相続税を払えない場合の対処法は?放置するリスクや事前の対策も紹介
相続税は高額になりやすい上、現金での一括納付が原則です。そのため相続した財産の内容によっては納税資金が足りず、相続税を払えないという事態が起こる恐れがあります。
いかなる理由があっても税金の未納状態は許されず、放置するほどペナルティが重くなります。早急に対処をするのはもちろん、可能であれば生前のうちから対策をするのが理想です。
今回は相続税を払えない場合の対処法や、生前に行える対策などについて解説します。
目次
前提|相続税の納付方法
はじめに前提として、相続税の納付方法について解説します。
原則は現金による一括納付
相続税の納付は現金による一括納付が原則です。国税庁の公式サイトでも「税金は金銭で一度に納めるのが原則」と明記されています。
相続税は高額になりやすく、一度に数十万〜数百万、場合によっては数千万円もの支出が発生するケースもあります。
クレジットカード納付も可能
相続税はクレジットカード納付も可能です。分割払いやリボ払いの設定もできるため、一回当たりの支出額を減らすこともできます。
ただし、クレジットカード納付では決済手数料が発生します。分割払いやリボ払いを利用する場合は手数料がさらに高額になる点に注意が必要です。
相続税を払えない事態が起こりやすいケース3選

続いて、相続税を払えないという事態が起こりやすいケースを3つ紹介します。今回紹介するケースに当てはまりそうな場合は早いうちに対処・対策を進めましょう。
[ケースその1]現預金以外の財産が多い
相続した財産の多くが不動産や株式など現預金以外の場合、相続税を払えない事態が起こりやすいです。
そもそも相続税は課税遺産総額に一定の税率を乗じて計算します。すなわち、相続税額が相続財産の額を上回ることはありません。にもかかわらず「相続税を払えない」という事態が起こるのは、納税資金として使える現預金が足りないためです。
相続財産は多いものの現預金が少ない場合、相続税の納税資金が足りなくなる恐れがあります。
[ケースその2]相続財産がなかなか売却できない
相続財産の売却による現金化は、相続税の納税資金を確保する手段として有用です。
しかし、相続財産の売却はすぐに成立するとは限りません。特に土地や建物などの不動産は、売却活動を開始してから契約成立までに数ヵ月かかるケースも多くみられます。
このように相続財産の売却が成立しない期間が長く続き、納税資金を用意できず相続税を払えないケースも存在します。
[ケースその3]相続税の申告期限までに遺産分割協議が終わらない
相続税の申告および納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。期限までに遺産分割協議が完了しない場合は、法定相続分で相続したと仮定した内容で申告・納付を行う必要があります。
遺産分割協議が終わっていない場合は相続が未済のため、自身の預貯金等が納税資金となります。そのため税額によっては納税資金が足りず、相続税を払えない事態が起こり得るのです。
関連記事:相続税の未分割申告とは?手続きの流れと4つの注意点を解説
相続税未納の状態を放置するとどうなる?

期限までに申告・納税をしない、すなわち相続税未納の状態を放置した場合はペナルティとして附帯税を課せられます。
附帯税の一種である「延滞税」は納期限の翌日から納付が行われるまでの日数に基づいて計算される仕組みです。すなわち、放置期間が長いほど延滞税が高額になります。
その上、相続税は連帯納付義務のある税金です。相続人のうち誰か1人が未納状態の場合、ほかの相続人に対して、未納分の相続税および延滞税や利子税の請求が行われます。親族に迷惑をかけることになり、関係性悪化やトラブルを招く恐れがあります。
参考:相続税の納付|国税庁
実際のところ、相続税の申告漏れや未納を隠し通すことはほぼ不可能です。未納状態を放置するほどペナルティのリスクや負担が増すため、早急に対応するべきといえます。
関連記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
関連記事:【税理士監修】相続税の時効は5年?時効が成立することはあるのか?
相続税を払えない場合の対処法5選
相続税の無申告や未納を隠し通すことはほぼ不可能です。未納期間が長いほどペナルティが重くなるため、なるべく早く対処する必要があります。以下では相続税を払えない場合の対処法を5つ紹介します。
[対処法その1]延納制度や物納制度を利用する
延納は金銭納付が困難な事情がある場合に、納付を困難とする額を限度に、担保の提供によって年払い納付が可能となる制度です。相続税額が10万円を超え、かつ、その他複数の要件を満たす場合に利用できます。なお延納中は利子税の支払いが必要です。
物納は延納によっても納付が困難な場合に、一定の相続財産による相続税の納付ができる制度です。物納申請財産には一定のルールがあり、順位の定めもあります。
いずれも金銭での納税が困難な人を対象とした制度です。相続税を払えない恐れがある場合に、最初に検討するべき手段といえます。
参考:No.4211 相続税の延納|国税庁、No.4214 相続税の物納|国税庁
[対処法その2]相続財産を売却して納税資金を用意する
相続税の納付期限まで余裕がある場合、相続財産を売却して納税資金を用意する方法もおすすめです。財産によっては売却価額が高額になり、相続税の納付に十分な現金を確保できる可能性もあります。
ただし前述のように、相続財産がなかなか売却できないという理由で相続税が払えないケースもあります。納付期限まで余裕がない場合や、売却できない期間が長引いている場合は注意が必要です。
[対処法その3]クレジットカード納付で分割払い・リボ払いを利用する
前述のように、相続税はクレジットカード納付による分割払いやリボ払いが可能です。1回の支払額が少なければ納付できる場合、クレジットカード納付を利用するのも1つの手段といえます。
ただしクレジットカード納付では決済手数料が発生するため、トータルの支払額はかえって高額になります。分割払いやリボ払いの手数料にも注意が必要です。
[対処法その4]金融機関から融資を受ける
相続財産に含まれる不動産や有価証券を担保に金融機関から融資を受ける方法も有用な手段です。契約内容によっては、延納で発生する利子税よりも金利を抑えられる可能性があります。
ただし、融資を受けられるのは金融機関による審査に通過した場合に限ります。
[対処法その5]納税猶予制度を利用する
相続税には、特定の相続財産にかかる相続税の納税猶予を受けられる制度が存在します。納税猶予制度の対象になる相続財産の例は以下の通りです。
- 農地(農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例)
- 山林(山林を相続した場合の納税猶予の特例)
- 事業用資産(個人版事業承継税制)
- 非上場株式等(法人版事業承継税制)
参考:No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例|国税庁
参考:No.4149 山林を相続した場合の納税猶予の特例|国税庁
参考:No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)|国税庁
参考:No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)|国税庁
相続財産の種類によって納税猶予制度の適用要件に違いがあります。納税猶予制度はルールや手続きが複雑なため、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
相続税の納税猶予制度に関するご相談は、ぜひ「やさしい相続相談センター」にお問い合わせください。
関連記事:相続税の納税猶予制度とは?要件や注意点についてわかりやすく解説
関連記事:事業承継税制を利用すれば相続税は免除できる?納税猶予について紹介!
相続税を払えない事態を防ぐための対策4選

相続税を払えない事態を防ぐため、相続税が高額になる見込みの場合は生前のうちから対策をしておくのが理想です。生前に実施できる対策を4つ紹介します。
[対策その1]生前贈与をする
現預金や換金性の高い財産を贈与し、生前のうちから納税資金を確保する方法です。贈与税の基礎控除の仕組みを上手く活用すれば、贈与税の負担なく生前贈与を行うこともできます。相続財産を減らせるため、相続税の節税対策としても効果的です。
関連記事:【税理士監修】生前贈与の方法とは?税務署に注意されないための手続きについて説明
[対策その2]生命保険を活用する
生命保険を活用するメリットとして以下の3つが挙げられます。
- 死亡保険金は受取人固有の財産として扱われるため、遺産分割協議の完了前でも受け取れる
- 「500万円×相続人の数」の非課税枠が設けられているため相続税の節税対策にも効果的
- 受取人を自由に指定できるため、希望する相手へ現金を確実に渡せる
生命保険を活用すれば相続人にまとまった現金を渡せます。相続税の納税資金を確実に用意できる方法といえるでしょう。
[対策その3]生前のうちに実物資産を現金化する
相続税が払えない事態の多くは、相続税額に対して相続財産に含まれる現預金が少ないために起こります。そのため生前のうちに実物資産を売却して現金化すれば、納税資金が足りないという事態を回避できる可能性が高いです。実物資産が多い場合や実物資産のままの相続にこだわりがない場合は、現金化も有用な手段といえます。
[対策その4]不動産を相続時精算課税制度で贈与する
相続時精算課税制度は、2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、代わりに相続発生時に相続税が課せられる仕組みです。
不動産を相続時精算課税制度で贈与すれば、贈与税の負担を抑えながらも生前のうちに贈与できます。相続発生まで時間的な余裕があるため、売却による現金化や賃貸経営による収入獲得などにより、納税資金を用意できる可能性が高いです。
ただし、相続時精算課税制度を選択できるのは一定の要件を満たす場合に限ります。また複数の注意点が存在するため、最善の選択肢であるか十分な検討が必要です。
関連記事:【税理士監修】相続時精算課税制度とは?基本事項からポイントまでわかりやすく解説
相続税を払えない場合は早急な対処が必須!生前のうちから可能な限りの対策もしよう
相続税は現金による一括納付が原則です。しかし、税額に対して相続財産に含まれる現預金が少ない、遺産分割協議が終わらない等の理由から、相続税を払えない事態は多く起こります。
相続税の未納状態を放置するほどペナルティのリスクや負担が増すため、早急に対処する必要があります。相続税が高額になる可能性がある場合は、生前のうちから対策をとるのが理想です。
相続税を払えない状況を放置せず、事態解決に向けて少しでも早く動きましょう。
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相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。