相続税の配偶者控除とおしどり贈与、どっちが得?違いも解説
相続税対策として有効である贈与には、夫婦で利用できるおしどり贈与の特例があります。この記事では、相続税の配偶者控除とおしどり贈与はどちらが得なのか、それぞれの違いについて解説しています。
目次
贈与と相続の関係性
贈与は無償で財産を譲る行為のことを指し、相続は亡くなった方の財産を引き継ぐことを指します。贈与によって取得した財産には贈与税が課せられ、相続によって取得した財産には相続税が課せられる仕組みになっています。この2つは全く別の制度ですが、無関係というわけではありません。
以下では、それぞれの税金の計算方法や贈与と相続の関係性について解説していきます。
贈与税の計算方法
贈与税の計算方法には、暦年課税と相続時精算課税という2つの方法があります。それぞれの特徴や計算方法は以下の通りです。
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暦年課税 |
相続時精算課税 |
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税額の計算方法 |
1年間に受け取った財産に対して10~55%の税率をかける |
特別控除後の相続財産に対して20%の税率をかける |
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利用できる控除 |
年110万円の基礎控除 |
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利用条件 |
原則として暦年課税が適用 |
贈与をした年の1月1日に60歳以上の両親・祖父母から満18歳以上の子供・孫に対して行う贈与 |
上記の表からも分かるように、贈与税には譲り受けた財産から一定額を控除できる仕組みが整えられています。その結果、この控除内に収まる贈与であれば税金が課せられません。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
関連記事:暦年課税制度と相続時精算課税制度の違いは?贈与はどちらを選ぶのが正解?
相続税の計算方法
相続税の計算は、引き継いだ財産の総額から基礎控除を差し引き、税率をかけることで求められます。基礎控除は3,000万円+(600万円×法定相続人の数)です。
例えば、配偶者と子ども1人で相続する場合は3,000万円+(600万円×2)となり、4,200万円を控除できます。
相続税の税率は相続財産の金額によって10%から55%に設定されています。
贈与は相続税の節税になる
贈与によってあらかじめ財産を譲っておけば、将来相続が生じた際の財産の金額が減ります。相続税の計算は相続財産の金額が基になっているため、贈与によって財産の金額を減らしておくことが結果として相続税の節税になるのです。
たとえば、4,000万円の財産を持っているケースでは毎年110万円の贈与を10回行うと、合計で1,100万円の相続財産を減らせます。贈与を行った場合の相続財産は、4,000万円-1,100万円=2,900万円です。
この財産を1人で相続する場合の基礎控除は、3,000万円+(600万円×1)=3,600万円となります。この場合、相続財産の金額(2,900万円)が基礎控除内に収まっているため、相続税は課されません。
一方、贈与を行わず、相続財産が4,000万円ある場合はどうでしょうか。基礎控除額は変わらないため、4,000万円-3,600万円=400万円に対して相続税が課せられます。相続財産が1,000万円以下の税率は10%であるため、40万円の相続税を納めることになります。
このように、贈与によって財産を減らしておくと、相続時の税負担を抑えることができるのです。相続税の配偶者控除とは
相続税には配偶者控除という制度が設けられています。以下では、基本的な仕組みや利用する際の要件などについて解説していきます。
基本的な仕組み
相続が生じた場合、誰でも好きなように財産を引き継げるわけではありません。具体的には、相続できる順番と引き継ぐ財産の割合が民法で定められているのです。原則として、相続が生じると配偶者は必ず相続人になります。
相続できる割合は、他の相続人との兼ね合いで以下のように設定されています。
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相続人の組み合わせ |
配偶者の相続割合 |
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配偶者+子ども(直系卑属) |
2分の1 |
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配偶者+両親(直系尊属) |
3分の2 |
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配偶者+兄弟姉妹 |
4分の3 |
民法では、相続の際には上記の割合とされています。相続税では引き継いだ金額が高いほど税額も高くなります。そこで相続時の税負担を軽くするために配偶者控除という優遇措置が設けられているのです。
具体的な控除額は、1億6,000万円または法定相続分いずれか金額が高いほうとなっています。そのため、引き継いだ財産がこの金額以下であれば税金はかかりません。
適用要件
本制度を利用する場合は、以下の条件を満たす必要があります。
- 婚姻関係のある配偶者である(内縁関係は不可)
- 財産を引き継ぐ方法や内容が決まっている
- 相続税を申告すること
上記の要件を満たしていれば、配偶者控除を利用できます。相続税には申告期限があるため、この期間内にきちんを申請しなくてはなりません。具体的な期限は相続が生じたことを知った日の翌日から10ヵ月以内となっています。
活用の利点と注意点
本制度の利点は、多くのケースで配偶者に相続税がかからないということです。相続財産の総額が1億6,000万円を超えていたとしても、法定相続分までは非課税になります。財産の総額が1億6,000万円以内であれば、配偶者がすべて相続することで税金の負担なしに相続を完了させられるのです。
ただし、二次相続のことまで考えると、相続税を支払わないことは将来的な税負担を増加させる可能性があるのです。例えば夫が先に亡くなり、その数年後に妻が亡くなるとします。このケースでは夫が亡くなったタイミング(一次相続)と妻が亡くなったタイミング(二次相続)で相続が発生します。
1度目の相続で配偶者が全額引き継ぐと、2度目の相続ではその金額を他の相続人(子供など)が引き継ぐことになるのです。2度目の相続では配偶者控除は使えませんし、法定相続人の人数も減っているため基礎控除額が下がります。その結果、2度目の相続の際に莫大な相続税が課せられる可能性があるのです。
1度目の相続で他の相続人と財産を分割しておけば、2度目の相続時の財産の金額が抑えられます。目先の節税に捕らわれずに、将来的な負担まで考慮しておくようにしましょう。
関連記事:【税理士監修】相続税の配偶者控除とは?計算方法や申告方法をわかりやすく解説
おしどり贈与とは

原則として、夫婦の間で行う贈与でも贈与税は課されますが、夫婦間の贈与にはおしどり贈与という特例があります。この特例は贈与税の配偶者控除のことで、一定の条件下で行われた夫婦間の贈与から数千万円を控除できるのです。
以下では、基本的な仕組みや適用条件などについて解説していきます。
基本的な仕組み
おしどり贈与では、一定の要件を満たしている夫婦が配偶者が住む家やそれを取得するための費用を贈与した際に、最大で2,000万円の控除が受けられる仕組みになっています。この制度は基礎控除の110万円と併用可能です。
適用要件
本制度の適用要件は以下の通りです。
- 20年以上、婚姻関係が継続していること
- 制度の利用が初めてであること(複数回の利用は不可能)
- 贈与されたのが自宅またはそれを取得するための費用であること
- 贈与があった年の翌年3月31日までに、贈与された住宅に住んでおり、その後も住み続ける予定であること
上記の要件をすべて満たしている場合にのみ、申請が可能となります。
参考:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁
関連記事:夫婦間の贈与に税金はかかる?使える特例「おしどり贈与」を紹介
活用の利点と注意点
おしどり贈与を活用する利点は、基礎控除とあわせて最大2,110万円の控除が受けられる点と、生前贈与加算の対象外であるという点です。
通常、相続が発生した日から7年前までに行われた贈与は相続財産として扱い、相続税の対象となってしまいます。このように、贈与で受け取った財産を相続財産に加えることを持ち戻しといいます。
しかし、おしどり贈与を利用して行った贈与は、相続が発生した日に関わらず持ち戻しが起きないため、タイミングを気にせずに贈与できるのです。ただし、住宅を取得した際に課せられる不動産取得税や登録免許税は支払いが必要となります。
具体的な税額は、不動産の評価額に税率の3〜4%を掛けた額、登録免許税が不動産の価額に2%を掛けた金額です。
また、配偶者居住権を利用すれば、配偶者が亡くなった後でも住む場所を失うことはありません。配偶者居住権とは、亡くなった人が所有していた住宅に一定期間配偶者が無償で住める制度のことを指します。この制度には適用条件がありますが、その条件を満たしていれば住居に関する問題はクリアになります。
制度を活用することが必ずしも得をするという訳ではなく、贈与する自宅の金額によっては取得にかかる税金の負担が重くなるということを覚えておきましょう。
関連記事:【税理士監修】贈与税の配偶者控除とは?要件や必要書類、注意点等を紹介
2つの制度の違いを比較しよう
相続税の配偶者控除もおしどり贈与も、課税価格から一定金額を差し引けることに変わりはありません。しかし、この2つの制度には以下のような違いがあります。
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相続税の配偶者控除 |
おしどり贈与 |
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対象となる財産 |
相続により取得する財産 |
居住する住宅やそれを取得するための資金 |
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控除額 |
1億6,000万円または法定相続分のうち高い方 |
2,000万円まで |
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適用条件 |
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上記を見ても分かるように、適用条件や控除額、対象となる財産が異なるため、これらは全く別の制度と言えるでしょう。
贈与と相続で損をしない考え方

多くの場合では、おしどり贈与よりも相続税の配偶者控除の方が税額を抑えられます。これまで解説してきたとおり、相続税の配偶者控除の金額は大きく、1億6,000万円以上または法定相続分までであれば税金はかかりません。
加えて、基礎控除額も相続税は最低でも3,600万円控除されるのに対し、贈与税は年間110万円しか控除されません。おしどり贈与で財産を減らしたとしても、取得の際の税金まで加味するとあまり節税効果はないのです。
おしどり贈与が効果を多く発揮できるのは、二次相続対策に注力したい場合、名義整理目的の場合となっています。
二次相続対策に注力したい場合、あらかじめ配偶者名義の財産を作っておくことで財産を分散させることができます。おしどり贈与を行っていないケースでは、一次相続の際に配偶者に相続が集中しがちです。しかし、あらかじめ財産を分散しておくことで、二次相続の際に子どもにかかる税額を抑えられるのです。
対する名義整理目的の場合とは、夫名義の自宅を将来的に妻の名義にしたいと考えているケースなどを指します。自宅の譲り渡しは遺言で行うよりもおしどり贈与で行ったほうがスムーズにいくことがほとんどです。
また、夫婦それぞれの財産が少ない場合などは、あらかじめ配偶者に財産を持っていてほしいという観点からおしどり贈与が活用されるケースもあります。
関連記事:二次相続とは?揉めない・後悔しない相続のための知識と税金対策
相続税の配偶者控除とおしどり控除それぞれの特徴を理解して活用しよう
相続税の配偶者控除では、1億6,000万円または法定相続分の高い方の金額までが非課税となります。一方のおしどり贈与は、配偶者が住むための家やそれを取得するための費用を贈与した場合に2,000万円が控除されます。
節税という観点だけで判断すると、相続税の配偶者控除の方が効果は高いと言えるでしょう。しかし、所有する財産の総額や家族構成などによってどの制度を活用すれば良いのかという点は異なります。より損をしない贈与・相続を行いたい場合は、一度税理士などの専門家に相談してみると安心です。本記事を参考にそれぞれの制度について理解を深め、うまく活用していきましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。