有限会社の相続とは?持分評価と相続税の計算方法を解説
有限会社を相続する際、持分はどのように評価され、相続税はどのように計算されるのでしょう。会社法の改正により現在は「特例有限会社」として扱われますが、相続の際には出資持分(株式)の評価や会社規模の判定、登記など複雑な手続きが必要です。本記事では、有限会社の相続における持分評価の仕組みから相続税額の計算方法、手続きの流れまで詳しく解説します。有限会社を引き継ぐ予定がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
有限会社の相続とは
有限会社を相続する場合、どのような財産が対象になり、誰がどのように引き継ぐのでしょうか。有限会社の相続に関わる基本的な考え方や、どのような権利が引き継がれるのかについて解説します。
有限会社の相続税の対象は「株式(出資持分)」
有限会社では、株式会社の「株式」にあたるのが「出資持分」であり、出資持分は財産として扱われるため、相続の対象になります。つまり、有限会社を相続すると、出資者(社員)としての立場を引き継ぐということです。
「会社そのもの」や「社長の地位」を引き継ぐのではなく、「会社に対して持っている権利(出資持分)」を受け継ぐ点を押さえておきましょう。
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相続できるもの |
相続できないもの |
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出資持分(株式) |
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なお、2006年の会社法施行により、有限会社は新しく設立できなくなっています。
それ以前に設立された会社は「特例有限会社」として存続しており、法律上は株式会社と同じ扱いを受けますが、株式を発行する仕組みではなく、従来どおり「出資持分」という形で運営されているため、相続の際も株式ではなく出資持分として評価・承継されます。
参考:会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律|e-Gov法令検索
代表者や経営権は自動的に相続されない
出資持分を相続しても、代表取締役の地位や経営権が自動的に承継されるわけではありません。
会社法第590条および第591条に基づき、代表者は定款の定めまたは社員(出資者)の合意によって選任されます。相続発生後は速やかに社員間で協議を行い、新代表者の選任と登記手続きを進める必要があります。
有限会社と株式会社では相続の考え方が異なる
株式会社では株式の譲渡が原則として自由に行えますが、有限会社では、定款に定めがある場合、出資持分を自由に譲渡できません。
例えば、定款に「持分の譲渡には社員全員の承認が必要」と書かれている場合、亡くなった代表者の持分を家族が引き継ぐ際にも、他の社員(出資者)の同意が必要になります。
そのため、相続の前に定款を確認し、持分の譲渡制限があるかどうかを必ず確認しておきましょう。
有限会社の相続手続きの流れ

有限会社を相続するとき、どのような手順で進めればよいのでしょうか。相続手続きの基本的な流れについて解説します。
遺産分割協議で出資持分の承継者を決める
まずは遺言書の有無を確認し、法定相続人を確定しましょう。そのうえで、誰が有限会社の出資持分(株式に相当)を引き継ぐかを話し合い、遺産分割協議で合意を得る必要があります。
協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成して、承継内容を明確に記録しましょう。
社員名簿や出資記録を相続人名義に変更する
出資持分を引き継いだ相続人は、会社の社員名簿や出資口数の記録を相続人名義に変更します。
名義変更が完了していない場合、会社の議決権を行使したり、経営判断に参加することができません。有限会社でも、この名義変更は実務上の必須手続きとされています。
新たな代表者を選任し登記を行う
相続により代表者が交代する場合は、社員間で新代表者を選任し、法務局で代表者変更登記を行います。登記には、就任承諾書や社員総会議事録などの添付書類が必要です。
相続税の申告と納付を期限内に行う
有限会社の出資持分も、他の財産と同様に相続税の課税対象になるため、相続開始から10ヵ月以内に相続税の申告と納付を行いましょう。
非上場会社の持分評価は複雑なため、税理士など専門家のサポートを受けながら進めるのが望ましいです。
有限会社の持分評価方法
有限会社の出資持分は、どのようにして評価されるのでしょうか。3つの評価方式と、会社規模による評価方法の違いについて解説します。
有限会社の持分評価は国税庁の基準に基づく3つの方式で行う
非上場会社(取引相場のない会社)の出資持分は、上場企業のような市場価格が存在しないため、国税庁が定める評価基準に基づいて算定されます。
主な評価方式は以下の3つです。
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評価方式 |
説明 |
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類似業種比準方式 |
同業・同規模の上場企業を基準に、配当・利益・純資産をもとに株価を算出する方式 |
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純資産価額方式 |
会社の資産から負債を差し引いた残余財産を株数で割って評価する方式 |
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配当還元方式 |
会社から受け取る配当金額に基づいて評価する方式 |
会社の規模・株主構成によって評価方法が異なる
有限会社の持分評価では、会社の規模や株主構成に応じて、どの方式を採用するかが変わります。会社の規模は、総資産・従業員数・取引金額などを総合的に見て判定されます。
従業員が70名以上の場合に総資産価額や取引金額が多いときは「大会社」に分類され、従業員数が70名未満の場合に総資産価額や取引金額が少ないときは「小会社」とされます。
その中間にあたる「中会社」は、業種や規模に応じてさらに細分化され、評価方法の比重(類似業種比準方式と純資産価額方式の割合)も異なります。
会社規模ごとの評価方法は、以下の通りです。
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会社区分 |
評価方法 |
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大会社 |
類似業種比準価額 または1株当たりの純資産価額 |
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中会社 |
大 |
類似業種比準価額×0.9+1株当たりの純資産価額×0.1 または 1株当たりの純資産価額 |
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中 |
類似業種比準価額×0.75+1株当たりの純資産価額×0.25 または 1株当たりの純資産価額 |
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小 |
類似業種比準価額×0.6+1株当たりの純資産価額×0.4 または 1株当たりの純資産価額 |
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小会社 |
類似業種比準価額×0.5+1株当たりの純資産価額×0.5 または 1株当たりの純資産価額 |
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中会社では、両方式を一定比率で組み合わせた折衷方式が用いられ、規模が大きいほど業績を重視する「比準方式」が優先され、小さいほど資産を重視する「純資産方式」の比重が高まります。
また会社の規模とは別に、同族会社(親族など特定の株主が議決権の過半数を保有している会社)の場合は、経営権の集中度などを考慮して評価額が調整される場合があります。
特定の株主に経営支配が偏っていると、実際の市場取引での流動性が低いとみなされ、評価額がやや低く算定される傾向があります。
参考:第1表の1 評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書 | 国税庁
有限会社の持分にかかる相続税の計算方法

有限会社の出資持分を相続する場合、相続税はどのように計算するのでしょうか。相続税の基本的な計算手順を解説します。
課税価格の合計を求める
まず、すべての相続財産を相続税評価額時価で評価します。
有限会社の出資持分については、前述の評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式など)で算出した評価額を用います。これに現金・預貯金・不動産など他の相続財産の評価額を加え、総課税価格を算出します。
基礎控除額を差し引く
次に、法定相続人の数に応じて基礎控除額を差し引きます。控除後の金額が「課税遺産総額」となり、相続税の計算の基礎になります。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続分で按分し税率を適用する
課税遺産総額を、法定相続人の法定相続分に応じて按分し、各人の課税価格を求めます。その金額に、国税庁の相続税速算表で定められた税率と控除額を適用して計算します。
各人の相続税額を合計する
それぞれの相続人について算出した税額を合計し、全体の相続税額を求めます。
さらに、配偶者控除・未成年者控除・障害者控除などの税額控除を適用すれば、最終的な納付額が確定します。
有限会社相続後の対応ポイント
有限会社を相続した後、どのような対応が必要になるのでしょうか。有限会社を相続した後に押さえておきたいポイントについて解説します。
事業承継税制を活用して税負担を軽減できる
法人版事業承継税制を活用しましょう。この制度は、後継者が非上場会社の株式(有限会社では出資持分)を相続や贈与で取得した際に、一定の要件を満たせば相続税や贈与税の納税を猶予・免除できる仕組みです。
平成30年度(令和元年)改正で創設された「特例措置」により、納税猶予割合が100%となるなど、条件が大幅に緩和されています。
ただし、特例承継計画の提出、後継者が代表者であること、雇用維持、株式(持分)の継続保有などの要件を満たす必要がある点に注意しましょう。
経営権を引き継いで会社を存続させる
相続後も安定して会社を運営するためにも、早めに必要な手続きを整えましょう。
会社を存続させる場合は、まず定款や登記内容を確認し、代表者変更登記を行う必要があります。あわせて、銀行口座や主要取引先との契約名義も速やかに変更しましょう。
会社を売却または清算して整理する
会社を売却または清算する場合は、資産・負債・契約関係を正確に整理しましょう。承継を行わない場合でも、M&Aによる売却や解散登記など、目的に応じた選択肢を検討するのが重要です。
清算漏れや債務残存があると、後々のトラブルを招くおそれがあるため、税理士や専門家と連携しながら、計画的に手続きを進めましょう。
後継者を選定して経営権を集中させる
後継者を早めに選定し、経営権を集中させる体制を整えましょう。
複数の相続人に出資持分が分散すると、議決や経営判断が滞る原因になるため、遺言書の作成や事業承継計画の策定など、将来を見据えた準備を進めておく必要があります。
有限会社の相続でよくある質問

有限会社の相続では、手続きや権利関係などで迷う場面が多いです。以下によくある質問を取り上げていますので、今後の対応の参考にしてください。
相続しただけで自動的に社長になれますか?
自動的に社長になれるわけではありません。
有限会社では、代表取締役は定款の定めまたは社員(出資者)の過半数の同意によって選任されるため、相続で出資持分を引き継いでも、他の社員の承認がなければ代表取締役には就任できません。
まずは定款を確認し、社員総会などで正式に選任手続きを行いましょう。
名義変更を怠った場合のリスクはありますか?
代表者や役員の変更が生じた場合は、2週間以内に変更登記を行う義務があり、これを怠ると、代表者に対して100万円以下の過料が科されるため注意しましょう。
登記が更新されていない状態では、登記簿上の旧代表者が法的に有効とみなされるため、銀行取引や契約更新、官公庁手続きで不備・拒否を受けるリスクもあります。
相続放棄をしたら会社の権利も放棄されますか?
相続放棄を行うと、被相続人の財産に関するすべての権利義務を放棄することになります。
そのため、有限会社の出資持分も相続対象から外れ、議決権や配当権も失われます。一度放棄すると原則として撤回はできないため、会社への関与をどうするかを含めて慎重に判断しましょう。
有限会社の相続でお悩みの方は専門家に相談を
有限会社(特例有限会社)の相続では、出資持分の評価や会社規模の判定、登記・承継手続きなど、専門知識が必要な工程が多く、誤った対応をすると相続税の過大納付や経営権のトラブルに発展する可能性があります。
こうしたリスクを防ぐには、税務と会社法の双方に精通した専門家へ早めに相談するのが重要です。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。



