不動産の名義変更を生前贈与で行うメリットは?相続時との違いを解説

不動産の名義変更を生前贈与で行うメリットは?相続時との違いを解説

親族から不動産を受け継ぐにあたり、必要となる手続きが「名義変更」です。名義変更を行うタイミングとしては、一般的には被相続人が亡くなった後に行う場合と、生前に贈与という形で行う場合が考えられます。では、双方で支払う税金等に違いはあるのでしょうか?

ここでは早めの相続対策を検討している方に向けて、生前贈与と相続時の名義変更の違いについてまとめましたのでご覧ください。

生前贈与と相続の主な違いは「控除額」にある

被相続人が生きている間に、相続人に財産を譲ることを「生前贈与」と言います。生前贈与は、年間110万円までなら非課税となる控除を受けることが可能です。

しかし、財産が110万円を超えるケースでは、相続時に名義変更を行った方が税金が安くなる傾向があります。相続税には、以下のような多額の基礎控除制度が設けられているからです

相続税の基礎控除

基礎控除=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

もし早めに相続対策ができる方は、年間110万円を超えない範囲で財産を譲り続けるという方法もあります。ただし、相続開始の時期によっては「生前贈与加算」の対象になることも考えられるため注意が必要です。

この制度に関しては、以下の記事でも詳しくご説明しています。

関連記事:暦年課税が改定|生前贈与加算の期間が7年になるとどんな影響がある?

参考:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」

不動産は「相続時」に名義変更されることが多い

不動産の生前贈与において問題となりやすいのが、「財産の価値が大きすぎる」ケースです。土地や家は数百万円を超える評価額となることが多いため、そうなると年間110万円の控除を超えてしまいます。

一方で、相続税の基礎控除を利用すれば、非課税で土地や家を相続できる可能性もあります。ゆえに不動産は「相続時」に名義変更されるケースが多いです。

「名義変更だけなら贈与税はかからない」は誤解!

よくある誤解として、「名義を変えるだけなら贈与に該当しない」というものがあります。特に同居していた家などを受け継ぐ場合、書類上で手続きを行うだけで、新たに建物を所有するという感覚は薄いかもしれません。

しかし、名義変更が行われると、その背景について税務署はしっかり調査します。名義を変えた時点で「権利の移転」が発生したと考えられるからです。被相続人が生きている間の名義変更は一般的に「生前贈与」と見なされるので注意しましょう。

生前贈与として名義変更した方が良いケースとは?

登記済権利書

土地や家などの「不動産」は、一般的には高額になりやすいです。110万円の控除額を踏まえると、生前贈与は難しいと考える方が多いでしょう。

実際、控除の範囲を超えると贈与税の方が相続税より税金が高くなる傾向もあります。しかし、なかには価値が大きい財産であっても、生前贈与の方が適しているケースが存在するのです。

果たしてどのような事例なのか、以下より具体的に見ていきましょう。

配偶者控除や相続時精算課税によって節税が見込める場合

婚姻期間が20年以上、かつ以下の要件を満たす夫婦は、贈与であっても「配偶者控除」を受けられます。

(1)夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと。

(2)配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であることまたは居住用不動産を取得するための金銭であること。

(3)贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。

(注1)「居住用不動産」とは、専ら居住の用に供する土地もしくは土地の上に存する権利または家屋で国内にあるものをいいます。

(注2)配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。

引用:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」

これにより基礎控除である110万円の他に、「2,000万円」の特別控除が加算されます。そのため、価額が2,110万円以下の居住用不動産であれば、早めの生前贈与を行う方が安心とも言えます。

また、配偶者以外にも利用可能なのが「相続時精算課税」制度です。「2,500万円+年間の基礎控除額」まで贈与税を納めずに財産を受け取れる仕組みで、被相続人が亡くなった際に効力が発生します。贈与された財産はのちに相続税の対象となりますが、贈与時の時価を基準に税金が課されるのが特徴です。

つまり、将来的に価値が上がりそうな不動産を早めに生前贈与しておけば、節税対策にもなる可能性が高まります。ただし、この辺りの判断は難しい部分もありますので、できれば不動産鑑定士の査定や税理士の意見も取り入れましょう。

関連記事:相続時精算課税制度の改正点とは?メリットもわかりやすく解説!

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引き継ぎのトラブルを予防したい場合

税金のことを考えると、相続時に名義変更した方が良いと思いつつも、自分の死後に任せるのは不安が残る…という方もいるでしょう。例えば、相続人が複数いてお互い疎遠であったり、相続人に腹違いの兄弟がいたりといったケースです。

このような状況では、あらかじめ当人たちと話し合い、生前贈与を行っていた方が安心と言えます。少なくとも不動産に関する登記手続きは不要となりますので、大きな財産を既に処理している分トラブルは少なくなる可能性が高いでしょう。ただし、これに関しては遺言書を残すなど別の手段でも対策は可能です。

関連記事:争族とは?相続トラブルを防ぐために知っておきたい原因と対策

将来的に判断力が低下する不安がある場合

誰にとっても、いつ何が起こるか分からないリスクが「認知症をはじめとする病気です。実際、親や配偶者が施設に入居しなければならなくなり、その費用を捻出する上で自宅を売却するケースも少なくありません。

しかし、当人が認知症等で判断力が低下していると、サインをするのも儘ならないことがあります。将来的に介護や施設入所をサポートしてくれる家族がいる方は、元気なうちに生前贈与を検討するのも一つの方法です。

関連記事:【税理士監修】認知症であっても生前贈与は可能?注意点を解説

生前贈与と相続で手間も異なる!不動産の名義変更の流れ

不動産の分割イメージ

ここからは不動産を名義変更するにあたって必要な手続きについて解説します。生前贈与と相続ではかかる手間や税金も変わってくるため、しっかり確認しておきましょう。

生前贈与と相続における名義変更の流れ

生前贈与の手続きは、基本的には法務局へ必要書類を提出することで完了します。特に不備がなければ、1~2週間で登記を済ませることも可能です。

  1. 不動産の内容を踏まえ、お互いの意思を確認する
  2. 必要書類の収集
  3. 不動産名義変更の申請書・添付書類を作成
  4. 法務局に提出・締結

一方、相続の場合は「相続人の調査」から始まるため、生前贈与より時間がかかる傾向にあります。

  1. 不動産を確認し、相続人を調査する
  2. 遺産分割協議などを行う
  3. 名義変更に必要な書類の収集・作成
  4. 不動産名義変更の申請書と添付書類を法務局に提出

特に相続人が複数いる場合、誰が不動産を受け継ぐかという「遺産分割協議」が必要になることもあります。

生前贈与は贈与する側とされる側、双方の意思で進められますが、相続はそうはいきません。遺留分も含め、相続権を持つ人全てで話し合う流れになりますので、トラブルのリスクも考慮する必要があります。

参考:法務局「不動産登記申請手続」

関連記事:【税理士監修】土地の相続では名義変更が必要!方法や必要書類、放置するリスクなどを解説

名義変更で必要となる主な書類は?

不動産の名義変更で必要となる書類は、生前贈与でも相続でも基本的には共通しています。代表的なのは以下の書類で、主に市役所や区役所などで発行が可能です。

  • 戸籍謄本
  • 除籍謄本
  • 改製原戸籍
  • 戸籍の附票
  • 住民票
  • 印鑑証明書
  • 不在住証明、不在籍証明
  • 固定資産評価証明書
  • 登記簿謄本(全部事項証明書)
  • 公図

また、上記の書類には全て「発行手数料」がかかります。一部あたり数百円程度ではありますが、揃えるとまとまった額になります。それぞれの書類の発行にかかる諸費用についても調べておきましょう。

生前贈与と相続では、かかる税金にも違いが

土地や不動産の生前贈与と相続では、かかる税金の種類に違いが生まれることもあります。以下に共通する税金、および片方のみに発生する税金をまとめましたので、参考としてご覧ください。

生前贈与

相続

登録免許税

贈与税

×

不動産取得税

×

相続税

×

登録免許税」とは、土地や不動産の所有権を持つにあたり必要となる税金です。これは相続では一般的に評価額の0.4%が課されます。しかし、生前贈与では2.0%または1000分の20と、約5倍の税率になるのが特徴です。仮に不動産評価額を3,000万円とすると、相続なら12万円、贈与では60万円ですから、負担額はかなり違うでしょう。

また、贈与の場合は新たに不動産を手に入れたとして「不動産取得税」も課されるため、注意が必要です。更に、相続税は基本的に相続の際に課税されますが、相続時精算課税を利用した生前贈与などでは両方に共通することもあります。

このように、基本的には「相続より贈与の方が税金は高い」仕組みになっていると覚えておきましょう。

参考:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」

関連記事:土地や不動産を親から子へ名義変更した場合の税金はいくらになる?

まとめ|財産の特性を把握し、早めに準備を行おう

土地や不動産の名義変更は、生前か死後かでメリットや手続きが変化します。支払う税金が大きく違うこともありますので、将来的に贈与や相続を行う予定がある親族と示し合わせておく方が安心です。

しかし、特に高額になりやすい財産については、その価値やかかる税金の把握が難しい部分もあります。悩みがある方は後悔しないよう、現状も含めて税理士や司法書士などの専門家に一度相談してみてください。きっと頼りになるパートナーとして、様々な選択や手続きの助けとなってくれるでしょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。