遺言書がない場合の相続手続き|相続人の優先順位や取り分も解説
遺言書が残されていない場合でも、相続手続きは進められます。ただし、法定相続人や優先順位を確定する戸籍調査・財産の調査・遺産分割協議など、やるべき手続きは多岐に渡ります。この記事では、遺言書がない場合に必要な相続手続きや、相続人の優先順位や取り分などを解説します。また、遺産の分け方によって相続税の負担額が変わるため、注意点も併せてお伝えします。
目次
まずは「本当に遺言書が存在しないか」を確認する

遺言書が残されていれば、原則としてその内容に沿って相続の手続きを進めなければなりません。逆に、遺言書がなければ民法で定められたルールに従って進めます。まずは「遺言書があるかどうか」を確認しましょう。
遺言書とは「財産を誰に・どのように残したいか」を伝える書類
遺言書とは「本人が亡くなった後に財産をどう分けるか」を指定できる書類です。ただし民法で定められた形式で作成する必要があり、形式を守らなければ効力を持ちません。
一般的に用いられる遺言書は、下記の2種類です。
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自筆証書遺言 |
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公正証書遺言 |
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参考:知っておきたい遺言書のこと。無効にならないための書き方、残し方 | 政府広報オンライン
遺言書の効力や、特殊な遺言書の種類についてなど、詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント
遺言書が見つからないときに試したい方法
遺言書は法的効力を持つ書類です。そのため、遺言書の存在に気付かないまま相続手続きを進めてしまうと、やり直しやトラブルにつながる恐れがあります。相続手続きに着手する前に、本当に遺言書が存在しないのか、下記の手段で確認しましょう。
- 家族や親しい知人に聞く
- 自宅の金庫や机の引き出し・仏壇・タンス・本棚などを探す
- 世話になっていた弁護士・司法書士・税理士・僧侶などに聞く
- 口座開設していた金融機関の貸金庫を探す
- 法務局に自筆証書遺言が保管されているか確認する
- 公証役場に公正証書遺言があるか確認する
参考:相続人等の手続 | 自筆証書遺言書保管制度
参考:Q1. 亡くなった方について、公正証書遺言が作成されているかどうかを調べることができますか? | 日本公証人連合会
上記の方法をすべて試しても見つからなければ、遺言書は存在しないと考えて相続手続きを進めてもよいでしょう。
仮に後から遺言書が見つかった場合、どのような手間やトラブルが起こりうるのかを下記の記事で解説しています。
関連記事:遺産分割後に遺言書が見つかった場合のケース別対処法
遺言書がない場合の相続手続きを5ステップで解説

ここでは、相続手続きの手順を5ステップに分けて解説します。
戸籍謄本を集めて法定相続人の優先順位を確認する
相続手続きの第1ステップとして、誰が法定相続人になるのかを確定させましょう。法定相続人とは、法律で相続の権利が認められている人を指します。範囲や優先順位は民法で定められており、誰が相続できるのかを明らかにしないと、相続が進められません。
法定相続人を確認するために、まずは被相続人(=亡くなった人)の出生から死亡までの戸籍謄本を集め、家族関係を把握します。誰が相続人になるかは法律で順序が決まっており、主な順位は次の通りです。
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順位 |
法定相続人になる人 |
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常に |
現在の配偶者 |
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第1順位 |
子(子が亡くなっている場合は孫が代襲) |
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第2順位 (子がいない場合) |
父母 (いなければ祖父母) |
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第3順位 (子も親もいない場合) |
兄弟姉妹 (いなければ甥姪が代襲) |
引用:知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】 | 政府広報オンライン
例えば父親が亡くなって母親が存命の場合、自分が一人っ子だったら、法定相続人は「母親と自分」です。
特に「被相続人には配偶者や子・親がおらず、弟である自分だけが相続人だと思っていたら、実は認知した子がいた」などのケースは要注意です。子がいた場合は子が第1順位になり、兄弟である自分は法定相続人から外れてしまいます。
戸籍の取得方法や、誰が相続人になれるのかなどについて詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:【税理士情報】相続手続きには戸籍謄本が必要。使う場面や入手方法、注意点などを解説
関連記事:【税理士監修】相続人は誰がなるのか。相続人となる人の範囲や順位について解説
戸籍調査に漏れがある場合、相続手続きがやり直しになるリスクがあります。不安な場合は司法書士など相続手続きの専門家への依頼も検討しましょう。
法定相続分(取り分)を確認する
法定相続分とは、遺言がない場合や遺産分割協議がまとまらなかった場合の、法定相続人ごとの取り分(割合)を指します。ただしこれはあくまで基準で、法定相続人全員の合意があれば自由に変更できます。
民法で法定相続分が定められているのは、遺言が残されていないときに相続人同士が揉めないようにするためです。公平な目安を法律で示すことで、不要な争いを避けやすくしています。
主な法定相続分は次の通りです。
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法定相続人 |
法定相続分(取り分) |
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配偶者+子 |
配偶者1/2、子1/2(子が複数なら均等) 例:配偶者と子3人→配偶者1/2、子それぞれ1/6ずつ |
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配偶者+父母 |
配偶者2/3、父母1/3 |
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配偶者+兄弟姉妹 |
配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 |
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配偶者のみ |
すべてを相続 |
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子のみ |
すべてを相続 |
※相続放棄があった場合は残りの人で再計算される
引用:法定相続人 (範囲・順位・法定相続分・遺留分)|法務局
家族ごとに事情は異なるため、必ずしも法定相続分通りに分けるのが最善とは限りません。法定相続人全員が納得すれば、柔軟に分け方を決められます。
法定相続分に則った計算方法など、詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:【税理士監修】遺産相続の割合は?法定相続分と注意が必要なケースをわかりやすく解説
相続財産を調べて財産目録を作る
相続の際は、被相続人の財産の全体像を明らかにしないと、遺産分割協議や相続税申告が進められません。手続きをスムーズに進めるため「財産目録」の作成をおすすめします。相続における財産目録とは、被相続人の財産をまとめた一覧表を指します。
財産とは、主に下記のものを指します。プラスの財産だけではなく、ローンなどマイナスの財産も漏らさず把握しましょう。また、評価額の算定も必要です。
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財産の種類 |
有無の調査方法 |
評価額の調査方法 |
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現金 |
自宅の金庫や財布、貸金庫など |
実際の残高を数える |
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預貯金 |
金融機関で残高証明や取引照会 |
残高の金額 |
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不動産(土地・建物) |
法務局で登記事項証明書を取得 |
固定資産税評価額、路線価、不動産鑑定 |
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有価証券(株式・投資信託・国債など) |
証券会社の残高証明、取引報告書 |
時価(株価や基準価額)、残高証明 |
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生命保険 |
保険会社に契約状況を照会 |
解約返戻金、死亡保険金の額 |
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債権(貸付金など) |
契約書や借用書の確認 |
契約書記載額+回収可能性を考慮 |
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車 |
運輸支局で所有者登録を確認 |
中古車査定、買取業者の見積り |
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借金・ローン |
金融機関に残高を照会 |
残債務額 |
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保証債務 |
契約書や金融機関の記録を確認 |
契約内容に基づき債務額を確認 |
財産の調査は法定相続人でなければできない場合があるので注意しましょう。照会の際に法定相続人全員の同意が必要なケースもあるためです。
また、不動産や車は「どの評価方法を使うか」で金額が変わります。相続人同士で評価方法を合意しておくと、後のトラブルを防ぎやすくなるでしょう。
財産目録の作成は法律上必須ではありませんが、法定相続人同士で話し合う際に見やすく、認識のズレを防ぐのに役立ちます。相続税の申告を行う場合にも基礎資料として利用できるため、作成しておきましょう。
裁判所のホームページには記載例も公開されていますので、参考にしてください。
参考:4-25-2 相続財産目録記載例【統一R3.4】|裁判所
法定相続人全員で遺産分割協議を行う
財産の全体像が把握できたら、法定相続人全員で財産の分け方を話し合います。これを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議では法定相続分を参考にしても構いませんが、法定相続人全員の合意があれば自由に遺産を配分できます。
とはいえ、法定相続分通りに分ける場合でも、遺産分割協議書は作成しておきましょう。なぜなら不動産の相続登記や銀行口座の解約・名義変更では、遺産分割協議書の提出を求められるのが一般的だからです。また、全員が合意したという証拠を残す意味もあります。
協議結果は「遺産分割協議書」にまとめ、法定相続人全員が署名押印します。遺産分割協議書は人数分作成し、全員が1通ずつ保管しておきましょう。
協議で合意できない場合は、家庭裁判所に申し立てると、中立的な立場から調停を行ってもらえます。それでも解決できない場合は、最終的に裁判所が分け方を決定します。
遺産分割協議書に必要な記載事項や、調停などについて詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書は必要か?必要な例・不要な例や、作成時のポイントなどを解説
関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説
遺産分割協議は単なる「取り分の決定」ではなく、相続税の金額にも影響します。特定の相続人のみ使える控除や特例があるからです。
例えば、下記のような特例があります。
- 配偶者が相続した分は、一定額まで相続税がかからない
- 未成年や障害者が相続した場合は、相続税から一定額が控除される
関連記事:【税理士監修】相続税の配偶者控除とは?計算方法や申告方法をわかりやすく解説
各種手続き・相続税申告を行う
遺産分割協議がまとまったら、名義変更や相続税の申告など具体的な相続手続きを進めます。代表的なものは以下の通りです。
- 預貯金:金融機関で解約や名義変更の手続き
- 相続税:基礎控除を超える場合は申告・納付(10ヵ月以内)
- 不動産:相続登記を法務局で申請(3年以内)
この他にも、年金、株式、自動車、生命保険など、様々な名義変更や解約手続きが発生します。詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:【税理士監修】遺産相続の手続きは何から始めるべきか?手順や期限、最適な相談先をわかりやすく解説
関連記事:相続登記とは何?意味を分かりやすく簡単に解説!相続税申告との違いも(監修中)
遺言書がない場合の相続…子供達は困る?

遺言書がなくても相続手続きは可能ですが、子供達に負担やトラブルの火種を残すリスクもあります。法定相続分が決まっているとはいえ、最終的には遺産の分け方を法定相続人同士で話し合わなければならないからです。
例えば実家を誰が相続するか、売却して現金で分けるかを決める際に意見が合わず、相続が長期化するケースがあります。特に不動産や介護の有無などが絡むと、兄弟姉妹の間で争いに発展する場合があります。さらに戸籍や財産調査の負担も避けられません。
また、相続税にも関係します。自分が生前に時間をかけて控除や特例を考慮し、遺言で相続税に有利な分け方を決めておけば、子供達への負担が減らせます。ところが遺言がない場合、子供達は忙しい中で対応せざるを得ず、結果として特例に気付かない場合もあります。
遺言があれば、子供達への金銭的負担や家族間トラブルのリスクを減らせる可能性があります。
関連記事:争族とは?相続トラブルを防ぐために知っておきたい原因と対策(監修中)
遺言書がない場合の相続手続きが不安な方はご相談ください
この記事では、遺言書がない場合の相続手続きについて解説しました。
相続手続きを始める前に、まず「本当に遺言書がないのか」を確認しましょう。後から遺言書が見つかった場合、相続手続きをやり直すリスクがあるためです。
遺言書が本当にない場合、戸籍の収集や財産調査、遺産分割協議などの手続きが必要です。
相続をスムーズに進めたい方は、専門家への相談をご検討ください。司法書士による戸籍調査や登記手続き、税理士による相続税の申告や節税のアドバイスなど、状況に応じて適切なサポートが受けられます。
遺言書がない場合の相続手続きについてのお困りごとやご相談は、ぜひ「やさしい相続相談センター」までお気軽にお問い合わせください。
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。

