【親の土地を取得する】贈与と相続、税額が安く得なのはどっち?
親から子への土地の引継ぎで発生する税金は、引継ぎの方法が贈与と相続のどちらであるかによって異なります。贈与税と相続税は基礎控除額や特例、計算方法などさまざまな相違点があるため、同じ土地でも税額が大きく変わる可能性が高いです。
税負担を最小限に抑えながらも土地の移転を行うためには、それぞれの違いを押さえた上で、税額を抑えられる手法を選ぶのが理想です。
今回は親の土地を取得するにあたり、贈与と相続のどちらが得になるかについて解説します。
目次
贈与税と相続税の主な違い

贈与税と相続税の違いのうち、税額を左右する要素は以下の4つです。
|
贈与税 |
相続税 |
|
|---|---|---|
|
税率 |
暦年課税:10~55% 相続時精算課税:相続発生時に相続税の課税対象になる 2,500万円を超える部分には一律20% |
10~55% |
|
基礎控除額 |
毎年110万円 |
3,000万円+600万円×法定相続人の人数 |
|
課税方式の種類 |
暦年課税と相続時精算課税の2種類 (相続時精算課税を選択できるのは一定の要件を満たす場合のみ) |
課税方式は一種類のため、いかなるケースでも同じ計算式を用いる |
|
土地の移転で利用できる特例の種類 |
特になし |
小規模宅地等の特例 |
以下では4つの違いについてそれぞれ詳しく解説します。
関連記事:[相続税と贈与税の基礎知識]それぞれの違いと税率・金額を知っておきましょう
[違いその1]税率
贈与税と相続税の税率はどちらも10〜55%ですが、各税率が適用される課税価格の範囲に大きな違いがあります。
まずは贈与税です。贈与税の税率は一般税率と特例税率の2種類があります。特例税率とは18歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合に適用される税率です。親から子への贈与では特例税率が適用される可能性があるため、親の土地を贈与で受けた場合も特例税率で計算します。
贈与税の特例税率は以下の通りです。
基礎控除後の課税価格
税率
控除額
200万円以下
10%
-
200万円超400万円以下
15%
10万円
400万円超600万円以下
20%
30万円
600万円超1,000万円以下
30%
90万円
1,000万円超1,500万円以下
40%
190万円
1,500万円超3,000万円以下
45%
265万円
3,000万円超4,500万円以下
50%
415万円
4,500万円超
55%
640万円
一方、相続税の税率は以下の通りです。
法定相続分に応ずる取得金額
税率
控除額
1,000万円以下
10%
-
1,000万円超3,000万円以下
15%
50万円
3,000万円超5,000万円以下
20%
200万円
5,000万円超1億円以下
30%
700万円
1億円超2億円以下
40%
1,700万円
2億円超3億円以下
45%
2,700万円
3億円超6億円以下
50%
4,200万円
6億円超
55%
7,200万円
このように課税価格に対する税率が全く異なります。単純な課税価格が同じであれば、贈与税よりも相続税の方が低い税率が適用され、税負担を抑えられる可能性が高いでしょう。
関連記事:相続税と贈与税の税率は?控除額は?どちらが得?に答えます
なお、贈与税には相続時精算課税制度という制度が存在します。相続時精算課税制度には累計2,500万円の特別控除と年間110万円の基礎控除が適用されます。相続時精算課税制度による贈与額が2,500万円を超えると、超えた部分には一律20%の税率が適用される仕組みです。
[違いその2]基礎控除額
贈与税の基礎控除額は年間110万円です。贈与税の基礎控除額は贈与者ごとではなく受贈者ごとに設定されている点にご注意ください。例えば同じ年に父親と母親の両方から贈与を受けたとしても、子供に適用できる基礎控除額は110万円のみとなります。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」です。例えば法定相続人が3人の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円×3=4,800万円となります。
[違いその3]課税方式の種類
相続税には課税方式の区別がありません。相続人や相続割合等に関係なく同じ方法で相続税額を計算します。ただし、相続等により遺産を取得した人が被相続人の配偶者、子、父母以外の場合、相続税の2割加算が適用されます。
贈与税には暦年課税と相続時精算課税という2種類の課税方式があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
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暦年課税 |
相続時精算課税 |
|
|---|---|---|
|
利用の条件 |
特になし |
60歳以上の親または祖父母などから |
|
事前の手続き |
不要 |
必要 制度の適用を受けようとする最初の年に |
|
発生する税金 |
贈与税 ※相続開始前7年以内に行われたものは相続税の対象 |
相続税 ※特別控除である2,500万円を超える部分は20%の贈与税 |
親から子への贈与では相続時精算課税の選択が可能です。すなわち親の土地を取得する方法として、相続、暦年課税による贈与、相続時精算課税による贈与の3つから選ぶ必要があります。
関連記事:相続時精算課税制度とは?特別控除と新設の基礎控除を解説
[違いその4]土地の移転で利用できる特例の種類
贈与税と相続税には、利用できる特例の種類にも大きな違いがあります。
贈与税には土地の移転で利用できる特例が特にありません。贈与税には「住宅取得等資金の贈与の特例」という制度がありますが、本特例は住宅等を取得するための金銭の贈与で利用できる制度です。土地そのものの贈与を受けた場合には利用できません。
相続税の場合、親の土地を相続する際に「小規模宅地等の特例」を適用できる可能性があります。
小規模宅地等の特例とは相続や遺贈によって一定の要件を満たす宅地等を取得した場合に、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。小規模宅地等の特例の要件を満たす場合は課税対象額が大幅に軽減されるため、税額も大きく抑えられることになります。
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例とは?計算方法や適用要件をわかりやすく解説します
親の土地を取得|相続と贈与のどちらが得になるか?

税負担を最小限に抑えるには、親の土地を取得する方法としてより有利な方を選ぶのが理想です。以下では相続と贈与のどちらが得になるかについて解説します。
相続の方が有利なケース
前章で解説した通り、単純な課税価格が同じであれば、贈与税よりも相続税の方が税額を抑えられる可能性が高いです。そのため多くの場合、贈与より相続の方が有利になるでしょう。
特に、以下のいずれかに該当する場合は相続の方が有利になる可能性が高いです。
- 推定相続人が多く、相続税の基礎控除額が高額になる見込みである
- 課税遺産総額が少額になる見込みである
- 小規模宅地等の特例の適用を受けられる可能性が高い
相続税は基礎控除が高額な上に特例も多く設けられています。そのため遺産総額が一見高額でも相続税はそれほど高額ではない、あるいは結果として無税になるケースも多くみられます。
関連記事:【税理士監修】土地の相続では名義変更が必要!方法や必要書類、放置するリスクなどを解説
贈与の方が有利なケース
贈与の方が税金面で有利になるのは、基礎控除額(110万円)以下の暦年贈与を複数年にわけて行う場合です。
例えば評価額が1,000万円の土地を100万円ずつ贈与した場合、毎年の贈与額は基礎控除額以下のため贈与税が発生しません。このように長期にわたり少しずつ贈与ができる場合、生前贈与の方が税額を抑えられる可能性があります。
ただし、毎年同じ内容の贈与を行う場合は定期贈与とみなされて、贈与額全体が課税対象になる恐れもあります。また、土地を小分けにして少しずつ贈与を行う方法は手間がかかる点にも注意が必要です。
また、将来的に土地の値上がりが予想される場合、相続時精算課税により贈与をした方が有利な可能性があります。相続時精算課税を適用すると贈与者の死後に相続税が課税されますが、税額の計算時に贈与時点の評価額を用いるためです。
とはいえ、将来の値上がりを予想するのは困難であり、必ずしも贈与時点の方が評価額が低いとは限らない点にご注意ください。
状況によっては贈与の方が適している可能性も有
単純な税額のみを考えた場合、ほとんどの場合において贈与より相続の方が有利になります。
ただし、税額が抑えられるからといって相続が適しているとは限りません。以下のような場合は相続より贈与が適している可能性もあります。
- 土地の移転を早く済ませたい理由がある
- 兄弟姉妹との関係が悪く、遺産分割協議でトラブルになる恐れがある
相続と贈与のどちらが良いかは、さまざまな要素によって左右されるため一概にはいえません。税額以外の面も考慮した上で、自身に適した方法を選びましょう。
相続と贈与では税額が大きく異なる!親の土地をどのように取得するか慎重に検討しよう
同じ「親の土地を引き継ぐ」行為でも、相続と贈与のどちらに該当するかによって発生する税金が異なります。税率や基礎控除、特例等の仕組みより、贈与税より相続税の方が税額を抑えられるケースが多いです。
しかし、必ずしも相続が最適とは限りません。財産移転を早く行いたい場合や相続トラブルの懸念がある場合は、贈与の方が適している可能性もあります。
相続と贈与それぞれの特徴を押さえた上で、自分に適した方法を選びましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。