相続税の計算は自分でできる?計算の流れや自分でできるケースの条件を紹介

相続税の計算は自分でできる?計算の流れや自分でできるケースの条件を紹介

相続税計算の難易度は、相続人の数、相続財産の内容、適用する特例の種類などさまざまな要素によって変動します。計算量や考慮するべき事項が増えるほど複雑になりミスのリスクも上がるため、専門家である税理士に依頼するのが安心です。

反対に、相続の内容が単純であれば、自分で正確な相続税計算ができる可能性もあります。今回は相続税の計算の流れと、自分で相続税の計算ができると判断できる条件について解説します。

前提|相続税申告が必要なケースとは

前提として、相続税申告が必要なのは、取得した財産の価額の合計額が基礎控除額を超える場合です。

相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円 × 法定相続人の数」で計算します。例えば法定相続人が2人の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円 × 2人=4,200万円となります。

取得した財産の価額の合計額が基礎控除額以下であれば相続税は発生せず、相続税の申告は不要です。

なお、相続税申告の必要性を判断するためには、財産の価額の合計額が基礎控除額を上回るか否かを明確にする必要があります。したがって、すべての相続で財産の合計額の計算はしておいた方がよいと言えるでしょう。

自分で相続税を計算する流れ

換価分割で遺産(家・不動産・株式・預貯金・骨董・美術品)を分割

では、実際に自分で相続税を計算する場合のシミュレーションをしてみましょう。

仮に相続の要件が以下のケースだったとします。

  • 法定相続人:子供A:20歳、子供B:17歳
  • 子供Aが全体の6割、子供Bが全体の4割を相続
  • プラスの財産:6,500万円
  • マイナスの財産(債務):1,000万円
  • 相続税の計算に含める生前贈与:子供Aは0円、子供Bは500万円
  • みなし相続財産、非課税財産、相続時精算課税制度を適用した贈与財産なし
  • 子供Bが未成年者控除10万円を適用

このケースを例にして、相続税計算の流れについて5つの工程に分けて解説をしていきます。

[手順1]正味の遺産額を計算する

はじめに相続や遺贈によって取得した財産の正味の遺産額を計算します。計算方法は以下の流れで行います。

  1. 遺産額を計算する
  2. 生前贈与分を加算する

【ステップ1|遺産額を計算する】

まず、遺産総額から非課税となる財産や葬儀費用・債務などを引いて遺産額を出します。計算式としては以下のようになります。

(相続財産+みなし財産+精算課税贈与財産)-(非課税財産+債務控除)=遺産額

今回の例の場合、(6,500万円+0円+0円)-(0+1,000)=5,500万円となります。

【ステップ2|生前贈与分を加算する】

相続税の計算に含める生前贈与(暦年贈与)を加算し、正味の遺産額を求めます。

遺産額+加算対象となる暦年贈与財産=正味の遺産額(1,000円未満切り捨て)

今回の例の場合、5,500万円+500万円=6,000万円となります。

今回のケースではプラスの財産・マイナスの財産の総額を最初から明確にしましたが、実際は財産ごとに評価額の計算が必要です。

評価額の計算を誤ってしまうと課税価格もズレてしまい、後の計算もすべて誤った結果になってしまうためご注意ください。

相続財産から控除できるものや、計算に含める必要のある生前贈与については以下の記事をご覧ください。

[手順2]課税遺産総額を計算する

正味の遺産額から基礎控除額を差し引いて、課税遺産総額を求めます。

法定相続人は2人のため、基礎控除額は3,000万円+600万円 × 2人=4,200万円となります。したがって、今回の課税遺産総額は以下になります。

正味の遺産額-基礎控除額=課税遺産総額

6,000万円-4,200万円=1,800万円

[手順3]相続税総額を計算する

相続税総額の計算は、以下の3つのステップに分けて行います。

  1. 課税遺産総額を法定相続分で按分する
  2. 各人の相続税額を計算する
  3. 相続税の総額を算出する

【ステップ1|法定相続分で按分する】

まずは法定相続分で遺産分割をしたと仮定して、各人の相続分を計算します。

計算式は以下の通りです。

課税遺産総額×各法定相続人の法定相続分=各人の相続分

今回の例の場合、法定相続分で取得した場合の各々の相続分は以下の通りです。

  • 子供A:1,800万円 × 2分の1=900万円
  • 子供B:1,800万円 × 2分の1=900万円

【ステップ2|各人の相続税額を計算する】

ステップ1で算出した相続分に税率を乗じて、以下の計算式で各人の税額を求めます。

法定相続分での相続分 × 税率=相続税額

今回の場合、子供A・Bそれぞれの税額は以下の通りです。

  • A:900万円 × 10%=90万円
  • B:900万円 × 10%=90万円

(取得金額1,000万円以下の場合の税率10%を適用)

参考:No.4155 相続税の税率|国税庁

今回の法定相続人は子供2人で同順位のため、各人の法定相続分での取得金額および算出税額は全く同じになります。

【ステップ3|税額を合計して相続税総額を計算する】

ステップ2で求めた各人の算出税額を合計した額が、当該相続によって発生する相続税総額になります。

90万円+90万円=180万円

今回の全体の相続税は180万円となります。

[手順4]相続税総額を実際の相続割合で割り振る

手順34で算出した各人の税額は法定相続分で取得した場合の金額であり、実際の遺産分割割合は反映されていません。したがって、相続税総額を各人の実際の相続割合に応じて割り振る必要があります。

相続税総額 × 各人の実際の相続割合 = 各相続人等の税額

今回の場合、子供A・Bそれぞれの税額は以下のようになります。

  • 子供A:180万円×6割=108万円
  • 子供B:180万円×4割=72万円

実際の子供Aの相続税額は108万円、子供Bの相続税額は72万円になります。なお、最初から法定相続分で遺産分割を行なっていた場合は、この手順45の計算は必要ありません。

[手順5]各人の納付税額を計算する

特例の適用が可能な場合は、[手順45]で算出した相続税額から各種税額控除分を差し引くことができます。この控除分を引いた額が最終的な納付税額になります。

今回のケースでは、子供Bに「未成年者控除」を適用するので、控除分として10万円を引きます。

72万-10万円=62万円

子供Bの最終的な相続税の納付額は62万円となります。子供Aには控除の適用がないため、108万円のままとなります。

控除にはこのほか以下のようなものがあります。

  • 配偶者の税額軽減
  • 障害者控除
  • 相次相続控除
  • 贈与税額控除
  • 外国税額控除

各相続人に控除が適用できる場合、それぞれの控除額を適用し、控除適用後の税額を求めます。このほかにも「相続時精算課税分の贈与税額控除」や「医療法人の持分に係る相続税・贈与税の税額控除」などもここで差し引きます。

今回のケースにおける最終的な納税額は以下のようになります。

  • 子供A:108万円
  • 子供B:62万円

参考:No.4152 相続税の計算|国税庁

相続税の計算を自分でできる5つの条件

考える男性

前章で用いた例は比較的単純な内容ではあるものの、それでも複数回の計算が必要です。相続財産や相続人、適用する特例等が多くなれば、さらに計算量が増えて煩雑になります。

複雑な相続は計算が多く難易度が高いため、どうしてもミスや漏れのリスクが高くなります。したがって、ごく単純な相続を除き、相続税の計算を自分で行うことはおすすめできません。

相続税の計算を自分でできそうなケースとしては、おそらく以下の5つの条件に当てはまる場合でしょう。

  1. 相続人が自分1人
  2. 相続財産が預貯金のみ
  3. 相続税の課税対象となる生前贈与をしていない
  4. 複雑な特例の適用がない
  5. 平日に時間を確保できる

1〜4は相続そのものに関する条件、5は納税者自身のご都合に関する条件です。それぞれの条件を満たすべき理由について解説します。

[条件その1]相続人が自分1人

単純な相続といえる条件として外せないのが、相続人が1人であることです。

前章で紹介したように、相続人が複数人いる場合は各人の相続分や各人の相続税額を計算する必要があります。必要な計算が多くなれば、ミスのリスクが高まる上に作業の負担が重くなります。相続人が複数人の場合は専門家に任せた方が良いでしょう。

[条件その2]相続財産が預貯金のみ

相続財産が預貯金のみ、すなわち評価額の計算が不要であることも、単純な相続の条件として挙げられます。

相続財産に不動産や株式が含まれている場合は評価額の計算が必要です。なかでも土地と非上場会社の株式はいずれも計算方法が複雑で、税理士でさえ相続税に不慣れな人は誤りやすい部分です。

評価額の計算を誤ってしまうと税額もズレてしまい、過少申告になってしまう恐れや、反対に税金の払い過ぎになる恐れもあります

一方で、預貯金は評価額を改めて計算する必要はありません。通帳で確認できる残高をそのまま計算に用いるだけで済みます。相続財産が預貯金のみで複雑な計算が不要な場合は、自分で相続税計算ができる可能性が高いです。

相続税評価額の計算が必要な場合は、自分で計算を行うのはリスクが高いため、相続税申告を専門とする税理士に依頼するのが安心です。

[条件その3]相続税の課税対象となる生前贈与をしていない

相続税の課税対象となる生前贈与をしていないことも条件として挙げられます。該当する贈与として以下の2つが挙げられます。

  1. 相続開始前3年以内(税制改正後は7年以内)に行われた暦年課税による贈与
  2. 相続時精算課税制度を適用した贈与

いずれかに該当する生前贈与を受けている場合、課税価格および相続税額に関する複雑な計算が必要です。

仮に入金が相続開始前3年(税制改正後は7年)よりも前で相続税の課税対象になる生前贈与に該当しない場合でも、相続財産とみなされれば相続税計算に含める必要があります。

また、被相続人が相続人名義の口座に預金を入れていた場合、当該口座の預金は名義預金として相続税の対象になる可能性があります。

名義預金とは、口座の名義人と実際に口座を管理している人が異なる預金口座です。被相続人が相続人名義の口座に現金を預け入れた場合、当該口座は相続人の財産ではなく、被相続人のものとみなされる可能性があります。

生前贈与に関する計算や名義預金の判断は、ミスや漏れが起こりやすい部分です。生前贈与がある場合および名義預金かの判断が難しい口座がある場合には、自分で対応しようとせず専門家に依頼しましょう。

相続税の申告期限が近付いている!

申告漏れや追徴課税のリスクを避けるため、今すぐ専門家にご相談ください。

[条件その4]複雑な特例の適用がない

複雑な特例の適用を受けようとする場合は専門家に相談するべきです。自分で控除額を計算するのが特に難しい制度として以下の例が挙げられます。

  • 贈与税額控除
  • 相次相続控除
  • 外国税額控除
  • 小規模宅地等の特例

上記いずれかの特例の適用を受けようとするのであれば、自分での計算は避けましょう。

前述の4つに比べればその他の特例の計算方法は単純といえます。ただし特例は適用可否の判断自体が難しいことも多い上、特例の適用により必要な計算が増えてしまいます

相続税計算の負担が重くなりすぎるのを避けるためにも、特例を適用する可能性がある場合は税理士に相談するのが安心です。

[条件その5]平日に時間を確保できる

相続の内容がどれだけ単純でも、相続税計算に不慣れな場合はどうしても疑問や不安が生じやすいです。そのため必要に応じて税務署に相談できること、すなわち平日に時間を確保できることも相続税計算を自分で行う条件といえます。

なお、税務署では節税対策に関する相談はできません。節税関連のアドバイスやサポートを希望する場合は税理士に相談する必要があります。

相続税計算は複雑・高難易度になるケースが多い!単純な内容を除き自分で計算するのはリスクが高い

相続税の計算方法は細かなルールが定められていますが、基本的に国税庁のホームページで確認可能です。そのため、自分で調べながら計算することも可能ではあります。

ただし、相続税額を求めるには財産の相続税評価額、課税遺産総額、各人の相続税額などさまざまな計算が必要です。相続財産や相続人の数、適用する特例等が増えるほど必要な計算が多くなります。中には難しい計算が必要なケースもあります。

計算の数が増えるほどミスや漏れのリスクが高まる上、計算作業にかかる負担も重くなりやすいです。そのためごく単純な相続を除き、自分で相続税を計算することはおすすめできません。

相続税の計算を複雑にする要素がある場合や、単純な相続でも疑問や不安がある場合は、専門家である税理士に相談するのが安心です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。