人で相続する場合は、個人情報欄に相続人の情報を記載する
上記の情報を記載したら、申告書に沿って所得額や控除額を記載します。申告書の作成が完了したら、準確定申告の付表の作成しましょう。本書類にはすべての相続人の所得税額や個人番号等の情報を記載が必要です。
なお、付表にはすべての相続人の情報が必要となるため、予め準備しておくとスムーズに作成できるでしょう。作成が完了した申告書は、亡くなった人の住所を管轄する税務署に提出します。紙の申告書の他にもe-Taxを利用した電子申告も可能です。
参考:所得税及び復興特別所得税の準確定申告のe-Tax対応について|国税庁
税金の支払方法
税金の支払方法は、クレジットカードやコンビニエンスストア、金融機関や税務署窓口など様々な方法から選択可能です。なお、納付はすべての相続人が相続財産の割合に応じて行わなくてはなりません。
例えば、配偶者が2分の1、子供2人が4分の1ずつ相続した場合、所得税も配偶者が2分の1、子供2人で4分の1ずつ負担します。そのため、納付書は相続人1人につき1枚必要となります。
準確定申告と相続税の関係
原則として、相続が発生したことを知ったら4ヵ月以内に申告を行い、納税まで済ませなくてはなりません。一方、相続税の手続きは相続が発生したことを知ってから10ヶ月以内に行うことになっています。つまり、相続税よりも所得税の方が早く手続きを行わなくてはならないのです。
申告の結果所得税を納めることになった場合、税額は相続財産から差し引くことが認められています。また、申告により還付金を受け取った場合は、その金額を相続財産に加算することになっています。そのため、相続税の申告の際には還付金を受け取る見込みがある場合、その金額を記入する欄が設けられているのです。
このように、準確定申告と相続税の申告には深い関係があります。正しく税を納めるためにも、制度内容をきちんと理解しておくことが大切です。
期限内に申告をしないとどうなる?

期限内に申告を行わなかった場合は、ペナルティとして無申告加算税が課されます。無申告加算税の税率は、申告時期によって以下のように定められています。
|
50万円以下の部分 |
50万円超 |
300万円を超える部分 |
|
|
期限の翌日から税務調査通知前に申告した場合 |
5% |
10% |
15% |
|
税務調査通知を受けてから調査実施までに申告した場合 |
10% |
15% |
25% |
|
税務調査後に申告した場合 |
15% |
20% |
30% |
申告期限をすぎてしまうと、当然納税も期限内に行えません。そのため、上記の無申告加算税に加えて延滞税も発生します。延滞税の税率は以下の通りです。
|
原則的な税率 |
延滞税特例基準割合(※) |
|
|---|---|---|
|
期限から2ヵ月以内に納税した場合 |
年7.3% |
年2.4% |
|
期限から2ヵ月以降に納税した場合 |
年14.6% |
年8.7% |
※年度によって変更する可能性あり
期限内に申告・納税できなかった場合のペナルティは決して軽いものではありません。相続発生後はやるべき事が多くあり慌ただしいですが、早めに手続きを行うようにしましょう。
申告を忘れてしまった場合は、即座に期限後申告の手続きを行わなくてはなりません。期限から時間が経つほど税率は高くなるため、速やかに申告を行ってください。
亡くなった人も所得があれば確定申告が必要!相続人が手続きを
亡くなった人に所得があった場合は、相続人がその人に代わって申告を行わなくてはなりません。このように、亡くなった人の所得を申告することを準確定申告と呼びます。申告には期日があり、これを過ぎると無申告加算税などの追徴課税が発生するため、相続人が責任をもって申告しなくてはなりません。
申告の必要性は、亡くなった人の雇用形態や受け取っていた所得の種類・金額によって異なります。そのため、相続が発生したら財産の調査などの相続手続きに加えて、所得についても確認する必要があるのです。
基本的には相続税よりも所得税の申告期限の方が先に到来するため、期限内に手続きできるように素早く行動に移しましょう。申告についての不明点がある場合は、税理士などの税の専門家に相談すると安心です。特に、相続関連の経験がある税理士であれば、相続税についての相談も併せて可能となります。
本記事を参考に、亡くなった人の確定申告の必要性や手続きの方法について理解を深めてください。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。




