役員借入金は相続でどう扱う?相続税対策のポイントを解説

役員借入金は相続でどう扱う?相続税対策のポイントを解説

会社への「役員借入金」は、相続時にどのように扱われるかご存じでしょうか。実は、返済不能な場合でも帳簿上の貸付金として評価され、相続税の課税対象になる場合があります。放置すれば所得税や法人税が発生するリスクもあるため、早めの整理が重要です。本記事では、役員借入金が相続で問題となる理由や有効な相続税対策の方法を専門家がわかりやすく解説します。相続税対策を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。

役員借入金とは?

「役員借入金」とは、会社が役員個人から資金を借り入れている状態を指します。

多くは、会社の資金繰りが厳しいときに、社長や役員が自己資金を投入して会社を支える形で発生します。銀行融資を受けにくい創業期や、決算対策として一時的に資金を貸し付けるケースも少なくありません。

経営を支えるための柔軟な手段である一方で、相続時には思わぬ税務上の問題を招く場合もあるため、仕組みを正しく理解しておく必要があります。

参考:No.2606 金銭を貸し付けたとき|国税庁

役員借入金が相続で問題になる理由

役員借入金は、なぜ相続の場面で問題になりやすいのでしょうか。その背景にある基本的な考え方や、どのような観点で注意が必要になるのかを解説します。

相続財産として課税対象になるため

役員借入金は、会社に対する債権として被相続人の財産に含まれます。つまり、会社に貸し付けている金額がそのまま相続税の課税対象となります。

金額が大きい場合、その分相続税の負担も増加するため、生前に対策を取らないと相続税額が膨らむ原因になります。

役員借入金は「会社のために動かした資金」であっても、形式上は被相続人の資産として扱われる点に注意しましょう。

回収見込みのない貸付金も原則評価されるため

会社が赤字や債務超過で返済が難しい場合でも、帳簿上に残る役員借入金は原則として額面どおりに評価されます

実際には回収不能でも名目上の債権が存在するため、課税対象からは外れません。その結果、実際の資金がないのに高額な相続税が発生し、相続人が過大な負担を抱えるケースもあります。

会社・相続人双方に資金繰りの負担が生じるため

会社は相続人に対して借入金を返済する義務を負うため、現金流出が発生する一方で、相続人は会社からの返済がなければ納税資金を確保できない場合もあり、双方に資金繰りの負担が生じます。

返済のタイミングや金額を誤ると、会社の経営にも影響が及ぶため、相続発生前からの計画的な対応が重要です。

将来の相続まで考えたい方へ

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事前にできる相続対策の具体的な方法

事業用資産の計算をする相続人

事前に、どのような備えをしておけば相続時の負担を軽くできるのでしょうか。将来のトラブルや余計な税負担を防ぐために、押さえておきたい相続税対策について解説します。

役員借入金と役員貸付金を相殺して整理する

会社と役員の間で「借入金」と「貸付金」の両方が存在する場合、相殺によって整理する方法があります。

実際に金銭の授受を伴わず帳簿上だけで処理すると形式的と判断されるおそれがあるため、契約書や会計記録を整えて整合性を保つ必要があります。

相殺によって相続時の貸付金残高を減らせば、結果的に相続税の負担を軽減できます。

役員報酬の減額や配当による返済

役員報酬を一時的に減額し、その分を会社から借入金の返済に充てる方法です。

計画的に返済を進めれば、相続時点での貸付金残高を減らし、課税対象額を抑えられます。無理のない範囲で返済を継続すれば、会社の資金繰りへの影響を最小限にしながら効果的な相続税対策が行えるでしょう。

返済計画を文書で残す

会社と役員の間で返済計画書や契約書を作成しておくのも有効です。返済の意思とスケジュールを明確に示せば、税務上「実質的な出資」や「贈与」と判断されるリスクを回避できます。

形式だけでなく、実際の返済履歴を記録しておけば、相続時の評価の根拠にもなり、トラブル防止にも繋がるでしょう。

債権放棄による整理

役員が会社に対する貸付金を放棄すれば、会社の負債を軽減できます。ただし、会社側では債務免除益として法人税の課税対象となる場合があり、個人側でも所得税が発生する可能性があるため注意しましょう。

税務上の影響が大きいため、放棄を行う際は専門家の助言を受けて慎重に判断することを推奨します。

債務を資本金に振り替える

貸付金を資本金へ振り替える「デット・エクイティ・スワップ(DES)」は、役員借入金の整理方法として有効な選択肢の1つです。

振り替えにより会社の返済義務がなくなり、結果として財務体質の改善が期待できます。

その一方で、評価額の設定や各種手続きについては、適正である事実を示す根拠が求められます。税務署からの確認に対応できるよう、必要な書類や記録を丁寧に整えておきましょう。

一部贈与・生前贈与の活用

相続が起こる前に、役員が会社への貸付金の一部を家族へ贈与しておけば、相続時点での貸付金残高をあらかじめ減らせます

暦年贈与の非課税枠(年間110万円)を活用すれば、毎年少しずつ移していく段階的な整理が可能です。

その際は、名義だけの移し替えでは贈与と認められない点に注意してください。実際に贈与が行われた事実を示すため、贈与契約書の作成や資金移動の記録(通帳、振込控え等)をしっかり残しておきましょう。

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相続後に役員借入金があることに気づいた時の対応

相続発生後になって初めて「役員借入金があった」と気づくケースは少なくありません。事前に対策をしていなかった場合、対応を誤ると相続税の申告や会社の会計処理に影響する場合もあります。

そうした状況に直面した際にどのような点を確認し、どのような手順で整理を進めていくべきか、状況に応じた基本的な対応方法について解説します。

まずは会社の返済状況と契約内容を確認する

相続時に初めて役員借入金の存在を知った場合、最初に確認すべきは「会社が返済を続けているか」と「契約書が存在するか」です

返済条件や金額を整理し、帳簿や残高証明と照らし合わせて実態を把握するのが重要です。

現状を明確にしておけば、今後の税務処理や評価の方針を立てやすくなり、相続人間の認識違いによるトラブルも防げるでしょう。

返済が難しい場合は評価減の可能性を検討する

会社の経営状態が悪化しており返済が現実的に難しい場合は、貸付金の評価を減額できる可能性があります

債務超過や返済不能の状況を、財務諸表や税務申告書などの客観的な資料で裏付ける必要があります。これらの書類を整えて、税務署に対して返済不能の根拠を説明できるようにしておけば、適正な相続税評価を受けやすくなります。

会社を引き継ぐ場合は帳簿整理と税務処理を早めに行う

相続人が会社経営を引き継ぐ場合、役員借入金の扱いを曖昧にしたままでは、のちの会計処理や相続人同士の間でトラブルが生じるおそれがあります

生前の帳簿記録や返済計画をもとに、どのように処理するかの方針を早めに定める必要があります。会計・税務の整合性を保ち、事業承継を円滑に進めるためにも、専門家に相談しながら整理を進めましょう。

役員借入金に関してよくある質問

Q&A

役員借入金については、相続や税務の場面で迷うケースも少なくありません。以下に、役員借入金に関してよくある質問を取り上げるので、判断や対応の参考にしてください。

役員借入金は必ず相続税の課税対象になりますか?

役員借入金は会社に対する債権として、役員個人の財産に含まれるため、原則として相続税の課税対象になります

会社が実際に返済できるかどうかに関わらず、帳簿上の金額で評価される点に注意しましょう。

ただし、返済不能が明らかであれば、会社の財務状況をもとに評価減が認められるケースもあります。

返済がないまま長期間放置している場合はどうなりますか?

返済が行われないまま長期間放置していると、税務上「実質的な出資」や「贈与」とみなされ、会社側では債務免除益として法人税の課税対象となり、個人側では所得税が課される可能性があります

放置を続けると「貸付金」としての性質が失われ、結果的に税負担や会計処理のリスクが増すため、定期的な確認と記録の維持が重要です。

相続が発生した後でも対策はできますか?

相続発生後に役員借入金が残っている場合でも、会社の財務状況を確認し、返済が難しい場合には評価減の検討が可能です

また、相続人が会社を引き継ぐ場合には、貸付金の扱いを明確に整理しておけば、相続人間や会社とのトラブルを防げます。

税務処理や帳簿整理を早期に行い、必要に応じて専門家へ相談するのが望ましいです。

役員借入金の相続対策に不安がある方は専門家に相談を

役員借入金は、放置すると「貸付金」として相続税の課税対象となるだけでなく、所得税や法人税が発生するリスクもあります。さらに、返済不能や評価減の判断を誤ると、税務署から指摘を受けたり、相続人同士のトラブルに繋がるケースもあります。

こうした複雑な判断には、税務と相続の両面に精通した専門家のサポートが有効でしょう

小谷野税理士法人では、役員借入金の整理・評価から相続税申告、事業承継のご相談まで、一貫したサポート体制を整えています。リスクを最小限に抑え、最適な方法を検討するためにも、役員借入金の相続対応にお悩みの方は、ぜひ小谷野税理士法人へご相談ください。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。