従業員に会社を譲るには?手続きや流れ・注意点をわかりやすく解説
親族に後継者がいない場合、会社を従業員に譲ることはできるのでしょうか。近年、後継者不足を背景に、社内の信頼できる人材へ経営を引き継ぐ「従業員承継」が注目されています。本記事では、従業員に会社を譲る際の具体的な方法や流れ、税制・補助金の活用、注意すべきポイントまで詳しく解説します。従業員への承継を検討している経営者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
従業員に会社を譲る「従業員承継」とは?

従業員承継とは、現経営者の代わりに、会社で働く役員や幹部社員などの従業員が経営を引き継ぐ方法です。会社を長年支えてきた内部の人材が経営を担うことで、これまで築いてきた組織や取引関係を守りながら事業を継続できるでしょう。
親族以外でも信頼できる後継者を選べる
少子高齢化の影響で、家族の中に後継者がいない企業は年々増えていますが、従業員承継なら、経営者の考え方や会社の方針をよく理解している社内の人材を後継者に選べます。
特に中小企業では、外部に会社を売却せず、長年会社を支えてきた従業員に経営を託すケースが増えています。日ごろから一緒に働いてきた従業員であれば、会社の実情や現場の流れも把握しているため、経営者も安心して引き継げるでしょう。
社内で信頼関係が築かれている分、スムーズに経営を移行しやすいのがメリットです。
参考:全国「後継者不在率」動向調査(2024年)|株式会社 帝国データバンク
内部人材による引継ぎで経営の一貫性を保てる
従業員承継では、長年会社を支えてきた社員が経営を引き継ぐため、事業の方向性や社風を大きく変えずに済みます。
外部の第三者に譲渡する「第三者承継(M&A)」と異なり、日々の業務や顧客対応もこれまでの流れを保てるため、経営の中身や組織文化を維持しながら次の世代へ自然にバトンを渡せます。経営の一貫性を守れる点は、従業員承継の大きなメリットです。
従業員・取引先・金融機関の信頼を得やすい
後継者が社内の従業員であれば、会社の関係者全体に安心感が生まれます。経営方針が大きく変わらないため、取引先との取引関係や金融機関との融資も安定しやすく、社外からの信頼を維持したまま経営を引き継げます。
社内外の人々が不安を感じにくい体制を構築できるのも、従業員承継が選ばれる理由の1つです。
事業承継の選択肢を広げられる
従業員承継は、親族に継がせる親族承継や、外部に売却するM&Aに次ぐ第三の選択肢です。
親族がいない場合でも、信頼できる社員に経営を任せれば、会社を残したいという経営者の想いを形にできるでしょう。外部への売却を避けたい企業にとっても、現実的な承継方法として注目されています。
従業員に会社を譲る主な方法

従業員に会社を譲るには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。株式の扱いや資金の流れなど、選ぶ手段によって必要な手続きや税金の負担が異なります。
代表的な方法とそれぞれの特徴について解説します。
株式を有償で譲渡する「MBO(マネジメント・バイアウト)」
MBO(マネジメント・バイアウト)は、経営陣や幹部社員が自分たちの資金や銀行融資で会社の株式を買い取る方法です。お金を払って株を取得するため、経営の権限と責任が明確に後継者へ移るのが特徴ですが、まとまった資金が必要になるため、事前に返済計画を作る・金融機関へ相談するのが大切です。
自力で経営を引き継ぎたい意欲のある幹部社員がいる企業に向いている方法でしょう。
株式を無償で譲る「贈与・遺贈」
経営者が保有する株式を、お金のやり取りなしで従業員に渡す方法です。後継者の資金負担が少なく、手続きが比較的スムーズに進むのがメリットですが、贈与税や相続税がかかる場合があるため注意しましょう。
資金力の乏しい従業員に会社を任せたい中小企業に適した方法です。
経営権のみを譲る
社長が株式は持ったまま、日々の経営の決定権だけを従業員に任せる方法です。大きな資金を用意せずに始められ、後継者を育てながら段階的に権限移譲できるのがメリットですが、株主としての社長の影響力は残るため、完全に独立した経営体制になるまで時間がかかる場合もあるでしょう。
後継者をじっくり育てたい企業や、段階的な承継を希望する経営者に向いています。
従業員に会社を譲る流れ

従業員に会社を譲る場合、どのような手順で進めればよいのでしょうか。
承継の流れを理解しておけば、準備不足やトラブルを防げます。従業員承継を進める際の一般的なステップを解説します。
会社の現状把握と後継者候補の選定
まずは、自社の経営状況や財務内容を整理し、どの従業員が後継者に適しているかを見極めましょう。
候補者には、経営への理解度や判断力、リーダーシップ、周囲からの信頼が求められます。
この段階で現経営者が会社の課題を把握し、後継者育成を意識して計画的に役職や権限を委譲していくのが大切です。
株式や資産の評価を行う
次に、会社の株式や資産・負債を整理して正しい価値を算出します。この「株価評価」は、贈与や譲渡の方法を決める際の重要な基準です。評価を誤ると、贈与税や譲渡所得税の負担が大きくなる場合もあるため、税理士など専門家の助言を受けて慎重に進めましょう。
承継計画の策定と資金調達
承継方法(MBO・贈与・遺贈など)を決定したら、スケジュールや手順を整理しましょう。
後継者が株式を購入する場合は、自己資金だけでなく金融機関の融資や事業承継補助金を活用するのも可能です。計画書には税務・法務・資金面を含め、無理のない実行計画を立てるのが重要です。
参考:法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類 | 中小企業庁
譲渡契約と経営権の引継ぎ
株式や経営権を移す際は、正式な譲渡契約を締結しましょう。契約書には、譲渡価格・時期・今後の役割などを明記しておくとトラブルを防げます。
契約後は、登記や税務上の届出も必要です。旧経営者は一定期間、経営アドバイザーとして関与しながら引継ぎを支援するケースが一般的です。
社内外への周知と体制安定化
新体制が整ったら、従業員や取引先、金融機関に経営者交代を正式に知らせます。
関係者に不安を与えないよう、経営方針や事業の継続性を丁寧に説明するのが大切です。社内では後継者を中心とした新しい経営体制を固め、信頼関係を維持するのが重要です。
従業員に会社を譲るときのポイント
従業員に会社を譲る際、どのような点に注意すればスムーズに進められるのでしょうか。
株式の評価や資金調達など、準備不足によって思わぬトラブルが起きる場合もあります。従業員承継を円滑に進めるために押さえておきたいポイントについて解説します。
早期に後継者を選定し、計画的に育成する
従業員承継は短期間では進められないため、早い段階で後継者候補を決め、経営に必要な知識や判断力を養う計画を立てましょう。段階的に権限を移したり、共同経営期間を設けたりして、経営感覚を身につけさせるのが大切です。
現経営者が時間をかけて引き継ぐことで、社内の混乱を防ぎ、承継後も安定した経営を実現できるでしょう。
株式の正しい評価と税務対策を行う
従業員に会社を譲るときは、自社株の評価を正しく行うのが重要です。株価の算定を誤ると、贈与税・譲渡所得税・相続税が過大に課されるなど、思わぬ税負担が生じる可能性があるためです。
自社株の評価は、純資産価額方式や類似業種比準方式など複数の算定方法があり、企業の規模や業種によって最適な方法が異なります。
また、事業承継税制を活用すれば、一定の条件を満たすことで贈与税や相続税の納税を猶予または免除できる場合があります。
補助金や融資制度を活用して資金負担を抑える
従業員が会社の株式を引き継ぐには、多くの資金が必要になりますが、この負担を軽くするためには、国や自治体が設けている支援制度を活用するのが効果的でしょう。
例えば、中小企業庁の「事業承継補助金」を使えば、承継計画の策定費用や株式取得にかかる経費の一部を補助してもらえます。また、信用保証協会の保証付き融資を利用すれば、銀行からの借入れがしやすくなるため、後継者の資金調達を安定的に進められます。
こういった制度を上手に活用すれば、資金面のハードルを下げ、無理のない形で承継を実現できるでしょう。
専門家・金融機関と連携して支援を受ける
事業承継を進めるには、株式の譲渡契約や税務申告、資金計画など、さまざまな専門知識が必要なため、弁護士・税理士・会計士などの専門家、または取引のある金融機関と連携して進めましょう。
例えば、税理士は自社株の評価や事業承継税制の適用可否を判断し、金融機関はMBO(マネジメント・バイアウト)などで必要な資金調達を支援してくれます。
初期の段階から専門家の助言を受ければ、契約や税金のトラブルを防ぎ、円滑な承継と経営の安定化に繋がるでしょう。
従業員に会社を譲る際は専門家に相談を
従業員承継は、株式評価や税務処理、資金調達、契約関係などが複雑に絡み合うため、判断を誤ると贈与税・譲渡所得税の課税リスクや資金負担が発生する可能性があります。
こうしたリスクを回避し、円滑に承継を進めるには、早い段階で専門家に相談するのが重要です。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。
