相続税対策はいくらから検討すべき?基礎控除の考え方と「要対策ライン」を解説

相続税対策はいくらから検討すべき?基礎控除の考え方と「要対策ライン」を解説

相続税対策は、いくらから検討すべきなのでしょうか。親の年齢が高くなったり、不動産の価格が上がっていたりすると「うちの財産だと相続税はいくらになるのか」と不安になる方もおられるのではないでしょうか。

相続税がかかるかどうかは、通帳の残高や不動産の時価の「なんとなくの合計」では判断できません。基礎控除の仕組みや、相続人の人数、自宅や賃貸不動産の評価額などを踏まえて、正味の遺産額を計算する必要があります。

この記事では「相続税対策はいくらから検討すべきか」という疑問に対して、基礎控除の考え方や「要対策ライン」の目安を解説します。

相続税は「いくらから」かかる?まずは基礎控除額を押さえる

お金と老夫婦

相続税対策を考えるうえで最初の分かれ道になるのが、相続額が「そもそも相続税がかかる水準なのかどうか」です。相続税は遺産が一定額を超えたときだけ課税される仕組みで、このラインを判断する鍵が「基礎控除額」です。

ここでは、相続税がかかる仕組みや基礎控除の計算式、相続税の申告が必要なケースと不要なケースなどについて解説します。

相続税がかかる仕組みと基礎控除の計算式

相続税が「いくらからかかるか」は、正味の遺産額と基礎控除額の大小関係で決まります。

正味の遺産額とは、預貯金や不動産などの遺産総額に、相続時精算課税の対象となる財産や一定の生前贈与分を加え、そこから非課税財産、葬式費用、借入金などの債務を差し引いて求める金額のことです。

次に、この正味の遺産額と「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という式で計算する基礎控除額を比較します。

正味の遺産額が基礎控除額以下であれば、原則として相続税は発生せず申告も不要です。一方で正味の遺産額が基礎控除額を超えた場合、その超えた部分が課税対象となり、相続税の申告・納税が求められます。

配偶者と子2人が相続人であれば法定相続人は3人となり、基礎控除額は4,800万円です。このケースでは、正味の遺産額が4,800万円を上回るかどうかが、相続税発生の判断の起点になります。

この仕組みを押さえると、自分や顧客のケースが「相続税対策を検討すべき水準かどうか」を、数値に基づいて確認しやすくなるでしょう。

参考:No.4102 相続税がかかる場合|国税庁

参考:No.4152 相続税の計算|国税庁

相続税の申告が必要なケース/不要で済むケース

相続税の申告が必要かどうかは、「正味の遺産額」が基礎控除額を超えるかどうかで判断します。正味の遺産額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される基礎控除額の範囲内であれば、原則として相続税の申告・納税は不要です。

ただし、基礎控除以下でも申告が必要になるケースがあります。小規模宅地等の特例配偶者の税額軽減生命保険金・死亡退職金の非課税枠などを適用する場合、多くは相続税申告書の提出が要件とされており、税額が最終的に0円でも申告が前提になるためです。

そもそも、相続税は全員にかかるものではありません。令和5年分では、相続税が課税された被相続人の割合は死亡者全体の9.9%であり、おおむね「10人に1人程度」が課税対象となっています。

参考:No.4205 相続税の申告と納税|国税庁

参考:相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料

相続税対策はいくらから?資産の内容によって変わる「要対策ライン」

準確定申告のイメージ

相続税対策をするかどうかは、単に遺産総額だけでなく、預金と不動産の割合など資産の内容によって変わります。基礎控除の範囲内でも、預金と自宅不動産の組み合わせによっては将来の評価額や二次相続の負担が重くなる場合があり、税金がかからない水準でも遺産分割で争いが起きる例があるためです。

ここからは、預金と自宅不動産で基礎控除を超えやすい典型的なパターンや、相続税が発生しなくても対策を検討したほうが良いケース、税理士につなぎたい「要相談ライン」について順に整理していきます。

預金+自宅不動産で基礎控除を超えやすい典型パターン

預金と自宅不動産の組み合わせは、都市部で基礎控除を超えやすい代表的なパターンです。

都市部の住宅地は路線価が高い傾向があり、土地の評価額は「路線価×面積」などの方法で算出されるためです。

たとえば路線価30万円のエリアで土地が100㎡あれば、それだけで3,000万円規模の評価額になり、建物評価や預金、少額の有価証券を加えると、配偶者と子2人のケースで基礎控除4,800万円を上回ります。

「金融資産がすくないから相続税はかからないだろう」と過信せず、自宅不動産を所有している場合は、早めに資産価値を確認することをおすすめします。もし自宅不動産を含めた場合に基礎控除を超える可能性がある場合は、相続税対策について、信頼できる税理士に早めに相談しましょう。

「相続税はかからないが揉めやすい」ケースにも注意

相続税の基礎控除の範囲内に収まる見込みでも、「税金がかからないから安心」とは言い切れません。典型的なのは、自宅不動産と数千万円程度の預金が中心というケースです。

評価額の高い自宅を複数の相続人で共有すると、売却の可否や住み続けるかどうかで意見が分かれやすく、結果として遺産分割協議が長期化しがちになるためです。

さらに一度目の相続で配偶者名義に資産を集めると、配偶者の死亡時に子ども世代だけで二次相続の分け方を巡って対立する場面も少なくありません。

このような資産構成の場合は、納税資金の準備よりも「誰が自宅を取得し、他の相続人にどのように金銭調整するか」という設計が重要になります。

相続税対策「要相談ライン」の具体的な目安

相続税対策を意識し始めるタイミングは、「正味の遺産額が基礎控除額の7~8割に近づいた頃を一つの目安と考えると整理しやすくなります。基礎控除ギリギリになってから動くと、贈与や遺言、保険の活用など、選択肢が時間的・金額的に取りづらくなる場面が増えるためです。

早めに全体像を把握しておけば、相続税が発生する可能性が低いケースでも、遺産分割や二次相続まで見据えた準備がしやすくなります。

どのような計算をすれば基礎控除額と正味の遺産額を比較できるのかを知りたい場合は、早めに、税の専門家である税理士に相談しましょう。

相続税対策はいくらから始めるべきか?金額別のシミュレーション

相続税対策を検討するうえでは、「総額いくらの遺産か」だけでなく、金額帯ごとの税負担の違いをイメージしておくことが大切です。

たとえば、基礎控除をやや超える5,000万円前後と明確に超える一億円前後では、想定される相続税額や求められる対策が変わります。さらに同じ金額でも、自宅不動産の割合が高い場合は納税資金や分割方法の検討が欠かせません。

ここからは代表的な金額帯ごとに、相続税のかかり方や注意点をシミュレーションしながら、早めに専門家へ相談したい水準を整理します。

遺産総額5,000万円前後のケース

遺産総額5,000万円前後は、「配偶者+子2人」で基礎控除4,800万円をわずかに上回る水準であり、相続税対策を検討したい代表的なレンジです。

たとえば正味の遺産額が5,000万円、法定相続分どおりに分ける前提で試算すると、課税価格は約200万円となり、速算表の10%区分が目安になります。計算式と税率は、以下です。

5,000万円 -(3,000万円+(法定相続人3人)× 600万円)= 200万円

200万円 × 10% = 20万円

法定相続分に応ずる取得金額

税率

控除額

1,000万円以下

10%

1,000万円超から3,000万円以下

15%

50万円

3,000万円超から5,000万円以下

20%

200万円

5,000万円超から1億円以下

30%

700万円

1億円超から2億円以下

40%

1,700万円

2億円超から3億円以下

45%

2,700万円

3億円超から6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

引用:No.4155 相続税の税率|国税庁

税額自体は大きくなくても、預金・自宅不動産・生命保険の組み合わせによっては、誰がどの資産を引き継ぐかで納税の負担感や将来の二次相続への影響が変わります。

金額としては「相続税がかかり始める入り口付近」にあたるため、この段階から税理士に一度シミュレーションを依頼し、分割パターンごとの税額や今後の対策の方向性を整理しておくことをおすすめします。

遺産総額1億円前後のケース

遺産総額が1億円前後になると、多くのご家庭で相続税の負担が一段と重くなりやすい水準に入ります。

基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)を差し引いた後の課税遺産総額が数千万円規模になると、前述の国税庁の速算表上は20〜30%台の税率帯にかかるケースが増えるためです。この水準は、事前の相続税対策の有無で納税額に大きな差が生じます。

特に都心部の自宅や賃貸不動産など不動産の割合が高い場合、評価額は高いのに現金が乏しく、納税資金の準備に苦労する事例が少なくありません。借入や物件売却が必要になる前に、生命保険の活用や生前贈与、遺言・家族信託などを組み合わせた設計の検討をおすすめします。

不動産の割合が大きい場合の注意点

不動産の割合が大きい相続では、評価額の割に現金が少なくなりやすく、「相続税は発生するのに納税資金が足りない」という状況になりやすい点に注意が必要です。

相続税は遺産総額から債務や葬式費用などを差し引いた正味の遺産額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人)を超えた部分に対して課税されます。しかし不動産は現金と違い、短期間で希望どおりに売却できるとは限りません。

そのため、土地や建物の比率が高い場合には、あらかじめ売却や借入の可能性、生命保険の活用などを含めて納税方法を検討しておく必要があります。

自宅や事業用の土地については、小規模宅地等の特例により一定の要件を満たせば評価額を大きく減らせる制度があります。ただし、適用できる面積や利用状況に細かな条件があり、相続人の住まい方や将来の利用計画も踏まえた設計が欠かせません。

評価減の効果だけに目を向けるのではなく、誰がどの不動産を引き継ぐか、二次相続まで見据えて遺産分割と納税資金の両方を整える発想が重要です。

参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

二次相続に向けた生前贈与をしませんか?

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よく使われる相続税対策と金額の目安

生命保険証券

よく使われる相続税対策には、生前贈与、生命保険の非課税枠を活用した納税資金の準備、二次相続まで見据えた資産配分などがあります。

これらは遺産総額や家族構成によって効果が変わるため、「どの金額帯から検討に乗せるか」の目安を押さえておかなくてはいけません。

生前贈与の活用はいくらから検討すべきか

生前贈与は「相続財産が基礎控除をやや上回りそうだ」と感じた段階から検討したい対策です。

暦年課税では年間110万円までの基礎控除があり、この範囲内であれば原則として贈与税はかかりません。ただし、相続開始前7年以内の贈与は110万円以下分も含めて相続財産に加算される仕組みに変わりました。

基礎控除を少し超える水準のご家庭であれば、毎年の暦年贈与を活用することで、将来の課税対象となる財産を少しずつ移しつつ、相続税の負担感を軽くできる可能性があります。

一方で、多額の財産をまとめて移したい場合には、相続時精算課税制度を選択するケースもあります。しかし、この制度は一度選ぶと暦年課税に戻せず、相続時に贈与財産を全額持ち戻して精算する点を十分に理解する必要があります。

「基礎控除を少し超えそう」「生前贈与を始めるタイミングが分からない」といった場合は、国税庁の最新の制度を踏まえてシミュレーションできる税理士に早めに相談しましょう。

参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁

生命保険・非課税枠を活用した「納税資金の確保」

生命保険の非課税枠を活用した「納税資金の確保」は、相続税対策として取り入れやすい方法のひとつです。

死亡保険金には、法定相続人の人数に応じて相続税がかからない枠があります。目安は「法定相続人1人あたり500万円」です。

たとえば相続人が配偶者と子2人の3人の場合、1,500万円までは課税価格に算入しない扱いになり、それを超える部分のみが相続税の対象になります。

一方で、保険金額や受取人の指定を誤ると想定より税負担が増えたり、遺産分割とのバランスが崩れたりするおそれがあるため注意が必要です。

参考:財産を相続したとき|国税庁

まとめ

相続税対策はいくらから検討すべきかは、相続財産の金額だけでなく、基礎控除との関係や資産の内訳によって変わります。相続税は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される基礎控除を超えた部分に課税されるため、まずは自分の遺産総額がおおよそどの位置にあるかを把握することが出発点です。

暦年贈与や相続時精算課税を用いた生前贈与も、基礎控除をやや上回る層から有効になり得ます。しかし相続開始前7年分の贈与が加算される新ルールを踏まえると、単発の対策ではなく中長期のシミュレーションが欠かせません。

こうした検討はご家族だけで行うよりも税理士に相談することで、一次相続だけでなく二次相続まで見据えたバランスの良いプランに整理しやすくなります。相続税が「確実にかかる」と分かってからではなく、「基礎控除を超えるかも知れない」と感じた段階で専門家に相談を検討することが大切です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。