譲渡所得税の控除とは?節税に役立つ制度と適用条件について解説
資産を売却した際にかかる「譲渡所得税」の仕組みや控除制度について正しく理解しているでしょうか。「どんなときに税金がかかる?」、「控除制度はどうすれば使える?」と疑問に思う方も多いはずです。本記事では、譲渡所得税の基本から、活用できる控除・特例の種類、適用条件、注意点までを詳しく解説します。不動産やその他の資産を売却予定の方、譲渡益が出そうな方は、節税対策のヒントとしてぜひ最後までご覧ください。
目次
譲渡所得税とは何か

譲渡所得税とはどのような税金なのでしょうか。譲渡所得税の仕組みや課税対象について解説します。
資産を売却して得た利益に課される税金である
不動産や株式などを売却して得た利益(譲渡所得)にかかるのが「譲渡所得税」です。
名称に「所得税」とありますが、譲渡所得に対する所得税・住民税・復興特別所得税の総称として一般的に用いられる呼び方です。売却時には確定申告が必要となります。
参考:No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)|国税庁
課税対象になるもの・ならないもの
譲渡所得税はすべての資産に対して課税されるわけではありません。以下のように、課税対象になるものと対象外のものに分けられます。
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区分 |
課税対象になるもの |
課税対象にならないもの |
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不動産 |
土地・建物の売却益、マンションの譲渡など |
自宅の売却で3,000万円特別控除が適用され所得が0円になる場合 |
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有価証券 |
株式や公社債、投資信託など |
NISA口座での売却(非課税枠内) |
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会員権 |
ゴルフ会員権、リゾート会員権など |
家族や友人との譲渡で利益が発生しない場合 |
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貴金属・美術品 |
金や銀、宝石、骨董品など(売却益がある場合) |
日常使用の装飾品や一般的な家財道具 ただし、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属などを除く |
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その他 |
営利目的の資産取引、事業用資産の売却 |
自家用車や家具、衣類など生活に通常必要な資産 |
生活に必要な資産(家具や自動車など)については原則課税対象外ですが、売却額が高額になる、または営利目的がある場合は課税対象になる可能性があります。
また、資産の種類によって計算方法や適用される税率も異なるため注意しましょう。
参考:No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法|国税庁
所有期間によって長期譲渡・短期譲渡に区分される
譲渡所得税では、資産の所有期間によって適用される税率が異なります。売却した年の1月1日時点で5年を超えて所有しているかどうかで、以下のように区分されます。
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区分 |
所有期間 |
税率 (所得税+住民税) |
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長期譲渡所得 |
5年を超えて所有した資産 |
20.315% (所得税15%+住民税5% +復興特別所得税0.315%) |
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短期譲渡所得 |
5年以下の所有期間 |
39.63% (所得税30%+住民税9% +復興特別所得税0.63%) |
所有期間の起算日は「取得日(購入日)」で、判定基準日は売却した年の1月1日です。例えば、2025年12月に売却する場合、2020年1月1日以前に取得していなければ「5年超」とは認められません。
参考:No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)|国税庁
譲渡所得税に適用できる控除や特例

譲渡所得が発生した場合でも、一定の条件を満たせば税額を軽減できる控除や特例がいくつか設けられています。以下に代表的な制度を紹介します。
マイホーム売却時に使える特別控除
マイホームを売却した場合に適用できる特別控除は、譲渡所得から最大3,000万円まで差し引ける制度です。適用には、売却直前まで実際に居住していた事実や、過去に同じ特例を利用していないことなどの条件があります。また、確定申告による手続きが必要なので注意しましょう。
なお、この特例は後述の「マイホームの買換え特例」との併用はできません。
マイホームの買換えによる課税繰延べ
マイホームの売却後に新たな居住用不動産を一定期間内に取得した場合、譲渡所得税の課税を将来に繰り延べできる特例です。旧居の売却により発生した譲渡益に対する税金は、新居を売却する時点まで課税が猶予されます。
ただし、新居の売却時には、旧居の譲渡益とあわせて課税されます。買換えのタイミングや新居の要件など、制度の利用には厳格な条件があるので注意しましょう。
参考:No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例|国税庁
マイホームの譲渡損失が出た場合の損益通算と繰越控除
マイホームを売却した結果として損失が生じた場合には、その損失を給与所得などの他の所得と通算(損益通算)して、所得税や住民税の負担を軽減できます。
さらに、その年の所得から控除しきれなかった損失は、翌年以降最大3年間にわたって繰り越して控除できます。
この特例の対象となるのは、「住宅ローンが残っているマイホームを売却して損失が出た場合」と「マイホームの買換えに伴い旧居を売却して損失が出た場合」の2つのケースで、どちらの場合も、適用には一定の要件を満たし、確定申告を行う必要があります。
参考:No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)|国税庁
参考:No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)|国税庁
空き家となった被相続人の住宅を売却した場合の特例
相続によって取得した空き家を売却する場合、一定の条件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円まで控除できます。対象となるのは、相続した空き家を耐震リフォーム後に建物付きで売却する場合、または取り壊して更地として売却する場合です。
この特例を利用するには、相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却することに加え、被相続人が一人暮らしだったことや譲渡価額が1億円以下であること、譲渡前に誰も住んでいなかったことなど、複数の細かな要件を満たす必要があります。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
低未利用土地を売却した場合の特別控除
都市部以外の利用されていない小規模な土地(低未利用土地)を譲渡する場合、最大100万円の控除を受けられます。対象となるのは、譲渡価額が500万円以下などの条件を満たすものです。
この特例を利用するには、市区町村からの確認書類を取得し、確定申告に添付する必要があるので注意しましょう。
参考:No.3226 低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除|国税庁
公共事業に伴う土地・建物の譲渡時の特例
行政機関による公共事業(道路整備や河川改修など)のために土地や建物を譲渡した場合、最大5,000万円までの特別控除が認められます。譲渡の相手が国や地方公共団体、またはそれに準ずる事業者であることが条件となります。
制度の適用には、譲渡契約の内容や対象事業が制度の要件に合致しているかどうかの確認が必要です。
参考:No.3552 収用等により土地建物を売ったときの特例|国税庁
特定の動産を売却した場合の特別控除
土地や建物以外の資産、たとえばゴルフ会員権、貴金属、絵画などを売却して利益が出た場合には、年間最大50万円までの譲渡所得が控除されます。ただし、生活に通常必要とされる家具や衣類などは課税対象外です。
複数の資産を売却したとしても、1年間で控除できるのは50万円が上限となります。また、親子や夫婦間など特別な関係者同士の取引では、この特例が適用されないケースもあるため注意しましょう。
参考:No.1460 譲渡所得(土地、建物及び株式等以外の資産を譲渡したとき)|国税庁
譲渡所得税以外で不動産売却に関係する税金

不動産売却では譲渡所得税に目が行きがちですが、実は他にも関係する税金があります。不動産売却の際に発生する主な税金について解説します。
不動産売買契約書にかかる「印紙税」
不動産の売買契約書には、取引金額に応じた「印紙」を貼付する必要があります。これは「印紙税」として課税されるもので、契約書1通ごとに納税が求められます。貼付を忘れたり、金額が不足していると「過怠税」が課される場合もあるため、金額に合った印紙の貼付が必要です。
手数料や報酬にかかる「消費税」
不動産会社に支払う仲介手数料や、司法書士へ支払う登記手続きの報酬には、原則として10%の消費税が課されます。なお、土地の売買価格自体には消費税はかかりませんが、仲介などの付随費用には課税される点に注意しましょう。
登記に関わる「登録免許税」
売却と同時に住宅ローンを完済する場合、抵当権を抹消するための登記手続きが必要となり、このとき発生するのが「登録免許税」です。
抹消登記では1件につき1,000円の税金がかかり、登記の件数や内容によって必要額は変わります。事前に登記費用も含めた売却コストを確認しておきましょう。
譲渡所得税はどのように計算するのか
譲渡所得税はどのように計算するのでしょうか。算出方法や税率の考え方について解説します。
譲渡所得(売却益)を計算する
譲渡所得税の計算は、まず「譲渡所得」と呼ばれる利益を算出します。計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
「取得費」は購入代金や仲介手数料、登記関連費用など取得時にかかった費用を指し、「譲渡費用」は売却時の仲介手数料や印紙税、測量・解体費用などが該当します。建物付き不動産では、取得費から減価償却相当額を差し引く必要があり、考慮しないと課税額が膨らむ可能性があるので注意しましょう。
なお、取得費が不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計上できますが、実際より低くなる傾向があるため、契約書や領収書で正確に確認するのが望ましいでしょう。
参考:取得費がわからないとき(概算取得費の特例) | 国税庁
所有期間に応じた税率をかける
譲渡所得が求められたら、次はその金額に税率をかけて譲渡所得税を算出します。税率は、前述のように不動産の所有期間によって以下の通り異なります。
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下):39.63%
- 長期譲渡所得(所有期間5年超え):20.315%
なお、株式を売却して得た譲渡益については、所有期間に関係なく一律で20.315%の分離課税が適用されます。不動産のような保有年数による税率区分がない点に留意しましょう。
譲渡所得税の控除を活用して節税するポイント
譲渡所得税の負担を軽くするには、控除や特例の使い方を正しく理解しておく必要があります。節税に繋がるポイントについて解説します。
損失が出た場合は所得と通算・繰越する
不動産を売却して損失が出た場合、その損失は給与所得など他の所得と相殺(損益通算)できる可能性があります。これにより、結果として課税所得が減少し、所得税や住民税の負担が軽減されます。
特に、マイホームの売却で損失が出た場合には、確定申告を行えば、損益通算だけでなく翌年以降最大3年間にわたる繰越控除が認められています。売却益が出なくても、損失をうまく使えば節税に繋がります。
所有期間に応じて売却時期を調整する
所有期間が税率に影響するため、売却時期を調整するのも1つの手段でしょう。譲渡所得税は、不動産の所有期間により「短期(5年以下)」か「長期(5年超)」に区分され、税率もそれぞれ約39.63%と20.315%と大きく異なります。
この所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判断されるため、契約や引渡しの時期を調整すれば、より低い税率が適用される可能性があります。
特例の併用や上限ルールを確認する
譲渡所得に適用できる控除や特例は、原則1つの譲渡に対して、同時に複数の制度は使えませんが、制度の性質が異なる場合には併用が認められる場合もあり、一律に判断できないため注意しましょう。
また、特例にはそれぞれ控除額の上限があり、同じ年に複数の資産を売却する場合は、控除の合計額に制限がかかる可能性もあります。最大限の節税効果を得るために、適用ルールや優先順位は事前にしっかり確認しておきましょう。
譲渡所得税の控除に不安がある場合は専門家へ相談
譲渡所得税の控除制度は複雑で、要件を1つでも満たしていないと適用されず、想定以上の税負担に繋がる可能性があります。特に売却時期や所有期間の判定には細心の注意が必要です。
こういったリスクを避けるためには、税務の専門家へ相談するのが有効でしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。