おしどり贈与の特例とは?制度内容や利用時のポイントを解説

おしどり贈与の特例とは?制度内容や利用時のポイントを解説

夫婦の間で行われた贈与が非課税になる特例をおしどり贈与と呼びます。本記事では、おしどり贈与の制度内容や利用する際に意識すべきポイントについてまとめています。また、贈与についての基礎的な知識も併せて解説していきます。

贈与とはどんな制度?

財産を譲り渡す行為を「贈与」と呼びます。相続権を持つ人だけが財産を受け取れる相続とは違い、贈与は誰とでも行える点がポイントです。贈与によって財産を受け取った人は、贈与税という税金を納めなくてはなりません。

贈与税の課税方法には、暦年課税相続時精算課税という2種類があります。

暦年課税とは、1年間に受け取った財産に対して毎年課税をする方法です。一方の相続時精算課税とは本来財産を持っていた方が亡くなった際に、贈与で受け取った財産と相続財産を合算して課税する方法になります。

暦年課税の場合は、1年間に受け取った財産の額が110万円を超えた場合に課税されます。110万円を超えると、超えた部分に対して税金が課せられる仕組みです。

一方、相続時精算課税の場合は、1年間に受け取った財産の額から110万円を差し引いた上で、相続時までに受け取った財産の総額から2,500万円を差し引いた金額に対して課税されます。

参考:No.4402 贈与税がかかる場合|国税庁

贈与は相続税対策として有効である

預金の贈与・相続

税率だけで考えれば贈与税よりも相続税の税率の方が低く設定されていますが、贈与は年間110万円までは非課税となるため相続税対策として有効だと言われています。具体的には、1年間の贈与額が110万円に収まるように贈与を繰り返し、相続財産の金額自体を減らすことにより節税に繋げるのです。

贈与の中でも、特に相続税対策として行うものを生前贈与と呼びます。原則として、年間110万円以下であれば税金は発生しませんが、財産の本来の持ち主が亡くなる前7年間(現在は前3年間)に行われた生前贈与については、相続税の対象となる点を覚えておきましょう。

関連記事:贈与税の基礎控除額はどのくらい?税額の算出方法や暦年贈与についても解説

おしどり贈与の特例とは

贈与税には、夫婦間で行われた贈与が一定の条件下で非課税になる配偶者控除が設けられています。この制度は通称「おしどり贈与」と呼ばれており、この制度について知っておくことで贈与税額を引き下げられる可能性があるのです。

以下では、贈与税における配偶者控除の概要や利用する際の要件について解説していきます。

制度の概要

おしどり贈与とは一定の要件を満たしている夫婦が自宅やそれを取得するための費用を贈与した際に、最大で2,000万円の控除が受けられる制度です。この制度は、贈与税の基礎控除である110万円と併用できるため、実質2,110万円の控除が適用されると言えます。

制度を利用するための要件

本制度を利用するための要件は以下の通りです。

  • 20年以上、婚姻関係が継続していること
  • 制度の利用が初めてであること(複数回の利用は不可能)
  • 贈与されたのが自宅またはそれを取得するための費用であること
  • 贈与があった翌年の3月31日までに、贈与された住宅に住んでおり、その後も住み続ける予定であること

上記の要件をすべて満たしている場合にのみ、おしどり贈与の申請が可能となります。

参考:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁

関連記事:【税理士監修】贈与税の配偶者控除とは?要件や必要書類、注意点等を紹介

おしどり贈与の強み

家の相続税、贈与税

本制度の代表的な強みは、通常110万円である非課税枠を大幅に増やせる点にあります。また、通常、贈与をした方が亡くなる前7年間(現在は前3年間)に譲られた財産については相続税の対象となります。しかし、おしどり贈与で譲られた自宅、およびそれを取得するための資金は対象外となるのです。

長年連れ添った配偶者が死後も安心して暮らせる自宅を与えられるのが、おしどり贈与の魅力と言えるでしょう。

おしどり贈与を活用する際に知っておくべきポイント

これまで、おしどり贈与の概要や強みについて解説してきましたが、本制度を利用するにあたって理解しておくべきポイントがいくつかあります。以下で確認していきましょう。

不動産取得税や登録免許税は課税される

おしどり贈与で受け取った自宅や自宅を取得するための費用は2,000万円まで非課税となります。しかし、自宅を取得する際に課せられる不動産取得税および登録免許税は支払わなくてはなりません。

不動産取得税の目安は、取得した不動産の評価額に税率の3~4%を掛けた額、贈与による居住用不動産の登録免許税は不動産の価額に2%を掛けた金額になります。

完全に税金がかからずに住宅を取得できるわけではないため、控除額が大きいという理由だけで利用することは危険です。実際、配偶者控除が受けられるのは贈与だけではありません。相続時にも配偶者に関しては優遇制度が設けられており、配偶者が相続した遺産額が1億6,000万円または法定相続分のいずれか高いほうの金額までは相続税が非課税になるのです。

相続時に配偶者が受け取る財産の金額が上記いずれかに収まるのであれば、おしどり贈与よりも相続を選んだ方が税額を抑えられる可能性があります。また、配偶者居住権を利用すれば、配偶者が亡くなった後でも住む場所を失うこともありません。

参考:配偶者居住権とは|法務局

相続時精算課税制度との併用は不可

贈与税の課税方法には、1年間に譲り受けた財産に対して課税する暦年課税と、譲り受けた財産を相続財産と合算して課税する相続時精算課税という2つの方法があります。

おしどり贈与を適用した場合は、原則として暦年課税制度を用いて相続税を計算することになります。したがって、相続時精算課税を選択した際に適用される2,500万円の控除との併用はできません。

そのため、取得した住宅やその資金の額によってはおしどり贈与の効果が薄くなる可能性があります。

おしどり贈与を利用する際の流れ

贈与税の申告書

おしどり贈与を利用する際の具体的な手続きの流れは下記の通りです。

  1. 贈与を行う
  2. 贈与登記の申請
  3. 贈与税申告書の作成および申告

原則として贈与は口頭のみでも成立しますが、相続時のトラブルを回避するためにも贈与契約書を交わしておくと安心です。

不動産の贈与契約書は、お互いの署名と捺印に加えて印紙が必要です。決まった書式はないため、いつ・誰が・何を・誰に・どのような方法で贈与をするのかを記載しておけば問題ありません。契約書は夫婦が1通ずつ保管しておきましょう。

おしどり贈与によって、すでに取得していた自宅を配偶者に譲る場合は、贈与登記を行わなくてはなりません。この登記はいわゆる名義変更の手続きで、必要書類を準備したうえで申請書を作成し、法務局に提出します。

登記が完了したら、贈与を受けた側が管轄の税務局に対して贈与税の申請を行います。この申告は贈与税がかからない場合でも必要です。

関連記事:【税理士監修】夫婦間でも贈与税は発生する。贈与税が発生しないパターンや疑問について解説

おしどり贈与の効果はケースバイケース。迷ったら専門家へ相談しよう

20年以上連れ添った夫婦が利用できる「おしどり贈与」は、110万円の基礎控除に加えて2,000万円の特別控除も利用できる相続税対策に適した制度です。

しかし、贈与する自宅の金額や相続財産の金額によっては、相続を行った方が税額を抑えられるケースもあるため慎重に検討しましょう。配偶者の負担をなるべく軽くしながら相続に備える方法について知りたい場合は、税理士などの専門家に相談すると安心です。

本記事を参考に、おしどり贈与について考えてみましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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