贈与税対策としての現金手渡しは危険?ばれない方法と相続税への影響
相続税対策として、生前に現金を子どもや孫へ手渡しすることを検討するケースがあります。記録が残らない現金の手渡しであれば、税務署に気づかれずに税金を回避できると考える人もいるかもしれません。しかし、安易な現金贈与はリスクが高く、将来の相続税調査の際に発覚し、かえって多額の税金を課される可能性があります。
本記事では、現金手渡しがなぜ危険なのか、そして安全に贈与を行うための正しい方法や相続税対策に有効な非課税制度について解説します。
目次
贈与税対策のつもりが…現金手渡しが税務署にばれる理由

「手渡しなら証拠が残らない」という考えは間違いです。税務署は個人の資産状況やお金の流れを様々な方法で把握しています。
特に相続が発生した際の税務調査では、被相続人(亡くなった方)だけでなく、相続人(財産を受け取る人)の過去の預金口座の動きまで徹底的に調べられます。その過程で、使途不明な出金や不自然な入金が見つかれば、生前の現金贈与が疑われることになります。
ここでは、現金手渡しが税務署に発覚する主な理由を解説します。
相続税の税務調査で過去のお金の流れが判明する
相続税の申告が行われると、税務署は申告内容が適正かどうかを確認するために税務調査を実施することがあります。調査の対象となった場合、税務署は被相続人だけでなく、配偶者や子、孫といった相続人全員の過去数年分、場合によっては10年近くにわたる預金通帳の履歴を確認することがあります。
その調査過程で、被相続人の口座から多額の現金が引き出されているにもかかわらず、その使い道が明確でない場合や、相続人の口座に給与収入などとは異なる不自然な入金が確認された場合、税務署は生前贈与を疑います。
たとえ手渡しされた現金であっても、その後に銀行口座へ入金すれば記録が残り、税務署に把握される可能性は極めて高いと考えられます。
預貯金の不自然な引き出しは税務署に見抜かれる
税務署は、亡くなった方の生前の所得や職業、生活レベルなどから、遺産として残されているであろうおおよその財産額を推計しています。
そのため、亡くなる数年前から預金口座から頻繁に、あるいはまとまった金額の現金が引き出されていると、その資金の行方を厳しく追及します。特に、被相続人が高齢で自ら銀行窓口へ行くのが困難な状況であったにもかかわらず、高額な出金が繰り返されているケースは注意が必要です。
これらの引き出された現金がタンス預金として保管されていたり、相続人に渡されたりしたと判断されれば、それは「名義預金」や「生前贈与」として相続財産に含めるよう指摘されることになります。預金の不自然な動きは、税務調査における重要なチェック項目の一つです。
現金手渡しの贈与が発覚した際の重いペナルティ

もし、申告していない現金手渡しの贈与が税務調査で発覚した場合、本来納めるべきだった贈与税を支払うだけでは済みません。申告漏れに対するペナルティとして様々な附帯税が課されます。これらの附帯税は税率が高く、結果的に納税額が大幅に膨らんでしまう可能性があります。
申告漏れが発覚した場合、本来の贈与税に加えて、主に以下のような附帯税が課されることになります。
無申告加算税
期限内に申告をしなかった場合に課される税金です。税務調査の通知前に自主的に申告すれば5%に軽減されますが、調査後に指摘されて申告した場合は、納付すべき税額の50万円までは15%、50万円を超える部分は20%(令和6年1月1日以降は300万円を超える部分は30%)が課されます。
重加算税
財産を意図的に隠蔽するなど、仮装・隠蔽行為があったと判断された場合に、無申告加算税に代わって課される最も重いペナルティです。税率は、無申告の場合は40%、過少申告の場合は35%と非常に高くなります。
延滞税
法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて課される、利息に相当する税金です。税率は年によって変動します。
贈与税の時効は原則6年だが悪質な場合は7年に延長される
贈与税には、税務署が課税処分を行える期間に限りがあり、これを「除斥期間」といいます。贈与税の除斥期間は、原則として申告期限の翌日から6年です。この期間を過ぎれば、税務署は贈与税を課すことができなくなります。
しかし、贈与の事実を意図的に隠していたなど、悪質な脱税行為と判断された場合には、除斥期間が7年に延長されます。
相続税の税務調査では過去10年近くの口座履歴が調査されることも珍しくなく、「6年または7年が経過すれば見つからない」と考えるのは危険です。時効の成立を期待して無申告を続けるよりも、適正に申告・納税を行うことが、結果的に余計な税負担を避けることにつながります。
税務署に指摘されない!現金贈与の正しい手順と注意点
贈与税の課税を回避する目的での現金手渡しは危険ですが、正しい手順を踏めば、現金での贈与自体が問題になるわけではありません。
重要なのは、贈与の事実を客観的に証明できる証拠を残し、必要に応じて確定申告を行うことです。税務調査で指摘を受けないためには、誰が見ても「贈与があった」とわかる形を整えておく必要があります。
ここでは、税務署に認められるための現金贈与の正しい手順と、生前贈与を行う上での注意点を解説します。
贈与の事実を証明する「贈与契約書」を必ず作成する
贈与は、財産を渡す側(贈与者)の「あげます」という意思と、受け取る側(受贈者)の「もらいます」という双方の合意によって成立する契約です。この合意があったことを客観的に証明するために、「贈与契約書」を作成することが重要となります。
契約書には、「いつ」「誰が」「誰に」「何を(現金の場合はその金額)」「どのような方法で」贈与したかを明確に記載し、贈与者と受贈者の両方が署名・捺印します。
この契約書を贈与の都度作成しておくことで、税務調査の際に、それが単なる名義預金ではなく、正式な贈与であったことを主張する強力な証拠となります。特に高額な贈与を行う場合は、公証役場で確定日付を取得しておくと、さらに証明力が高まります。
証拠が残る銀行振込で贈与を行うのが安全
贈与の証拠を残す最も確実な方法は、銀行振込を利用することです。現金手渡しは、受け渡しの記録が一切残らないため、贈与の事実を証明することが困難です。
一方、銀行振込であれば、預金通帳に「日付」「振込人名」「金額」が明確に記録として残ります。これにより、贈与者から受贈者へ確実に資金が移動したという客観的な証拠となり、税務署に対する説得力も格段に高まります。
相続開始前の一定期間内に行われた贈与は相続財産になる
生前贈与は有効な相続税対策ですが、注意すべき点として「生前贈与加算」という制度があります。これは、被相続人が亡くなる前の一定期間内に行われた贈与を相続財産に持ち戻して相続税を計算するというルールです。
2023年度の税制改正により、この持ち戻しの対象期間が、相続開始前3年から7年へと段階的に延長されることになりました(2024年1月1日以降の贈与が対象)。このルールは、相続や遺贈によって財産を取得した人(法定相続人など)への贈与に適用されます。
つまり、亡くなる直前に駆け込みで贈与を行っても、その分は相続税の課税対象となってしまうため、相続税対策としての効果がなくなります。生命保険の非課税枠など他の制度との兼ね合いも考慮し、計画的に生前贈与を進める必要があります。
知っておきたい!贈与税を賢く節税するための非課税制度

贈与税の負担を軽減するためには、国が定めている様々な非課税制度を正しく理解し、有効に活用することが重要です。これらの制度を利用することで、一定の条件を満たせば税金の負担なく財産を次の世代へ移転させることが可能になります。
代表的な暦年贈与の基礎控除のほか、子や孫のライフイベントに合わせて利用できる特例も複数存在します。
ここでは、贈与税を賢く節税するために知っておきたい非課税の制度について、その概要と活用法を解説します。
毎年110万円まで非課税になる暦年贈与の基礎控除を活用する
贈与税には、財産を受け取った人(受贈者)一人につき、年間110万円の基礎控除が設けられています。これは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからず(税額は0円)、申告も不要という制度です。
この基礎控除は、贈与者の人数に関わらず、受贈者一人あたりの金額です。例えば、一人の子どもが父から110万円、母から110万円の贈与を受けた場合、合計220万円となり、基礎控除額を超える110万円に対して贈与税が課税されます。
この制度を利用し、複数年にわたって計画的に贈与を続けることで、まとまった財産を非課税で移転させることが可能です。ただし、毎年決まった時期に同額を贈与すると、連年贈与とみなされ一括贈与として課税されるリスクもあるため注意が必要です。
生活費や教育費などを都度渡す場合は贈与税がかからない
夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から、生活や教育のために受け取る金銭で、通常必要と認められるものについては贈与税の対象外となります。
例えば、親が大学に通う子の学費や一人暮らしの家賃・生活費を支払う場合や、祖父母が孫の入学金や授業料を負担する場合などがこれにあたります。この非課税規定の重要なポイントは、「必要なときに、直接これらの支払いに充てられること」です。
将来の生活費や教育費として、一度にまとまった現金を渡すと、それは贈与税の課税対象となる可能性があります。あくまで必要となる額だけをその都度支払うケースに限るという点を理解しておきましょう。
目的別の非課税特例(住宅取得、結婚・子育て資金など)を利用する
暦年贈与の基礎控除とは別に、特定の目的のための資金贈与については、期間限定で設けられている様々な非課税特例があります。
住宅取得等資金の贈与税の非課税措置
父母や祖父母などの直系尊属から、自分が住むための住宅の新築、取得、増改築等のための資金援助を受けた場合に、一定の要件を満たせば最大1,000万円までが非課税となる制度です。
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置
18歳以上50歳未満の子や孫に対し、結婚や子育てに使う資金を、金融機関との契約を通じて1,000万円まで非課税で一括贈与できます。
教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置
30歳未満の子や孫に対し、教育資金として、金融機関との契約を通じて1,500万円まで非課税で一括贈与できます。
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産そのもの、またはそれを取得するための資金の贈与が行われた場合、基礎控除110万円とは別に最高2,000万円まで控除できる制度です。
これらの特例にはそれぞれ詳細な要件や手続きがあるため、利用する際は専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
贈与税対策として安易に現金を手渡しで行うことは、税務署に発覚するリスクが高く、発覚した際には重いペナルティが課される可能性があります。特に相続税の税務調査では、過去の預金の動きが詳細に調べられるため、「ばれないだろう」という考えは通用しません。
贈与を行う際は、贈与契約書を作成し、銀行振込を利用するなど、贈与の事実を客観的に証明できる証拠を残すことが重要です。また、年間110万円の基礎控除や、住宅取得資金、教育資金などの非課税特例を正しく活用することで、合法的に税負担を抑えながら財産を移転させることが可能です。
生前贈与や相続に関する税制は複雑であり、法改正も頻繁に行われます。ご自身の状況に最適な対策を講じるためには、税理士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。
また、金融機関や不動産関係者、葬儀関連企業、税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。
監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。












