不動産を共有名義で相続すると危険!夫婦・親子間共有のリスクと解決策

不動産を共有名義で相続すると危険!夫婦・親子間共有のリスクと解決策

不動産を共有名義で相続すると、将来の売却や管理で思わぬトラブルに発展することがあります。夫婦間や親子間だから大丈夫と思って放置すると、相続登記の義務化や税金の問題で困るケースも。

本記事では共有名義の仕組みとリスク、解決方法まで徹底解説します。

不動産の共有名義とは?相続トラブルの根本原因

不動産の共有名義とは、一つの不動産を複数人で所有している状態を指します。各所有者は不動産全体をそれぞれの持分割合に応じて持っており、一見公平な仕組みですが、実はトラブルの温床です。

まずは共有名義や持分の基本と、放置するリスクについて理解を深めましょう。

共有名義と持分割合

共有不動産の場合、各所有者は不動産の一部を所有しているのではなく、不動産全体の所有権をそれぞれの持分割合に応じて持っています。例えば、夫婦が2分の1ずつの持分で自宅を所有している場合、建物や土地全体を2人で所有している状態です。

自分の持分は自由に売却したり抵当権を設定したりできます。一方、不動産全体を売却したり、賃貸したりするには共有者全員の同意が必要です。

各所有者は持分の割合に応じて不動産を使用する権利を持ちます。これは文字通り不動産を物理的に分割して使うのではなく、「誰か一人しか使えない場所」といった制限がないことを意味します。

ただし、共有者全員が物理的に同時に住むことは非現実的です。実際には、共有者間で利用方法や費用負担について話し合い、経済的な公平性をもって解決する場合が多いです。共有者のうちの一人だけが共有不動産に居住している場合、他の共有者は家賃相当額の支払いを求めることができます。

共有名義を放置することのリスク

共有名義の代表的なリスクは、不動産の売却や大規模な修繕といった意思決定ができなくなることです。相続した持分をさらに複数名で分け合うなどして共有者が増え続けると、全員の合意を得るのが実質的に不可能になります。売却も活用もできずに不動産をただ所有しているだけの、いわゆる「塩漬け」状態です。

不動産に住んでいない共有者が固定資産税や修繕費の負担を不公平だと感じ、トラブルに発展することもあります。共有名義の不動産は放置すればするほど権利関係が複雑になるため、トラブルが起こる前に共有状態を解消することが重要です。

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夫婦共有と親子共有の相続の典型例

不動産の分割・相続で悩む兄弟

不動産を夫婦で共有する場合と親子で共有する場合で状況が異なります。夫婦の場合は残された配偶者の生活を守ること、親子の場合は世代間での権利関係の複雑化がポイントです。それぞれのケースで起こり得るトラブルを把握し、適切な対策を講じることが後悔しない相続につながります。

夫婦共有不動産を相続する場合

夫婦共有の自宅が共有状態になるのは、主に夫婦が共同で住宅ローンを組み、それぞれの名義で持分を登記する場合です。この場合、所有権は夫婦それぞれの出資割合に応じて分けられます。典型的な状況は、夫が亡くなり、その持分を妻と子どもが法定相続分に従って相続するケースです。

問題点として、残された妻は住み続けたいと考える一方で、子どもが相続分を現金化したいと考えることで意見が対立します。また、妻が高齢で判断能力が低下した場合、不動産の売却や管理ができなくなるリスクも発生します。

対策としては、生前に夫が「自宅はすべて妻に相続させる」といった内容の遺言書を作成しておくことが有効です。これにより、子どもの共有を防ぎ、妻の単独名義にできます。

遺言書がない場合でも、2020年の民法改正で導入された配偶者居住権を活用し、妻の居住を確保しながら、所有権は子どもが取得する方法もあります。

関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント

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親子共有不動産を相続する場合

親子で共有名義の不動産を持つケースは、二世帯住宅を建てる際に親と子が資金を出し合う場合などがあります。親の存命中は共有状態でも問題が起こらないケースが多いです。

しかし、親が亡くなると親の持分が相続財産となります。この持分は親と同居していた子だけでなく、他の子たちにも引き継がれてしまうリスクがあります。

財産を平等に分けるつもりで兄弟全員の共有としても、実際に全員が住むわけではありません。自分が使ってもいない不動産の固定資産税や修繕費を負担しなければならないことに不満を抱く共有者もいるでしょう。

また、不動産の売却や建て替えには共有者全員の同意が必要なため、意見がまとまらず、何も決められないリスクもあります。

親子共有の場合も、有効な対策の筆頭は遺言書です。実際に住んでいる子の単独所有とし、現預金など他の財産の配分で相続人同士の公平性を調整するのが理想的です。

遺言書がない場合は、不動産を取得する代わりに他の兄弟に現金を支払う(後述の「代償分割」)などで、早めに共有状態を解消しましょう。

関連記事:不動産・土地を兄弟で相続する場合の分割方法とは?注意点も解説!

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共有名義を解消する3つの方法

不動産売却の手続き

共有名義を放置すると世代を重ねるごとに持分が細分化し、処分や管理が困難になります。できる限り早期に「持分買い取り」「換価分割」「代償分割」と言った方法で共有状態を解消し、単独名義にすることが大切です。ここでは、3つの方法について詳しく解説します。

方法1:持分を買い取る

共有不動産を単独で所有したい人が他の共有者から持分を買い取り、不動産全体の所有権を得る方法です。親と同居していた長男など住み続けたいと希望する人がいて、他の共有者が現金での清算を望んでいる場合に適しています。

持分買い取りのメリットは、思い出のある実家や先祖代々の土地を第三者に売却することなく守れる点です。一方で、持分を買い取る人に十分な資金がないと実行できない点や、買取り価格の決定が難しい点がデメリットです。

持分を売却した人には、売却で得た利益に対して所得税住民税が発生します。持分を買い取る人には、登記の際の登録免許税不動産取得税が発生します。

相続した不動産を売却する場合、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を適用できる可能性があります。売却の前に税理士に相談しましょう。

方法2:売却して現金を分割する(換価分割)

換価分割は、共有不動産を売却して現金に換え、代金を共有者間で分け合う方法です。共有者全員が不動産の利用を望んでおらず、公平に現金を分けたい場合に適した方法と言えます。

もし共有者間で売却に同意できない場合は、裁判所に「共有物分割請求訴訟」を提起し、裁判所の決定に基づいて不動産を強制的に競売にかけます。

この方法は売却代金を持分割合に応じて分配するため、金銭的に公平である点がメリットです。また、共有関係から完全に解放されるため、将来のトラブルリスクがなくなります。

しかし、不動産売却には手間と時間がかかり、市場状況によっては希望する価格で売れないケースもあります。裁判による競売となると、市場価格よりも大幅に低い価格で売却される可能性が高い点には注意が必要です。

不動産を売却したことで得られた利益は譲渡所得となり、所得税や住民税の課税対象となります。売却にかかる費用は、持分割合に応じて全員で負担するのが一般的です。

関連記事:不動産を相続後に売却するなら3年以内に!節税効果の高い売却方法

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関連記事:不動産の換価分割とは?代償分割や現物分割との違いは?選択基準と手続きについて

方法3:単独で相続して金銭で清算する(代償分割)

代償分割は、特定の共有者が不動産を単独で相続する代わりに、他の共有者にその持分に見合う現金を支払って清算する方法です。遺産分割協議の段階で、共有者全員の合意をもって取り決めます。

不動産を売却する必要がないため、住み続けたい人がいる場合も生活を脅かされないことがメリットです。一方で、後から持分を買い取る場合と同様に、代償として支払うための十分な現金や預貯金がないと実現できません。

また、代償金の基準となる不動産の評価額をめぐって、相続人同士の意見が対立し、トラブルに発展する可能性があります。

代償金は相続財産を公平に分けるためのものとみなされるため、原則として代償金を受け取る側に税金は発生しません。ただし、遺産分割協議書に代償分割の旨を明記しないと、代償金が贈与とみなされ、贈与税が課されるリスクがあるため注意が必要です。

また、代償金が相続財産の価値を明らかに超える場合は、超過分が贈与とみなされ、贈与税が課税される場合があります。対象となる不動産の価値を把握し、適切な金額の代償金を支払うことが大切です。

関連記事:土地の相続者が複数いる!代償分割で解決する方法

トラブル事例から学ぶ対策

不動産の共有名義は、相続や維持管理をめぐって実際に多くのトラブルの原因となっています。典型的な3つの事例について、何が問題なのか、どのような対策をとればよいのかを見ていきましょう。

事例1:相続人の一人が勝手に持分を売却

父親が亡くなり、長男と次男が実家を2分の1ずつの共有で相続しました。長男がそのまま実家に住み続けていたところ、お金に困った次男が、兄に相談することなく自分の持分を売却してしまいました。

次男が売却したのはあくまで自身の持分のみですが、長男は現に住んでいる家を見知らぬ不動産会社と共有する事態に陥りました。新しい共有者となった不動産業者から家賃を請求されたり、持分の売却を迫られたりして困っています。

<原因と対策>

現に住んでいる人がいる場合は特に、実際に住む人の単独所有にするのが理想的です。共有名義にしても、実際に住まない共有者にとっては活用しにくい財産です。住んでいる共有者にとっても管理上の不都合が生じたり、今回のようなトラブルの原因となったりするため、良いことはありません。

長男が実家に住み続けることと相続の公平性を両立するには、先述の代償分割などの方法があります。相続が発生した時点で共有名義になるのを防ぐことが大切です。

関連記事:換価分割と代償分割の違いとは?支払う税金が高くなるのはどっち?

事例2:共有者が増えすぎて塩漬けに

父親が亡くなり、長男と次男で不動産を相続しようとしたところ、共有者が大勢いることがわかりました。共有者の名前を見ると、聞き覚えのある親戚もいますが、全く面識のない人もいます。土地の売却や活用には共有者全員の合意が必要ですが、話し合いの場を設けることなど到底できません。

仕方がないので、長男と次男は父親の持分を2分の1ずつ相続しました。しかし、売却も活用もできない「塩漬け」状態で、固定資産税の負担だけが残っています。

<原因と対策>

山林や農地など相続人が積極的に活用するつもりがない土地は相続人全員の共有にしてしまいがちです。しかし、引き取り手がいない土地の「とりあえず共有」問題は、一代では終わりません。

次の代もまた相続人全員の共有名義にするとどうでしょう。最初は子どもたち2人でも、孫の代では4人、ひ孫の代では8人、……と代を重ねるごとに共有者が増えていくリスクがあります。

活用しにくい土地の場合でも、隣地の所有者や不動産会社への売却、相続土地国庫帰属制度の利用などの方法を検討しましょう。

参考:法務省:相続土地国庫帰属制度について

事例3:配偶者が認知症になり売却不可

夫婦の夫が亡くなり、妻と子どもで自宅の土地と建物を2分の1ずつ相続しました。妻はそのまま自宅に住み続けましたが、数年後に認知症を患い、判断能力を失ってしまいました。

子どもは、妻の介護費用を捻出するために自宅を売却しようと考えましたが、不動産の売却には共有者全員の同意が必要です。妻は既に判断能力がないため、有効な意思表示ができません。結局、子どもは自宅を売却できず、介護費用は自己の財産から出さざるを得ませんでした。

<原因と対策>

夫の代で遺言書を作成し、自宅の所有権を妻か子どもに単独で相続させるべきでした。妻が単独で相続した場合は、妻が元気なうちに任意後見制度や家族信託を検討しておくと、より確実です。

自宅の管理・処分権限を子に信託する家族信託契約を結んでおくと、認知症になっても家庭裁判所の許可なく子の判断で妻の持分も売却可能です。

関連記事:【税理士監修】家族信託とは?メリットとデメリット、手続きの方法をわかりやすく解説

まとめ

不動産の共有名義は、相続の場面で公平性をを重視して選ばれることが多い選択肢です。しかし、所有権が分散することで将来的に管理や処分が困難になるリスクがあります。

トラブルを防ぐためには共有状態を早期に解消することです。問題を先送りにすると、関係者の高齢化や相続の連鎖で事態がさらに複雑化する傾向があります。今の段階で行動を起こすことが、将来の安心と資産の有効活用の鍵です。

共有状態を解消する方法は持分の買い取り、換価分割、代償分割などがあります。自分や他の共有者にとって望ましい方法を見つけるには、専門家に相談するのがおすすめです。

特に、不動産の引き継ぎ方は相続税や贈与税に大きく関わります。共有者同士で決める前に、税理士に相談すると安心です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。