遺留分を渡したくない!渡さなくていい方法と生前からできる対策まとめ

遺留分を渡したくない!渡さなくていい方法と生前からできる対策まとめ

「遺留分を渡したくない」と考えても、原則として、配偶者や子供などの相続人には最低限の取り分が法律で保障されています。安易に拒否すれば、調停や訴訟、さらには財産の差押えに発展する可能性もあります。とはいえ、すべてのケースで遺留分を支払う必要があるわけではありません。本記事では、遺留分を渡さなくてもよいケースや、生前からできる具体的な対策、トラブルを防ぐための注意点を分かりやすく解説します。

遺留分を払わないとどうなる?

遺留分侵害請求による相続人割合

遺留分は原則として必ず相続人に渡さなければなりません。遺留分とは被相続人(故人)がどのような遺言を残していても、法定相続人が最低限受け取ることが保障されている取り分のことです。

つまり、相続において遺留分は法的に守られた権利であり、原則として相続人に対して必ず分与する義務が生じます。以下では、その遺留分を支払わなかったときに起こり得るリスクについて解説します。

相手から調停や訴訟を起こされる

遺留分の支払いを拒否した場合、相手方が「遺留分侵害額請求調停」を申し立てる可能性があります。これは、裁判所を通じて遺留分に関する話し合い(合意)を行う手続きです。

もし調停で合意に至らなかったり無視したりすると、相手は訴訟を起こすことも可能です。訴訟では裁判官が判決を下し、遺留分を支払う義務の有無が法的に決定されます。このような調停や訴訟に発展すると時間や弁護士費用などの負担が増えるだけでなく、親族関係がさらに悪化するリスクもあります。

財産が差し押さえられる

調停や裁判で遺留分の支払い義務が確定したにもかかわらず、それを拒否した場合、相手は「強制執行」の申し立てが可能です。強制執行とは、裁判所の命令に基づいて債務者の財産を差し押さえ、強制的に支払いを実現させる手続きです。

例えば預貯金の場合、裁判所から金融機関に差押命令が出されると、口座から直接相手(債権者)へ送金されることになります。この結果、支払いを拒んでも預金などの財産が自動的に差し押さえられ、遺留分が強制的に回収されるのです。

遺留分をめぐるトラブルは、対応を誤ると財産を失うだけでなく、親族関係の悪化にもつながります。「やさしい相続相談センター」では、税理士が遺留分や相続税の問題を丁寧にサポートし、円満な解決を目指します。

関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

遺留分を渡さなくてもいいケース

以下では遺留分を渡さなくても問題ないケースについて解説します。

遺留分を放棄してもらう

最も現実的なのは、法定相続人に遺留分を放棄してもらう方法です。相続人が遺留分の放棄を家庭裁判所に申立て、正式に認められると、その分を他の相続人に分配できるようになります。

ただし遺留分の放棄は本人(相続人)の自由意思によるものであり、強制することはできません。遺留分を受け取りたいと考えている相続人に放棄してもらうのは、現実的には難しいケースが多いでしょう。

遺言書の付言事項に記載しておく

「遺留分を渡したくない」という意思を遺言書に残すことも可能です。遺言書の「付言事項(ふげんじこう)」に理由や想いを記しておけば、遺族間のトラブルを防ぐ効果が期待できます。

ただし、付言事項には法的拘束力がありません。相続人が遺留分を放棄しなければ、たとえ遺言に記載しても遺留分を支払う義務は残ります。

相続人廃除の条件に当てはまるか確認する

相続人廃除とは、著しい非行を理由に相続権を失わせる制度です。例えば生前に被相続人へ暴力や重大な侮辱を行った場合などが該当します。

相続人廃除が認められれば、その人には相続権も遺留分も発生しません。ただし、家庭裁判所への申立てが必要であり、被相続人の一存では決められません。また、廃除された人の子どもなどには代襲相続が発生するため、その分の遺留分を分与する必要があります。

相続欠格の条件に当てはまるか確認する

相続欠格とは、犯罪行為などにより自動的に相続権を失うことを指します。遺言書を偽造・破棄したり、他の相続人を害する行為を行った場合が該当します。

この場合も相続そのものが無効となるため、遺留分は渡さなくても問題ありません。ただし、相続人廃除と同様に、欠格となった人の子どもが代襲相続するケースでは、その子どもに遺留分を分与する義務が生じます。

関連記事:遺留分割合の計算方法をケース別にわかりやすく解説

遺留分を渡したくない場合にできる生前対策

贈与契約書

以下では遺留分を渡したくない場合にできる生前対策を解説します。

養子縁組で相続人の数を増やして遺留分を減らす

養子縁組を利用して法定相続人の人数を増やすと1人あたりの遺留分割合を減らせます。Aさんの相続人が配偶者Bさんと子ども2人(長男C、次男D)の場合を例として考えてみましょう。このケースだと、Bさんの遺留分は4分の1、C・Dの遺留分はそれぞれ8分の1です。

しかしAさんが孫を養子に迎え、子どもが3人となった場合、子の遺留分はそれぞれ12分の1に減少します。ただし、明らかに「遺留分を減らす目的」で行われた養子縁組は、無効と判断されるおそれがあります。親子関係を築く意思があることが前提となるので注意しましょう。

金融資産を生命保険に変えて遺産総額を減らす

相続財産の中にある預貯金などの金融資産を、生命保険に変えておく方法も有効です。死亡保険金は、原則として「受取人個人の固有財産」と扱われ、遺産には含まれません。例えば1,000万円の預貯金を生命保険に変更し、受取人を別の相続人に指定すれば、その金額は遺留分の計算対象外になります。

ただし、極端に高額な保険金を一部の相続人に集中させると、「特別受益」とみなされて再び遺留分に含まれる場合があります。この方法を検討する際は、相続問題に詳しい弁護士や税理士への相談が必須です。

他の相続人へ早めに生前贈与を行う

早い段階で生前贈与を行うことも、遺留分の対象となる財産を減らす有効な手段です。遺留分は「遺留分の基礎財産 = 【遺産】+【相続人以外への生前贈与(1年以内)】+【相続人への生前贈与(10年以内)】-【債務】」で算出されます。

この式のとおり、相続人に対する生前贈与は10年以内の分しか遺留分に影響しません。したがって10年以上前に贈与を済ませておけば、その分は遺留分の対象から除外されます。

ただし「遺留分を侵害する意図をもって行った贈与」と判断されると、何年前の贈与でも遺留分計算に含まれてしまいます。

生前贈与と相続放棄を組み合わせる

もう一歩踏み込んだ方法として、特定の相続人に生前贈与を行い、その後相続放棄してもらうという手段があります。相続放棄をした人は、法律上「初めから相続人ではなかった」とみなされます。そのため、その人に対する生前贈与は「相続人以外への贈与」として扱われ、1年以内の贈与しか遺留分の対象になりません。

つまり、生前贈与から1年以上経過すれば、その財産は遺留分の計算に含まれなくなります。ただし、こちらも「遺留分権利者に損害を与える目的」があったと認定されると無効になるリスクがあります。

相続や贈与の手続きは複雑で、誤った判断が後のトラブルにつながることもあります。これらの手続きでお悩みの場合は、ぜひ「やさしい相続相談センター」の無料相談をご利用ください。経験豊富な税理士が生前対策の立案から手続きまで丁寧にサポートし、円満な相続を実現するお手伝いをしています。

関連記事:相続放棄が遺留分割合に与える影響とは?計算方法や注意点を解説

遺留分を渡したくない場合のよくある質問

FAQ・Q&A

以下では遺留分を渡したくない場合のよくある質問を解説します。

遺留分を支払う現金がないときはどうすればいい?

遺留分の請求に応じられない場合、無視すると調停・訴訟や強制執行のリスクがあります。現金がないときは相手と合意のうえで分割払いにするか、裁判所に支払い期限延長を申し立てる方法で対応可能です。ただし、どちらも相手の同意や手続きが必要のため、弁護士などの専門家の助言があると安心です。

遺産が不動産しかない場合は?

遺留分は金銭で支払う必要があるため、手元に現金がない場合は自己資金で支払うか、不動産を現金化しなくてはいけません。現金化の方法には、不動産売却や不動産担保ローンの利用などがあります。時間がかかる場合は、裁判所に支払い期限延長を求める方法も併用できます。

まとめ

遺留分は原則として法定相続人に渡さなければならず、支払いを拒否すると調停や訴訟、さらには強制執行で財産差押えのリスクがあります。遺留分を渡さなくていいケースには相続人に遺留分放棄をしてもらう方法や、相続人廃除・相続欠格の条件に当てはまる場合が挙げられます。

生前対策としては、養子縁組で相続人を増やす、金融資産を生命保険に変えるなどの方法があります。遺留分の回避や軽減を検討する際は、権利侵害や無効リスクを避けるためにも、税理士など専門家に相談することが重要です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。