小規模宅地等の特例は共有名義でも適用できる?兄弟相続で失敗しないための全知識

小規模宅地等の特例は共有名義でも適用できる?兄弟相続で失敗しないための全知識

相続税の代表的な節税策である「小規模宅地等の特例」は、土地が複数名の共有名義でも適用できます。ただし、特例が適用できたとしても土地の共有名義はトラブルの元です。

本記事では、「小規模宅地等の特例」の適用条件や注意点、共有名義以外の選択肢について具体的な事例を交えて分かりやすく解説します。

【前提知識】共有名義と小規模宅地等の特例の基本

結論、小規模宅地等の特例は共有名義でも適用できます。ただし、その仕組みは少し複雑です。特例を正しく理解して適用するためには、まず「共有名義」と「小規模宅地の特例」について基本を押さえることが重要です。

不動産の共有とはどのような状態?

不動産の共有とは、1つの不動産を複数名で共同所有している状態です。登記簿に所有権の割合として「持分」が記載されており、持分に応じて不動産全体を利用できます。実際に住んだり利用したりしているかどうかと持分は関係ありません。

共有と混同しやすい概念として「分筆」があります。共有は登記簿上で1つの土地を複数人が共同で所有するのに対し、分筆は土地を分割してそれぞれ別の土地として登記することです。

相続の場面では、相続人同士が不動産の分け方について合意できない場合に共有名義を選択する場合があります。しかし、とりあえず共有にしてしまって後悔する例が後を絶ちません。

共有名義の土地の管理・処分には共有者全員の合意が必要であり、誰かひとりでも反対すると手続きが進まないのです。共有名義とする場合は、本当にその選択が妥当なのか慎重に検討することが大切です

関連記事:不動産・土地を兄弟で相続する場合の分割方法とは?注意点も解説!

小規模宅地等の特例の基本

小規模宅地の特例は、亡くなった方の自宅や事業用の土地を相続する際に、土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です特例を適用することで相続税の負担を大幅に軽減できます。

種類

対象となる宅地

限度面積

減額割合

特定居住用宅地等

被相続人等が居住していた宅地

330㎡

80%

特定事業用宅地等

被相続人等が事業を営んでいた宅地

400㎡

80%

貸付事業用宅地等

不動産貸付業を営んでいた宅地

200㎡

50%

特例が適用されるパターンにはいくつかの種類があり、それぞれ適用要件や減額割合、限度面積が異なります。

参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

関連記事:【税理士監修】相続税の土地評価額の計算方法とは?土地評価額を抑える方法も解説!

特例の適用は取得者ごとに判定

共有名義で土地を相続する場合、小規模宅地等の特例は相続人全員に一律に適用されるわけではありません。特例の適用可否は、相続人それぞれが要件を満たしているか否かによって個別に判定されるのです。

例えば兄弟で実家を共有する場合、兄が亡くなった親と同居していたなど要件を満たしていれば兄の持分には特例が適用されます。一方、親と別居しており要件を満たさない弟の持分には適用されません。

共有名義で相続する際は、相続人のうち誰が特例の適用要件を満たしているか、事前にしっかり確認することが大切です。

「誰が相続するか」と特例の適用有無

共有不動産に小規模宅地等の特例を適用する際は、各相続人の状況や土地・建物の状態によって、判断が複雑になります。

ここでは、同居親族が相続する場合と別居親族が相続する場合に分けて特例適用の判断がどのようになるかを解説します。

同居親族が相続する場合

亡くなった方と同居していた親族が、自宅の不動産を相続する場合に特例が適用されます。相続税の申告期限(原則として被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内)まで引き続きその土地と建物を所有し、住み続けることが条件です。

例えば、父が亡くなり、父と同居していた長男と、別居している次男が実家を持分1/2ずつの共有で相続するとします。長男は同居要件を満たすため、長男の持分1/2に対して特例が適用され、その分の相続税評価額が減額されます。

一方、次男は父と同居しておらず、別に持ち家があるため、特例の要件を満たしません。したがって、次男の持分1/2には特例が適用されず、評価額の減額はありません。

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例対象となる同居とは?条件や定義について解説

別居親族が相続する場合(家なき子特例)

亡くなった方に配偶者や同居親族がおらず、別居していた子どもや孫が自宅を相続するケースもあります。

相続開始前3年以内に自分や配偶者が持ち家に住んでいなければ、通称「家なき子特例」が適用される可能性があります。ただし、単身赴任などで一時的に持ち家を離れている場合は要件を満たしません。

例えば、一人暮らしだった父が亡くなり、持ち家がない長男と、持ち家がある次男が実家を持分1/2ずつの共有で相続するとします。長男は持ち家がなく「家なき子」の要件を満たすため、持分1/2に対して特例が適用され、評価額が減額されます。一方、次男には持ち家があるため要件を満たさず、特例は適用されません。

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例の「家なき子特例」とは?要件や必要な手続き、注意点を徹底解説

土地と建物の所有関係と特例の適用有無

小規模宅地等の特例が適用されるかどうかは、誰が相続するかだけでなく、土地と建物の所有関係にも大きく左右されます。ここでは、複雑になりがちな所有関係のパターン別に、特例適用の判断基準を解説します。

土地が共有・建物は単独所有の場合

土地は亡くなった方が複数名と共有していたものの、その土地の上にある建物は亡くなった方の単独所有だった場合などに発生します。

小規模宅地の特例は土地に適用されるため、特例を受けられるかどうかは土地を相続する人が要件を満たしているかで判断します。建物の所有権名義人であっても、土地の相続人でなければ特例を適用できません。

したがって、土地の持分を相続する人の中で、同居要件や家なき子要件を満たす人の持分にのみ特例が適用されます。

土地が単独所有・建物は共有の場合

亡くなった方が土地を単独で所有していたものの、建物は亡くなった方と他の相続人が共有していた場合などに発生します。

この場合も同様に、土地を単独で相続する人が特例の要件を満たすかどうかがポイントです。要件を満たせば、土地全体に対して特例を適用できます。

ただし、建物の共有状態は土地の共有以上にトラブルの原因となりやすいです。後述の共有名義の相続に潜むリスクや不動産の分割方法を確認し、早期に共有状態を解消することをおすすめします。

土地も建物も共有の場合

土地と建物の両方が複数人で共有されている状態です。特例は土地にのみ適用されるため、土地を相続する人が要件を満たすかを確認する点は変わりません。

しかし、このパターンが特に複雑でリスクが高いのは、同じものを公平に分けたはずなのに、相続税上の評価額に大きな差が生まれるからです。

例えば、兄弟で実家を共有する場合、親と同居していた長男は特例を適用でき、土地の評価額が大幅に下がります。一方、親と別居して持ち家のある次男は特例を使えないため、本来の評価額で税金を計算する必要があります。

同じ不動産を半分ずつ相続したにもかかわらず相続税の金額が大きく異なるため、相続人同士の関係が悪化する要因となりかねません。不公平感を解消するために、特例を適用する方が共有者に代償金を支払う場合もあります。

共有名義の相続に潜むリスク

考える男性2人

共有名義は一見すると公平に思えるでしょう。土地や建物を誰か一人が相続することに全員が合意できない場合、折衷案として共有名義にしてしまうケースもあります。

しかし、共有名義は良いことばかりではありません。ここでは、知っておきたい共有名義のリスクを2つ紹介します。

リスク1|売却や建替え時に意見が食い違う

共有不動産は、売却や建替えなどの重要な判断を行う際、共有者全員の同意が必要です。意見が分かれると手続きが進まず、不動産の活用が滞る可能性があります。

例えば、実家を売却して現金化したい人と、思い出の詰まった家を残したい人がいるケースが典型例です。

将来的に共有者が亡くなると、その子どもたちが相続することで新たな共有者が増えるのも問題です。権利関係がどんどん複雑になり、関係者が数十人規模で担ってしまうと、売却や活用の合意形成はほぼ不可能でしょう。

法的手続きで解決を図ることも可能ですが、相続人同士の関係悪化や長期的な争いを招くおそれがあるのが難点です。

リスク2|税務調査で指摘される「居住実態」

小規模宅地等の特例を適用するにあたり、税務署が特に注目するのが居住実態です。単に住民票を移しているだけでなく、実際に生活の拠点として利用していたかどうかが判断されます。

居住実態の証拠となるのは、電気やガスの使用状況、郵便物の受け取り、近隣住民の証言などです。共有名義では特例を適用する相続人全員の居住実態が、個別に厳しくチェックされます。

また、相続人同士の認識のズレも大きなリスクです。例えば、申告書には「住んでいた」と記載しても、税務調査時に別の相続人が「実際には住んでいなかった」と証言した場合、申告内容と証言の矛盾から、特例が否認される可能性があります。これは、共有名義ならではの落とし穴です。

本当に共有名義が最善策?不動産の分割方法

共有名義は将来的なトラブルにつながりやすいため、他の遺産分割方法と比較検討することをおすすめします。不動産を分割する代表的な方法は、「持分買い取り」「換価分割」「代償分割」の3つです。

持分買い取り|持分を買い取って単独所有にする

共有不動産を単独で所有したい人が他の共有者から持分を買い取り、不動産全体の所有権を得る方法です。親と同居していた長男など住み続けたいと希望する人がいて、他の共有者が現金での清算を望んでいる場合に適しています。

持分買い取りのメリットは、思い出のある実家や先祖代々の土地を第三者に売却することなく守れる点です。一方で、持分を買い取る人に十分な資金がないと実行できない点や、買取り価格の決定が難しい点がデメリットです。

持分を売却した人には、売却で得た利益に対して所得税と住民税が発生します。持分を買い取る人には、登記の際の登録免許税や不動産取得税が発生します。

相続した不動産を売却する場合、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を適用できる可能性があります。売却の前に税理士に相談しましょう。

関連記事:不動産を相続後に売却するなら3年以内に!節税効果の高い売却方法

換価分割|売却して現金を分ける

換価分割は、共有不動産を売却して現金に換え、代金を共有者間で分け合う方法です。共有者全員が不動産の利用を望んでおらず、公平に現金を分けたい場合に適した方法と言えます。

売却代金を持分割合に応じて分配するため、金銭的に公平である点がメリットです。また、共有関係を解消できるため、将来のトラブルのリスクがなくなります。

しかし、不動産売却には手間と時間がかかり、市場状況によっては希望する価格で売れないケースもあります。裁判による競売となると、市場価格よりも大幅に低い価格で売却される可能性が高い点には注意が必要です。

不動産を売却したことで得られた利益は譲渡所得となり、所得税や住民税の課税対象となります。売却にかかる費用は、持分割合に応じて全員で負担するのが一般的です。

関連記事:不動産の換価分割とは?代償分割や現物分割との違いは?選択基準と手続きについて

代償分割|単独で相続して金銭で清算する

代償分割は、特定の共有者が不動産を単独で相続する代わりに、他の共有者にその持分に見合う現金を支払って清算する方法です。遺産分割協議の段階で、共有者全員の合意をもって取り決めます。

不動産を売却する必要がないため、住み続けたい人がいる場合も生活を脅かされないことがメリットです。一方で、後から持分を買い取る場合と同様に、代償として支払うための十分な現金や預貯金があることが前提となります。

代償金は相続財産を公平に分けるためのものとみなされるため、原則として代償金を受け取る側に税金は発生しません。ただし、遺産分割協議書に代償分割の旨を明記しないと、代償金が贈与とみなされ、贈与税が課されるリスクがあるため注意が必要です。

また、代償金が相続財産の価値を明らかに超える場合は、超過分が贈与とみなされ、贈与税が課税される場合があります。対象となる不動産の価値を把握し、適切な金額の代償金を支払うことが大切です。

関連記事:土地の相続者が複数いる!代償分割で解決する方法

まとめ

小規模宅地等の特例は、相続税負担を大幅に軽減できる可能性がある有効な制度です。共有名義で相続した場合は相続人ごとに適用の可否が判断されます。実際に適用を受けられるかは、相続する方の関係、居住実態、土地と建物の所有関係などによって変わるため、専門家に確認すると安心です。

また、不動産を共有名義にしておくこと自体がトラブルの原因となりやすいため、財産の分け方や持ち方についても慎重に検討する必要があります。円満な相続を実現するために、相続人間の話し合いだけで解決しようとせず、不動産鑑定士や税理士などの専門家に相談しましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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