現金が多い方の相続税対策|資産を残すための5つの対策

現金が多い方の相続税対策|資産を残すための5つの対策

保有する資産額が大きい方の中でも特に、現金が多い方は相続税対策の必要性が高いです。「現金は相続税で不利」と言われますが、相続税対策の選択肢が多いとも言えます。

本記事では、多額の現金を保有する方のための相続税対策を紹介します。老後資金を確保しつつ、財産を家族に残す方法を検討しましょう。

多額の現金を保有する方の相続リスク

リスク

納税額が高くなり資産が目減りしてしまうことも重大なリスクではありますが、それだけではありません。節税と家族円満な相続を両立するために、リスクを把握した上で適切な生前対策を講じましょう。

ここでは、多額の現金を保有する方の3つのリスクを紹介します。

相続財産の評価額が高くなるリスク

相続税を計算する際、現預金は額面通りの金額で評価されます。例えば、銀行に1億円の預金があれば、相続税評価額も1億円です。多額の現金を保有している場合、相続財産の評価額が高くなり、多額の相続税が発生するリスクがあります。

一方、土地や建物といった不動産は、相続税の計算上の評価額が時価を下回るのが一般的です。例えば、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基準に評価されます。

同じ1億円の価値がある資産でも、現金で保有するよりも不動産で保有する方が相続税評価額が低くなり、節税効果が高いと言えます。

慌てて税金対策をして納税資金が不足するリスク

現金が多いにもかかわらず、納税資金が足りないことがあり得るのか?と思われるかもしれません。現金を現金のまま持っていれば資金不足にはなりませんが、相続税対策のため、生前に慌てて不動産を購入する方もいます。

結果的に相続税の金額は抑えられたとしても、いざ相続税を納めようとしたときに納税資金が不足するリスクがあります。不動産を売却して納税資金を捻出する手間や売却損のリスクを考えると、ある程度の現金を納税資金として確保しておくことが重要です。

相続税対策は税理士などの専門家のアドバイスのもと、長期計画で行うことをおすすめします。

相続が争族になってしまうリスク

現金は分割しやすいため揉めないと思われがちですが、価値が分かりやすいことで逆に揉めるケースもあります。誰がいくらもらったのかが一目瞭然のため、「自分は親の面倒を見たからもっともらうべきだ」といった感情的な対立が表面化しやすいのです。

相続争いは家族関係に深刻な溝を生んでしまうこともあります。財産が多い方こそ、家族のために生前対策を講じましょう。節税だけでなく、家族円満に相続を終えられることも重要な観点です。

現金が多い方の相続税対策5選

税金に関する相談先(税理士)

自身の老後の生活に支障のない範囲で、現金を「相続税評価額が低い」または「非課税枠が適用される」資産に換えるのが基本です。

ここでは、特に節税効果が高く、取り組みやすい対策を4つご紹介します。

対策1.暦年贈与でコツコツと財産移転

現金資産を生前に次世代に移転することで、将来の相続財産そのものを減らす方法です。生前贈与は贈与税の課税対象となるため、贈与税の仕組みを理解して計画的にすすめる必要があります。

まず活用したいのが「暦年贈与」です。受け取る方ごとに年間110万円以下の贈与は贈与税が非課税になります。例えば子ども3人に毎年110万円ずつ贈与する場合、年間330万円の財産を非課税で次世代に移転できます。

ただし、相続開始から一定期間の贈与は相続税の計算に含まれるため、暦年贈与を活用する場合は早期の対策開始が必須です。この点については後述します。

対策2.相続時精算課税制度で控除額を増やす

相続時精算課税制度には、2つの非課税枠があります。

1つ目は年間110万円までの基礎控除です。110万円以内の財産を贈与しても贈与税はかからず、さらに贈与した人が亡くなったときも相続税の対象になりません。つまり、毎年110万円までが確実に非課税となります。

2つ目は生涯を通じて2,500万円までの特別控除です。これは年間110万円の基礎控除を超えて贈与する場合に適用され、贈与のタイミングで贈与税をかけずに子や孫に大きな財産を移転できます。

ただし、基礎控除を除いた分の贈与は、贈与した方が亡くなった際に相続財産に全額が加算され、相続税の課税対象となります。大きな財産を次世代に移転して有効活用してもらい、税金は後でまとめて納める仕組みです。

二次相続に向けた生前贈与をしませんか?

二次相続を意識した対策で総額数百万円の節税が可能になることもあります。今すぐ専門税理士にご相談ください。

対策3.生命保険の非課税枠を活用する

相続税の計算上、生命保険の保険金には「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠が適用されます。死亡保険金は、厳密には「みなし相続財産」として、初めから受取人の固有の財産ですが、財産の性質上、相続税の計算に含まれる仕組みです。

例えば、法定相続人が3人いれば、1,500万円分の死亡保険金が相続税の対象から外れます。現金のまま保有していると1,500万円が課税対象となるのに対し、相続人が保険金を受け取る場合は非課税となる点がポイントです。

死亡保険金として財産を受け取ることで、節税効果に加え、納税資金対策と遺産分割対策の効果も期待できます。保険金は指定した受取人に対して迅速に支払われるため、納税資金や当面の生活費として活用できます。また、原則として遺産分割協議の対象とならないため、相続人間の争いのリスク低減も実現可能です。

相続税対策として新たに保険契約を締結する場合、契約内容や元本割れのリスクには注意しましょう。

対策4.不動産の購入で評価減を下げる

収益不動産(賃貸アパート、マンションなど)を購入する方法もあります。不動産は相続税評価額が時価よりも低くなる特性があります。さらに、不動産を他人に賃貸している場合は「貸家建付地評価減」や「借家権割合」といった要素が加わり、評価額がさらに圧縮されるのです。

例えば、現金1億円で収益不動産を購入し賃貸した場合、相続税評価額は4,000~6,000万円程度に圧縮できる可能性があります。

しかし、安易に不動産を購入すると、空室リスクや修繕費の増大、不動産市場の変動による評価損といった新たなリスクを生みかねません。また、いざ現金が必要になったときにすぐに換金できないデメリットもあります。

不動産を活用した相続税対策は、市場の動向や老後の資金計画も考慮した上で、税理士などの専門家と連携して進めると安心です。

対策5.養子縁組で法定相続人を増やす

養子縁組は、法律上の親子関係を発生させる手続きです。誰が相続人となるかは民法で定められており、子が優先順位第一位です。養子縁組の制度を利用して法律上の親子になると、実の子と同じように相続人となります。

養子縁組をすると、法定相続人の数が増えて相続税の非課税となる限度額が増えます。具体的には、相続税の基礎控除額(3,000万+600万円×法定相続人の数)と生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が増えるのです。

ただし、元々の法定相続人以外に養子を迎える場合、相続税の計算に含められる養子の人数には制限があります。被相続人に実の子がいる場合は1人まで、実の子がいない場合は2人までです。制限を超えて養子縁組をしても税法上の控除額は増えないため注意しましょう。

また、養子縁組は税金対策のために安易に行うべきものではありません。元の相続人の相続分が減ることや、未成年の養子の親権者が変わることなど、養子縁組の効果を十分理解する必要があります。

将来の相続まで考えたい方へ

今回だけじゃない、そんな方に向けて相続専門税理士が複数世代にわたる相続税対策をサポートします。

相続税対策の否認リスクを避けるためのポイント

教える ポイント

せっかくの相続税対策も、税務署から否認されてしまっては元も子もありません。仮に後から税務調査が入っても、きちんと証拠を提示して説明できるように準備しておくことが大切です。

ここでは、税務署からの指摘リスクを避けるためのポイントを解説します。

贈与は証拠を残す

親族間の贈与であっても客観的な証拠を残しておくことが重要です。暦年贈与の場合は、毎回の贈与の度に正式な契約書を作成し、保管しましょう。実際にお金を動かしたことを証明するため、現金手渡しは避け、銀行口座に振り込みましょう。

贈与を受けた方自身が財産の存在を知らない場合や、通帳と印鑑を自身で管理していない場合は「名義預金」とみなされるおそれがあります。贈与した現金は贈与を受けた方が自由に管理・使用できることが要件です。

資金の流れの管理と記録

現預金の流れが不透明な場合、親族間の資金移動がすべて贈与とみなされるリスクがあります。例えば、現金を原資に収益不動産を購入した場合、家賃収入を誰が管理し、どのように使用しているかを明らかにしましょう。

家賃収入は原則として不動産の所有者が受け取るべきものです。所有者名義の口座に入金され、所得税なども所有者自身が申告・納税します。固定資産税、修繕費、管理費などの費用も所有者自身が負担すると資金の流れが分かりやすいでしょう。

贈与の7年ルールに注意

生前贈与を行っても、贈与者が亡くなる直前の一定期間内に行われた贈与は、相続財産に「持ち戻し」され、相続税の課税対象となってしまいます。

従来は亡くなる前3年の贈与が対象でしたが、2024年1月1日以降の贈与は順次対象が拡大されます。最終的に、2031年以降の相続ではなくなる7年前までの贈与が持ち戻しの対象となります。

生前贈与を検討する場合は持ち戻し期間を念頭に置き、今すぐにでも対策を始めることをおすすめします。

参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁

まとめ

現金資産が多い方は、資産の形を変えるなどの相続税対策を講じる余地があります。相続税対策に早すぎることはありません。ご自身の資産状況を把握し、早期に対策を始めることが円満な相続と税金対策を両立する鍵です。

税理士などの専門家に相談し、あなたとご家族に適した相続税対策を始めましょう。

初回相談は無料・秘密厳守

「何から始めたらいいのか分からない」「税理士に相談するのは気が引ける」そんな方でもご安心ください。経験豊富な税理士が丁寧にご説明します。

相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。

相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。

また、金融機関不動産関係者葬儀関連企業税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。

監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。