非上場株式の相続|評価方式と評価額の計算方法、相続税の注意点

非上場株式の相続|評価方式と評価額の計算方法、相続税の注意点

会社の経営者やその親族が亡くなった際、相続財産に非上場株式が含まれることがあります。これは上場株式とは異なり、市場での取引価格が存在しません。よって、相続税を計算するには国税庁が定めたルールに従って株価を評価するのが一般的です。

そこで本記事では、評価方式や具体的な手続きの流れ、相続税に関する注意点などを分かりやすく解説します。非上場株式の相続にお悩みの方や、今後相続の可能性がある方はぜひご覧ください。

非上場株式とは?市場価格のない株式のこと

非上場株式とは、東京証券取引所などの金融商品取引所に上場していない株式会社が発行する株式を指します。なお、現在日本に存在する株式会社の99%以上は非上場会社です。

非上場株式の相続において、株価の評価は相続税額を左右する重要な指標です。しかし、非上場株式は上場株式と違い、証券取引所が公表する株価などを基準にすることができません。そのため、国税庁の定めた「財産評価基本通達」というルールに従い、相続税評価額を算出する必要があります。

非上場株式は評価額によって相続税の負担が増える

非上場株式の評価額は、経営者や株主自身が想定しているよりも高額になることがあります。

例えば、帳簿上の純資産が5,000万円の会社が存在すると想定してみましょう。所有している不動産に大きな含み益があれば、相続税評価額は1億円を超える可能性があります。そうなると相続税の基礎控除額を大幅に上回り、納税資金の確保が困難になる問題が発生します。手元に現金がない場合、納税のために自宅不動産を売却せざるを得ないといった事態に陥りかねません。

ゆえに、後の納税資金の確保のためにも、非上場株式を正しく評価することは重要といえます。

非上場株式の評価方式はどのように決まる?判定の3ステップを解説

3ステップ

非上場株式の相続税評価は、一つの方法で自動的に決まるわけではありません。

株主の立場会社の業種や資産構成、そして事業規模という3つの要素を順番に確認し、どの評価方式を用いるかを判定します。

以下より、自社に適した評価方法を順番に判定していきましょう。

【ステップ1】「同族株主」か「それ以外の株主」かを判定する

同族株主とは、会社の経営に実質的な支配力を持つ人のことです。具体的には議決権総数の30%以上を保有する株主、もしくは同族関係者(配偶者や直系親族、兄弟姉妹など)が該当します。

ただし、議決権割合が50%超を占める同族関係者、もしくはグループがある場合は、そこに該当する人のみが同族株主となります。

  • 同族株主が相続する場合
    「原則的評価方式」が適用されます。
  • 同族株主以外の株主(少数株主)が相続する場合
    「特例的評価方式」である配当還元方式を用います。

このように、株主の立場によって評価方式が大きく変わります。

参考:国税庁「同族株主の判定」

【ステップ2】相続する会社が「一般の評価会社」か「特定の評価会社」かを確認する

次に、株式を発行している会社の種類を確認します。

ほとんどの事業会社は「一般の評価会社」に分類されますが、中には「特定の評価会社」に該当するケースがあります。

特定の評価会社に該当する会社

  • 土地保有特定会社:土地の割合が高い
  • 株式等保有特定会社:有価証券の割合が高い(総資産の50%以上を株式等が占める)
  • その他:開業間もない会社など

これらに該当する場合は、特別な評価方式を用いられるのが一般的です。(例えば株式保有評価会社は、基本的に「純資産評価額方式」が使用されます)

参考:(特定の評価会社の株式)|国税庁

参考:特定株式等の評価-純資産価額方式|国税庁

なお、上記の「特定の評価会社」に該当しない「一般の評価会社」の場合は、以下の【ステップ3】に進みましょう。

【ステップ3】会社の規模を「大会社」「中会社」「小会社」に区分する

一般の評価会社であることが確認できたら、最後に会社の規模を判定します。会社の規模は、国税庁が定める基準に基づき「大会社」「中会社」「小会社」の3つに区分されます。

<会社の規模区分の基準>

規模区分

従業員数

業種

総資産価額
(帳簿価額)

年間取引金額

大会社

70人以上

卸売業

20億円以上

30億円以上

小売・サービス業

15億円以上

20億円以上

その他

15億円以上

10億円以上

中会社

70人未満

卸売業

7,000万円以上 20億円未満

2億円以上30億円未満

小売・サービス業

4,000万円以上15億円未満

6,000万円以上20億円未満

その他

5,000万円以上15億円未満

8,000万円以上10億円未満

小会社

70人未満

卸売業

7,000万円未満

2億円未満

小売・サービス業

4,000万円未満

6,000万円未満

その他

5,000万円未満

8,000万円未満

引用:(気配相場等のある株式の評価)|国税庁

見極めでは「総資産価額帳簿価額)」と「取引金額直前期1年間)」、「従業員数」の3つがポイントです。

法的には直前期末以前1年間における従業員が70名以上の場合、無条件に大会社と見なされます。中会社・小会社は総資産価額と取引金額の基準を組み合わせて判定されるのが一般的です。

会社の規模によって後述する原則的評価方式のうち、どの計算方法を適用するかが決まるためしっかり確認しておきましょう。

【原則的評価方式】会社の規模で決まる2つの評価方法

会社の規模の比較

同族株主が非上場株式を相続する際に用いられるのが原則的評価方式です。

会社の規模に応じて「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」という2つの方法が存在し、ケースによって使い分けられます。

大会社【類似業種比準方式】で評価

類似業種比準方式は、主に大会社で適用される評価方法です。事業内容が類似する上場企業の株価を基に、以下のような計算式で結果を算出します。

類似業種の株価×(1株あたりの自社の配当金額+1株あたりの年利益金額+1株あたりの純資産価額)×斟酌率(※)

※大会社の場合は「0.7」、中会社の場合は「0.6」、小会社の場合は「0.5」

参考:国税庁「類似業種株価等通達の趣旨」

会社の規模が大きいほど、市場で取引される上場企業の株価を参考にする類似業種比準方式の比重が高くなるのが基本です。

この方法には、会社の収益力や将来性が株価に反映されやすいという特徴があります。業績が好調で利益や配当が多い会社ほど、評価額は高くなる傾向があると言えるでしょう。

小会社【純資産価額方式】で評価

純資産価額方式は、主に小会社で適用される評価方法です。もし会社を現時点で解散した場合に株主に分配される財産の価値はいくらか、という考え方に基づいています。

具体的には、会社の総資産を相続税評価額に置き換えて評価し直し、そこから負債の合計額を差し引いた純資産価額を基に株価を算出します。

純資産価額(課税時期における総資産価額-課税時期における総負債価額)-帳簿価額の純資産×評価差額に対する法人税等相当額

参考:国税庁「取引相場のない株式等の評価」

この方法では、帳簿上の純資産よりも、含み益のある不動産などが評価額に反映されるのが特徴です。ゆえに、株価が非常に高額になる可能性もあります。また、規模が小さい会社ほど、会社の純資産に着目する純資産価額方式の影響が強くなるのが特徴です。

中会社【併用方式】2つの方式を併用

中会社の場合、大会社的な側面と小会社的な側面の両方を持ち合わせていると考えられています。よって、類似業種比準方式と純資産価額方式の2つを併用して評価額を計算する「併用方式」が用いられます。

具体的には、それぞれの方式で算出した株価を、会社の規模に応じて定められた割合で掛け合わせて合計します。この際、以下の通り中会社を更に大・中・小に分類します

  • 大:類似業種比準方式×0.9+純資産価額方式×0.1
  • 中:類似業種比準方式×0.75+純資産価額方式×0.25
  • 小:類似業種比準方式×0.6+純資産価額方式×0.4

例えば、小会社寄りの「中会社の小」であれば純資産価額方式の比重が高くなります。一方で、大会社寄りの「中会社の大」であれば類似業種比準方式の比重が高くなる傾向があるでしょう。

【特例的評価方式】同族株主以外の株主が用いる評価方法

同族株主以外の少数株主が非上場株式を相続した場合は、特例的評価方式である「配当還元方式」を用いて株価を評価します。

配当還元方式は、その株式を所有することによって得られる年間の配当金額が基準となります。それを一定の利率(国税庁が定める10%)で割り戻し、元本である株価を計算する方法です。具体的には、過去2年間の平均配当金額を基に算出します。計算式は以下の通りです。

(1株あたりの年間配当金配当金額÷10%)×(1株当たりの資本金等の額÷50円)

例えば、1株当たりの年間配当金が10円で、資本金等の額が50円の場合、株価は100円と評価されます。

配当を出していない会社の場合、評価額は非常に低くなりますが、ゼロにはならず一定の最低保障額で評価されることになります。

特例的評価方式は原則的評価方式に比べ、評価額は大幅に低くなるのが一般的です。これは少数株主が経営に関与できず、株式から得られる利益は配当に限られるという実態を前提としているからだと言えます。

評価額が低くなれば、その分相続税の負担も軽くなります。企業の資産や利益が反映されない分、少数株主は低い評価額で株式を取得することが認められているとも考えられるでしょう。

非上場株式を相続した後の具体的な手続きの流れ

相続・贈与に関する書類手続き

非上場株式を相続した場合、株式そのものを誰が相続するのかを確定させ、名義を書き換える手続きが必要です。

この手続きは、他の相続財産と同様に遺産分割協議から始まります。ただし、非上場株式は会社の定款に株式の譲渡制限が設けられていることが多いため、会社との連携も重要だと言えるでしょう。

ここでは、相続発生後に行うべき具体的な手続きの流れを解説します。

1.遺産分割協議により、株式の相続人を確定させる

相続人が複数いる場合は、まず遺産分割協議を開き、誰が非上場株式を相続するのかを決定します。

非上場株式は現金や預貯金と違って簡単に分割できないため、特定の相続人がまとめて引き継ぐのが一般的です。特に、会社の経営を引き継ぐ後継者がいる場合は、経営権の安定のために後継者がすべて相続することが望ましいでしょう。

とはいえ、後継者以外の相続人も株式の取得を希望するケースもあると思います。その際は他の相続財産とのバランスを取る「代償分割」や、株式を売却して金銭で分ける「換価分割」といった方法も検討しましょう。これについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。

相続人全員の合意が得られたら、その内容を「遺産分割協議書」として書面にまとめ、全員が署名・捺印します。

非上場株式は、遺産分割が難しい面も

ただし、非上場株式は、遺産分割が難しいとも言われています。株式は物理的に分割できないため、複数の相続人で分ける際に誰がどれだけ取得するのかで争いになりがちです。

また、市場価値が不明瞭なことから、売却しても買い手が付きにくい点にも注意しなければなりません。適切な遺産分割の方法や折り合いの付け方に迷った場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。

二次相続を見据えた節税を

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2.株式発行会社に連絡して株主名簿の名義変更を依頼する

遺産分割協議によって株式の相続人が正式に決まったら、次に株式を発行している会社に連絡を取ります。株主名簿の名義変更を依頼するためです。この時、会社に対して株主が亡くなったこと、自分が株式を相続したことを証明する必要があります。

名義変更に必要となる一般的な書類

  • 遺産分割協議書の写し
  • 被相続人と相続人の戸籍謄本
  • 相続人の印鑑証明書など

会社は上記の書類を確認した上で、株主名簿を被相続人から新しい相続人の名前に書き換えます。この名義変更手続き(名義書換)が完了して初めて、相続人は株主としての権利を正式に行使することが可能になるのです。

この手続きを怠ると、株主総会への参加や配当の受け取りができなくなるため、速やかに行いましょう。

まとめ|非上場株式の相続では、専門的な知識が求められる

非上場株式の相続は、市場価格がないために複雑な評価が必要となります。評価方式の判定から始まり、遺産分割、名義変更、そして相続税申告と、一連の手続きには専門的な知識が求められるでしょう。

また、予想以上に評価額が高くなれば、相続税の負担が重くなるリスクも存在します。これらの手続きを間違いなく進めるには、相続に詳しい税理士などの専門家に早期に相談することが非常に大切です。親族が経営する非上場企業を相続するの可能性がある方は、ぜひ一度アドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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