生命保険に相続税はかかる?非課税となる条件や注意点を解説
生命保険の死亡保険金は、亡くなった人の所有する財産ではありませんが、死亡保険金はみなし相続財産として扱われ、相続税の課税対象となります。
しかし、死亡保険金には非課税枠が設けられており、金額によっては相続税が課せられない可能性があります。すべてのケースで非課税になるとは限らないため、非課税枠の計算方法や注意点について十分な確認が必須です。
今回は生命保険にかかる相続税について詳しく解説します。
目次
前提|生命保険は「みなし相続財産」として扱われる
前提として、生命保険の死亡保険金は「みなし相続財産」として扱われるもので、相続税の課税対象です。
ただし、死亡保険金には非課税枠が設けられています。受け取った金額が非課税枠の範囲内であれば相続税は課税されません。
みなし相続財産とは
みなし相続財産とは、民法上の相続財産ではないものの相続税法の規定などによって相続税の課税対象になる財産です。該当する財産として以下の例が挙げられます。
- 死亡保険金
- 死亡退職金
- 弔慰金のうち一定額を超える部分
- 生命保険契約や定期金に関する権利
- 遺言により免除された債務
- 遺言による低額譲受
みなし相続財産にかかる相続税の計算方法は、基本的に通常の相続財産と変わりません。ただし例外として、1の「死亡保険金」と、2の「死亡退職金」には相続税が課せられない非課税枠が設けられています。
死亡保険金・死亡退職金の非課税枠とは
前述のように、死亡保険金や死亡退職金には非課税枠(非課税限度額)が設けられています。計算方法は以下の通りです。
| 死亡保険金・死亡退職金の非課税限度額=500万円 × 法定相続人の数 |
死亡保険金や死亡退職金が非課税限度額を超える場合、超える部分が相続税の課税対象になります。
なお、死亡保険金や死亡退職金の非課税限度額が適用されるのは、受取人が相続人である場合のみです。相続人以外が受取人の場合や相続放棄をした場合などは、非課税の適用がされません。詳しくは後述します。
参考:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁、No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金|国税庁
生命保険にかかる相続税が非課税になるケース

生命保険にかかる相続税が非課税になるケースは2つ存在します。それぞれ詳しく解説します。
[ケースその1]死亡保険金の額が非課税限度額以下である
生命保険による死亡保険金の額が前述した非課税限度額以下であれば、死亡保険金に対する相続税の課税はありません。
例えば法定相続人が3人の場合、非課税限度額は500万円 × 3人=1,500万円です。金額が1,500万円以下であれば、死亡保険金に対する相続税は非課税となります。
なお、死亡保険金と死亡退職金の非課税枠は併用可能です。死亡保険金と死亡退職金の両方が支払われた場合、どちらとも非課税枠が適用されます。
関連記事:【税理士監修】生命保険の死亡保険金には相続税がかからない?非課税枠や注意点も解説
[ケースその2]非課税限度額を超過した分と相続財産の合計(課税遺産総額)が相続税の基礎控除額以下である
死亡保険金が非課税限度額を上回っても、超過分と相続財産の合計額が相続税の基礎控除額以下であれば相続税は課税されません。
基礎控除額の計算方法は以下の通りです。
|
基礎控除額=3,000万円+(600万円 × 法定相続人の数) |
例えば法定相続人が3人の場合、基礎控除額は3,000万円+(600万円 × 3人)=4,800万円となります。
考え方および計算の流れについて、以下の例を用いて具体的に解説します。
- 法定相続人:3人
- 死亡保険金の額:1,800万円
- 相続財産(プラスの財産からマイナスの財産を引いた額):4,000万円
まずは死亡保険金の非課税枠超過分の計算です。非課税限度額は500万円 × 3人=1,500万円です。死亡保険金の額は1,800万円であり、1,800万円-1,500万円=300万円が非課税限度額の超過分となります。
続いて相続税の課税遺産総額を計算します。
今回の例では、課税遺産総額は「相続財産4,000万円+非課税限度額超過分300万円=4,300万円」です。
前述のように、法定相続人が3人の場合の基礎控除額は4,800万円となります。死亡保険金の非課税限度額は超えているものの、課税遺産総額が基礎控除額以下のため、相続税は課税されません。
なお相続税の課税対象自体が存在しない状態であるため、相続税が課せられないのはもちろん、相続税申告も不要です。
関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?
相続税と生命保険に関する注意点5つ

最後に、相続税と生命保険に関する注意点を5つ紹介します。
[注意点その1]法定相続人以外の場合は非課税枠の適用がない
「死亡保険金・死亡退職金の非課税枠とは」で紹介したように、死亡保険金の非課税枠が適用されるのは受取人が法定相続人の場合のみです。法定相続人以外が受け取る場合は非課税枠の適用がなく、受け取った死亡保険金の全額が課税対象になります。
関連記事:法定相続人ごとの相続割合は?複雑な事例の考え方や注意点も解説
[注意点その2]相続放棄をした人も非課税限度額の計算には含める
相続税の基礎控除額の計算に用いる「法定相続人の数」には、相続放棄をした人は含めません。しかし、死亡保険金の非課税限度額の計算では相続放棄をした人も含めます。
なお相続放棄をした人でも死亡保険金の受け取りは可能です。ただし、相続放棄をした人は非課税枠の適用は受けられません。
関連記事:【税理士監修】相続で知っておくべき相続放棄の基本とデメリット。手続き方法もあわせて解説
[注意点その3]契約者・被保険者・受取人の組み合わせによっては相続税以外の課税対象になる
死亡保険金が相続税の課税対象になるのは、契約者と被保険者が同一の場合のみです。契約者・被保険者・受取人の組み合わせによっては、課せられる税金が相続税以外になるケースもあります。
死亡保険金に課せられる税金の種類は以下の通りです。
|
契約形態 |
発生する税金 |
|
契約者と被保険者が同じ (保険料を負担する人と受取人が異なる) |
相続税 |
|
契約者と受取人が同じ (保険料を負担する人が、被保険者が亡くなったときに死亡保険金を受け取る) |
所得税・住民税 |
|
契約者、被保険者、受取人がすべて異なる |
贈与税 |
税金の計算や手続きを適切に行うため、生命保険の契約形態がどのような内容であるかを必ず確認しましょう。
[注意点その4]特例や控除制度の適用を受ける場合は相続税申告が必須
「生命保険にかかる相続税が非課税になるケース」で、以下のいずれかに該当する場合は相続税がかからないと紹介しました。
- 死亡保険金が非課税限度額以下である
- 非課税限度額を超過した分と相続財産の合計が相続税の基礎控除額以下である
上記に加え、相続税の特例や控除制度によって結果的に税額がゼロになるケースもあります。
ただし、特例や控除制度の適用を受ける場合、税額がゼロでも相続税申告が必須です。相続税申告は特例や控除制度を利用するための手続きという性質も有します。そのため相続税申告をしなければ、制度を適用していないとみなされてしまうのです。
制度を適用すれば税額がゼロ円になったものの、手続きを怠ったために控除を受けられず税額が発生するという事態が生じます。
[注意点その5]死亡保険金は遺産分割協議の対象外
生命保険の死亡保険金は遺産分割協議の対象外です。前述のように民法上の相続財産ではなく、受取人固有の財産として扱われます。また、遺留分の計算においても死亡保険金を考慮する必要はありません。
生命保険の死亡保険金には非課税枠が存在!相続税計算時の注意点も要確認
生命保険の死亡保険金はみなし相続財産として扱われるもので、相続税の課税対象です。ただし死亡保険金には非課税枠が設けられており、「500万円 × 法定相続人の数」までは相続税が課せられません。また、非課税限度額の超過分と相続財産の合計額が相続税の基礎控除額以下の場合も、相続税は無税となります。
ただし、非課税枠の適用を受けられるのは受取人が法定相続人の場合のみです。ほかにも相続放棄をした人も非課税限度額の計算には含める等、計算に際して注意するべき点が存在します。
故意か否かに関係なく、相続税の計算を誤り過少申告になってしまえば、税務調査で指摘を受けてペナルティの対象になる恐れがあります。少しでも疑問や不安があれば、専門家である税理士に相談しましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。