相続税の寄与分とは?条件や算出方法・主張の方法と流れを解説!
相続税の金額にかかわる寄与分とは、被相続人に対して特別な貢献をしていた親族が、通常よりも多くの財産を相続できる可能性がある制度です。寄与分の主張には類型やポイント、要件などがあるため、しっかりとした準備が求められます。今回は、寄与分の概要や算出方法、主張の流れなどを解説します。最後まで読めば、寄与分に関する疑問点を解消できるでしょう。
目次
相続税の寄与分とは
相続財産の分割においては、遺言書や法定相続分が基準となるものの、「寄与分」の制度適用により、より多くの財産を相続できる可能性があります。
対象
寄与分の対象は法定相続人で、被相続人の配偶者は常に相続人として認められます。配偶者以外の方は、以下の順番で配偶者とともに相続人となるのが特徴です。
- 第1順位・被相続人の子ども:被相続人により近い世代の子どもが優先
- 第2順位・父母や祖父母など:被相続人により近い世代の父母が優先
- 第3順位・被相続人の兄弟姉妹:兄弟姉妹が亡くなっているとき、該当する方の子ども
子どもがいる場合、より低い順位の父母や兄弟姉妹が相続人になることはありません。
相続の割合などは話し合いのもとで決定されるため、戸籍謄本をチェックしたうえで正確に血縁関係を把握するのがポイントです。あわせて、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 日常的な助け合いを超える貢献をしている
- 被相続人の財産の増加・維持に貢献している
- 無償で貢献している
貢献に対して報酬を受けていた場合、寄与分の対象外となります。
特別寄与料との違い
特別寄与料とは、被相続人の財産の維持・増加において、相続人以外の親族が貢献した場合、度合いに応じて相続人へ金銭要求ができる制度です。
法改正以前は貢献度合いに関係なく、相続人以外の親族が財産を受け取れなかったため、法改正によって不公平が是正されています。
特別寄与料と寄与分の違いは対象者です。特別寄与料の対象者とは、具体的には以下の通りです。
- 6親等以内の血族や配偶者:血縁関係が6世代以内の親族で、いとこやはとこなども該当
- 3親等以内の姻族:配偶者の叔父父母、配偶者の姪甥、配偶者の兄弟姉妹などが該当
例えば、被相続人である義理の父親を一定期間以上にわたり介護した場合、特別寄与料の支払いを相続人に求められる可能性があります。1ヵ月のみの介護など、一時的な貢献と認められる場合は特別の寄与の対象外です。
前述の通り、寄与分の対象者は被相続人の配偶者や子どもなど、法定相続人のみです。
遺贈や生前贈与との関係
以下の通り、遺贈や生前贈与がある場合、各法定相続人の相続税額を算出するうえで、相続財産との合算が行われます。
- 生前贈与:被相続人が亡くなる前に、財産を他者に無償で与えること
- 遺贈:被相続人が亡くなったあとの遺言により、他人の承諾不要で、無償で財産を与えること
遺贈や生前贈与を受けた相続人の場合、他の相続人よりも優遇されていると言えるでしょう。特定の相続人のみ優遇されることを防ぎ、相続人の間で公平性を持たせるために、相続財産の合算が行われています。
相続を受ける財産の価額から遺贈、生前贈与の価額を差し引いた分が0になると、相続人は寄与分の主張ができなくなると、民法第1050条で定められています。
寄与分の上限は、相続財産から遺贈の価額を控除した額までです。
関連記事:遺産分割後に遺言書が見つかった場合のケース別対処法
主張できる期限
寄与分を主張するには、原則として被相続人が亡くなったあと、10年以内に実施する必要があります。
令和3年の法改正によって、令和5年4月1日以降の相続での適用が決定されています。被相続人が亡くなったあと、なるべく早い遺産分割の実現により、遺産分割の放置を予防するのが目的の1つです。
遺産分割が長期間に及ぶと、書類の紛失や関係者の記憶が曖昧になるなど、さまざまな弊害が生まれる可能性もあるためです。被相続人が亡くなったあと10年を超えると、以下のケースを除き、原則として法定相続分による遺産分割が適用されます。
- 期限内に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしている
- 期間満了の6ヵ月以内、やむを得ない事情が相続人にあり、当該事由消滅から6ヵ月経過前に、相続人が家庭裁判所で遺産分割請求をしている
期限を超えた場合でも、相続人の間で合意形成されると、寄与分を考慮したうえで遺産分割できるケースもあります。改正以前は、主張に関しての期限が設けられていなかったため、知っておきたいポイントです。
相続税の寄与分が認められる5つの類型

寄与分が認められる類型は、具体的に以下の5つです。
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療養看護型 |
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家事従事型 |
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金銭出資型 |
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財産管理型 |
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扶養型 |
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それぞれの類型では、認定のための要件や評価額の算出方法が異なります。
相続税の寄与分の算出方法

以下の通り、介護や相続財産などの状況によって、算出方法は異なるのが特徴です。
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療養看護型 |
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家事従事型 |
本来もらえる年間給与額✕(1-生活費控除割合)✕寄与年数 |
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金銭出資型 |
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財産管理型 |
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扶養型 |
負担扶養料✕期間✕(1-寄与相続人の法定相続分割合) |
裁量的割合とは、個々の状況に応じて裁判所が判断する割合を示します。寄与分が認められるかによって、以下の通り相続分の算出方法も異なります。
- 寄与分が認められる場合:(相続財産総額-寄与分)✕法定相続分+寄与分
- 寄与分が認められない場合:(相続財産総額−寄与分)✕法定相続分
例として、以下の通り相続人にAとBの2人の子どもがいる場合で計算します。
- 遺産額:5,000万円
- Aの寄与分:1,000万円
【Aの相続分】
(5,000万円−1,000万円)✕1/2+1,000万円=3,000万円
【Bの相続分】
(5,000万円−1,000万円)✕1/2=2,000万円
寄与分を計算するにあたり、特別な行為の内容に応じて計算式が変化することを押さえておく必要があります。
寄与分の計算方法は状況によって異なるため、詳しくは税理士へ相談するのがおすすめです。
相続税の寄与分の主張方法・流れ

寄与分を主張する場合、まずは相続人同士で話し合うのがポイントです。合意が得られない場合のみ、裁判所に申し立てる流れになります。以下で詳細に見ていきましょう。
関連記事:介護による遺産相続の寄与分はどうしたら認められる?介護中にやっておくべきこと
遺産分割協議
まずは遺産分割協議で、寄与分の主張をする流れです。遺産分割協議とは、被相続人が亡くなったあと、相続人全員で話し合い、どのように財産を分割するか合意するための手続きです。主張が認められるためには、相続人全員から合意を得る必要があります。
十分な証拠がない場合でも寄与分の主張が通る可能性があるため、後述する方法よりも柔軟性が高いと言えます。
相続人同士の話し合いが成立した場合、全員で遺産分割協議書を作成する流れです。不動産登記申請や預貯金などの払い戻しにおいて、本書類が必要となるためです。遺産分割協議書に記載すべき内容は以下に示します。
- 被相続人の氏名、住所、亡くなった日
- 相続人全員の合意内容、住所、氏名、押印
- 分割する相続財産の具体的な内容
フォーマットは自由なため、手書き、パソコンのどちらでも作成が認められています。相続財産を記載するうえでは、以下の通りなるべく具体的に記載するのがポイントです。
- 不動産:謄本の住所
- 預金:銀行・支店名、種類、口座番号・名義
原本に関しては、相続人各自で1部ずつ保管する必要があります。
寄与分を主張すると、相続人同士でのトラブルに発展するケースがあるため、円滑に進めるには税理士へ依頼するのが望ましいです。
関連記事:相続時の遺産分割協議書は何通必要?どこに提出するの?
遺産分割調停
遺産分割協議で寄与分についての意見がまとまらない場合、家庭裁判所に調停の申立ができます。調停の手続きにおいては、裁判所から解決案を提示してもらったり、合意に向けた話し合いが進められたりします。
調停委員は民間の良識ある方の中から選ばれるため、中立・公平な立場から、解決を目指すためのアドバイスなどを受けられるでしょう。必要書類と費用に関しては、以下の表にまとめました。
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必要書類 |
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費用 |
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各家庭裁判所によって独自の書類提出を求められるケースがあるため、管轄の家庭裁判所の公式サイトをチェックするとよいでしょう。協議の結果、合意が得られた場合は裁判所によって調停調書が作成されます。
参考:寄与分を定める処分調停
関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説
遺産分割審判
遺産分割調停で結論が出ない場合、遺産分割審判の手続きが自動的に開始されます。相続人の主張と提出された書類をもとに、遺産分割の内容について裁判官によって決定されるのが特徴です。
裁判を通して相続分が決定されるため、寄与分の主張を認めてもらえにくいと言えます。審判の内容に不服がある場合、2週間以内に不服の申立をすると、高等裁判所に審理してもらえます。不服の申立に関する詳細な内容は、以下の表の通りです。
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費用 |
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必要書類 |
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寄与分の主張をする場合、なるべく早く専門家に相談すると、必要な手続きを円滑に進められるでしょう。
参考:即時抗告
相続に関する相談は専門の税理士へ
今回は寄与分の概要や対象、期限、類型、算出方法などを解説しました。寄与分とは、相続において公平を図るために設けられている制度の1つです。
一方で、要件を満たす難易度が高かったり、証拠となる書類が必要であったりすることから、うまく活用できないケースもあります。寄与分の主張によって感情的な対立に発展する可能性も高く、なるべく税理士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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