離婚する妻の連れ子との養子縁組解消手続き|相続や戸籍も解説
妻との離婚を決意した際、その連れ子と養子縁組をしている場合、その後の親子関係はどうなるのでしょうか?
この記事では、離婚に伴う連れ子との養子縁組の解消手続きや戸籍・相続権の変化、起こりうるトラブルについて解説します。現在養子がいる方や、連れ子のいる女性との離婚を検討している方などは、ぜひご参考ください。
目次
離婚届を提出しても嫁の連れ子との親子関係は解消されない
離婚届の提出により妻との離婚が成立したとしても、養子縁組をした連れ子との法的な親子関係はそのまま継続されます。離婚と養子縁組の解消(離縁)は全く別の手続きだからです。
したがって、親子関係を終わらせたい場合は離婚手続きとは別に、「離縁のための手続き」を自ら進めなければなりません。
何もしなければ、たとえ養子だったとしても、法律上の親子として扶養義務や相続権なども残るということを覚えておきましょう。
養子縁組を解消しない場合に残る2つの法的関係

離婚後も養子縁組を解消しない場合、重要な法的関係は主に2つ残ります。具体的には、実の子どもと同様の扶養義務と法律で定められた相続権です。
しかし、元妻との関係がなくなった後も続く義務や権利だからこそ、人によっては負担に感じられる可能性もあるでしょう。
将来的に後悔しないためにも、養子との関係がどのような影響を及ぼすか、具体的に理解しておくことが大切です。
実の子どもと同じ扶養義務が継続する
養子縁組を解消しない限り、養親は養子に対して実の子どもと全く同じ扶養義務を負います。これは、自分の生活と同程度の水準を保障する「生活保持義務」であり、非常に厳格なルールです。
そのため、離婚した元妻が親権者となった場合でも、養親であることには変わりはありません。養子が未成年で経済的に自立していない間は、養育費の支払いを求められる可能性があります。
具体的には、衣食住の費用や教育費、医療費などを含む、養親の収入や生活水準に応じた金額を負担するのが一般的です。扶養義務の期間としては「養子が成人するまで」が目安になります。
遺産相続の権利もそのまま残る
相続権に関しても、離縁しない場合は実子と全く同等の相続権が与えられます。
つまり、養親が亡くなった際、養子は法定相続人となるのです。他に実子がいたとしても、その子たちと同じ割合で遺産を相続する権利を持ちます。
例えば、元妻との間に実子がおらず、再婚して新しい家庭を築いた場合でも養子は相続人になります。
また、法定相続人には「遺留分」の権利があります。これは遺言書や生前贈与で別の相手が相続対象になっていたとしても、最低限の相続分を主張できるというものです。つまり、遺言書等で養子以外の人物に財産を遺すよう指定していたとしても一定の相続権は残ります。
養子が先に亡くなった場合には、養親がその財産を相続する立場になることも覚えておきましょう。
養子縁組を解消すると親子関係はどう変わる?
養子縁組を解消する「離縁」が成立すると、養親と養子との間にあった法的な親子関係は完全に終了します。
では、具体的にどのような法的関係が変化するのか、扶養義務と相続権の観点から見ていきましょう。
扶養義務や親権がなくなる
離縁が成立した時点で、養親が負っていた養子に対する扶養義務はすべて解消されます。これにより、今後養育費を支払う法的な義務は一切なくなります。
離縁後は、養子と養親は法律上他人となるため、養子の生活費や教育費などを負担する必要はありません。離婚時に養子の親権者となっていた場合は、その親権も失うことになります。
監護や養育に関する責任はすべて実親である元妻が負担し、法的な権利としての面会交流権も原則として失われます。ただし、家庭裁判所の判断や当事者間の合意により、例外的に面会が認められるケースもあります。
お互いの相続権が消滅する
離縁によって法的な親子関係がなくなるため、お互いの相続権も完全に消滅します。つまり、将来養親が亡くなっても養子は法定相続人にはなれないということです。万が一養子が先に亡くなった場合でも、養親がその財産を相続する権利はありません。
しかし、再婚して新しい家族ができた場合などには、離縁によるメリットも存在します。養子に相続権が残ったままになると、将来的に実子など他の相続人との間で財産をめぐるトラブルが起こる可能性があります。
離縁によって、ご自身の財産を誰に残したいかという意思が明確に反映されるため、そういった相続リスクの予防にもつながるでしょう。
養子縁組解消後の子どもの戸籍と苗字の扱い

戸籍謄本のアップ
離縁は法的な親子関係を解消する手続きであるため、戸籍や苗字も縁組前の状態に戻すのが原則となります。
ここでは具体的にどのような手続きを経て、戸籍と苗字が変化するのか見ていきましょう。
子どもの苗字は原則として結婚前のものに戻る
離縁が成立すると、養子となった子どもの苗字は、原則として養子縁組をする前の苗字に戻ります。つまり、実の親である母親(元妻)と同じ苗字に戻るのが基本です。
ただし、子どもが長年その苗字で生活していると、学校生活などで不都合が生じることもあるでしょう。
そのようなケースでは、離縁後も養親の苗字を継続して使用することが可能です。ただし、離縁の日から3か月以内に「離縁の際に称していた氏を称する届」を市区町村役場に提出しなければなりません。
子どもの戸籍は元の戸籍に戻るのが基本
子どもの戸籍に関しても、離縁すれば養親の戸籍から除籍されます。
そして養子縁組をする前に属していた戸籍、つまり実親が筆頭者となっている戸籍に戻るのが一般的です。これを「復籍」と呼びます。
とはいえ、なかには復籍するべき実親の戸籍が、死亡や転籍などによって既に存在しない(除籍されている)場合もあります。その場合は子どもを筆頭者とする新しい戸籍が作られます。
戸籍上も養親との親子関係が完全に解消され、実親との関係が明確になるというわけです。
養子縁組を解消するための手続きの流れ
養子縁組を解消するための離縁手続きは、まずは当事者間の話し合いから始めるのが基本です。
話し合いで合意できれば簡単な手続きで済みますが、合意に至らない場合は、家庭裁判所を介した法的な手続きに移行します。
離縁の方法として代表的なのが、協議離縁、調停離縁、審判離縁、裁判離縁の4つです。
ここでは、それぞれの段階で必要となる手続きについて順番に確認していきましょう。
ステップ1:当事者間の話し合いで進める「協議離縁」
協議離縁は、養親と養子の双方が離縁に合意している場合に選択できます。4つの方法の中では最も手続きが簡単です。
養子が15歳以上であれば養子本人の同意が、15歳未満であれば離縁後に親権者となる実親の同意が必要となります。手続きは以下の流れで進めます。
- 当事者間で離縁に同意
- 「養子離縁届」に必要事項を記入し、成人の証人2名と共に署名押印
- 離縁届を本籍地、または所在地の市区町村役場に提出
- 受理されれば離縁が成立
家庭裁判所を通す必要がなく費用も時間もかからないため、まず目指すべき方法と言えるでしょう。
ステップ2:家庭裁判所の調停委員を介して話し合う「調停離縁」
「離縁調停」は、当事者間の話し合いで離縁の合意ができない場合や、相手が話し合いに応じてくれない場合に用いられます。
家庭裁判所に申し立てを行うところから始まり、以下のような流れで完了するのが一般的です。
- 家庭裁判所に申し立て
- 調停(裁判官と民間の有識者から選ばれた調停委員が間に入り、双方に事情聴取)
- 解決案の提示や助言など、合意に向けた仲介
- 双方が合意できれば、調停調書が作成され離縁成立
調停は非公開で行われるためプライバシーは守られます。
離縁調停は、あくまでも話し合いによる解決を目指す手続きという点を覚えておきましょう。
ステップ3:調停不成立時に裁判所が判断する「審判離縁」
「審判離縁」とは、当事者間の合意ではなく、家庭裁判所が職権で離縁を命じる手続きです。
離縁調停で合意に至らず不成立となった場合でも、裁判所が当事者の意見や事情を考慮し、離縁を成立させることが子の利益(福祉)にかなうと判断したケースなどに適用されます。
- 家庭裁判所に申し立て
- 原則として、事前に「調停離縁」を試みる
- 条件によっては、自動的に「審判離縁」に移行
- 双方が合意できたと裁判所が判断すれば、調停調書が作成され離縁成立
この手続きは、調停でほとんど争点がない、または当事者が異議を述べないと見込まれる場合など、「調停離縁」を前提としつつ、家庭裁判所の判断で必要に応じて審判手続きへと移行するのが一般的です。
ただし、審判離縁が行われるケースは実際には非常に少ないと言えます。通常は調停不成立となれば、次の「裁判離縁」の手続きに進むのが一般的です。
ステップ4:最終手段として訴訟で離縁を求める「裁判離縁」
「裁判離縁」は、調停が不成立となり、審判も行われない場合に用いられる方法です。この状況で離縁を求めるには、家庭裁判所に訴訟を提起するしかありません。離縁手続きの最終段階だとも言えるでしょう。
裁判で離縁を認めてもらうためには、法律で定められた離縁原因が存在することを主張し、証拠をもって立証する必要があります。
代表的な離縁原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 相手方から悪意で遺棄された時
- 相手方の生死が3年以上明らかでない時
- その他、養子縁組を継続しがたい重大な事情がある時
離婚に伴う連れ子との離縁の場合は、主に「縁組を継続しがたい重大な事由」に該当するかどうかが争点となります。
子どもが未成年の場合、誰を相手に離縁手続きをするのか
離縁する養子が未成年者の場合、その年齢によって手続きの当事者が異なります。
養子が15歳未満の場合、本人に離縁の意思決定能力はないとされ、法定代理人が本人に代わって手続きを行います。離婚に伴うケースでは、離縁後に親権者となる実親が法定代理人として離縁の協議や手続きを担うのが一般的です。
一方、養子が15歳以上であれば、自分の意思で離縁を決定できると見なされ、養子本人が手続きの当事者となります。この場合、養親は養子本人と離縁について協議することになるでしょう。
ただし、離縁後の生活への影響も考慮すると、実親も話し合いに参加する必要があると考えられます。
養子縁組の解消で起こりうるトラブルと対処法

養子縁組の解消は、当事者間の感情的なもつれから、スムーズに進まないケースも少なくありません。
特に離婚をきっかけとする場合、当事者間の感情的な経緯から、元妻や養子と密に連絡を取り、離縁の同意を得るのは困難になることが少なくありません。
ここでは、想定されるトラブルとその具体的な対処法についてまとめました。
[ケース1]相手から離縁を拒否された
元妻や養子本人から離縁を拒否された際は、まず感情的にならず、拒否の背景にある理由を特定することから始めましょう。一般的には、離縁後の生活に対する経済的な不安や、養親への心情的な情愛が残っていることが拒否の大きな要因として考えられます。
もし、拒否の理由が経済的な問題面にある場合は、通常の養育費とは別に、離縁に伴う解決金を支払うといった譲歩案を提案することも検討しましょう。これにより当事者間の合意(協議離縁)を図れる可能性が出てきます。
しかし、話し合いを重ねても合意に至らない場合は、次の法的な手段として家庭裁判所に離縁調停を申し立てる必要があります。調停でも解決しない場合は、離縁手続きの最終手段である裁判離縁に移行し、最終的に裁判所の厳正な判断を仰ぐことになるでしょう。
[ケース2]相手と音信不通で連絡が取れない場合の探し方
離縁したくても、相手方(元妻や養子本人)の所在が不明で、連絡が取れないというケースもあり得ます。このような場合は、まず公的な記録を通じて相手の現住所を確認する調査を試みてください。
具体的には、市区町村役場で相手の住民票、あるいは戸籍の附票を取得し、現住所を確認できないか試みます。本籍地が判明している場合、戸籍の附票をたどることで、その後の住所の変遷を追跡することが可能になります。
こうした調査が難しい場合は、弁護士に依頼することが有効です。弁護士は「職務上請求」という法的な権利に基づき、第三者であってもこれらの住民票や戸籍の附票といった公的書類を取得し、相手の所在確認を行うことができます。
どうしても居場所が不明な場合は「調停」や「裁判」を検討
調査を尽くしても、相手の住所が特定できなかった場合や、住所は判明しても相手方が離縁の話し合いに一切応じない場合は、家庭裁判所での法的な手続きに移行する必要があります。この際、まずは離縁調停を申し立てることになります。
それでも相手方が調停に出頭しなかった場合は、その調停は不成立となり、次の段階として裁判(訴訟)へ移行するのが一般的な流れです。
特に、相手の生死が3年以上明らかでない場合は、民法で定められた裁判離縁の理由として認められます。さらに、7年以上生死不明の状態が続いているのであれば、失踪宣告の申し立てを検討しましょう。失踪宣告が認められ完了すると、相手方は法的に死亡したものと判断され、養子縁組も自動的に解消されることになります。
参考:最高裁判所「失踪宣告」
離縁に際して慰謝料を請求されたら支払う必要はある?
離縁に際して、相手方から慰謝料を請求されることがあります。しかし、単に「離縁する」という事実だけでは、慰謝料の支払い義務は発生しません。
一方的な有責行為によって、もう一方が精神的な苦痛を被ったことで縁組関係が破綻した、と判断される場合に限ります。具体的には、虐待や悪意の遺棄(正当な理由がなく、養親としての義務を果たさないこと)などが挙げられます。
もし慰謝料を請求された場合は、法的な支払い義務があるのかどうか、その金額は妥当なのかを冷静に振り返ることが重要です。判断に悩んだ場合は、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
まとめ|当事者間での解決が困難な際は、専門家を頼ろう
妻との離婚にあたり、その連れ子との養子縁組を解消するには、離婚届とは別に「離縁」の手続きが必要です。
離縁手続きでは、まず当事者間の話し合いである「協議離縁」を目指すのが一般的です。そこで合意できない場合は、家庭裁判所での「調停離縁」や「裁判離縁」へと移行します。
しかし、なかには相手方が離縁を拒否したり、連絡が取れなかったりといったトラブルもあり得ます。そのような場合でも、法的な手続きを通じて解決を図ることが可能です。
とはいえ、複雑な手続きも含まれるほか、当事者間での解決が困難な場合もあるはずです。何らかの悩みがあれば弁護士や、相続等のケースでは必要に応じて税理士を頼るなど、専門家への相談も検討してみてください。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。



