贈与契約書の書き方は?雛形の注意点や印紙・印鑑・割印の解説も
贈与契約書は、人から人へ財産を贈る際に作成される契約書です。贈与契約書があると相続でのトラブル防止などに役立ちます。また、不動産や株式の贈与では登記や名義変更の手続きにも必要です。ただし、ネット上に出回る雛形やテンプレートをそのまま使うと証拠力が弱い場合があります。この記事では、贈与契約書が必要なケースやおすすめのケース、作成時に注意したい印紙・印鑑・割印の扱いなどを解説します。
目次
贈与契約書とは?第三者が見ても分かる「贈与の証拠」

贈与契約書とは、贈与の内容や当事者を、第三者が見ても分かるように記録した書面です。
贈与は家族間で行われるケースが多いですが、後から相続人や税務署といった第三者に確認される場面があります。この際「誰から誰に」「どの財産を」「いくら贈与した」が書面で特定できなければ、贈与の事実が疑われるリスクがあります。
例えば子供名義の口座に入れたお金が、贈与されたのか、親が管理しているお金なのか、後から問題になったとします。その際「贈与者:父、受贈者:長男、現金110万円」といった内容の贈与契約書があれば、贈与の事実が明確になり名義預金と誤解されません。
このように贈与契約書は、税務や相続でのトラブル防止につながります。
なお、贈与は民法第549・550条で「無償で財産を与える契約」、「書面によらない贈与は解除できる」と定められています。つまり贈与契約は口約束でも成立しますが、その場合、実際に財産を渡す前なら簡単に取り消せてしまいます。
一方、契約書を作成すれば原則として取り消せなくなり、後から「やっぱりやめた」と言われる事態を防げます。特に財産の受け渡しが後日になるケースや、税務や登記での証拠としては、贈与契約書が必要になる場合があります。
参考:被相続人以外の名義の財産(預貯金)|国税庁
参考:民法 | e-Gov 法令検索
贈与契約書が必要になる代表的なケース2つ

贈与契約書の作成は基本的に任意ですが、契約書がなければ手続きが進まないケースもあります。ここでは、贈与契約書が必要になるケースを2つ紹介します。
不動産の贈与登記をする場合に法務局に提出が必要(印紙に注意)
不動産を贈与する場合、所有権移転登記の申請時に法務局へ贈与契約書を提出します。なお、不動産の贈与契約書には200円の収入印紙を貼る必要があるためご注意ください。
参考:贈与 記載例|法務局
参考:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
参考:土地贈与契約書|国税庁
株式を贈与する場合に名義変更の手続きで必要(印紙不要)
株式を贈与する場合、証券会社や会社の株主名簿で名義変更の手続きを行います。その際に贈与契約書の提出を求められるのが一般的です。なお、不動産とは異なり、株式の贈与契約書には収入印紙は不要です。
株式の贈与手続きについて詳しくは下記の記事をご確認ください。
なお、これらは主なケースです。他のケースで贈与契約書を作るべきかお悩みの方は、ぜひ税の専門家にお気軽にお問い合わせください。
贈与契約書を作るのがおすすめなケース4つ

ここでは「必須ではないけど、贈与契約書を作ると相続などのトラブル防止に役立つ」というケースを紹介します。
年間110万円以内の贈与を毎年行うケース
年間110万円以内の贈与には、贈与税がかかりません。そのため多くの人が利用する方法ですが、毎年繰り返すと「定期贈与」とみなされ、まとめて課税されるリスクがあります。
この場合、贈与のたびに毎回贈与契約書を作成しておけば、各年ごとに独立した贈与であると証明しやすくなります。逆に証拠がなければ「数年分をまとめた贈与」とされ、一括で課税される恐れがあるため注意しましょう。
親から子供へ高額な贈与を行うケース
親から財産をもらった場合、相続の際に「実は貸付だったのでは」と他の相続人に指摘されるケースがあります。貸付とみなされれば、もらったはずの財産は相続財産に戻されてしまうので注意が必要です。
贈与契約書を作成しておけば、「返済義務のない贈与」だと証明でき、相続財産とは区別されます。ただし、贈与者(=あげた人)の死亡前7年以内(現在は前3年以内)の贈与は、契約書があっても相続税の計算に含める必要があるためご注意ください。
子供名義の口座にお金を入れるケース
親が子供名義の口座にお金を入れても、実際は親が通帳を管理するケースがあります。これは「名義預金」とされ、名義は子でも実際は親のお金だとして相続財産に戻され課税される恐れがあります。
この場合、贈与契約書を作成しておけば、「親から子へ贈与した」「子も承諾した」と証明できます。さらに、通帳や印鑑を子自身が使えるようにしておけば、形式だけでなく実態としても贈与が成立していると示せます。
書面と実態を揃えておくと、贈与の証拠力が一層高まるでしょう。
銀行振込ではなく現金手渡しで贈与金額の履歴が残らないケース
親から現金を手渡しで貰うと通帳に履歴が残らないため、贈与契約書がなければ贈与の証拠がゼロになってしまいます。その結果、相続の際に他の相続人から「言っているより多く受け取ったのでは」「実際はいくら貰ったのか」と疑われやすくなります。
贈与は基本的に銀行振込をおすすめしますが、何らかの事情で振り込めない場合は、贈与契約書を作成し金額を記録しましょう。受け取った側は受領書を作り、受け取ったお金をすぐに入金して通帳に残すと安心です。
このように複数の証拠を組み合わせれば、贈与の事実を客観的に示せます。
以上、贈与契約書の作成をおすすめする主なケースを紹介しました。贈与契約書を作るべきかお悩みの方は、お気軽に初回無料相談をご利用ください。
贈与契約書は雛形やテンプレートと併せて証拠力を意識する
贈与契約書、と検索すると、雛形やテンプレートが多数ヒットします。ただし最も重要なことは「証拠力をどう担保するか」です。
雛形やテンプレートは「形式を整える参考」にすぎないので注意
贈与契約書には、決まった書式はありません。手書きでもパソコンでも作成可能です。インターネット上にあるPDFやWordの雛形は、体裁を整える点では便利でしょう。
ただし、雛形をそのまま使っただけでは「贈与の事実を証明する証拠」として不十分な場合があります。契約書は体裁よりも、中身と証拠力が重要です。次の項目で、証拠力を高めるポイントを解説します。
贈与契約書の書き方は?契約書は2通作成して双方で保管
贈与契約書には次の内容を盛り込んでおくと、後で贈与の事実を示しやすくなります。
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記載事項 |
ポイント |
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日付 |
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贈与者(=あげる人)と受贈者(=もらう人)の住所・名前 |
誰と誰の契約か特定できるように |
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署名・押印 |
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贈与の対象 |
不動産・現金・株式などを正確に |
上記の表にある「贈与の対象」は、「何を贈与したのか」を誰が見ても分かるように書きましょう。具体的には下記の通りです。
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贈与の対象 |
ポイント |
具体例 |
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不動産 |
登記事項証明書(登記簿)の表題部通りに書く |
【土地】 所在 東京都渋谷区○○一丁目 地番 23番 地目 宅地 地積 123.45㎡ 【建物】 所在 東京都渋谷区○○一丁目23番地 家屋番号 23番 種類 居宅 構造 木造かわらぶき2階建 床面積 1階 43.00㎡ 2階 21.34㎡ |
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現金 |
改ざん防止のため、金額を漢数字+算用数字で二重表記すると安心 |
現金五百万円(¥5,000,000) |
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上場株式 |
銘柄名と株数を明記 |
株式会社○○の普通株式1,000株 |
※「約100平方メートル」「約100万円」といった概数表記はせず、正確な数字を書く
契約書は2通作成し、贈与者・受贈者が1通ずつ保管しましょう。
印鑑は何でも良いが「実印+印鑑証明添付」だと証拠力アップ
贈与契約書では、署名の横に印鑑を押します。認印でも有効ですが、最も証拠力が高いのは実印です。さらに印鑑証明書を添付すれば、本人確認の裏付けとなり、証拠力は一層高まります。
なお、印鑑の違いは以下の通りです。
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実印 |
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認印 |
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浸透印 |
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民事訴訟法では「本人の署名や押印がある私文書は、真正に成立したものと推定する」と定められています。つまり、手書きの氏名や押印があるだけで、法律上も証拠力が認められやすいのです。
割印は必須ではないがやっておくと証拠力アップ
贈与契約書は2通作成し、贈与者と受贈者がそれぞれ保管します。このとき2通が同じ内容であると示すため、2通にまたがって割印を押しておくと証拠力が増し安心です。
また、贈与契約書が2ページ以上になる場合は、ページを開いた状態で割印を押すと、差し替えや改ざんを防げます。
割印は贈与者か受贈者の片方だけでも構いませんが、双方の印鑑があるとベストでしょう。
なお、訂正を想定した「捨印」は不要です。
不動産の贈与契約書には印紙に消印が必要
不動産の贈与契約書の場合、収入印紙を貼り、さらに消印を行う必要があります。消印とは、印紙と紙に跨ってする押印で、印紙の再利用を防ぐために行います。
消印に使う印鑑の種類は問われません。シャチハタや三文判でも法的には問題なく、署名でも有効です。ただし、誰が消印したか分かるようにする必要があるため、贈与者または受贈者の印鑑か署名で消印を行いましょう。
参考:印紙の消印の方法|国税庁
振込履歴や領収書の保管・贈与税申告など組み合わせて証拠を補完
贈与契約書だけでは、証拠として不十分な場合があります。そのため、銀行振込の履歴や、現金手渡しなら受領書などを併せて残しておくと安心です。
また、贈与税申告も有力な証拠になるでしょう。贈与税申告書は税務署に提出する公的な書類で「いつ・誰から・誰に・いくら贈与したか」が明確に記録されるからです。
贈与税申告は、110万円を超える贈与を受けた場合や、教育資金や結婚・子育て資金の非課税特例を利用する場合に必要です。
証拠力が高い贈与契約書の雛形
上記を踏まえて、証拠力が高くなる贈与契約書の雛形を下記に準備いたしました。参考にしてください。
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贈与契約書
贈与者・渋谷A郎(以下「甲」という)と、受贈者・渋谷B子(以下「乙」という)は、令和X年X月X日、以下の通り贈与契約を締結した。
第1条 甲は乙に対し、現金百十万円(¥1,100,000)を贈与することを約し、乙はこれを承諾した。
第2条 甲は前条の贈与金額を、令和☓年☓月☓日までに、乙の指定する銀行口座へ振込む方法により引き渡す。
本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙双方が署名捺印の上、各1通を保管する。
令和X年 X月X日
(甲)東京都渋谷区代々木X丁目X-X
渋谷A郎(手書き)(実印)
(乙)東京都渋谷区代々木X丁目X-X
渋谷B子(手書き)(実印)
贈与契約書の必要性や書き方にお悩みの方はご相談ください
この記事では、贈与契約書の概要や必要になるケースなどについて解説しました。
贈与契約書は不動産や株式の贈与をする際に必要です。また、現金の贈与でも、作成しておくと相続などの際に有利に働くケースが多いでしょう。
とはいえ、慣れていない場合は、贈与契約書を作った方がいいケースなのか、どう書けばいいのかなどと不安になると思います。
お悩みの方は、ぜひ贈与税や相続税に詳しい専門家にご相談ください。贈与契約書の書き方から、相続人や税務署に指摘されにくい形での贈与までサポートいたします
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。


