土地保有特定会社とは?メリット・デメリット・判定基準をわかりやすく解説
「土地保有特定会社」とはどのような会社を指すのでしょうか。不動産を多く保有する企業は、この区分に該当することで株価評価や相続税額に大きな影響を受ける場合があります。本記事では、土地保有特定会社の仕組みや判定基準、メリット・デメリット、注意すべきポイントまでをわかりやすく解説します。土地保有特定会社を正しく理解したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
土地保有特定会社とは

「土地保有特定会社」とは、会社が保有する総資産のうち土地などが占める割合が7050%以上等である法人を指します。相続税評価の場面では、この割合が基準を超えると「土地保有特定会社」として扱われ、通常の会社とは異なる株価評価方法が適用されます。
判定に含まれる資産の範囲
土地保有特定会社の判定においては、単に土地そのものだけでなく、土地に関連する権利や販売目的で保有する土地も対象に含まれます。以下は、具体的に判定対象となる主な資産です。
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区分 |
含まれる主な資産 |
補足説明 |
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宅地 |
自社が所有する土地 |
事業所・工場・倉庫などの用地を含む |
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借地権 |
他人の土地を借りて使用する権利 |
借地権付建物を保有している場合も対象 |
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貸宅地 |
他人に貸している土地 |
借地契約を結んで賃貸収入を得ているケース |
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貸家建付地 |
建物を貸している土地 |
建物と一体で貸している土地部分が該当 |
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販売用土地 (棚卸資産) |
不動産業などで販売目的に保有している土地 |
売買目的で保有している場合でも評価対象 |
判定の評価基準
土地保有特定会社の判定は、相続や贈与など課税時期における資産構成を基準として行われます。評価は相続税評価額に基づいて算出され、総資産価額に占める土地等の割合によって判定されます。
この割合は会社の規模によって異なりますが、その規模はの基準は業種ごとに総資産価額、従業員数、取引金額によって大会社、中会社、小会社に区分されます。総資産価額に占める土地の割合についてご紹介します。会社の規模によって以下のように異なります。
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会社区分 |
土地保有特定会社の判定基準 (総資産に占める土地等の割合) |
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大会社※ |
70%以上 |
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中会社 |
90%以上 |
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小会社 |
70%以上または90%以上 |
※相続税評価での株式評価上の技術的な分類であり、会社法上の「大会社」(資本金5億円以上など)とは異なる。
大会社では総資産の7割以上が土地等であることが必要で、中会社では9割以上となります。小会社は総資産価額が大会社並みであれば7割以上、中会社並みの場合には9割以上、それ以外であると土地保有特定会社には該当しません。
参考:第1表の1 評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書 | 国税庁
株価評価は「純資産価額方式」のみ
通常、非上場会社の株価は、事業内容や規模に応じて「類似業種比準価額方式」または「純資産価額方式」のいずれかで評価されます。しかし、土地保有特定会社に該当すると、類似業種比準価額方式は使えず、純資産価額方式のみが適用されます。
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評価方法 |
概要 |
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類似業種比準価額方式 |
上場企業の株価や利益、配当などを基準に算定する |
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純資産価額方式 |
会社の保有資産をすべて時価で評価し、負債を差し引いて株価を算定する |
そのため、土地の含み益(帳簿価格と時価の差額)がそのまま株価に反映されやすく、結果的に株価が高く評価される傾向があります。
土地保有特定会社に該当しやすい企業
不動産賃貸業や資産管理会社のように、保有資産の多くを土地が占める企業は土地保有特定会社に該当しやすい傾向にあります。
特に、地価上昇局面では総資産に占める土地割合が上がりやすく、株価評価が高騰して相続税負担が増加するリスクがあるため、定期的な資産構成の確認が重要です。
土地保有特定会社のメリット

土地保有特定会社には、個人で不動産を所有する場合には得られないメリットがあります。
土地保有特定会社を活用して得られる主なメリットについて解説します。
土地を法人に集約して不動産管理を効率化できる
土地保有特定会社を設立する最大の目的は、個人が保有する不動産を法人に集約し、一元的に管理できるようにすることです。
個人所有のままだと、契約・修繕・売却などの判断が煩雑になりがちですが、法人にまとめれば意思決定を一本化できるため、経営判断のスピードとコスト効率を大きく向上させられます。
不動産所得を法人で受けることで節税効果が得られる場合がある
土地を法人にまとめれば、不動産から得られる収益を法人所得として扱えるようになります。
法人税率は個人の高所得層にかかる所得税率よりも低く設定されているため、一定の規模以上の賃料収入を得ている場合には税負担を軽減できる可能性があります。
さらに、役員報酬や配当などにより所得を分散できるため、個人と比べて効率的な節税に繋がる点がメリットです。
資産を株式として保有できるため相続・事業承継がしやすくなる
土地を会社の名義で持っておくと、相続のときに「土地そのもの」ではなく「会社の株式」として引き継げます。
株式は人数に応じて分けやすく、土地の分筆や登記変更といった手間もかかりません。個人で土地を共有するよりも、家族間の話し合いがスムーズに進み、トラブルを防ぎやすくなります。
また、株式であれば、将来の事業承継の際に少しずつ子どもへ譲れるため、無理のない形で計画的に引き継げます。さらに、事業承継税制などの税金の優遇制度を活用できる可能性もあり、後継者の負担を抑えながらスムーズな承継を実現できるでしょう。
法人の信用力を活かして不動産を長期的に安定運用できる
会社として土地を所有しておくと、個人よりも銀行からの信用が高く、融資を受けやすくなるため、不動産の購入や建て替え、修繕などに必要な資金を確保しやすく、安定した運用が続けられるでしょう。
長期的に見ても、資金繰りの改善や資産価値の維持に繋がりやすく、経営面でも安心して不動産を活用できます。
土地保有特定会社のデメリット

土地保有特定会社には多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。土地保有特定会社の設立や運用を検討するうえで知っておきたい主なデメリットについて解説します。
株価評価で「類似業種比準価額方式」が使えない
土地保有特定会社に該当すると、株式評価で「類似業種比準価額方式」が使えず、純資産価額方式のみが適用されます。この方法では会社が保有する資産をすべて時価で評価するため、地価上昇や含み益がそのまま株価に反映され特に土地の含み益(帳簿価格と時価の差)が大きい場合、株価が高く算定されやすくなります。
節税を目的に法人化したにもかかわらず、逆に税負担が増えてしまうケースも少なくありません。
特に、資産規模の大きい法人ほど課税額が膨らみやすく、相続や事業承継の際に資金繰りを圧迫する要因となる可能性があります。
事業承継対策としての自社株評価引下げ効果が得られない
土地保有特定会社では、株価を下げて相続税や贈与税の負担を抑える「評価引下げ策」が使えなくなります。通常の会社であれば、利益や配当を抑える・役員報酬を増やすなどの方法で株価を下げられますが、土地保有特定会社では土地の時価がそのまま評価に反映されるため、こうした対策がほとんど効果を持ちません。
その結果、後継者に株式を引き継ぐ際の税負担を軽減しにくく、事業承継の計画を柔軟に立てにくくなります。
「土地特外し」などの資産組み換えで税務否認リスクがある
土地保有特定会社に該当しないようにするため、土地を売って現金や他の資産に変える「土地特外し(とちとくはずし)」という方法を取るケースがあります。
しかし、これを節税だけを目的に行ったと判断されると、税務署から認められない(=否認される)可能性があります。
例えば、判定の直前だけ土地を一時的に売却したり、形だけ資産を移動させるような行為は、租税回避とみなされるリスクが高いでしょう。実際に事業上の必要性や経済的な理由があり、その後も継続して運用している実態がなければ、節税策として成立しません。
土地保有特定会社に該当しないためのポイント
土地保有特定会社には前述のようなデメリットがありますが、日常の管理や運用を工夫すればリスクを抑えられます。土地保有特定会社に該当しないようにするための基本的なポイントについて解説します。
土地等の保有割合を定期的に把握・管理する
土地保有特定会社に該当しないためには、土地などの保有割合を定期的に確認しましょう。特に、地価の変動や新しい資産の取得・売却があった際には、土地の評価額と総資産のバランスが大きく変わる場合があります。
相続や贈与のタイミングで基準(7050%以上)を超えてしまうと、意図せず土地保有特定会社に該当してしまう可能性があるため、年度ごとや大きな取引の前後で試算しておくのが重要です。
事業用資産や運用資産を増やして土地割合を調整する
土地の割合を下げるには、事業用の設備や機械など、土地以外の資産を増やす方法が有効です。例えば、新規事業への投資やオフィス設備の更新など、実際の事業活動に結びついた資産取得であれば、土地の比率を自然に調整できます。
ただし、帳簿上だけで資産を移したり、名義変更を繰り返すような形式的な対応は、税務上の整合性を欠く恐れがあるため避けるべきです。
「土地特外し」を行う場合は節税目的とみなされないよう注意する
土地を売却して現金化したり、関連会社へ移転するなどで土地保有割合を下げる「土地特外し」は、節税だけを目的とした一時的・形式的な処置だと判断されると否認されやすいので注意しましょう。
例えば、事業再編による資金調達、事業用途の変更に伴う売却、賃貸経営の見直しといった経済的合理性や事業上の必要性が明確であることが求められます。
加えて、第三者価格(市場価格)での取引や取引条件の妥当性を示す見積・鑑定書、社内の決裁記録や事業計画書、売買後の賃貸・運用実績など継続的な運用の証拠を残すのが重要です。
これらが不十分だと、税務調査で取引を否認されたうえ追徴課税や加算税の対象となる可能性があるため、実行前に制度趣旨や証拠の整備を専門家と確認するようにしましょう。
土地保有特定会社の判定や対策に不安がある方は専門家に相談
土地保有特定会社に該当すると、株価評価が大きく上がり、相続税や贈与税の負担が想定以上に膨らむ可能性があります。また、土地割合を調整するための「土地特外し」などの資産組み換えが、節税目的と判断されて税務否認されるリスクもあります。
これらは会社の資産構成や同族関係の議決権割合など、複雑な要素で左右されるため、自己判断で対応するのは困難です。税務・相続に詳しい専門家へ相談しましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。